調査情報部 戸田 義久
福島県会津地区の4JAは、グリーンアスパラガスの選果施設を共同で利用して、一元集出荷による流通コストの削減や調製作業の軽減を実現した。会津地区の取り組みは、JAの広域合併など、野菜流通のさらなる広域化が予想される中、効率的な流通体制を目指す産地の参考になると思われる。
JAは、平成に入り、規制緩和や金融自由化の進展への対応を求められる中、経営体力の強化のために、全国的に郡などを単位とする広域合併を進め、平成元年度の3688組合から、25年度には731組合に減少した(図1)。
広域合併により、1JA当たりの組合員数、管内構成市町村数および面積は大幅に増加したものの、施設面では、合併による流通コストの削減やスケールメリットが生かしきれないケースが多いといわれている。その例としては、①農産物の集出荷が、今まで通り旧JA単位の施設を利用している、②営農指導が旧JA単位で行われている、③統一された共販ができていないなどであり、その理由としては、組合員やJA役職員の合意形成が図られていないためと考えられる。
福島県西部に位置する会津地区は、このような全国的な流れの中で、組合員の負託に応えられる体制整備のため、経営基盤の強化と産地の広域化による物量確保を図ることを目的に、8年からJAの広域合併が始まり、10年には27JAからJA会津みなみ、JAあいづ、JA会津いいでおよびJA会津みどりの4JA(以下、「4JA」という。)となった(表1、図2)。
この会津地区の4JAは、JA全農福島との連携の下、流通コストの削減などのため、グリーンアスパラガス(以下、「アスパラガス」という。)の選果施設の共同利用による一元集出荷体制を構築した。本稿では、この会津地区の優れた取り組みについて報告する。
県内でも有数の米産地であった会津地区は、昭和40年頃から米に代わる新たな園芸作物として生食用アスパラガスの生産が始まった。アスパラガスが導入されたのは、30年代に喜多方市を中心に、缶詰加工用にホワイトアスパラガスが栽培されていたことや、軽量で換金性が高いことによる。その後、露地二期どり栽培や半促成栽培などの作型が導入され、収量、収益が向上したことから、40年代終わりには米に次ぐ基幹作物の一つになった。50年代には、ハウス栽培の導入、展示ほの設置、種子代の助成など、国、県およびJA福島経済連からの支援も得ながら、アスパラガスの産地化が進んだ。
会津地区のアスパラガスは、ハウス栽培と露地栽培により生産され、栽培面積では露地栽培が約8割を占める。収穫は、ハウスが3月下旬から、露地栽培が4月下旬から始まる(図3)が、露地栽培が収穫のピークを迎える5月上旬頃になると、夜明け前のまだ暗い時間から収穫を始め、夜遅くまで、1本1本調製・選果選別作業を行わなければならなかった。生産者の高齢化が進む中、このような厳しい労働環境を改善しなければ、産地の維持、拡大を図ることはできないことから、流通コストの削減と、調製作業の軽減を図る必要性に迫られるようになった。
しかし、4JAにおいても、広域合併によるスケールメリットは生かされておらず、アスパラガスの集出荷は依然として、旧27JA単位で行われていた。こうした中、平成15年頃、会津地方におけるアスパラガスの生産振興を図るためにも広域流通体制による流通コストの削減に向けた取り組みを行わなければとの考えから、4JA単位をさらに一歩進めて、広域選果施設を4JAが共同で利用する構想が持ち上がった。
4JAを合わせた会津地区全体の広さは、およそ東西に61キロメートル、南北に97キロメートルにわたる上、会津盆地を除くと、中山間地域が多いことからも、各JA管内から広域選果施設までの出荷手段などが大きな問題となった。
出荷手段や立地場所の問題などさまざまな困難を乗り越え、18年2月、総事業費約2億745万円、予冷庫などを備えた会津アスパラガス広域選果施設(以下、「会津広域選果施設」という。)が、JAあいづ管内(会津若松市高野町)に完成した(写真2、3)。施設は、JA全農福島が4JAの束ね役となり、国の「強い農業づくり交付金」の事業実施主体として整備し、4JAが利用することとされた。また、施設の設置場所は、有効活用できる既存の建屋を有し、高速道路のインターチェンジに近い、JA全農福島会津総合施設内とされた。
広域選果施設の構想が実現した背景には、4JAの結束の強さがある。会津地区は、以前から組織活動が盛んであり、「会津地方園芸振興協議会」や「会津地方農業協同組合長会」など、さまざまな協議会が設置されている。中でも、各JA組合長や常勤役員などで構成される会津地方園芸振興協議会は、20年以上の歴史があり、園芸作物の生産振興のための意見交換の場とされてきた。このように、会津地区で長く機能してきた組織活動により、4JAの組合長は、JAの枠を超えた共同施設利用という点で、話がまとまったのである。
また、各JAでは、施設設置のメリットなどについて、アスパラガス生産部会長をはじめ、利用者となる組合員(部会員)に対して事前に説明し、地域農業活性化のためにも広域選果施設利用の必要性を説いたことから、部会役員だけではなく、全ての部会員の賛同を得ることができた。なお、部会員および4JAの同意には、約3年かかっており、JAの枠を超えた選果、流通体制構築に対する関係者の努力が伺える。
しかし、稼働1年目の18年に施設を利用した組合員は309戸と4JA全体の約20%、出荷量も4JAの生産量1307トンの24%となる307トンにとどまった。
このように利用が振るわなかったのは、小型の選果機を保有する生産者が少なからずいたからである。会津地区では、昭和50年代後半からJAの事業などで、アスパラガスの長さ調整と計量を行う個人用の選果機が約2000台導入されていた。施設整備の話が持ち上がった平成15年当時も、多くの小規模経営の生産者自身で、出荷調製作業ができていたこともあって、生産者1455戸の8割以上が、選果機を更新しながら利用し続けていた。また、独自の販売ルートを有する生産者がいたことも低調な利用の一因となった。
会津広域選果施設は、収穫期間の3月下旬から10月上旬まで稼働しており、入荷したアスパラガスを調製・選果選別し、市場へと出荷する。施設は所有者であるJA全農福島が運営し、伝票処理などの事務や、出荷調製に従事する作業員を派遣会社から手配するなどの労務管理などを担っている。4JAの生産者は、利用料として、①選果料、②包装料、③予冷庫の使用料、④市場への輸送料を支払う。アスパラガス搬入については、管内に施設が立地するJAあいづは、生産者自らが直接施設に運び入れる。残り3JAの生産者は、合併前の旧JAの集荷場まで運んだ後は、輸送料を支払って、毎日JA全農福島の手配したトラックに運んでもらっている。輸送料は、JA間で不公平とならないよう、距離に関係なく3JA一律となっている。施設の利用料と施設までの輸送料は、個別に徴収されず、出荷代金から差し引かれる形となっている。
平成26年時点では、福島県のアスパラガスの93%は、会津地区から出荷され、このうち、45%が「会津アスパラ畑」(写真1)のブランド名で、会津広域選果施設から出荷された。26年の会津アスパラ畑の出荷先は、東京など県外の卸売市場が約7割、県内の卸売市場が約3割となっている(図4)。
会津広域選果施設は、当初の目的であった流通コストの削減と生産者の作業負担の軽減に加え、ブランド化による有利販売という効果をもたらし、その利用率は一貫して上昇している。
流通コストについては、大幅に削減されることとなった。これは、今まで4JAがそれぞれトラックを手配し、旧27JAの各集荷場から直接、卸売市場などへ出荷していたものが、会津広域選果施設を利用した一元的な集出荷により、効率的な配車や分荷ができるようになったためである。なお、JAあいづ以外の3JAが、各集荷場から会津広域選果施設への輸送を依頼するトラックは、トマトなど、アスパラガス以外の園芸作物の集荷にも利用されているため、3JAのアスパラガス生産者が支払う輸送料の負担が軽減されている。
生産者の作業負担軽減についても、寝る間も惜しんで行っていた出荷調製作業をすべて施設が担うため、大幅に軽減されることとなった。さらに、会津広域選果施設から出荷されるアスパラガスは、会津アスパラ畑の名でブランド化されている上、数量がまとまることで有利販売できるようになった。
このような効果は、施設の利用率に現れている。4JAの全出荷量に占める割合(利用率)を見ると、稼働1年目(18年)の24%から、26年の45%まで一貫して上昇している(図5)。
特に、東日本大震災のあった23年以降は、高齢の生産者を中心に栽培を辞めたケースが相次ぎ、生産量は減少傾向で推移しているが、会津広域選果施設を利用した生産者は、これまでの出荷調製作業から解放され、栽培に専念できていることから、施設への搬入量は安定しており、利用率は逆に上昇することとなっている。
4JAが今後も会津広域選果施設を利用していくためには、さまざまな課題に取り組まなければならないが、利用率が向上している現在、早急に対応する必要があるものとして選果機に関する三つの課題がある。
一つ目は、処理能力である。ピーク時の入荷量が選果機の処理能力を上回るため、翌日に選果せざるを得ない状況が毎年発生している。
二つ目は、機能である。現在は150グラムの結束で出荷しているが、卸売市場からは、九州産や輸入品と同じ100グラムの規格にしてほしいという要望が出ている。しかし、現在は選果機の機能、能力の制約から、100グラムの規格は出荷量全体の15%にとどまっているという。
三つ目は、老朽化である。稼働から今年で既に9年が経過している上、選果機の処理能力を最大限に使っているため、メンテナンスに手間がかかるようになっている。
市場の求める規格で出荷できる、処理能力の高い最新の選果機を導入する必要があるものの、建屋にも、また、敷地にも余裕がないため、頭の痛いところとなっている。
さらに、県内JAの再編という大きな課題にも直面している。4JAは、28年3月を目途に1JA体制へ移行することとなっており、施設の所有者をこれまで通りJA全農福島とするのか、それとも、広域合併した1JAとするのか、を決めなければならない。このほか、各JAで異なる規格などの統一、販売先の集約など、課題は多岐にわたる。こうした課題の解決には、関係者による十分な意見交換がこれまでに増して必要となるであろう。
今回の調査を通じて、広域流通体制の構築には、生産者の理解と協力が肝要であり、そのためにJAなどの組織は意見交換の場を設け、日ごろから生産者との意思疎通を図っておくことが重要であると改めて実感した。
燃油価格の高止まりやドライバー不足など、流通コストのさらなる削減は喫緊の課題となっている。今まで以上に、産地が大同団結して、集出荷の一元化、トラックの効率的な配車などに取り組まなければならない。今回調査した広域選果施設は、ほ場管理など質の高いアスパラガスの生産のための時間を生み出し、ブランド化による有利販売を可能にするなど、産地振興につながる効果をもたらしていた。4JAの取り組みが面的な広がりを見せれば、県域レベルでの産地振興にもつながる可能性を秘めているといえよう。
広域合併後も、流通コストの削減などが進まず、そのスケールメリットを生かしきれていないJAが多い中、選果施設を核として、広域合併した複数のJAが手を結び、広域流通体制を確立した会津地区の4JAの取り組みは、他の産地の模範となる有益なモデルケースと考えられる。
最後に、今回の調査に協力いただいた、JA全農福島およびJA全農福島会津営農事業所に感謝申し上げる。