[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

調査・報告(野菜情報 2015年7月号)


水田転換畑におけるたまねぎ生産
~JAとなみ野の機械化一貫体系の取り組み~

野菜需給部 需給業務課長 戸田 義久
(前調査情報部)


【要約】

 富山県のとなみ野農業協同組合は、米の生産調整が進む中、米に代わる新たな園芸作物として、既存の施設が利用でき、米と農作業が重複せず、需要のある作物としてたまねぎを導入し、わずか数年で産地として成長した。水田をフル活用し、米以外の収入機会の増大を目指す産地の参考になると思われる。

1 はじめに

 わが国の米の供給量は、食生活などの変化により、昭和37年度の1人当たり年間118.3キログラムをピークに減少の一途をたどり、平成25年度には56.9キログラムまでに減少した(図1)。

 昭和46年産から始まった米の生産調整が数々の見直しなどを経て平成29年産をもって廃止されることから、産地では、米以外の作物の導入により経営を維持する必要に迫られている。本稿では、JA独自で米に代わる作物としてたまねぎを導入した富山県のとなみ野農業協同組合(以下「JAとなみ野」という。)の事例を取り上げ、園芸作物の積極的な導入による複合経営を推進し、農業所得の確保を目指している取り組みについて考察する。

2 JAとなみ野におけるたまねぎ生産

(1)農業の概要

 JAとなみ野は、砺波地域と呼ばれる富山県の南西部に位置し、庄川の流域に広がる砺波平野を擁する砺波市と南砺市の一部を管内としている(図2)。

 管内は、米どころとして名高い富山県の中でも有数の稲作地帯であり、農地の98%が水田として整備されている。組合員数は1万4045人(正組合員9756人、準組合員4289人)(平成27年2月末現在)、面積は362.59平方キロメートルで、富山県の8.5%を占めている。平成25年の管内の販売高(61億円)のうち、米が33億5000万円(54.9%)と過半を占めており、次に種子(米、麦、大豆)12億8000万円(21.0%)、野菜4億4000万円(7.2%)と続いている(図3)。また、県の花であるチューリップの産地でもあり、球根の出荷量は県全体の5割を占めている。

 27年産の米の生産者は2300戸、そのうちたまねぎを生産しているのは105戸である(図4)。たまねぎ生産者のうち、個人の生産者は全体の4割で、集落営農組織、株式会社、農業生産法人などの担い手が6割である。正組合員数と比較して米の生産者数が少ないのは、水田を貸し出す正組合員が多いなど、生産者の担い手は集落営農組織などが主体となっているためである。

(2)たまねぎ導入の経緯

 JAとなみ野管内は、米の供給過剰による米価の低迷により、稲作だけでは農業所得の確保が困難な状況となる中、農地の98%を占める水田を活用した経営の複合化が喫緊の課題となっていた。

 このことから、JAとなみ野では、補助金からの脱却を目指した新たな品目を選定することとした。なお、特産のチューリップは、栽培技術が難しく経験のある特定の生産者に限定されることから、複合化のための品目としては当初から選択されなかった。JAとなみ野の現場担当者は、これらのことを踏まえ、19年から園芸作物の導入について検討を始め、チューリップと作型が似ており、米との農作業が重複しないたまねぎが候補に挙がった(表1)。

 JAとなみ野が、新規に作物を導入する場合、通常2~3年の試験栽培を行い、管内での適応性を判断している。しかし、今回は水田農業経営の複合化に向けて、園芸作物の導入が早急に求められていたため、20年5月の通常総代会において、JAとなみ野として本格的に園芸作物を導入することが決定された。その後の市場調査の結果、家庭では欠かせない野菜で、学校給食などの加工・業務用にも多く使用されるたまねぎに、需要があることが分かった。既存の施設が利用できることからも、管内での生産に最も適していることから、最終的にたまねぎが選択された(表2)。

3 たまねぎの生産振興

(1)関係機関による協力体制

 平成20年にJAとなみ野は、富山県砺波農林振興センター(以下「農林振興センター」という。)と連携して、大規模法人を主体とした、たまねぎ栽培による経営の複合化を目指すこととした。21年から始まったたまねぎ生産は、JAとなみ野が中心となって取り組み、翌22年からは、県の園芸作物振興事業を利用した、たまねぎの大規模産地化に着手し、作付面積の拡大と作業の機械化を推進した。

 また22年、JAとなみ野と農林振興センターが中心となって行っていたたまねぎ生産の取り組みを、「砺波地域たまねぎ生産振興プロジェクトチーム」(以下「プロジェクトチーム)という。)として再編し、栽培環境や生育状況に応じた技術対策を検討し、育苗、定植時期、施肥、防草体系などの改善に一丸となって取り組んだ(表3)。

 4年目の24年産において、前年に「1億円産地づくり支援事業」(注)のモデル産地としてたまねぎの乾燥施設や移植機などを整備したことや、単収の向上により生産量が増加したこともあって、販売金額が1億2936万円となり、県内で初めて1億円を超える野菜品目となった(図5)。また、26年産は2億円を突破した。

注:大規模園芸産地の育成を支援する県単事業(事業実施主体(JA)が、自ら選定した園芸戦略品目について、販売金額1億円の上積みを目指す取り組みを支援)

 今回のたまねぎ生産の取り組みは、北陸地方の水田地帯では、初めての大規模生産であることから、プロジェクトチームは、特に、栽培技術の確立や生産者への営農指導などに重点的に取り組んだ。

 栽培技術については、一般的なたまねぎ栽培のマニュアルはあったものの、水田利用、大規模化、機械化体系に即した栽培技術が確立されていなかった。特に、JAとなみ野などが行う苗作りは試行錯誤を繰り返し、湿害対策、除草体系の構築なども苦労の連続であった。また、営農指導については、個人、集落営農組織、農業生産法人など、さまざまな形態の組織が生産に取り組んだことから、統一的な指導が難しかった。

(2)湿害対策

 JAとなみ野のたまねぎは、水田の裏作ということから当初の21年産からの3年間は、湿害により単収が伸び悩み、単収の向上は重要な課題であった。

 JAとなみ野は湿害対策として、水田への弾丸暗きょや額縁明きょの施行を推進してきた(図6、7)が、このうち弾丸暗きょについては多くの生産者が翌年の稲作の作付けを考えると、施工にちゅうちょしたため、湿害によりたまねぎの単収が伸び悩んでいた。JAとなみ野も、翌年の稲作を考えると、弾丸暗きょなどの技術指導は強くできなかったという。しかし、たまねぎ生産を成功させることを優先し、プロジェクトメンバーである広域普及指導センターの技術指導の下、24年産から弾丸暗きょを積極的に導入した結果、単収は飛躍的に向上し、心配していた翌年の稲作への影響もなかった(図8、9)。

 湿害の影響を受けた23年産までは、生産者の収支は赤字だった。しかし、湿害対策の徹底により、24年産から収支が黒字になった生産者が現れるようになり、現在では、たまねぎが収入全体の3分の1を占めるケースも出ている。これまで生産者は、生産調整に伴い、六条大麦、大豆などを生産してきたが、たまねぎの収入が増加するにつれ、補助金に依存せずに、安定した収入が得られる作物の作付意識が強くなった。プロジェクトチームによる生産者への適切な栽培管理や徹底した湿害対策などの指導が実を結んだものである。

4 機械化一貫体系による省力化の取り組み等

(1)機械化の推進と苗の供給

 たまねぎ生産者は、前述の通り米の生産者であるため、JAとなみ野は、当初から、稲作同様たまねぎでも機械化一貫体系を構築することを目指し、たまねぎの移植機20台(乗用型4台、歩行型16台)(写真1)や収穫機30台(うち大型3台)(写真2)を順次導入し、生産者に貸し出すこととした。このことから、生産者は省力化を図りながら、たまねぎの生産を開始できる体制を整えることができた。

 JAとなみ野は、地域を7つのブロックに分け、機械の共同利用組織を編成し、面積や生育状況などに応じて、組織内で調整を図りながら、機械の共同利用を行っている。
また、たまねぎの生産量や品質などは、苗の良しあしに左右されるため、JAとなみ野では、導入2年目から共同育苗に取り組み、平成22年産から生産者に均一的な苗の供給を始めた(写真3)。

(2)施設整備

 JAとなみ野は、将来的に生産量が増加しても、生産者が栽培に専念できることを目指して、選果場をはじめ、各施設を順次整備した。

 まず、22年5月に年間3500トンを処理できる選果場(写真4)と、効率的な乾燥、調製作業による製品化率向上のための差圧式乾燥施設を、22年6月には規格外のたまねぎを加工・業務用としてむきたまねぎにする加工施設を、国の「国産原材料サプライチェーン構築事業」の事業実施主体として整備した。

 このむきたまねぎの加工施設は、県内に一次加工施設が無いことから、JAとなみ野が既存の施設を利用し整備したもので、施設の規模は、1日当たり2~3トン、従業員10名が9月から翌年3月まで作業している。生産量は年間400~450トンで(販売先別シェア16.7%)(図10)、全量を県内の加工業者などへ販売している。

 また、たまねぎの生産量の増加に伴い、24年7月に県の1億円産地づくり支援事業を利用し、差圧式乾燥施設を増設した。さらに、25年6月には、JAとなみ野単独で差圧通風乾燥システムによる新たな乾燥施設を整備した(写真5、表4)。

 さらに、JAとなみ野では、安定的にたまねぎを出荷するための冷蔵保管施設の重要性を考え、国の「強い産地づくり交付金」の事業実施主体として、830トン収容できる専用の冷蔵施設を26年5月に、乾燥施設に隣接する形で整備した。これにより、出荷時期となる夏の高温による品質低下を抑え、高品質なたまねぎの長期安定出荷が可能となった。

 なお、代金決済は、生産者に配慮して、カントリー式と呼ばれる米と同様の方式が採用されている。これは、たまねぎ生産の担い手である米の生産者が慣れている方式であり、たまねぎの収穫後、8月末から9月上旬に概算払い、12月に選果場などの利用料を差し引いた精算払い、翌4月から5月に最終精算が行われている。

(3)導入による効果

 これらの取り組みにより、JAとなみ野が育苗、乾燥、調製・選別を行い、統一された品質、規格のたまねぎを完全な機械化により出荷できる体制が整った。

 その結果、JAとなみ野のたまねぎ生産は、労働時間の短縮が図られた(表5)。育苗や選果場など共同利用施設の利用料などを差し引いても、26年産では、10アール当たり、10万~15万円の所得が確保されている(表6)。

 生産者の園芸作物の導入意識は当初から高かったものの、導入初年の21年産(20年)では、個人の生産者6戸と18法人の計24戸が作付け、面積は8ヘクタールにとどまった。手を挙げた生産者などが少なかったのは、新規作物に対する不安が大きかったためと思われる。

 そこで、JAとなみ野は、100ヘクタール規模の産地化を目標に掲げ、研修会などを通じて作付面積の拡大を推進するとともに、前述の通り、JAが省力化に向けた生産体制を整備したことで、生産者の労力負担は軽減され、さらなる規模拡大や新規作付者の確保ができたことにより、2年目の22年産は生産者104戸、作付面積58ヘクタールと、大幅に増加することができた。27年産では、米生産者の約5%に相当する105戸が、プロジェクトチームの指導の下で生産に取り組んでいる

5 今後の展開方向

 JAとなみ野は、生産面では、さらなる生産の拡大と定着に向けて、湿害対策の徹底だけでなく、越冬率の向上など北陸の気象条件に対応した栽培技術の向上と安定生産に向けた生産者の栽培技術の平準化を図っていくことを課題としている。また、さらなる省力化のため、将来的には、生産者が栽培に専念できるよう、収穫作業をJAが受託する体制を検討している。

 販売面では、JAとなみ野は、需要の拡大が見込まれる加工・業務用の販売が主流になるとして、今後は、むきたまねぎの生産量を増やし、県外への販路拡大も視野に入れている。さらに、加工・業務用国産たまねぎとして差別化を図り、外国産に対抗していくことを目標としている。

6 さいごに

 これまでの取り組みを整理してみると、水田を利用した園芸作物の導入には、稲作以外の経験がない米の生産者に、米と同じように栽培できる環境を整える必要がある。それには、地元JAを中心に、県なども含めた地域が一丸となって取り組むことが重要である。

 今回の調査を通じて、米産地が複合経営として新たな園芸作物を導入するには、生産者同士はもちろんのこと、JAと生産者の相互理解と協力が肝要であり、産地の将来について、地域が一丸となってあるべき姿を描き、その目標に向けて前進していくことが重要であると改めて実感した。

 米の生産調整が廃止される平成30年産からは、自らの経営判断による米の作付けが一層求められるとともに、産地としての新たな生産振興の取り組みが重要となってくる。手取り確保の面からも、園芸作物を導入した経営の複合化が求められる。失敗から学び、失敗を恐れずに実行したJAとなみ野の取り組みは、水田のフル活用を検討している他の産地の模範となる有益なモデルケースと考えられる。

 最後に、今回の調査に協力いただいた全国農業協同組合連合会富山県本部およびとなみ野農業協同組合に感謝申し上げる。


参考資料

(1)富山県「とやま経済月報」特集「富山の園芸振興~時代の変化に対応するために~」
(2)富山県砺波農林振興センターホームページ「普及かわら版」「普及活動のあしあと」
(3)富山県ホームページ「とやまのチューリップ」



元のページへ戻る


このページのトップへ