調査情報部 伊澤 昌栄
茨城むつみ農業協同組合(以下、「JA茨城むつみ」という。)は、JA単独でカット加工施設を整備し、系統外出荷者にも働きかけて加工・業務用野菜販売を開始し、着実に成果をあげている。
本事例は、地域内の大規模生産者などの系統外出荷者を巻き込んで産地が一丸となり、さまざまなニーズに対応できる産地となった取り組みであり、今後、加工・業務用野菜への参入および取り扱い拡大を目指す産地にとって、参考にすべき点が多い。
近年、高齢化の進行や生産者の減少が進む中、野菜産地の規模縮小に対し、野菜生産の省力化だけでなく、集落営農組織やJAが組織した農業生産法人により、遊休農地の活用などを行うようになっている。しかし、これらはまだ一般的ではなく、産地規模の維持に対する新たな取り組みが待たれるところとなっている。
こうした中、JA茨城むつみは、系統外出荷を行っていた大規模生産者を巻き込んで加工部門まで手掛け、産地規模を拡大している。本稿では、大規模生産者との連携により、キャベツなどの野菜の一次カット加工を自らの施設で行うJA茨城むつみの事例を取り上げる。
茨城県は、北海道、千葉県に次ぐ全国第3位の野菜生産額を誇っている(表1)。また、東京から100キロメートル圏内の近郊野菜産地であり、東京および仙台方面へは常磐道が、宇都宮および前橋方面へは北関東道により結ばれているとともに、今後は圏央道の開通により、埼玉県および千葉県方面への物流時間短縮が期待されるなど、物流面でも恵まれた環境にある。特に、レタス、はくさい、キャベツなどの大産地である県西部は、埼玉県、千葉県および栃木県に隣接し、国道4号や同16号へのアクセスも容易であり、関東各都県への出荷も短時間に行うことができる。また、東京都などへの通勤圏に入ること、近隣に工場などの就業先が多いことから、一定の商圏を形成している。
一方、茨城県は、このような恵まれた環境のため、産地市場および「産地商人」と呼ばれる産地の集荷業者への出荷や直接販売といった系統外出荷も盛んで、平成24年の系統共販率は38.1%と、全国平均の56.9%を大きく下回っている(図1)。
ここで、全国農業協同組合連合会茨城県本部(以下、「全農いばらき」という。)の加工・業務用野菜への取り組みを見ておきたい。
平成5年から7年当時、消費形態の多様化と食の外部依存が急速に進み、外食および中食の需要が高まる中、産地商人や大規模生産者などの系統外出荷者が、新たな需要に対していち早く対応した一方、全農いばらきによる園芸事業は、依然として無条件委託の市場販売に大きく依存していたため、系統共販率が急激に低下した。全農いばらきは8年、価格が安定している加工・業務用野菜の契約出荷による系統共販拡大を進めるため、県西部の八千代町にVFS(ベジタブル・フルーツステーション)を設置した。
VFSは、産地集出荷施設とパッケージセンターの機能を兼ね備え、出荷者からの買い取り販売を基本としている。県内で出荷がない盛夏期や厳冬期には、県外産地から調達して、周年での契約取引を実現している。
VFSの設置により、加工・業務用という市場以外の販売チャンネルが確立され、外食用など新たな需要に対応することが可能となった。その後VFSは、県央部および県南部にも設置され、全農いばらきの園芸事業において重要な部門に成長している。
キャベツは生食、加熱など、さまざまな調理に対応できる野菜であり、購入頻度が高い。しかし、加熱調理でも1人前120~160グラム(葉で3~4枚)程度、生食用の千切りキャベツは1人前120グラム程度であり、3~4人の核家族が1回で消費する量は360~640グラムと、1玉(総量ベースで1.5キログラム程度)を1回で消費できる量ではない。余ったキャベツは冷蔵スペースをとるため、量販店は消費者の利便性を考慮し、1回使いきりの量となる2分の1(625~750グラム程度)や4分の1(312~375グラム程度)といったカット野菜や、カットサラダでの販売を徐々に増やしている。
市場への聞き取りによると、量販店は店舗運営省力化の観点から、バックヤードで加工するのではなく、一次カット加工済み野菜を納入する仲卸などの業者から調達するケースが増えているという。また、食べきりサイズのカットサラダなども、都市部を中心とした量販店では売れる野菜商材として取り扱われている。
JA茨城むつみは、周辺の3JA(北つくば、常総ひかり、岩井)とともに「いばらき県西地域農業振興協議会」を組織し、品種などの統一による「みんなが☆(ほし)がる」ブランドを展開するキャベツの一大産地である。JA茨城むつみのキャベツは、同ブランドにより市場から高い評価を受けているところであるが、市況の変動に左右されない、安定した生産者手取りの確保が課題となっていた。
また、JA茨城むつみ管内は、栃木県、埼玉県および千葉県に隣接する交通の要所で、個人での出荷販売が容易な環境であることから系統外出荷者が多く、低い系統共販率も課題となっていた。
こうした課題に対応するため、JA茨城むつみは、VFSの取り組みや実需者ニーズを研究し、平成23年4月、キャベツなどの新たな生産および販売手段として、野菜の一次カット加工施設を設置し、翌24年に稼働した。
カット加工施設は、営農総合センターに併設され、直販事業を主管する営農部生産販売促進課が運営している(写真1)。1年目の24年度は、実需者から持ち込まれたキャベツの一次カット加工(芯取りカット(2分の1、4分の1))を受託し、実需者からの技術的な信頼を得ることに努めるとともに、系統外出荷者への施設利用を推進した。これにより、今まで系統外出荷を行っていた大規模生産者の出荷は、25年度6名、26年は2名増の8名となっている。
JA茨城むつみ管内のキャベツ生産は、春作型と秋作型の2作型があり、これらの時期は管内産のキャベツを買い取って一次カット加工後、自ら販売している(図2)。
また、管内産のキャベツが入手できない夏期や厳冬期については、実需者から持ち込まれたキャベツの一次カット加工を受託している。産地の加工施設は、農閑期の稼働率低下が課題となるが、JA茨城むつみは受託加工を導入した周年稼働体制を確立した。これにより、熟練パート労働者を通年で雇用することが可能となり、徹底した衛生管理と高い技術による一次カット加工を実需者に提供している(写真2、図3)。
カット加工施設における工程は図4の通りである。JA茨城むつみが所有する通いコンテナで生産者から出荷されたキャベツは、洗浄などの下処理の後、仕向け先の仕様に合わせた一次カット加工を行う(写真3、4)。
カット加工施設では10名のパート労働者を通年で雇用している。パート労働者は、シフトにより毎日8名が、原則として午前9時から午後2時まで作業することとなっている。
現在取引する実需者は2者で、両者ともサラダ用にキャベツを一次カット加工して出荷している。一次カット加工されたキャベツは、実需者が所有する通いコンテナに詰められ、出荷用冷蔵庫で一時保管の後、実需者が手配したトラックで出荷される(写真5、6)。なお、出荷伝票がペーパーレス化されているため、出荷予定数量はメールで報告している。
カット加工施設は、徹底した衛生管理、熟練したパート労働者による一次カット加工、定時定量出荷などで実需者から高い支持を得たことにより、25年度は前年の2倍強の販売高となっており、26年度も順調に推移している(表2)。
一次カット加工キャベツの代金決済については、系統組織である全農いばらきではなく、卸売市場を介在させている。
これは、野菜販売は系統出荷の大部分が市場向けであるJA茨城むつみが、加工・業務用の取引でも卸売市場との良好な関係を維持するためである。卸売市場は、最も有利な販売チャンネルであり、実需者を含む多くの顧客を抱え、高い提案営業力も持っている。このため、市場手数料が発生するものの、一次カット加工キャベツの代金は、卸売市場を経由して実需者から入金される仕組みにしている。
JA茨城むつみが、一次カット加工を導入した効果として、①これまでJA出荷を行わなかった大規模生産者との取引の開始、②既存のJA出荷者の後継者に対する新たな販売チャンネルの提供、③生産者手取りの安定化などが挙げられる。
①は、系統共販率の向上につながる。実需者から見ても、JAからの納品は、出荷情報の精度が高く安定的に供給されるため、仕入れなどの面で安心感が高まる。
②は、産地の維持および拡大につながる加工用キャベツの生産は、市況変動に影響されにくく、作付け計画策定時点で収入が予測できることから、増産に意欲的な若手後継者のニーズに合った、新たな出荷チャンネルと言える。若手の生産者に市場出荷以外の販売チャンネルを提供することで、長期的にも産地の維持につながる。
③は、②に関連するが、ホール野菜より1玉当たり収入は少なくなるものの、市況低落時も影響を受けにくいことから、生産者手取りの安定化につながる。
このほかに、JA茨城むつみとしては、さまざまな需要に対応できる産地として実需者からの信頼を獲得できること、大規模生産者との新規取引により、JA事業の取扱高が増加することで、新たな設備投資が可能となることを効果として挙げている。
JA茨城むつみは、単位JAでのカット加工施設の整備を通じた産地振興という、全国的にも先駆的な取り組みを軌道に乗せつつある。そのカギとなっているのが、消費者ニーズの的確な把握と、今まで系統出荷を行わなかった大規模生産者との連携である。
JA茨城むつみは、これまでのプロダクトアウト(作ったものを売る)ではなく、マーケットイン(顧客が求めるもの)を考慮した販売に着手している。
マーケットインについては、重要性は認知されているものの、取り組みが進んでいないか、規格や荷姿の変更といった、市場などからの要請による受動的な取り組みとなっている産地が多い。作ったものを出荷し、市場販売により代金を受け取るという商流は、産地にとって最も安全に手取りを確保する手段である。しかし、この販売チャンネルのみでは、産地は原料供給者から抜け切れず、消費者や実需者のニーズを間接的にしか受け取ることができない。JA茨城むつみは、生産者からの委託ではなく、VFSのように生産者からの買い取りを行うことで、自らがパッケージ、一次カット加工、販売方法に自由度を持ち、ニーズを把握する力を高めて実需者などに提案することで、能動的なマーケットインを実践している。
また、施設の周年稼働、営業開発や代金決済など検討する課題は多い。市場出荷以外の新たな取り組みを検討するに際し、生産部会内の支持を得られずに取り組みがスタートできない、または、スタートしても課題が多い事例が各地で見られる。この点から、JA茨城むつみが原料を買い取ることで、生産者のリスクをJA茨城むつみ自らが負担する一方、卸売市場の代金決済機能を取り込んで、代金の回収リスクを最小限に抑えていることは大きな意味を持つといえる。なお、代金決済機能で卸売市場を経由させることにより、生産者に対して、週1回の販売代金入金も可能となる。
カット加工施設による加工・業務用野菜の買い取りに係る原料の供給を、今まで系統出荷を行わなかった大規模生産者が一部担っていることも特筆すべき点である。
加工・業務用野菜は、歩留まりの良いものを定時定量で安定的に出荷することが求められる。一方、市場出荷のような厳密な規格ではない分、市場出荷用よりも買い取り価格が抑えられている。JA茨城むつみは一次カット用キャベツの生産について、市場出荷に慣れた既存の系統出荷者ではなく、作業の効率化でさらなる規模拡大を目指す大規模生産者に働きかけて、これを確保した。
現在は、生産者の高齢化により産地規模が縮小する中、ネット販売の普及や多様な実需者の増加など、野菜のマーケットは複雑かつ多岐にわたっている。さまざまな需要に柔軟に対応でき、マーケットから求められる産地となるには、JA系統、系統外といった枠を越え、ひとつの産地としてこれらの需要に対応することが必要ではないかと考えられる。大規模生産者などの系統外出荷者がJAとつながりを持つことで、栽培管理技術の統一化なども図られ、産地全体としての品質に対する評価が高まることも期待できる。品質への評価が高まれば、需要が拡大し、生産者手取りの向上にもつながる。手取りが向上した生産者の存在により、新規参入者の増加も期待できることから、産地振興につながると言える。
JA茨城むつみの事例は、既存の系統出荷者だけでなく、地域内の系統出荷を行ってこなかった大規模生産者を巻き込み、産地が一丸となってさまざまなニーズに応じた商品アイテムと出荷チャンネルを開拓した取り組みであった。
野菜産地を振興し、加工・業務用野菜への参入および取り扱い拡大を目指す産地にとって、今回の事例は参考にすべき点が多い。
最後に、今回の調査に協力いただいた、全国農業協同組合連合会茨城県本部および茨城むつみ農業協同組合に感謝申し上げる。
参考資料
(1)農林中金総合研究所 尾高恵美「農林金融2012.4:JAグループにおける農産物販売力強化の取組み」
(2)日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会、一般社団法人新日本スーパーマーケット協会「平成25年スーパーマーケット年次統計調査報告書」
(3)茨城むつみ農業協同組合「ディスクロージャー誌」
(4)独立行政法人農畜産業振興機構「野菜情報2014年5月号:産地紹介 JA茨城むつみのキャベツ生産~こだわりキャベツ生産とカット加工を行う産地~」