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調査・報告(野菜情報 2014年11月号)


野菜シンポジウム

~野菜の美味しさのヒミツ~

野菜需給部需給推進課


 「野菜の日」(8月31日)にちなんで、8月29日にイイノカンファレンスセンター(東京都千代田区内幸町)において、野菜需給協議会(野菜に関係する生産者団体や流通団体、消費者団体などで構成)および農畜産業振興機構の主催で、「野菜シンポジウム~野菜の美味しさのヒミツ~」を開催した。

 当日は、定員の150名を超える方々に参加していただき、おいしい野菜を安定的に供給していくためのさまざまな取り組み内容や、生活習慣病の増加などが問題となる中で、野菜の持つ機能性(抗酸化力など)について、それぞれ講演が行われた。
また、全国農業協同組合連合会のご協力により、参加者の皆様に生鮮野菜、野菜ブックをお持ち帰りいただいた。

 講演の概要については、以下の通り(敬称省略)。

【東北地方太平洋沖地震の経験を踏まえて】

 宮城県の仙台市で農業を行っています。東北地方太平洋沖地震(3.11)で1キロ先まで津波が押し寄せてきましたが、高速道路が防波堤の代わりとなり本社は被害にあわずに残りました。このため震災時には、初動の2~3日間、農家が機動的に動くことができ、地域住民の方々に約3万食の炊き出しの実績を残すことができました。このように、かかりつけの病院があるように、かかりつけの農家が近くにあることで天変地異が起きた際にも機動的な支援などが可能となりました。

 3.11をきっかけに、いろいろな経験を踏まえ、パラダイムシフト(発想の転換)が生まれ、これまで取り組んできた農業に対する考え方が変わりました。

 野菜生産は、天候に左右されながら、全国で産地リレーをして供給していますが、この考え方を変えなければならないということでいろいろな取り組みをスタートさせました。
戦後、長く続いてきた産地リレーの文化をもう一歩踏み込んで、安定供給とかリスクを最小限に抑えて国民の皆さんにもっと野菜を食べてもらい、また食べることの楽しさも実感してもらい、医食同源であったり、さらに健康を高めるためには、生産者も考えていかなければなりません。

 また、原価計算やP/L、B/Sなどを管理し、再生産価格を考えることは当然ですが、お客様が何を求めているのかなど生産者がもっと踏み込んで考えなければなりません。このため、国で推進している食の6次産業化のプロ人材の育成のための認定・育成制度に協力しています。

【フル6次産業化による日本農業の新しい可能性】

 全体的に消費量が減少しており個食化が進み、必要な物、自分が食べたい物だけを食べる時代になっていることは、カット野菜を供給しているコンビニエンスストアからの注文内容からも把握することが出来ます。

 今後、野菜を安定的に食べてもらうためには、われわれがもっとおいしいもの、機能的な野菜を極めるなど、価値の創造は当たり前のことと考えています。量を価値に変えて供給することが重要となります。

 このような商品を安定的に供給するため、サプライ・チェーン(生産から消費者に届くまでのプロセス)を構築するほか、野菜ビジネスにフル6次産業化(1次産業から3次産業までの総合事業)を応用していく必要があります。例えば、舞台ファームで生産した野菜を舞台ファームの加工工場で商品化(カット野菜)し、消費者への直接販売やコンビニエンスストアへの卸売などを行います。

 また、自己完結型のサプライ・チェーンを構築することで、加工・販売・サービスの市場規模を少しでも獲得していけると考えています。

【安定的供給のための4つの複合的野菜生産】

 消費者の皆様に安定的に高品質な野菜を供給するため「露地栽培」「ハウス栽培」「水耕栽培」「密閉型植物栽培(植物工場)」の4つの野菜生産の仕組みを展開しています。

 水耕栽培や密閉型植物栽培により、害虫の侵入が低減・制限されるため、農薬使用の低減、無使用が可能となります。植物工場では無農薬で高品質なベビーリーフを安定的に供給する予定です。

 大規模養液栽培施設は、今後、新たに取り組む方々にも参考事例となるようトマト、葉物、いちごの3品目の栽培棟を設置し、高品質の野菜を栽培します。

 さらに、これまでのノウハウを活用し、農業者の課題解決を支援していく実践型農業コンサルティングを提供し、人材育成に取り組んでいます。

【被災地の1次産業者への支援】

 岩手・宮城・福島の被災3県の資金や販売ノウハウのない1次産業者を支援するため、舞台ファームグループの商流・物流などを活用し、地産地消の取り組みを拡大させていく仕組みをステップ①として構築していきます。この取り組みにより、飲食店、学校給食、医療・老人介護用給食などでの利用を拡大していきます。

 また、ステップ②として、ステップ①で構築した仕組みを首都圏に拡大し、被災3県の商品を安定的に供給できるような仕組み作りを強化していきます。

【主な質疑応答】

Q:家族経営のような農業と大規模な企業的な農業のいずれかが良いと考えているのか。

A:個人農家の方がリスクは少ない。反面、高齢化、後継者不足などにより生産者が減少してしまった。ある程度の経営を行うためには、個人農家では限界がある。このため周りの関係者とも協力して経営することが必要となっている。

 

 

【デリカフーズについて】

 デリカフーズグループは名古屋で起業し、日本で最初にカット野菜を始めた会社であり、現在、直営9拠点からカット野菜を約35%、ホール野菜を約65%、日本全国の大手外食企業を中心に野菜、食品を納品しています。

 デザイナーフーズは、デリカフーズグループの傘下企業であり、チカラのある野菜を食べることで日本の医療費を削減できるのではないか?との想いから野菜の研究を行っています。

 10年前に生鮮野菜などを取り扱う企業として、初めて上場企業となりました。

【平均寿命と健康寿命】

 16年前の医療費は約30兆円でした。このままいくと30年後には約85兆円になると予測されていました。日本の医療費は2014年では38兆4000億円です。

 1人当たりの医療費も1954年は2439円、1999年には24万2346円と11倍、2011年には30万円を超えました。1954年当時の平均寿命からすると現在は30年以上長くなり男女の平均が83歳です。しかし、健康で生活できる健康寿命は71歳です。平均11~12年寝込んでいると考えられます。われわれはできる限り寝込まなく健康で長生きを目指したいものです。

 生活環境によってわれわれの老化度が変わってきます。毎日アルコールを多く飲むか、たばこを習慣的に吸っているか、ストレスの感じ方、癒しがあるか、生活習慣的睡眠不足、日焼けをする機会が多いか、運動不足か、により体の酸化度合いが変わり、また毎日の食生活で遺伝子を日常的に正常に修復していけるかが変わってきます。

 加齢とともに肝臓の抗酸化力が低下し活性酸素が増える原因にもなります。また、生活習慣から中性脂肪が増えることにより過酸化脂質ができやすくなり、血管の動脈硬化にもつながってきます。細胞と血液、血管の老化が病気につながっていきます。老化を防ぐことができれば病気も防げると考えられます。

 栄養バランスの良い食事の元になる農産物、抗酸化成分を含んだ農産物、また農産物自体の機能性を生かした食生活の推進ができるよう研究をしてきました。

【活性酸素を消去するために】

 空気中には21%の酸素があり、私たちは毎日500リットルの酸素を使っています。呼吸で取り込んだ酸素の2%が体内で活性酸素になります。活性酸素は体に入ってくるウイルス・細菌と戦い感染症などを防いでくれています。

 しかし、紫外線やストレスなどにより、体内に過剰な活性酸素が増えてしまうことにより、腫瘍、糖尿病、白内障、シミ、しわ、免疫のダメージによるアトピー、血管へのダメージによる心筋梗塞・動脈硬化などの症状につながってしまいます。体内で発生する活性酸素は一重項酸素 ・過酸化水素、フリーラジカルはスーパーオキシドラジカル・ヒドロキシンラジカルです。これらの活性酸素種とフリーラジカルを野菜がどのくらい消去してくれるかを測定しています。

 野菜に含まれる第7の栄養素と呼ばれているフィトケミカルが存在します。フィトケミカルは、植物が害虫や紫外線などから自分の身を守るために、植物体の中で生産されます。フィトケミカルには、リコピン、アントシアニン、ルテイン、クロロフィル、プロビタミンA、クロロゲン酸等々があり、10年以上の研究の中で、それらは、体内で発生する活性酸素種を消してくれることが分かってきました。野菜の色はそのチカラのあらわれです。

【野菜の機能の必要性】

 販売店などで売られている野菜は、大きさ、重量、色、形などがそろっており、とても見た目の品質は高い。しかし、食料として考えたとき、私たちの体にどのように良いかで評価されることは今まではないと言っても過言ではないでしょう。

 野菜を中身で評価することは、これまでに実現できなかった考え方です。この評価基準が定着すれば生産現場での基準が変わり、栽培の目標が変わる。これを私たちは「野菜ルネッサンス」と呼んでいました。そして研究を重ねていきデリカフーズ独自のデリカスコアという野菜の評価基準を構築しました。チカラのある野菜を栽培される生産者をサポートし、食卓に健康を届けることが日本の医療費削減につながると考えています。

【機能性の高いメニューづくり】

 厚生労働省などに「350g/日の野菜を食べましょう」と言っていただきました。食べることができたら本当に良いと思います。しかし、350g/日を食べるには歯が丈夫で、胃がきちんと繊維を消化することが必要となるため、高齢者は350g/日を食べることが出来ません。350g/日を平均的に取るということは大切ですが、現状の平均である270g/日で同じ抗酸化力を得られたら良いのではないかと考え、量ではなく質(抗酸化力が高い野菜)で、野菜の中身を評価することを考えました。

 2万検体以上の野菜を研究してきた結果、「旬」と「おいしさ」と「野菜のチカラ」は密接に結びついていることが分かりました。季節にあった旬の野菜を供給する大切さを強く感じました。それまでは年間を通して同じ野菜を供給することが必要と考えていましたが、旬の時期に旬の野菜を摂取することの重要性をデータで裏づけることができました。また、蒸す、煮る、炒める、揚げるなどの調理方法によってどのように変わるか。野菜単体だけではなく、メニューとしての活性酸素消去能も分析研究しています。

 食事で老化からくる病気を防げるか、特にその中でも野菜の役割にエビデンスをつけることを目的としています。

 私たちの体は60兆個の細胞でできており、毎日代謝しています。正しい遺伝子を次の世代につないでいく、成長した体も毎日の食事で細胞の再生・修復が行われています。健康で長生き、そしてできればピンピンコロリと寝込まなく、一生を終われれば幸せかと思います。

【主な質疑応答】

Q:トマトを食べておいしい物、まずい物があるが機能性に関係があるのか。

A:データ的にもおいしい物の方が機能性に優れていることが分かっている。

Q:フィトケミカルの成分が高いものを生産するには栽培方法により差が出るのか。

A:栽培方法により差がありますが、生産性や耐病性を高めるために、原種から品種改良を重ねたものが多く流通しておりますので、そういったものよりも原種に近い方が高いものもあります。(例えば伝統野菜など)


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