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調査・報告(野菜情報 2014年10月号)


野菜産地における複合型地域ブランドの管理・運営に関する今日的展開~加賀野菜および金沢そだちの事例を中心に~

弘前大学農学生命科学部 准教授 石塚 哉史


【要約】

 本稿の目的は、今後の野菜産地による地域ブランド化への取り組みの進展を想定し、現在の地域ブランドに関連する制度である「地域団体商標制度」を積極的に利活用している野菜産地を事例に、地域ブランド管理の現状と課題について検討することである。
 具体的には、金沢市農産物ブランド協会および金沢市農協が中心となって取り組んでいる「加賀野菜」「金沢そだち」という複合型野菜ブランドの取り組み、とりわけブランド野菜における管理の現状と課題を中心に言及した。

 ブランド創設から、数年間で現在の加賀野菜のブランドを確立したことに加えて、セカンドブランドとして新たに金沢そだち認証制度を産み出すという、地場産野菜をフル活用する取り組みは、他の野菜産地にとって参考となる事象が数多く存在していると思われる。

1. はじめに

 周知の通り、政府は、地域農産物および食品の付加価値化推進に積極的な取り組みを示している。平成26年6月に参院本会議で可決および成立した、「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(以下、「地理的表示法」という。)は、その象徴的な出来事と指摘することができる。地理的表示法の成立により、政府が地域の特色ある農林水産物および食品について一定の品質基準を設けた上で、産地名を含んだ商品名を地理的表示として保護し、不正な表示を取り締まることが可能となるため、産地および関連機関の期待は大きいといえよう1)

 これらの事象を追い風として、野菜においても主力産品や特産野菜を有する産地であれば、地域ブランドの構築に向けた取り組みを示す産地が登場する可能性が高まっていくものと、容易に想定できるのではなかろうか。

 地理的表示法のポイントや関連する取り組みに関しては、今後の動向を見守っていくこととして、本稿の目的は、今後の野菜産地による地域ブランド化への取り組みの進展を想定し、現在の地域ブランドに関連する制度である地域団体商標制度2)を多品目に渡って積極的に利活用している野菜産地を事例に、地域ブランド管理の現状と課題について検討することに置かれる。なお、本稿では多品目の生産物をグルーピングし、単一の地域ブランドとして商標登録を行っているものを「複合型地域ブランド」と称し、言及していく3)

 ここで、本稿の事例を金沢市に設定した理由は、伝統的な在来野菜を中心とした加賀野菜という多品目を対象とした従来の地域ブランドに加え、22年から加賀野菜には含まれていない地域特産物(野菜と果樹のみ)を金沢そだち認証農産物という新たな地域ブランドを構築させている点を指摘することができる。

 すなわち、同一地域内に2つの複合型地域ブランド野菜の構築を実現させている国内でも希有な産地であると位置づけても過言ではない。現在のわが国では、多品目にわたる農産物の地域ブランド化のみでも、実現困難な取り組みであり、その産地は限定されている。

 こうした中で、金沢市内で取り組まれている多品目で、なおかつ2つの複合型地域ブランド野菜の共存を実現させた管理および運営体制は、他の野菜産地に対して有益な情報になるものと判断したためである。

2. 調査対象の概要4)

(1)金沢市農産物ブランド協会

 金沢市農産物ブランド協会(以下、「協会」という。)は、平成9年6月に金沢市民の農業に対する理解を深めるとともに、特産農産物の地産地消の推進、生産者や流通業者の連携および協力により加賀野菜をブランド野菜として認定し、積極的な消費宣伝に努めることを目的として設立された、金沢市が主管する団体である。構成メンバーは、金沢市内の農業団体、流通業者、生産者、消費者、学識経験者などである。

 設立当初の主要業務は、「加賀野菜のブランド力を向上させるための活動」(①ブランド認定、②ブランド認定シールの管理および配付、③商標の登録および管理)「消費拡大および宣伝活動」(ア 広報活動および情報発信、イ 加賀野菜取扱店の登録および管理、ウ 加賀野菜加工品認証および管理)の2点があげられる。

 調査時点での事務局員は2名であり、事務局は金沢市農林局農業振興課内に設置されている。運営経費に関しては、事務局職員人件費は全額金沢市が負担し、事業費(年間500万円程度)は、おおむね市が70%、農協、市場関係者などが30%を負担している。

(2)金沢市農業協同組合

 金沢市農業協同組合(以下、「金沢市農協」という。)は、昭和47年に金沢市内の27の農業協同組合が合併して設立された。組合員は、1万1143人であり、その内訳は正組合員6382人(57.3%)、准組合員4761人(42.7%)である(平成26年3月末の数値)5)

 管内は石川県中央部に位置する金沢市全域であり、丘陵地、平野部、砂丘地と多様な地形を有している。主力農産物は米と野菜であり、営農経済事業は、5つのアグリセンターへ業務を集約させて対応している。また、管内に農産物直売所として、「ほがらか村」を4店舗設置している。さらに、系列企業として農地・農作業の受託を主要業務とする、株式会社アグリフードサポートかなざわも存在している。

 なお、金沢市農協による加賀野菜の取り扱いに関しては、後述する15品目のうち大多数の13品目6)を取り扱っており、集出荷などの産地流通において、中核的な役割を果たしているといえよう。

3. 伝統野菜を利活用したブランド野菜の展開

~加賀野菜の事例~

(1)加賀野菜のブランド構築の展開過程

 加賀野菜とは、昭和20年以前から栽培され、現在も主として金沢市内で栽培されている野菜の呼称である(写真1~6)。協会設立時の平成9年に、「金時草」「ヘタ紫なす」「加賀太きゅうり」「せり」「加賀れんこん」「さつまいも」「たけのこ」「源助だいこん」「打木赤川甘栗かぼちゃ」「金沢一本ねぎ」の10品目をブランド認定し、金沢市中央卸売市場で統一販売を開始したことが契機となっている。

 

 

 現在では、「加賀つるまめ」「二塚からしな」「くわい」「赤ずいき」「金沢春菊」を加えた15品目が認定されている。なお、品目ごとに金沢市での栽培起源および特性については表1に示した。この表を見ると、市内で加賀野菜の栽培が開始された歴史は古く、時代区分では、江戸時代が8品目と最も多く、次いで昭和4品目、明治3品目となっている点が理解できる。栽培の起源を見ると、中国および国内の産地から伝来したものを定着させたことが理解できる。それ以外にも、加賀太きゅうり、源助だいこん、打木赤皮甘栗かぼちゃのように、自然交雑、選抜および育成している品目も見受けられる。

 加賀野菜のブランド構築が実現できたのは、協会発足が大きな役割を果たしていることは周知の事実となりつつあるものの、それ以前の金沢市内の取り組みも影響を与えていると思われる。以下で、協会発足以前の取り組みついて検討してみよう。金沢市は、江戸時代から明治、昭和前期にかけて、季節に応じた特産物が豊富に存在しており、地域特有の郷土料理、菓子、食器などの食文化が形成されていた。その後、昭和中期からの高度経済成長期以降において、農業の近代化に伴い生産農家が多収、効率化を推進し、F1種の種子を導入した野菜生産へシフトしたために、伝統野菜を生産する農家数が激減することとなった。こうした縮小傾向から、現代の体制への転換をみせた契機として、「金沢市地場農産物生産安定懇話会」(以下、「懇話会」という。)の存在が指摘できる。懇話会は、2年に金沢市が地場農産物の生産振興および消費拡大に取り組む目的で設置した。懇話会では、今後の地場農産物振興に取り組む上での提言を取りまとめることがミッションとして設定されており、最終的には、①新しい特産物の開発と伝統野菜の見直し、②多様な地場農産物システムづくり(地場農産物コーナーの設置、飲食店、ホテル、旅館などとの連携による地場農産物料理の啓発および開発、ブランド化の推進)、③地場農産物の消費拡大と食文化運動の推進(イベント、ポスターなどによる消費拡大、展示会の開催、消費者教育の推進)、④前述①~③の推進体制の整備(生産者、生産者団体、流通加工業者、消費者および行政で構成する推進体制の整備)という4点を提起した。

 7年からは、懇話会が「金沢市農産物販売促進検討委員会」(以下、「検討委員会」という。)へ名称変更を行い、地場農産物の振興が継続された。検討委員会では、具体的なブランド化への取り組みや推進体制のあり方の提言することがミッションとなっており、懇話会と比較するとブランド管理、運営体制づくりを重視した取り組みであると理解できる。検討委員会では、①金沢市の伝統野菜ブランド認定制度の創設(対象品目、認定基準および運営体制)、②「金沢伝統野菜」生産の継承(生産維持方法)について協議し、現在の協会発足を可能としたといえよう。

(2)加賀野菜のブランド管理・運営業務の特徴

 協会による加賀野菜の関連業務は、①商標登録および管理、②認定シールの管理および配付、③各種イベント開催および広報および情報発信活動、④加賀野菜取扱店の登録および管理(加賀野菜取扱店登録制度の運営)、⑤加賀野菜加工品の認証および管理(加賀野菜加工認証制度の運営)があげられる。

 まず、商標登録および管理を見ると、平成11年にブランドマーク(図形)の登録を行ったのを皮切りに、19年に「加賀野菜」「加賀れんこん」「加賀太きゅうり」(以上の文字)を地域団体商標へ登録した。さらに21年には、加賀野菜のイメージキャラクターであるベジタン7)(文字、図形)の商標登録も行った(写真7)。

 次に、認定シールの管理および配付については、前述で示した加賀野菜のうち、品質の優れた野菜(加賀野菜の品質は、秀、優、良の3段階に分類されており、その内の秀品のみ)に認定シールを貼付けするシステムとしている。なお、シールの種類は出荷箱用と品物用の2種類を配布している(写真8)。


 また、各種イベント開催および広報、情報発信活動に関しては、ポスター、パンフレットの作成および配付をはじめ、協会独自のWEBサイト、携帯レシピサイト、Facebookを開設しており、協会からの情報発信に積極的に取り組んでいる(写真9、10)。イベント開催状況を見ると、アグリフードEXPO、フードテック、外食産業フェアなどへの出展をはじめ、首都圏や東海および近畿地方の市場関係者、飲食店経営者、食関連雑誌編集者などを対象とした懇談会および産地見学会を定期的に開催しており、県外の消費地に重点を置いたPRを積極的に行っている。

 さらに、加賀野菜取扱店の登録および管理は、協会が販売店(青果店、量販店など)および料理店の登録および管理を行う制度として、21年に開始され、現在は、販売店65店、料理店86店が登録されている(表2、写真11)。

 最後に、加賀野菜加工品の認証および管理であるが、加賀野菜加工認証制度の概要として、加賀野菜取扱店登録制度と同じ21年から開始され、現在21企業41品目が基準をクリアして認証されている(表3)。この表を見ると、対象となる加工品には、加賀野菜を原材料として使用するとともに、法令遵守やブランド向上への寄与が義務づけられている(写真12、13)。

(3)加賀野菜の生産および流通の現状

 表4は、最近の加賀野菜における生産状況を示したものである。栽培面積および販売量は微減であり、平成25年の販売量は3990.9トンと、前年と比較すると約20%の減少を示している。しかし、減少の主な要因は、たけのこが裏作であった影響であり、生産基盤が減少したということでは必ずしもない。

 品目毎に見ると、生産農家数のシェアは、たけのこ(42.9%)、加賀れんこん(14.1%)さつまいも(12.5%)の上位3品目で約7割を占め、それ以外の品目(合計で30.5%)による生産規模は限定されている。とりわけ、ヘタ紫なす、打木赤皮甘栗かぼちゃ、赤ずいき、金沢春菊、せりおよび二塚からしなの6品目に関しては、生産農家が10戸以下しか確認できていない。その中でも、せりおよび二塚からしなについては事態が深刻であり、3戸以下と極めて限定された生産となっている。 しかしながら、加賀れんこん、金時草の2品目は、23年と比較すると5戸以上の増加が確認されるなど、栽培面積、販売量および生産者とも、前年よりも増加傾向を示している。源助だいこんおよびヘタ紫なすについても、加賀れんこんや金時草ほどではないものの、栽培面積、販売量を増加させているため、生産者の栽培に対するモチベーションの維持という関係機関の取り組みは、一定程度の効果を示しているものと理解できる。

 加賀野菜の流通は、市内の卸売市場を通じたケースが主流である。しかしながら、石川県内の仲卸および小売を経由して県外へ流通されるケースも、以前よりも多く見受けられる。現在では15品目のうち、7品目の県外出荷が活発に行われている。各品目別の県外流通比率を多い順から見ていくと、たけのこのが70%と最も高く、次いで源助だいこんが60%、さつまいもおよび金時草が50%、加賀れんこんおよび加賀太きゅうりが40%、打木赤皮甘栗かぼちゃが20%である。

4. 地域特産物を利活用した新規ブランド構築の取り組み-金沢そだちの事例-

(1)金沢そだち認証制度構築の展開過程

 金沢市は平成22年、加賀野菜に次ぐ新たなブランド「金沢そだち」を立ち上げ、協会がその認証機関となった。

 金沢そだちは、金沢市内の風土を活かして生産された優れた品質や豊富な生産量を持つ農産物を認証し、消費者の信頼を高めることで金沢市産農産物のブランド力の向上につなげ、生産振興と消費拡大を図ることを目的としている(写真14)。現在では、「すいか」「なし」「だいこん」の3品目が対象となっている(表5)。

 金沢そだちが創設された背景には、加賀野菜ブランドが一定程度の成功(販売単価の向上)を収めたことから、加賀野菜以外を栽培する生産農家が、市に対して新規ブランドを創設してほしいとの要望が高まってきたことがある。そこで、19年に「金沢ブランド農産物加工戦略および流通販売戦略」を策定され、専門家を交えた協議の結果、22年に金沢そだち認証制度要綱および要領が制定されるとともに、前述の3品目が対象品目と定められた。

(2)金沢そだちにおけるブランド管理・運営の今日的展開

 前述の3品目の生産者および団体で、以下の要件を満たした者は、認証機関である協会へ申請し、認証を受けるとブランドを活用することが可能となる。申請者は、①金沢市内に住所を有し、認証対象品目を一定量生産している個人または団体、②生産する農産物について、栽培指針を有し、実践していること、③生産する農産物について、出荷規格を有し、遵守していること、④生産する農産物について、栽培履歴が記帳および整理されていること、⑤生産する農産物についてGAP(農業生産工程管理)に取り組むよう努めること、⑥生産する農産物について、環境に配慮した安全安心な栽培方法に取り組むよう努めること、の6項目のすべての要件を満たす必要がある。

 表6は、要件のうち、①の内容を示したものである。この表を見ると、対象となるのは個人では認定農業者、団体では農協の生産部会、農業法人などである。また、品目ごとに差はあるが、個人、団体共に面積要件が課せられていた。だいこんを見ると、個人でおおむね1.0ヘクタール、団体ではおおむね3.0ヘクタールとなっている。

(3)金沢そだち生産・流通の現状

 表7は、金沢そだちの最大の認定出荷団体である、金沢市農協における対象品目の生産状況を示したものである。栽培面積および販売量は微増しており、平成25年の販売量は前年比1.4%増の1万651トンであった。品目別に見ると、すいかの生産規模が最も大きく、次いでだいこん、なしであることが読み取れる。だいこんにおいては、栽培面積、販売量および生産農家戸数とも前年より増加しており、今後も拡大が見込まれている。特に、販売量に関しては、10%以上の増加を示しており、ブランド化に伴う産地での生産意欲の高まりが、如実に表れているものと想定されよう。

 金沢そだちの流通先については、加賀野菜と比較すると県外流通が盛んであり、3品目すべてが県外にも一定程度流通している。各品目別の県外流通比率を高い順から見ていくと、すいかの80%が最も高く、次いでだいこん、なしが40%となっている。

5. おわりに

 本稿では、金沢市農産物ブランド協会および金沢市農協が取り組んでいる加賀野菜、金沢そだちという複合型野菜ブランドの取り組み、とりわけブランド野菜における管理の現状と課題について検討してきた。最後にまとめとして、前節までに明らかとなった点を整理するとともに、残された課題を示すこととしたい。

 加賀野菜と金沢そだちという複数のブランドが確立した要因として、加賀という歴史ある高い知名度に加えて、特有の気候風土により、多種多様な作物の栽培が可能である点があげられる。また、明治から昭和初期にかけて、市内の篤農家を中心に他地域から伝来した品種を系統選抜や自然交雑により、金沢市のみでしか栽培されない独自品種に転換させてきたことも、ブランド確立に影響していよう。現在においても、金沢市農業センターが伝統野菜をベースとした独自品種の生産技術面をフォローしている。さらに、首都圏への情報発信を中心に県外でのPR活動を積極的に行ったことにより、関東および関西を中心に知名度が上昇し、県外出荷も可能となっていた。

 次に、加賀野菜の成功を踏まえて新設された金沢そだちであるが、創設後間もないことから、前述の加賀野菜と同様の分析は行えないものの、現時点では、加賀野菜以外の地場産農産物の中で品質が優れ、一定量の生産量が確保できる品目のセカンドブランドとして、成功したと判断できよう。金沢そだちは、加賀野菜の注目度の高さの恩恵を受ける部分が多いものの、県外出荷が一定量実現していることに鑑みると、消費地において、他産地との「垂直的差別化」や「水平的差別化」8)により、その販路が確保されつつある段階に到達したと考えられよう。

 一方、残された課題について、まず加賀野菜については、確立したブランドの維持および向上を目指す段階であるのだが、品目ごとに生産ロットに差異があり、少量品目の数量確保が望まれる。

 金沢そだちに関しては、現状では加賀野菜と連携を図って情報発信をしているため、金沢そだちというブランドの知名度を底上げするためのPR活動が必要である。さらに、加賀野菜と同様に、複合型地域ブランドを前面にPRしていることに鑑みると、現状の3品目では充分とはいえず、さらなる品目数の拡大が望まれる。このことは、認証される生産者数とも関わるため、協会や金沢市農協のみならず、行政や加工、流通業者との連携がこれまで以上に必要になることが容易に想定されよう。

 最後に今回の事例から導き出された事項として、野菜において二つの複合型地域ブランドを構築する上で、ファーストブランドの存在がセカンドブランドの成否を担っており、重要なポイントであることを指摘しよう。二つの複合型地域ブランド野菜の構築を目指す産地にとって、ファーストブランドに該当する地域ブランドが産地、消費地(または生産者、流通業者および消費者)を問わず確固たる認知度を有していることが、セカンドブランドの創出を目指す産地の前提条件になるといえよう。つまり、ファーストブランドのブランドエクイティ(ロイヤリティ、ブランド認知、知覚品質、ブランド連想など)の構築は、セカンドブランドを創出する上で、必要不可欠な事象であることが示唆されている。このことは、金沢そだちのブランドを構築する上で、既にブランド野菜として認知されていた加賀野菜の存在が後押しとなっていたことからも容易に理解できよう。

 それに加えて、担い手の確保および育成も克服すべき課題としてあげられる。複合型地域ブランド野菜に含まれている品目は、地域では生産量が限定されている伝統野菜である点、栽培に係る労働負担が他の野菜と比較すると大きい点などの要因から、生産者の減少傾向が見受けられる。今回の事例である加賀野菜では、一部の品目において生産者の減少傾向が確認できる。複合型地域ブランド野菜は、ブランドに含まれている全ての品目を一括してプロモーションしていることもあり、品目間の格差が生じることは望ましくない状況と考えられる。こうした課題への打開策として、金沢市は平成18年から金沢農業大学校を開設および運営を行っている。前述の大学校の開校に伴い、卒業生を対象とした市などによる就農者支援制度も新設されており、産地の持続的発展を目指す精力的な取り組みとして評価でき、今後の展開が期待されよう。

 以上のように、ブランド創設から数年間で現在の加賀野菜のブランドを確立し、それに加えて、セカンドブランドとして新たに金沢そだち認証制度を産みだした金沢市および金沢市農協の取り組みには、他の野菜産地にとって参考となる事象が数多く存在しており、筆者も今後の動向に注目していきたいと考えている。


参考資料

(1)関根佳恵「野菜の地理的表示をめぐる動向」『野菜情報』2012年6月号(第99号)、2~3頁、2012年

(2)藤島廣二・中島寛爾編『実践農産物地域ブランド化戦略』筑波書房、2009年

(3)高嶋克義・桑原秀史『現代マーケティング論』有斐閣アルマ、2008年

(4)丸山雅祥『経営の経済学』有斐閣、2011年

1)野菜の地理的表示制度の導入等に関しては、関根を参照。

2)地域団体商標制度と農産物地域ブランドに関しては、藤島他を参照。

3)地域団体商標の認証を受けている複合型地域ブランド野菜は、「京野菜」(京都府)「加賀野菜」(石川県)「西条の七草」(愛媛県)の3事例のみである(平成26年9月時点)。また、北海道帯広市の「大正ながいも」「大正だいこん」「大正メークイン」、同根室市の「めむろごぼう」「めむろメークイン」のような地名は同様でも品目毎に商標登録を行っている場合は複合型地域ブランドには該当しない。

4)本稿の作成にあたり、筆者は平成26年8月に金沢市農産物ブランド協会、金沢市農業協同組合園芸経済部園芸販売課において訪問面接調査を実施した。ご多用にも関わらずご協力いただいた、上述の関係職員の皆様へこの場を借りて謝意を申し上げる。

5)『平成25年度JA金沢市ディスクロージャー誌』参照。

6)加賀野菜の集出荷を行っている農協は、金沢市農協および金沢中央農業協同組合(以下、「金沢中央農協」という。)の2つである。金沢中央農協は、金沢春菊、二塚からしなの2品目のみを取り扱っており、それ以外の品目は金沢市農協が主管することとなっている。この点からも金沢市農協が加賀野菜の生産および流通で重要な役割を果たしている生産者団体であることが理解できる。

7)平成13年の加賀野菜イメージキャラクター公募の際、全国から応募された作品の中から選出した作品である。

8)「垂直的差別化」とは、消費者にとって製品の優劣が合意できている製品属性に基づく、製品差別化戦略を指している。同様に「水平的差別化」は、消費者ごとに理想点が異なる製品特性に関して差別化を行うことである。詳細は、高嶋他および丸山を参照。


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