公立大学法人宮城大学 食産業学部フードビジネス学科
准教授 堀田 宗徳
【要約】
外食企業である日本サブウェイ株式会社(以下、「日本サブウェイ」という。)は、サンドイッチのチェーン店を展開しているが、「野菜のサブウェイ」を全面的に打ち出し、消費者の健康志向のニーズに対応した販売を行っている。その消費者ニーズへの真摯な対応を、中間業者の東京デリカフーズ株式会社(以下、「東京デリカフーズ」という。)を通して、農事組合法人耕人会(以下、「耕人会」という。)に伝え、生産者がそれを反映した生産を行っているという理想的な連携を行っている。
今後は、外食産業サイドでも国産野菜に注目し、需要拡大をするためには、野菜調達を納入業者に任せるだけでなく、産地との情報共有や消費者への国産野菜の啓発も必要となってくると思われる。
外食産業の野菜に対するこだわりを実現させるため、中間業者であるカット野菜業者が要となり、産地と実需者を結びつけることで、まだまだ国産野菜の需要拡大は可能になってくるのではないかと考えられる。
業務用、特に外食企業にとって野菜は重要な食材の一つである。それは、消費者ニーズの一つに安全、健康志向というニーズがあるからである。それに対応するため外食産業では野菜を健康志向の対象食材として消費者に訴求している。
総務省統計局の「家計調査」を見ても世帯一人当たりサラダの購入金額は、平成22年7月以来、毎月、前年実績を上回るか同額になっている。消費税が引き上げられた26年4月以降では6月まで前年比11%、9%、10%と毎月大幅に増加しており、消費者のサラダに対するニーズが高いことが分かる。また、消費者の食費に占める外食と中食の支出額の割合は現在45.1%であるが、52年には70%になるという予測もあり、将来、ますます消費者は食を家庭内で調理をせず、外部に依存する傾向となる。その際の野菜のニーズも、今後期待できると考えられる。
業務用野菜のマーケットが拡大してきた外食企業サイドの要因の一つに、調理の外部化があげられる。調理の外部化とは、前処理、主調理、盛り付けの各過程を時間的空間的に分離、独立した調理体系である。このことがチェーン理論でいう店舗段階での業務の単純化、マニュアル化を可能とした。
具体的に野菜で見ると、従来、店舗段階でカットしていた野菜の前処理を、セントラルキッチンや外部に委託(調理の外部化)し、カット野菜で納入してもらうことで合理化が図られ、さらに均一な商材の提供が受けられることになる。
カット野菜業者などの中間業者にとっては、野菜をホールのまま提供すること以外に、カットにすることで、付加価値をつけた販売が可能になる。川下である外食、中食企業に安定的に野菜を供給することや、川上の生産者と外食、中食企業の橋渡し役(コーディネーター役)をする機能を果たす中間業者の存在は、野菜の業務用での使用をスムーズにしている。
ところで、外食産業の全体の食材仕入額は、仮に食材率(売上高に占める食材仕入額の割合)を30%(食材率の最低ライン)と仮定した場合、6兆9700億円と推計され、そのうち野菜の仕入額は、8200億円と考えられる。
これだけ大きな外食での野菜マーケットに、こだわりの栽培や付加価値をつけて提供することは、野菜を提供する関係者にとって将来的にも大きな可能性を秘めている。
外食産業における食材調達の原則として①量の安定的確保、②品質の均一化、③仕入れ価格の安定があげられる。さらに最近では、消費者の安全、健康志向に対応して、④安全な食材の調達も要求されている。
①の量の安定的確保は、欠品を防止するためのものであり、大量に調達する場合は、購買担当者だけでは困難となり、流通業者との連携が必要となってくる。②の品質の均一化は、メニューのおいしさを確保するために必要であり、③の仕入れ価格の安定はメニュー価格の変動を極力抑制するものであるが、外食側としては低価格の食材仕入れになる傾向がある。①から③の条件は、大部分が大手外食企業の条件であり、「どこの店舗へ行っても同じ価格、同じ味」を実現するためのチェーン理論に基づいた考え方である。
外食産業の野菜調達について見ると、前述したように野菜の仕入額が8200億円程度と推計できる。
農林水産省の外食産業の野菜の仕入先別仕入額割合実態調査によると、外食産業が野菜を最も多く仕入れている仕入先は、食品小売業で48.2%、次いで食品卸売業(商社含む)が26.9%、卸売市場が18.4%などとなっており、カット野菜業者を含む食品製造業からは2.3%であった。また、一番顔の見える野菜として考えられる自社栽培などは0.2%と、まだまだ普及していないことがうかがえる(表1)。
外食産業の構造から見ると、売上高の80%を占めるのが中小企業であり、食材仕入量も少ないことから、食品小売業からの仕入れが最も多くなるのが実態であると思われる。大手外食企業でも、卸売市場や食品卸売業から仕入れることが多い実態となっており、カット野菜業者などを含む食品製造業(加工業者)が少ない状況となっている。逆に考えると、カット野菜は外食企業(特に大手外食企業)への供給に伸びしろがあるとも考えられる。
年間売上高は、201億4500万円(平成26年5月28日付け日経MJ「第40回飲食店調査」)、本社は東京都港区にあり、店舗数は471店舗、うちレギュラーチェーン店が22店舗、フランチャイズ店が449店舗という構成となっている。
また、「遠くの産地で取れた野菜を大量のコストとエネルギーをかけて輸送するのではなく、『店産店消』をコンセプトに、店内に植物工場を併設した店舗」として、「サブウェイ野菜ラボ」を3店舗出店しているほか、「新鮮な野菜がたくさんとれる」「おいしい」「オーダーメイドサンドイッチ」というこだわり野菜に関する情報を発信していく場所として、「サブウェイ野菜カフェ」を2店舗出店し、店内で野菜マルシェや野菜セミナーなどを開催している。
ファストフード業界の中で、サンドイッチのチェーン展開はほとんど見受けられず、同社はサンドイッチチェーンのガリバー的存在となっている。
同社の環境方針を見ると、地球環境を経営資源の一つと考え、商品、サービスの開発、提供、店舗開発から運営に至る企業活動などにおいて、環境との調和に配慮し、持続可能な循環型社会を次世代に引き渡すことができるよう努力するとしている。また、野菜に関しては「語れる野菜」を追求し、土や水にこだわり、農業の6次産業化など農商工との関係にも力を入れている。日本の農業の活性化を意識しており、外食企業で野菜に関してこのようなこだわりを持っている企業はそう多くなく、そのようなことからも、実需者と生産者が共存できる関係での野菜調達を同社が考えていることが分かる。
顧客に対しては、高齢化社会において健康で豊かな生活が出来る健康寿命を伸ばすことを考えている。その意味でも野菜のサブウェイとして、安全な食材を使用した健康に配慮したメニューの提供を行っている。
主な使用野菜は、トマト(品種、サイズ指定)、レタス、たまねぎ、ピーマンであり、従来までは全ての野菜を店舗でカットしていた。しかし、店舗バックヤードの狭さと人件費などのコスト、商品の均一化(品質の安定)などを考え、カット野菜を使用するようになった。ただ、トマトだけは、現在も店舗内でカットしている。
カット野菜の取引先としては、東京デリカフーズとは平成22年から、大阪デリカフーズ株式会社(以下、「大阪デリカフーズ」という。)とはそれ以前から取引している。店舗の立地によっては名古屋デリカフーズ株式会社(以下、「名古屋デリカフーズ」という。)とも取引を行っている。
デリカフーズグループは、産地開発も手がけており、産地情報にも知見があることから取引を始めるに至った。価格は、市場価格を参考にしながら、毎月決めている。
実需者の外食企業から見たカット野菜のメリットとしては、野菜の歩留まりが良いこと、広い店舗バックヤードを必要としないことがある。また、カット野菜業者は、実需者にとっては産地とのコーディネーター役でもあり、野菜を安定的に納品してもらえることなどがあげられる。
一方、デメリットとしては、消費期限の問題がある。カット野菜業者から1日1回原則的に前日の夜に配送されているが、現在消費期限が1日であるので、もう少し延ばす技術開発があれば、とのことであった。
同社はただ、中間業者であるカット野菜業者に全て任せるのではなく、購買担当者本人も直接産地に赴き、生産者の生の声を聞いており、実需者の声を産地に届けることで、産地、中間業者および実需者の理想的なフードシステムを実践している。
平成26年3月期連結決算売上高は162億円。本社は、東京都足立区にある。
東京デリカフーズは、持株会社であるデリカフーズ株式会社(以下、「デリカフーズ」という。)の傘下のグループ会社の1社で、傘下のグルーブ会社としては、東京デリカフーズ、名古屋デリカフーズ、大阪デリカフーズ、デザイナーフーズ株式会社がある。
デリカフーズの26年3月期連結決算売上高は266億で、前年度より9.9%増加している。このうち野菜の売上高は240億円と見込まれている。
デリカフーズの26年3月期の販売構成比をみると、部門別ではカット野菜が34.9%、ホール野菜が53.2%、その他が11.9%と、過半数をホール野菜が占めている状況となっている(図1)。しかし、同社において最近、カット野菜の需要が拡大傾向にある。
同業態別では、ファミリーレストランが55.4%、ファストフードが14.2%、居酒屋およびパブが10.5%、その他外食が4.2%となっており、一般外食との取引が84.3%と圧倒的に多い状況となっている(図2)。
仕入先は卸売市場での買付けと契約取引による産地からの直接仕入れがあり、契約取引は、天候不順による不作の影響なども考慮し、6割程度としている。野菜(果実含む)の国産、輸入別は国産が80%、輸入が20%となっており、輸入についてはスポット購入が多い。
レタスなどの葉茎菜類は、契約取引が拡大する方向にあるものの、トマト、きゅうりなどの果菜類は、市場から仕入れることが多いとのことであった。
産地との契約条件は、毎年のことなのでシーズン前に価格と数量を決めている。
野菜の加工、配送の流れは図3の通りである。加工、殺菌では次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合がほとんどであるが、最近では微酸性電解水を使用し、人や環境に優しい方法も検討、採用され始めている。配送については委託している。
その他の安全面としては、平成24年に東京デリカフーズの東京第一FSセンター(青果物流通拠点施設)で、また、26年には東京第二FSセンターと神奈川事業所で食品安全マネジメントシステムの国際規格ISO22000を取得している。
国産野菜の今後の需要拡大について尋ねたところ、消費者に安全な食材を提供する意味では、国産野菜の仕入れを伸ばしていきたいとの意向であった。そのための産地育成も行っている。さらに現在、厚生労働省が1日当たりの野菜の摂取量の目標を350グラムと定めているが、現状は280グラムの摂取にとどまっていることから、野菜はあと、2割の伸びしろがあるのではないか、との前向きな話しもあった。
また、特筆すべきは、おいしい野菜を提供するために同社独自のデリカスコアという基準を設けて、生産から加工、配送まで行っていることである。これは、19項目を対象とした評価基準で、サプライチェーンの標準的な基準として、また多様化する野菜ニーズなどを評価するツールとして、そして、より付加価値の高い野菜生産を目指す取り組み指標として、このデリカスコアを導入している。スコアリングは、生産地と協力して、入荷時に行っている(図4)。
東京デリカフーズのような中間業者が、このような客観的指標に基づいて野菜の品質を考える視点は今まで見られなかった。すなわち、長年鍛えた経験則で野菜の良しあしを判断していたのとは異なり、客観的な指標と経験則をうまく取り入れたことにより、生産者サイドも栽培基準や栽培方法の改善につながり、また、実需者サイドでは安心して使用できるようになった。
前述したように、カット野菜業者は実需者と産地を橋渡しする役目(コーディネーター機能)が重要となっている。そうした中で、このような客観的基準は、今後予想されるカット野菜業者間競合激化の中で差別化につながっていくと思われる。
法人設立は平成5年で、群馬県内の石井農園、下田農園、中村農園、関根農園、青木農園の5軒の農家(合計ほ場面積53.48ヘクタール、合計ほ場数102枚(埼玉農場含む))と3軒の協力農家で構成されている。事務所は、群馬県吾妻郡長野原町にある。25年度売上高は、4億円であった。
耕人会の方針として、①環境に優しい農業への取り組み、②良質な完熟堆肥による土作りをした上での最小限の化学肥料、農薬の使用、③生産者相互の情報交換やグループ内外の生産者との情報交換、④生産情報の公開、⑤自主基準の栽培指導監査の実施、⑥JGAPの取得など、をあげている。
このような方針で栽培を進める過程で、カット野菜業者と共同で十和田石を使用した土地で、ミネラルが豊富でおいしい野菜栽培なども生まれている。日本サブウェイは、その十和田石を使用したほ場で栽培されたレタスなどの供給を受けている(写真1)。
十和田石:十和田湖の近くで採石され、緑色凝灰岩と言われる天然石。火山灰そのものが海底で堆積して、隆起、熱変性を経てできた凝灰岩で、ほ場では破砕したものを土壌改良材(善玉微生物の繁殖)や肥料(ミネラル補給)として使用している。
生産品目および出荷量は、レタスが1079トン(出荷期間5月31日~12月26日)、非結球レタスが364トン(同5月20日~12月31日)、キャベツが1438トン(同6月22日~3月31日)、はくさいが781トン(同6月10日~3月23日)であり、合計生産出荷量は3662トンとなっており、夏場の生産が主である。
取引先は設立当初は量販店や食材宅配大手などであったが、現在は100%外食などの業務用対応となっている。
業務用対応となった理由は、量販店などは出荷量が不安定で価格が一定でないためである。その点、外食などでは価格と出荷量が一定であり、作付け計画が容易であることなどから、業務用対応になったとのことであった。また、生産量の過半数以上は、カット野菜業者などの中間業者向けとなっているが、直接、外食企業にも提供している。すなわち、生産した野菜は市場を通さず、すべて市場外取引で流通している。このことは、耕人会が、戦後の開拓地であり比較的、農協との関わりが希薄な地域に位置していることも関係しているように思われる。
ホール出荷は形がそろったL玉であり、それ以外の大きさをカット野菜用に回すとのことであった。
納入先とは、過去の実績に基づいた契約内容で、きめ細かい条件により契約するわけではないが、契約量の80%以下であればペナルティが発生する。
1日平均3000ケースを出荷しているが、収穫した野菜はすぐに出荷せず、真空予冷を行って、1日保管した上で出荷する形をとっている。
野菜は収穫したときから品質の劣化が始まるため、野菜を輸送、保冷、低温貯蔵する前に真空予冷を行い、品質保持に努めており、産地の段階でコールドチェーンを意識した出荷体制を行っている(写真2)。
今後の方針について、法人規模の拡大(生産者の増加)に関し、聞きとりをしたところ、栽培基準の統一性の問題などもあり、生産者を増やすより、現在の構成農家の中で、ほ場面積を拡大していく方が有効とのことであった。
最近の課題としては、人手不足がある。最近の経済情勢により、全体的に景気が上昇機運になり、雇用労働者を集めるのが大変とのことである。
以上のように、外食企業者としての日本サブウェイ、中間業者(カット野菜業者)としての東京デリカフーズ、生産者としての耕人会の業給用野菜の取引をヒアリングしたが、野菜の流通としては理想的な連携となっている。
外食企業の日本サブウェイは、消費者が自社商品(メニュー)を食べることで、健康を維持するにはどうすれば良いかということから出発し、そのために野菜に関しては語れる野菜を追求し、土や水にこだわり、生産者との関わりを持ち、農業の活性化まで考えて野菜を仕入れている。
しかし、独自でできることには限界があり、その考えを実現するために実需者と産地を結ぶカット野菜業者がコーディネーター役としてサポートする必要がある。
そのコーディネーター役を担っている東京デリカフーズは、生産者と実需者の交差点に位置し、両者の情報を忠実に、または独自のデータを付加しそれぞれに流す重要な機能を有している。
従来、食品流通論的にいうとカット野菜は食品流通の中で流通加工に属していたと考えられる。すなわち、卸売業者が食品流通の過程で簡単な加工を施し、若干の付加価値を付け、川下へ流通させるものであったが、実需者からの要望や外食、中食企業などの拡大に伴って、カット野菜加工をする部門が独立し、現在のカット野菜業者が誕生したのではないかと考えられる。それ故に、産地から野菜を仕入れカットし実需者に流通させるだけで終わっている中小のカット野菜業者も多く存在するのではないかと思われる。このような状況では、外食企業として調理の外部化は実現できても、食材自体の差別化までには至らないことになる。
だからこそ、カット野菜業者は、産地、中間業者、実需者、消費者の一連のフードシステムの中で、重要な役割を果たさなければならない。今回、東京デリカフーズが、実需者のニーズを産地に、産地の状況を実需者にそれぞれ伝えることより、産地と実需者は同情報を共有して良好な関係を保ち、それぞれが納得のいく商材が流通していた。
また、耕人会は、消費者にとっておいしい野菜を追求、研究し、収穫した野菜を消費者に届けるというマーケットインの発想で生産していた。
生産者のこの発想もやはり、中間業者を通じた実需者とのコミュニケーションで生まれたものである。生産者は、自分たちが栽培し収穫した野菜がどのように消費されているかまで、考えることが必要になってきているのではないかと思われる。
このように、外食企業の野菜に対するこだわりを実現させるため、中間業者であるカット野菜業者が要となって産地と実需者を結びつけることで、まだまだ国産野菜の需要拡大は可能となってくるのではないかと考えられる。
外食産業側の課題は、量の確保だけに縛られることなく、野菜に対するこだわりを持って消費者ニーズに対応することであり、そのような企業を増やすことが重要である。その中で、川上と川下との情報共有をしっかりと行うことなど、付加価値をつけることが重要となってくる。
最後に、お忙しい中、今回の調査にご協力いただいた日本サブウェイ株式会社商品購買部長 飯田真弓氏、東京デリカフーズ株式会社執行役員 有井雅幸氏、農事組合法人耕人会代表理事石井勇氏に感謝申し上げます。
参考文献
1. 岩渕道生著「外食産業論」農林統計協会 1995年
2. 高橋正郎編著「フードシステム学の世界」農林統計協会 1997年
3. 鈴木安昭著「新・流通と商業」有斐閣 2010年
4. 農林水産省「平成19年食品産業活動実態調査」
5. (財)外食産業総合調査研究センター「外食産業国産食材利用推進事業調査」