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調査・報告(野菜情報 2015年1月号)


静岡県の冬レタス栽培における省力機械化技術開発への取り組み

静岡県農林技術研究所 経営・生産システム科
主任研究員  山崎 成浩


1  静岡県の露地野菜産地を取りまく状況と研究開発の目標

 静岡県では、温暖な気候を利用してさまざまな品目の露地野菜が生産されている。この中で、レタスをはじめとする厳寒期に収穫される野菜は、全国有数の産地を形成し、東西の卸売市場において、流通量、価格ともに優位に取引されており、将来的に見て拡大が期待されている品目である。

 一方、生産者の高齢化と担い手の減少による労力不足は、本県においても深刻な状況にある。露地野菜は、多くの作業を人力に頼っているため、大規模化が困難な状況にあり、1戸当たり0.3ヘクタール以下の小規模経営体が生産面積の55%を占めている。このため、露地野菜の産地規模は年々縮小し、作付面積はこの10年間で16%減少し3179ヘクタール(平成22年)となった。作付けの減少により、耕作放棄地が増大する傾向にあり、地域農業を支える担い手の育成は最も重要な課題である。

 このような中、冬に水田裏作として栽培される本県のレタス生産額は39億円(24年)で、本県露地野菜の中でも、最も重要な地位を占めている。一方で、レタス生産は、水稲や茶などの品目に比べ、経営の大規模化や生産の効率化が遅れている状況にある。今後、高齢生産者がリタイアしていく中で、現在の産地規模を維持していくためには、若手を中心とした個別経営の規模拡大の推進や、それを支える機械化技術等の省力生産システムの開発が急務であると考えられる。

 これらの問題に対応し、静岡県農林技術研究所では、栽培、機械開発、農業経営の研究者がプロジェクトを組んで課題解決を進める、新成長戦略研究課題「大規模経営に対応する露地野菜栽培省力機械化技術の開発」(23~25年の3カ年)に取り組んだ。本稿では、本研究により得られた、産地事情に対応したレタスの省力機械化に関する技術などの成果を報告する。

2 レタス産地の概要と解決を要する課題について

 本県のレタス栽培は、昭和29年に大井川下流の吉田町、島田市初倉地区に水田裏作の麦、なたねに代わる換金作物として導入されたのが始まりである。その後、戦後の駐留軍の特需や食生活の改善による生食の普及で、30年代以降に大きく発展した。本県の主な産地は、大井川下流の島田市、吉田町、牧之原市を中心とする地域と、県西部の水田地帯である森町、菊川市に位置し、農協主導の産地化により共販体制が整備されてきた。その後、品種の変遷による作期の拡大、バインダーとコンバインの普及、トンネル栽培、マルチャーの普及、自動包装機などの新技術の導入により、栽培面積の拡大、労力の省力化、出荷組織の充実が図られた結果、産地体制が確立し、安定生産が行われている。

 現在、静岡県のレタス栽培面積は約800ヘクタールであり、生産額は県内露地野菜2位(39億円)の重要作物である。1戸当たりの平均栽培面積は80アールであるが、近年、10ヘクタール以上の栽培面積で常時雇用を行う大規模法人経営体も見られるようになった。10アール当たりの労働時間は209時間で、うち収穫が32%、調製および荷造りが32%と、収穫から出荷までの作業が全体の約6割を占めている(図1)。

 本県のレタス栽培は、水田裏作の11月下旬から翌4月下旬に収穫される作型であるが、この中でも12~翌3月の出荷が中心である。高単価で取引される1~2月収穫での市場占有率が高く、冬期における国内主要産地の一つとなっている(図2)。しかし、年によっては、厳寒期の低温の影響による生育遅れで減収が発生し、相対的に、出荷量は需要に対して不足しやすい状況にある。また、1~2月の栽培では、トンネル内の畝の中央は暖かく、外側は寒いといった温度差が生じ、生育のバラツキが大きく生じる(図3)。その結果、生産者は大きくなったレタスを選び出しながら、何回かに分けて収穫するため、作業能率の低下や作業負担の増加が課題となっている(写真1)。このため、現地からは、同時期の収量の安定化と、一斉収穫が可能な栽培技術の確立が切望されている。

 現地における機械化としては、半自動移植機注1)、自動包装機等の導入は進んでいるが、収穫作業は手作業のままである。厳寒期の寒風が吹く中での収穫作業は大変過酷で、肉体的な負担も大きいため、作業の省力自動化への期待も大きい。収穫作業の機械化については、平成14年度に独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターで、レタス収穫機が開発された。本機の収穫精度は良好であるが、1条収穫用で作業能率が低い。また、上述の通り、1~2月の生育のバラツキが大きい時期の、機械による一斉収穫への対応は困難である。このため、本県の栽培体系に収穫機を適合させるためには、機構を根本的に変更することが必要と考えられた。

注1)半自動移植機:野菜移植機は苗供給機構に多くのコストがかかるため、同部分を人力手作業で行う半自動型と、すべて機械的に行う全自動型が市販されている。半自動型は機体が軽量簡易でコストも低いが、人力手作業により作業能率が制限される傾向がある。

3 これまでに得られた主な研究成果

(1)生育促進効果が得られる植穴施肥技術の開発

 生育のバラツキが大きい1~2月の時期において、機械による一斉収穫への対応を図るための技術開発として、レタスの初期生育を促進・均一化し、4条一斉収穫を目的とした植穴施肥の技術注2)を開発した。すなわち、レタス苗の移植時に植穴へスタータ肥料注3)を施用し、レタス結球重を増大させる技術である(写真2)。所内にて植穴施肥試験を行ない、4条一斉収穫を行った結果、Sサイズ以下の割合は、慣行の施肥方法の15%から5%まで低下した(写真3、図4)。これにより、植穴施肥技術は、厳寒期のトンネル内の生育がある程度均一化され、レタスを一斉に収穫できる可能性を高めるものとして期待できることが分かった。なお、植穴施肥技術は大変有望であるが、現地での実用化のためには、季節や年次による変動、施肥量、再現性などについての確認が必要になると考えられる。

注2)植穴施肥:苗直下に少量の緩効性肥料を投入し施肥効果を高める技術。

注3)スタータ施肥:作物の植付時に少量の液肥や粒状肥料を株近傍へ施用することで、初期生育の向上を図る施肥技術。

(2)植穴施肥を省力的に作業できる移植同時植穴施肥装置の開発

 植穴施肥技術を省力的に活用することを目的に、移植同時植穴施肥装置を開発した。本装置は、半自動移植機に装着する形態で、移植作業と同時に高い精度(誤差8%以内)で植穴へ粒状肥料を施肥できる(図5、写真4)。半自動移植機のみと比較して、施肥装置の重さは15キログラム程度増加するが、施肥装置の取り扱いは容易であり、移植作業に支障はない。本装置はすでに産地に普及している半自動移植機に装着でき、装置自体の価格も比較的安価で供給可能であると想定され、大規模生産を志向する農家からも、現地への導入が大いに期待されている状況にある。

(3)レタス4条収穫機の開発および試作と問題点

 生育が均一にそろった多条のレタスを同時収穫することを目的に、レタス収穫機を開発した。本機の構成は切断部と搬送部、収容部、走行部からなり、往復動する切断刃でレタスの結球を刈り取る構造となっている(図6、写真5)。レタスを刈り取る高さの位置は、畝上面に接するローラにより受動的に制御される簡易な構造となっている。切断されたレタスは、ベルトによって搬送部から収容部へ送られた後、人力でコンテナ収容され調製作業を行なう。本機の特徴は、複数条のレタスを一度に収穫できることであり、本県の4条千鳥植えでの栽培様式に対し、そのまま導入することができる。

 研究所内のほ場で収穫試験を行った結果、本機は最大作業速度 約0.2メートル/毎秒までレタス結球の切断および搬送が可能であった。また、現在は、試作機の改良中であるが、作業速度0.04メートル/毎秒における出荷可能なレタスの割合は、株の高さが揃っている均平な畝であることなどの条件が整えば、90%以上が見込まれる。本機の作業可能面積は11~17アール/日と推定され、収穫作業時間は慣行の20%程度まで削減が可能となる。
しかし、現段階の試作機では、切断高さ制御の安定性に課題が残り、刈り取りの精度は畝や通路の均平程度に影響されるため、条件の悪いほ場での運用に対応できるよう改善が必要である。

4 さいごに

 以上の成果から、本県のトンネル栽培に対応したレタス一斉収穫のための基礎的な技術を開発することができた。しかしながら、3年間の研究期間の中では、現地における実証試験が十分に行えなかった状況にある。そこで、今後、平成28年度までの3年間については、これまでに開発された技術の普及を目的として、実際に産地の中で、収穫機、植穴同時施肥機の現地試験を行い、現地の栽培体系にあった技術に適合させていく予定である。

 また、今後は、経営的なアプローチも重点化していくため、生産者の規模拡大の意向や栽培上の技術的課題についての調査を実施していく。さらに、調査結果をもとに、法人組織などによる雇用を活用した大規模生産システムの実用化の可能性を検討するとともに、一斉収穫体系での収益性や適正規模についても試算し、機械化一斉収穫体系が成立する経営モデルを作成していく計画である。


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