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調査・報告(野菜情報 2015年1月号)


オランダとの技術交流を生かした、高知県の次世代施設園芸と後継者育成

高知県農業振興部産地・流通支援課
課長補佐 岡林 俊宏


【要約】

 施設園芸が盛んな高知県は、長年にわたるオランダとの技術交流により、養液栽培や天敵昆虫を利用した防除技術を学んできた。
 平成25年度次世代施設園芸導入加速化支援事業に高知県四万十町が採択されたこともあり、オランダから学んだ技術のノウハウを、次世代施設園芸のモデル団地整備に活用すべく、全力で取り組みを進めている。この取り組みと併せ、後継者の育成なども推進しており、オランダとの技術交流の成果を産地全体に普及することを目指している。

1 はじめに

 高知県は、冬場の豊富な日射量を生かした施設園芸が盛んで、平成24年度の農業産出額969億円のうち約75%(726億)を、野菜、果実、花きの園芸が占めている。県土の84%が森林(全国第1位)であり、農耕地面積は、全国のわずか0.6%しかないため、面積当たりの収益性が少しでも高い、労働集約型の園芸農業が盛んとなっており、特に、なすやししとうなどの果菜類やしょうが、みょうが、にらなどの特産野菜などで全国第1位の生産を誇る。

しかしながら、本県は、台風や大雨などの被害を受けることも多い上、消費地にも遠く、産地としては決して恵まれた環境ではない。さらに、近年は、燃油や資材などの生産コストの上昇が農家経営を直撃しており、産地を維持していくためには、生産コストの削減と、収量を高める取り組みが重要な課題となっている。

2 オランダとの交流

オランダは、面積は九州とほぼ同じだが、農産物輸出額は米国に次いで世界第2位の国である。中でも、施設栽培によるトマト、パプリカなどの生産技術は極めて高く、それらの収量は、本県平均の2~3倍のレベルとなっている(図1)。

 そこで、本県では、25年以上前から、オランダからその高い技術を学ぶ活動を継続してきた。特に、県内に519戸、120ヘクタールに普及している養液栽培技術は、オランダから学び、普及してきたものである。また、化学農薬に代わって、天敵昆虫を利用した防除技術や、なすにおける訪花昆虫利用などにおいても、県の研究員や普及指導員、多くの農業者たちが、毎年、オランダを訪問し、その技術を学び、本県の環境に応じた形で、その技術を進化させて普及につなげてきた。

(1)オランダ最大のグリーンポート

~ウェストラント市と友好園芸農業協定を締結~

 そんな何年間にもわたる地道で、草の根的な技術交流が続く中、平成21年11月、オランダ最大の園芸産地であるウェストラント市と、友好園芸農業協定を締結した(写真1)。

(2)さらに深まる技術交流

 ウェストラント市との友好園芸農業協定には、①環境に配慮した園芸農業および関連産業の発展、②次世代を担う意欲ある後継者を育成するための、学校間の学生交流の促進、③生産者、企業間の交流と協力を通じた、相互の繁栄と発展の促進、の3つの内容が含まれており、相互の理解と信頼を深め、お互いの友好交流を将来にわたって進展させていくこととしている。

 協定締結後は、県では、それまでの交流をさらに拡大し、毎年、農業者や農大生、さらには県やJAの農業関係者らで公式訪問団を結成し、現在までに253名がウェストラント市を訪れ、最新の園芸技術と経営、流通のしくみや省エネルギー対策などを学んだ。また、県の試験場研究員の、種苗会社や農業研修施設への長期留学も実現している。

 また、逆に、ウェストラント市の農業専門学校生や教官を農業大学への受け入れ、試験場や生産現場での技術者との交流や指導といった取り組みも続けている(写真2)。

(3)技術交流の成果

 オランダとの交流を通じて得た技術のうち、近年、めざましく普及したのが天敵利用を中心としたIPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫管理)技術である。主力品目であるなす類、ピーマン・ししとう類では、約90%以上の2000戸以上の生産者が、天敵昆虫を利用して、病害虫密度を被害が出ない程度に抑えている(図2)。

 特筆すべきは、オランダでは、工場生産の天敵昆虫をスケジュール的に大量放飼していくことで、安定した管理を行っているのに対して、高温多湿で害虫の種類も多い本県は、恵まれた自然環境と生物多様性を最大限に活用して、野山に自然に生息している在来の土着天敵を、生産者が採取したり、温存したりしながら作物に定着させていることだ。
これは、ハウスの中にミニ生態系を作り出しながら作物を守るという、オランダの技術を高知の環境に応じた新技術にまで進化、普及させた成功例となっているのではないかと思う。

3 次世代施設園芸システムの普及へ

(1)オランダの技術を、県内の全ての既存のハウスへ応用

 IPM技術に続いて、現在、最も力を入れて普及させようとしているのが、環境制御技術である。オランダでは、どの園芸品目においても、高軒高の大規模ガラスハウスにおいて、温度、湿度、CO2、養水分など作物に必要な環境要因を、日射量はもとより風向きに至るまで考慮した上で、作物の生育ステージや状況に応じて最適にコントロールして、最高収量を目指した管理が徹底されている。

 一方、本県では、まだ多くの生産者は、そのハウス内にはいくつかの温度センサーがあるのみであり、温度が上がると換気し、温度が下がるとハウスを閉めて、加温機が作動するという程度の栽培管理からあまり進化しておらず、あとは、篤農技術と言われる、長年の生産者自らの「勘」に頼った管理が主流である。

 もちろん、オランダと比較すると、本県の気候は、年較差、日較差が激しく、ハウス構造そのものも桁違いの簡素さであり、それらの環境要因をオランダのように完璧にコントロールしようとしてもできるものではない。しかしながら、ハウス内の環境データを、もう少し詳細に「見える化」した上で、今の基本的な栽培管理を、できるところから改善することにより、高知の環境に応じた環境制御技術を確立、普及できるのではないかと考えている。

 幸い、毎年多くの生産者や園芸関係者が実際にオランダで、その進んだ環境制御技術を目の当たりにしており、自分たちも、この技術をなんとか応用して生かしたいという意識が、産地内に年々高まってきていると感じる。

 そこで、まずは、県の農業技術センターで、「こうち新施設園芸システム」として技術確立に取り組むと共に、なすやピーマンなど本県の主要品目7品目について、温度、湿度、CO2、日射量などの環境要因を、現場の生産者のハウスで栽培期間を通して測定した。その結果、特に厳寒期においては、日中のハウス内のCO2濃度が不足している状態があることがわかった。さらに、平成25年9月~26年8月の間に、上記と同じ7品目について、CO2施用の実証試験を行ったところ、15カ所全ての実証ほ場において、5~37%の増収効果を得ることができた(写真3)。

 本県の生産者の平均的な収量は、新品種への転換や出荷規格のボリュームアップなどにより徐々に伸びてはきたものの、どの品目もすでに頭打ち傾向となっていた。それが、個々の生産者が、栽培期間中のハウス内環境をデータで把握した上で、毎日自分の栽培管理を少しずつ、できるところから見直していくことで、これまでの地域の限界収量を突破できることが証明されたのである。

 まだまだ、オランダの環境制御技術と比較すると足元にも及ばない。しかし、個々の生産者が既存のハウスにおいて、この技術を高知の環境や条件に応じた形で進化させていけば、全品目で、全生産者に普及できるのではないかと考えている。

(2)次世代施設園芸モデル団地の整備へ

 農林水産省は、日本の施設園芸を次世代に向かって発展させるために、強い国際競争力を持ったオランダの園芸農業をモデルとした、次世代型の施設園芸拠点を全国に整備する次世代施設園芸導入加速化支援事業を、平成25年度から進めており、本県四万十町もその1カ所に採択されている。この事業は、まさに、オランダの大規模施設を、拠点としてほぼそのままの形で導入していくものであり、収量アップの目標については、こうち新園芸システムによる目標が10~30%程度とすると、100%以上という高いレベルを目指すものとなっている。

 この事業は、施設の大規模な集約によるコスト削減や、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用した高度な環境制御技術による周年、計画生産を実現すると共に、育苗施設や集出荷施設についても一体的に整備することとしている。これにより、先端技術と強固な販売力を融合させて、生産から調製、出荷までを一気通貫して行うことで、所得の向上と地域雇用の創出が可能となる。また、近年の燃油価格の高騰を踏まえ、木質バイオマスなどの地域資源のエネルギーの活用による化石燃料依存からの脱却とコスト減も目指している。

 この事業は、森林面積が多く、施設園芸に特化して農業振興を図ってきた本県にとって、まさに待ち望んできたモデル事業であった。本県では、産学官で構成するコンソーシアムや、県庁内に立ち上げたワーキングチームを中心に取り組みを進め、四万十町の4.3ヘクタールのモデル団地を拠点として事業を展開している。

 この団地は、高度な環境制御による高品質かつ多収量の大規模生産拠点であると同時に、先進技術を県内全域に広めていくために大規模経営の成功モデルを示す拠点施設でもあり、これまで本県がオランダから学んできたことを生かす好機ととらえ、平成28年度からの営農開始に向けて、関係者が一丸となって全力で整備を進めている(図3)。

4 さらに後継者の育成・確保につなげていくために

 本県における次世代施設園芸団地の大きな強みとして、隣接した敷地に「農業担い手育成センター」を平成26年4月に整備した。ここは、新規就農者の育成の拠点施設であり、既存の農家にとっても先進技術の実証、普及の拠点となる施設である。

 本県の新規就農者数は、数年前まで年間100名台で推移していたが、新規就農者確保に向け取り組みを強化した結果、26年度はすでに261名を記録するなど、23年から4年連続で200名を超える水準となっている。しかしながら、高齢化などによる農業者の減少は、これを上回る速度で進行している。25年度に、産地の全農家を対象とした営農意向調査を実施したところ、現在と同規模の農業生産を維持するためには、県全体で、年間280名の新規就農者を確保していくことが必要であることが明らかとなった。

 このため県では、従来の農業研修施設を抜本的に見直し、強化して本センターを発足させた。ここでは、農業の基礎から、天敵防除や環境制御などの先進技術までの実践的な栽培技術を学ぶと共に、経営や流通、販売などに関する幅広い能力を身につけるための研修内容についても強化、充実させている。加えて、意欲ある農業者や指導者に対する研修を実施し、先進技術の習得、農家間の交流や情報交換の場としても活用していきたいと考えている。

 また、研修生がいざ就農する際に、よりスムーズに営農を開始できるよう、産地とのマッチングを支援するため、研修修了後の受け入れなどに関する情報交換や支援を行っている。現在は、マッチング機能の強化のため、新規就農者のニーズを受け身で聞くのではなく、産地の生産者が、その産地の維持、発展のために必要としている人材などについて、就農希望者にしっかりと伝えられるような話し合いを行っている。また、実際に営農を開始していくための農地や栽培ハウスの整備、住居情報など、より具体的な情報を収集、提供していく仕組みの検討を行っているところである。

 こうした取り組みに加えて、隣接する次世代施設園芸団地で実際に行われる先進的な大規模経営が、センターで学ぶ新規就農希望者や農業者、指導者に大きな刺激を与えることが期待されている。また、団地で営農する事業者にとってもセンターで行われる先進的な研修への参加や、センターの専門職員による技術的な支援を受けられるなどのメリットがある。両者が産み出す相乗効果により、農業者の育成と先進技術の普及推進という機能を併せ持った一大拠点となることが期待されている。

5 産地のまとまりと学び教えあうしくみ

 オランダでは、篤農家的な技術を持つ生産者のことを「グリーンフィンガー」と呼ばれている。あれほど大規模化、効率化された生産環境が整備され、コンピューターにより再現性が高く、均一的な生産が行えているように見えていても、最終的に高品質、高収量生産を左右するのは、司令塔であるグリーンフィンガーの持つ能力と言われている。オランダでは、個々の生産者が技術面や販売面で競争しつつも、さまざまなグループ内で情報をオープンにした上で切磋琢磨し、最終的には「オランダ産」としてのブランドと国際競争力を高め続けている。

 本県では、平成20年度から、「産地のまとまり」をもって、地域の篤農家技術を産地全体の技術として広げていけるよう、「学び教えあう場」を県内約200カ所に整備し、地域のリーダー的な篤農家の協力を得ながら、新技術の普及などにつなげる取り組みを進めている。
次世代型こうち新施設園芸システム(環境制御技術)や次世代施設園芸のモデル団地の取り組みを全品目、全戸に普及していくためにも、高知のグリーンフィンガーと「産地のまとまりと学び教えあう仕組み」を生かして、皆で情報を共有しながら切磋琢磨していくことが重要だと考えている(写真4)。


6 さいごに

 ウェストラント市との交流を続ける中で、本県園芸との大きな違いの一つとして感銘を受けたのが、イノベーションに取り組むスピードの速さである。

 LED照明の利用技術でいえば、マイクロベジタブル(幼苗)を生産する企業が、平成20年に訪問した際に、数平方メートルの実験であったのが、21年には、20アール程の規模での実証生産に進化し、さらに22年には、その技術を本格導入した4ヘクタールの生産施設が建設中となっていた。

 また、エネルギーの効率利用のトリジェネレーション技術(熱、電気に加え、CO2も有効活用する技術)についても、単に天然ガスの発電により電照利用し、排熱で加温し、排ガスで炭酸ガス施用するのみにはとどまっていない。ウェストラント市では、地中の停滞水を活用して、低温層と高温層での熱交換を併用した省エネルギーの取り組みや、高温作物を栽培する農家が低温作物を栽培する農家に排熱をシェアしている。さらに地下深くの地中熱を活用したり、どの生産企業においても、毎年のように自らの生産と経営に対して、新たなイノベーションを実践しており、産地全体として常に進化し続けていると感じる。

 それは、スペインやモロッコなど新たな産地の台頭や、リーマンショックなどの金融危機、あるいは近年ではロシアへの輸出ストップなど、厳しい逆境が続いている中で、産地として生き残っていくために必要かつ不可欠なイノベーションでもある。また、生産者が、グリーンフィンガーたる誇りとやりがいを持ち続けていくためにも大切な取り組みなのではないかとも感じている。
山が多く農地面積の少ない本県にとって、園芸農業のイノベーションは、オランダ同様、産地として生き残るために必須となってきている。これから先50年、100年と本県の園芸農業を次世代に引き継ぎ、生業として持続していくためには、今まで進めてきた環境保全型農業のさらなる普及と合わせて、次世代型こうち新施設園芸システムの普及や次世代施設園芸団地の整備は、その核となると考えている。

 これらの取り組みを産地全体に普及していくことで、「農家に誇りとやりがいを、後継者に夢と未来を、そして消費者の皆さんには安全、安心と信頼」を感じてもらえる高知の園芸農業を目指していきたい。


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