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調査・報告(野菜情報 2014年9月号)


群馬県における雪害からの復旧の取り組みについて

群馬県農政部蚕糸園芸課


1 はじめに

  群馬県では、平成26年2月14日から15日にかけて、南岸低気圧の接近、通過により雪が降り続き、前橋市において73センチメートルの積雪を観測するなど、観測統計開始以来経験したことのない大雪となった(図1)。これによる県内の人的被害は死者8名、負傷者126名、全壊を含む住家被害3673棟、同非住家617棟となった。被害額は、農業被害額が最も多く236億3900万円、次いで中小企業被害額3564万円、林業被害額1014万円となった。また、県内は中山間地が多く、積雪による生活道路などのインフラ機能が停止したことにより孤立集落が発生したため、災害救助法の適用を受けるなど、甚大な被害を受けた。

 県では、一日も早い被災農家の経営再建を実現し、被災前のような元気な本県農業の復活を目的に、支援対策に取り組んでいる。

2 被害状況

 本県は、気象災害が比較的少なく、災害に対する備えが十分でなかったこともあり、県内全域にわたり、かつてない規模でハウスの倒壊が発生した(写真1、2)。

 農作物被害は、野菜および花き121.2億円、家畜2.8億円、果樹類1.4億円で、施設野菜を中心に大きな被害となった。また、農業用施設では、被害額は104億円で、その7割以上を農業用ハウスが占めており、特にパイプハウスの被害は甚大で、倒壊したハウス面積の74%を占めていた(表1)。

3 復旧にかかる事業費の積算

 雪害からの復旧に向け、県内全市町村は、平成26年3月31日から5月16日にかけて、復旧にかかる事業費の調査を行った。これを県が集計した結果、被災した経営体(農業者)は約7600経営体、復旧事業費は413億円となった。

4 復旧に向けての課題

 4月1日、国庫事業である「被災農業者向け経営体育成支援事業(注)」が施行されて以降、産地は再建に向けて本格的に動き出した。しかし、かつてない復旧規模であることから、再建に向けて以下のような問題が浮上している。

注:平成25年度の大雪による農業被害により被災した農業者に対し、農産物の生産に必要な施設の復旧および施設の撤去などを緊急的に支援する事業。事業実施主体は市町村で、予算は26年度および25年度補正予算との合計52億2900万円の内数。国庫負担率は1/2。

 

(1)見積書の徴取難

 業者への注文が殺到したことや、補助事業上、複数業者の見積りが必要となることから、業者の能力を超えた数の見積もり依頼があり、見積書が取れないなどの問題が発生した。

(2)資材不足

 現在、パイプハウス資材については、供給量に一定の目途がつきつつあるが、パイプと部材の供給バランスのズレなどにより、資材不足の状況は解消されていない。また、鉄骨補強パイプハウスについても、骨材加工に手間がかかることから、今後の供給不足が懸念されている。

(3)施工業者の人手不足

 鉄骨補強パイプハウスなどの施工には、特殊な技術を要することから、農家による自力施工は難しい。このため、施工業者の施工能力が復旧面積に直結しており、需要が急増しても対応ができていない。

(4)その他

 被災地に大量に搬送された、パイプ資材の置き場の確保やほ場への配送、代金決済など解決しなくてはならない問題が山積している。

5 課題解決に向けた取り組み

 現在、復旧の妨げとなっているさまざまな課題を解決するため、県、JA中央会、JA全農ぐんまなどでプロジェクトチームを組織し、復旧の加速化に向けた方策について検討を行っている。プロジェクトチームでは、以下の取り組みを行っている。

(1)補助事業による支援

 県では、被災農業者向け経営体育成支援事業として約405億円、「大雪災害緊急対策資金の融資枠拡大に伴う利子補給」として、約1億5000万円(融資枠274億円)を計上し、対応している(表2)。

 一方、施工作業員不足対策として、パイプハウスの自力施工を推進するため、産地での「ハウス建て方講習会」への支援や、地中にパイプを差し込むための穴あけドリルなどの導入助成などを開始した。

(2)代替作物の作付推進

 群馬県営農総合支援センターを中心に、ハウス再建までの一時的な補完作物の導入について、推進を図っている。露地なすや露地にらを中心に作付け拡大が見られ、普及組織やJAによる技術指導、JA全農ぐんまによる販売対策強化など、関係機関が一体となり、総合的なバックアップを行っている。

(3)建設業界との連携

 ハウス再建に当たっては、施工業者の作業員不足が、復旧を遅らせる最大の要因となっていることから、県内建設業協会などに協力要請を行った。

(4)雪害に強い産地作り

 被災後の現地調査を基に「雪害に対する農業用ハウス強化マニュアル」を作成し、県ホームページに掲載するとともに、普及組織を中心に、施設園芸農家への情報提供を行っている。

6 「野菜王国ぐんま」の復興

 群馬県では、平成20年度より「野菜王国ぐんま」をスローガンに県単事業、国庫事業を有効活用し、野菜の生産振興を図ってきた。近年、異常気象の傾向が顕著となっているため、今回の被害からの復旧を急ぎ、より災害に強い生産基盤の整備に取り組み、さらに強い群馬の野菜産地を再構築していきたいと考えている(写真3)。



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