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調査・報告(野菜情報 2015年6月号)


集落営農組織を活用した野菜産地の育成
~広島県における県域キャベツ産地の育成~

調査情報部 伊澤 昌栄


【要約】

 広島県は、県内需要を賄えるキャベツ産地を育成するため、法人化した集落営農である集落法人を担い手に設定して推進を図った結果、県域での産地リレーによる加工・業務用キャベツの周年供給体制を構築しつつある。
 集落営農による加工・業務用野菜の生産を検討している産地にとって、今回の事例は参考にすべき点が多いであろう。

1 はじめに

  集落営農組織(以下、「集落営農」という。)(注1)は、平成11年の「食料・農業・農村基本法」の施策で位置付けられてから全国的に進展し、19年の「経営所得安定対策」(注2)で本格的に担い手として政策の対象となった。農林水産省によると、26年度の全国の集落営農数は1万4717組織(調査開始の17年度と比較して46.2%増)、集積面積は49万2646ヘクタール(同39.5%増)、構成農家数は53万14戸(同28.9%増)となっている(図1、2)。

注1:集落を基礎とした営農を行う組織。

注2:17年の「経営所得安定対策等大綱」に盛り込まれた「水田・畑作経営所得安定対策(品目横断的経営安定対策)」「米政策改革推進対策」および「農地・水・環境保全向上対策」の3つの対策。

 集落営農は、水田農業の担い手が減少している集落で、各作業の共同化などによる農業経営の効率化を目的に、多くの地域で組織化されたが、米の需要低下に伴う生産量の減少から(図3)、転作田や遊休農地の活用による収益確保が課題となった。このため、米麦大豆などだけでなく、野菜生産など多角経営を目指す組織が増えた。野菜生産を行う集落営農数の推移を見ると、17年度は62組織(全集落営農数の0.6%)に過ぎなかったが、26年度では2826組織(同19.2%)と大きく増加した(図4)。

 このような中、広島県および全国農業協同組合連合会広島県本部(以下、「JA全農ひろしま」という。)は、17年度より集落営農を活用した加工・業務用キャベツ産地の育成を行い、県域としての取り組みに発展していることから、本稿では、この事例を紹介する。

2  広島県における野菜生産および集落営農の現状

(1)野菜生産

 広島県は、瀬戸内海に面した沿岸部が温暖な瀬戸内式気候、山間部が降雪量の多い日本海側気候で、地域ごとに標高差や寒暖差が大きく、「日本の縮図」と言われる気候特性を生かした野菜生産が行われている。平成25年の野菜産出額は、米、養鶏および鶏卵に次ぐ第3位で(図5)、作況などの影響を受けながらも産出額を伸ばしており、17年の180億円から25年は190億円と、5%の伸びとなっている(図6)。

 野菜生産の伸びは、広島県が米の需要減少に対応すべく、担い手を中心に、収益性の高い野菜など米以外への作物への転換を推進していることによる。広島県は、野菜については22年度、市場出荷だけでなく加工・業務用に対応できる新たな産地育成を進めるため、表1の重点品目および推進品目を設定するとともに、水田活用の直接支払交付金における産地交付金の交付対象品目にこれらを組み入れている(表2)。

(2)集落営農

 広島県は集落営農先進県である。その歴史は昭和53年に県主導で行われた中山間地域など、担い手不足地域における集落ぐるみの組織化施策に始まり、現在、重要な担い手に成長している。

 広島県では、集落法人(注3)および集落営農を、認定農業者などとともに経営力の高い担い手として育成するとしていることもあり、集落営農は、その数、構成農業者数および集約面積とも増加している(図7、8)。

注3:正式名称は「集落農場型生産法人」で、集落における農地の所有と利用を分離し、相当面積を一つに利用集積することで効率的、持続的な農業経営を行う、法人化した集落営農。

 

 広島県の1組織当たりの平均構成集落数は、1集落で構成する集落営農が過半を占める中、3~5集落で構成する集落営農も存在するため、全国平均と同じ2集落となっている。また、1組織当たりの平均構成農家数は27戸(全国平均36戸)、平均集積面積は18.6ヘクタール(同33.5ヘクタール)と、全国平均を下回っている。これは、県域の73%を山林が占め、沿岸部は広島市を中心に都市化が進み、農地が7%しかないためである。

 また、昭和63年以降法人化が進み、平成27年2月現在、集落営農全体の3割を超える254組織が集落法人となっている。

 集落法人の利点は、補助事業が活用できることはもちろん、構成員の技術や知識の活用により、効率的な農業生産および経営、規模拡大が可能となり、集落全体の所得向上が図られることである。また、内部留保(注4)できることも利点である。

 集落法人は、全戸参加型法人と担い手中心型法人の2つに類別されるが(表3)、広島県の場合、集落農業および農地の保全を目的とする全戸参加型法人が多い。

注4:収益の一部を翌年度事業のために積み立てること。法人化していない集落営農は、利益の一部を申告していないとみなされるため内部留保を行うことができない。

3 県域での加工・業務用キャベツ生産の経緯

(1)経緯

 広島県のキャベツ生産は、温暖な県南部を中心に産地が形成されていたが、高齢化により産地規模が縮小傾向となる一方、消費はお好み焼きなどにより一定水準が維持されていることから、県産キャベツで県内需要を満たすことができず、多くを他県産で賄っており、県内消費量を満たせるキャベツ産地の育成が課題となっていた。

 このため広島県は、転作田を活用できる野菜として、集落法人などによるキャベツの普及推進に取り組んだ。まず平成17年度から、早期収穫が可能なたけのこ型の中早生種で、家庭消費向け品種である「とんがりぼうし」の作付推進を開始し、JA全農ひろしまが買取販売を行った。しかし、集落法人にとって、とんがりぼうしは在ほ性が低いため栽培が難しい上、市場価格に連動した買取価格は変動が大きいことから、収益が不安定で普及が進まなかった。そのため19年度に、高い在ほ性(注5)により収穫適期が長い寒玉系の推進に切り替えた。さらに21年度には、県域産地化に向けて県域キャベツ連携推進会議を設置し、22年度に契約販売による加工・業務用の出荷に移行した(表4)。現在、産地は県内に広く分布しており、県内での周年生産、出荷が可能になりつつある。

注5:ほ場での品質が低下しにくく、収穫期が続く性質。

 集落法人が加工・業務用キャベツ生産の担い手に適している理由としては、所有する機械と集約した農地を有効活用できることなどが挙げられる(表5)。現在、加工・業務用キャベツの生産は、複数作型を長期的に組み合わせることで、集落法人だけでなく、大規模生産者や農業参入した企業なども取り組んでいる。なお、販売面は、全農ひろしまが契約出荷体制を構築している。

(2)生産

 広島県の加工・業務用キャベツは、県内各地域の気候特性に合わせ、春作、夏作、秋作および冬作の4作型で生産されている。

 作型別に見ると、春作は、生育初期の低温と生育後期から収穫期の高温に注意が必要であるが、は種期をずらすことにより県内全域で取り組まれている。

 また、秋作も、キャベツ生産に最も適した時期であることから、県内全域で取り組まれている。一方、夏作は、収穫期が盛夏期に当たるため、比較的冷涼な北部のみで取り組まれている。冬作は、気温低下期に生育し、厳冬期の収穫となることから、比較的温暖な中部および南部で取り組まれている(図9)。また、品種は、大玉が求められる加工・業務用キャベツであることから、各作型の温度に適したもので、烈球(注6)が遅く、在ほ性が高いものが選択される(表6)。

注6:内葉の成長に外葉の成長が追い付かず、割れてしまうこと。雨天後の連続した晴天高温や、高温時の抽苔(花芽分化後、花を咲かそうと茎が伸びること)が主な要因。

 機械化については、水稲用育苗ハウスでの育苗、大豆用のブームスプレイヤーによる防除など、既存施設および農業機械を有効活用しつつ、新たに自動定植機を導入することで収穫前までの機械化体系が構築されているところが多い。ただし、収穫および調製は、人力による作業で、機械化されていない。

(3)集落法人による加工業務用キャベツ生産の現状

 農事組合法人きつぎ(以下、「きつぎ」という。)は、広島市に北接する北広島町の全戸参加型集落法人である(15年1月設立。出資金351万1600円、理事7名、監事2名、構成員47名)。集落法人化のきっかけは、きつぎの母体である木次集落が、1戸当たりの農地面積が0.5ヘクタール程度の小規模農家が多く、以前より集落単位で農業機械の共同利用が図られており、集落の合意形成が容易であったこと、また、地域農業と集落の維持を課題として集落全体で認識していたことが挙げられる。現在きつぎは、米を中心に、加工・業務用キャベツ(写真1)、ブロッコリー、ねぎなどを生産している。

 加工・業務用キャベツ生産は、米以外の収入機会を増やし収益向上を図るため、21年度に導入したことに始まる。その後、集積した農地に対してキャベツ生産に適した排水対策などを実施しつつ、26年には4.6ヘクタールまで作付面積を拡大した。構成員が出役しての栽培管理作業はもちろん、農業研修生の受け入れも行っており、労働力として活用している。きつぎの取り組みは、中山間地における集落営農として、JA全農の実証モデル(注7)に指定されている。きつぎは加工・業務用キャベツを生産する中で、収入機会の増加はもちろん、収穫作業などを構成員が一丸となって行うことで、集落に活気と一体感が生まれたという。今後も加工・業務用キャベツの作付面積を増やす予定とのことである。

 注7:25年度にJA全農が、産地の生産の維持・拡充に向けて、宮城県や広島県など全国に6つのパイロットJAを設置。広島県はJA広島北部が選定され、きつぎを実証モデルとして、キャベツの契約栽培による販売力強化などを実証。実証結果を基に、JA管内の同様の集落法人に対して普及活動を実施。

4 安定生産および出荷に向けて

 広島県は、集落法人による加工・業務用キャベツ生産および出荷に関する以下の課題について、実需者への安定供給と集落法人の収益向上という双方の立場を尊重しつつ、解決に向けて取り組んでいる。

(1)夏作および冬作の生産振興

 周年で安定したキャベツの需要を県産キャベツで満たすには、出荷が伸び悩む夏作と冬作の生産を拡大する必要がある。広島県は、平成26年度より、夏作は冷涼な北部地域、冬作は温暖な南部地域に対して生産を振興している。具体的には、7月下旬から10月上旬(27年度は4月上旬から6月中旬)および12月中旬から3月下旬に、それぞれ10トン以上JAに出荷した集落法人などの生産者に対し、1トン当たり1万円を助成する「周年供給体制構築助成事業(県単:26年度予算額206万円)」を実施している。

(2)単収の向上

 集落法人は、水田転作作物としてキャベツを生産しているため、排水条件が不利なほ場で作付け、生育が均一化されず収量が伸び悩むケースが見られる。広島県農業技術指導所は、排水対策などで課題を抱える集落法人を重点指導対象生産者として、単収の向上に向けて重点指導を行っている。

(3)規模拡大の推進

 広島県園芸振興協会によると、集落法人が加工・業務用キャベツを生産する場合、作付面積1.5ヘクタール以上で黒字を確保できる(表7)。

 作付面積の拡大は、生産費の低減につながる。例えば、売上原価のうち最も多くを占める雇用労賃を見ると、構成員のみが労力の集落法人(作付面積0.5~3ヘクタール)の場合、作付面積0.5ヘクタールでは売上原価に占める割合は40.0%だが、作付面積3ヘクタールになると31.0%に抑えることができる。また、売上総利益率も10.2%に高まることから、収益を伸ばすためにも作付面積拡大が必要となる。

 広島県は、1ヘクタール単位で面積を拡大した集落法人に対し、一定額を助成する「再生産費用助成事業(県単:26年度予算額2937万円)」を実施し、作付面積の拡大を奨励している。

 また、広島県は、地域ごとに構成員の年齢構成や集約面積が異なり、規模拡大が進まない集落法人に対しては農地集積バンクを活用した生産面積の集約や、作業受委託促進による労働力の確保策を検討している。

(4)予冷施設の整備

 栽培が比較的容易で、全県域で作付けされる春作と秋作のキャベツは生産量が増加しており、時期および地域により、出荷量が予冷庫の貯蔵能力を上回っている。この2作型は収穫時期により鮮度低下が危惧されることもあって、予冷庫の整備は喫緊の課題であるため、広島県は、JAや集落法人などが予冷庫などを整備する場合、「産地拡大施設等整備事業(県単:27年度予算額4650万円)」により支援を行う予定である。

(5) 収穫までの機械化一貫体系の構築

 表5で示した通り、集落法人の場合、まとまった面積のほ場で効率的に機械を使用できることが、加工・業務用キャベツの生産に適している理由の1つとなっている。また、育苗や防除について、米などの生産に使用していた既存の施設や機械を有効活用できる点も、集落法人による生産のメリットと考えられる。

 しかし、集落法人であっても、収穫などは機械化されていない状況であり、広島県の試算によると、加工・業務用キャベツの作付面積5ヘクタールの場合、収穫、調製作業が全作業時間に占める割合は25.9%と最も高くなっている。収穫機は、慣行の収穫作業に比べて労働時間を40%以上削減するともいわれ、愛知県の事例を参考にすると、広島県内の10市町が加工・業務用キャベツの収穫機の導入で省力化および低コスト化が可能となる(表8)。収穫までの機械化は、一定規模の面積をキャベツ生産に充てることができる集落法人にとって、生産性向上のカギになるといえる。

 このため、広島県は、国の補助事業の活用による収穫機の導入や共同利用、機械を所有する地元JAへの委託を通じた地域単位での機械化など、集落法人がさまざまな形で収穫までの機械化一貫体系を構築できるよう、検討している。

5 さいごに

 広島県は、県内の需要を賄えるキャベツ産地を育成するため、法人化した集落営農である集落法人を担い手に設定し、推進を図った結果、県内各地でキャベツ生産に取り組む集落法人が増加した。集落法人に固有の、また、水田転作作物の生産に固有の課題もあるが、県やJA全農ひろしまの支援の下、県内各地の産地リレーによる周年供給体制を構築しつつある。

 今後、集落営農による野菜生産を検討している産地にとって、今回の事例は参考にすべき点が多いであろう。

 最後に、今回の調査にご協力いただいた、広島県、全国農業協同組合連合会広島県本部、農事組合法人きつぎに感謝申し上げる。


参考資料

(1)小野智昭「集落営農の発展と法人化について」『経営安定プロジェクト資料第3号』農林水産政策研究所

(2)板橋衛「広島県における「集落法人」の経営展開と課題」『水田・畑作経営安定対策下における集落営農組織等の動向と今後の課題』農林水産政策研究所

(3)広島県ホームページ「集落法人の設立状況」

(4)農林水産省中四国農政局広島地域センター「集落営農実態調査結果の概要(広島県)」

(5)青木循「機上調製作業と大型コンテナ収容を特徴とする高能率キャベツ収穫機」『技術の窓No. 1936』株式会社日本政策金融公庫農林水産事業

(6)愛知県「愛知県特定高性能農業機械導入計画」



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