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調査・報告(野菜情報 2014年9月号)


「地産地消」と「障害者雇用」~株式会社平和堂特例子会社・サニーリーフの事例より~

ジャーナリスト 古谷 千絵


【要約】

 滋賀県を中心に、2府7県でスーパーマーケットを展開する株式会社平和堂(以下、「平和堂」という。)が設立した、農業生産法人 株式会社サニーリーフ(以下、「サニーリーフ」という。)は、広さ約2700平方メートル(約818坪)のハウスで、自然光利用型水耕栽培により、リーフレタスなど6種類の野菜を栽培している。農作業に従事するのは、12人の障害者である。

 ここで生産された野菜は、すべて平和堂が仕入れ、滋賀県内の店舗で販売される。関連会社を設立しての農業参入、生産物の自社販売、地域で生活する障害者の雇用と、地域との連携を最大限に強化した、いわば「究極の地産地消」とも言えるサニーリーフの事業の詳細を報告するとともに、農業分野での障害者の雇用問題についても考察する。

1 はじめに

 平和堂は、昭和32年に滋賀県彦根市で創業された、食料品、衣料品、日用雑貨品などを扱う総合小売業である。平成26年2月現在、滋賀県を中心とした京阪神、北陸、東海の2府7県で139店舗を展開し、3200名近くの正社員と、約7700名(8時間勤務を1人と換算)のパート社員を雇用し、3185億3100万円の売上高(26年2月期)を誇る。

 その平和堂は、24年3月に49%を出資して、彦根市にサニーリーフを設立した。サニーリーフは同年5月に、彦根市より認定農業者と認定され、農業生産法人となった。翌25年1月に栽培施設が竣工し、社員の入社を受けて、同年5月より生産物のフル出荷が開始された。25年度の売上は約3500万円であった。26年度の目標としては、年間約40トン(50万袋)の生産を目指している。生産物はすべて平和堂へ出荷され、地場産野菜として滋賀県内の店舗で販売される。従業員は、17名(役員2名、社員15名、うち障害者は12名)である。

 サニーリーフの代表取締役社長である山本太氏は、平和堂の元社員であり、店長や青果部門のチーフ・スーパーバイザーを務めた経歴を持つ。山本氏に同社の設立のきっかけを尋ねると、そこには平和堂の代表取締役社長である夏原平和氏の強い意向があったという。それを理解するためには、同社の経営方針について知る必要がある。

 「地域社会や環境との共生をはかる会社の実現」を経営の基本方針のひとつに掲げる平和堂では、それを実践する方法のひとつとして、さまざまなCSR(企業の社会的責任)活動が行われている。実際に店舗の青果売り場に子どもたちを呼んで「お買い物ゲーム」を行う食育体験ツアー(写真1)、生産者の協力で実施する収穫体験、料理教室などの食育推進活動、また食品残さの利用による食品リサイクルループの構築など、環境に配慮した取り組みなども実施している。平和堂にとってサニーリーフの設立は、従来からの「地産地消」の取り組みに加え、農業分野への進出と地域の障害者雇用の拡大を合わせて実現したもので、地域との連携の強化を具体化した活動である。

2 自動制御施設での水耕栽培

 サニーリーフには、事務所の他に、192平方メートルの作業所と2686平方メートルのハウスがある。栽培には、水耕栽培システム「ハイポニカ」が採用されている(写真2)。

 ハウスの中に入って目を引くのは、ハウス内の生育環境を一定に保つ自動制御システムである。窓の開閉はもちろんのこと、天井近くにある循環扇にはミスト装置が取り付けられており、時折ミストが噴出して、冷却機能を果たす。また、夏場の遮光カーテンと冬場の保温カーテンの開閉は、日照量の変化によってきめ細かく調節される。取材に訪れたのは、梅雨の合間の蒸し暑い日であったが、雲間から太陽が顔を出すとすぐさま遮光カーテンが閉まり始めて、ミストが降ってきた。水耕栽培に使用される液肥は、季節に応じて一定の温度に調節され、循環している。

 作業所の脇にある育苗室では、細ねぎ、リーフレタス、サニーレタス、フリルレタス、サラダ水菜、セルリーがスポンジの上で育てられている(写真3、4)。室温が23度に設定されている育苗室内での生育期間は種類によって異なり、例えば、セルリーであれば約2週間である。

 十分に成長した苗は、ハウス内の栽培槽の上に設置されたパネルに定植される。その後はハウス内で生育を待つことになるが、ここでは季節によって日照量が変動するため、例えば、リーフレタスであれば、25日から40日と生育期間が変動する。レタスでは年間10作、水菜では12作、細ねぎは6作栽培できるという。

 山本氏は、この施設を野菜工場ではないと強調する。「野菜とは本来、太陽の光を使って育てるもの。社名のサニーリーフにも、『太陽の光をいっぱい浴びた葉っぱ』という意味を込めている」という。

 収穫された野菜は、作業所で根とスポンジの部分を取り除き、計量、袋詰めを経て、出荷される(写真5、6)。この一連の作業は、従業員である12名の障害者によって行われている。

3 作業を円滑に進めるための工夫

 多くの障害者が働くサニーリーフでは、野菜の生育環境を最適に維持するために費やされる時間と労力をできるだけ省き、従業員が効率的に動けるようにするとともに、監督者が労務管理に専念できる体制を作ることが重要だと山本氏は指摘する。ハウスで自動制御システムを利用するのはそのためである。同時に、「ビジネスである以上、いかに回転率を上げ、収量を増加させるか、ここに主眼を置かなければいけない」と山本氏は言う。可能な限り施設を自動化することにより、作業効率を上げることが追求される。

 また山本氏は、システム化された連続性のある作業の場では、従業員の間に何か通常とは異なる動きがあれば、発見しやすいという利点も指摘する。管理者が作業状況を確認して、できるだけ早くトラブル回避ができるように、作業所のレイアウト、ハウス内での作業スペースの位置、動線をシンプルかつ少なくする、などの工夫がなされている。

 その一方で、「先入観を持たずに、目の前でやってみせれば、彼らはできる」と山本氏は言う。そのための工夫を、社内の現場では随所で確認することができる。

 例えば、作業所やハウス内には、ところどころに作業上のポイントを書いた張り紙(写真7)があり、文字にはルビが振られている。また、収穫する際のコンテナの運搬についても、何を、どこから、いくつを、何人で運ぶのかが、分かりやすく記されている。

 細かな工夫は他にも見られる。例えば、収穫の際、同じ品種の野菜であっても、収穫できる野菜のパネルのすぐ隣に、まだ収穫時期ではない野菜のパネルが設置されていることがある。その境界は青いテープで印がされているのだが、作業に熱中してそれを見落とさないように、自分の名前を書いた白い札付きの金具を、さらに青いテープの近くに設置するようにしている。その白い札は、監督者からも目視できるように工夫されている(写真8)。

 「問題になってしまいそうな現象がでてきたら、それを回避するように、工夫している。問題が起きたとしても、原因を突き止めることや、根本的な解決を目指すことはしない。従業員それぞれの特性を理解し、脱線してしまうことがあったとしても、早い時点で軌道修正し、彼らの潜在能力を生かして、できることをしていくことが大切だ」と、山本氏は言う。そして、少しでも快適に作業できるように、「労働環境はできるだけ高い水準で保ち、スマートに仕事をしていきたい」と考えているという(写真9)。

4 障害者雇用に対する意識

 従業員に対する指導は、作業に関してだけではない。山本氏は、時にはだらしなくなりがちな従業員の服装や携帯電話の使い方など、直接仕事に関わりない部分についても、彼らを指導する。「社会通念上、おかしいということについても教えていくのは、会社としての義務だと思う。彼らが社会の中で生きていくためには、必要なこと。そういうことを、仕事の中で学んでもらいたい」と、山本氏は言う。

 サニーリーフでの仕事について、当の従業員はどのように感じているのだろうか。実際、店舗で販売されている商品を知り合いが購入したことに対して、「自分が作ったものを買ってもらって嬉しかった」と、山本氏に伝えてきた従業員がいたという。

 雇用条件(図1)を含めたこうした雇用の現状について、一部の福祉関係者からは、「厳しい」との声もあるという。しかし、山本氏は、次のように言う。「これはビジネス。そして、彼らが地域で生きていくための力をつけることも、私の努めだ」

5 農業分野での障害者雇用

 ここで、農業分野での障害者雇用の状況について、概観しておきたい。

 担い手不足に悩む農業の生産現場では、補助的な労働力として障害者に期待する動きが、以前から見られた。障害者の雇用促進という形で社会貢献できる、とする農業者側の意向と、農作業が障害者の特性に応じて柔軟に対応できる点や、リハビリ効果などに期待する福祉関係者の意向が一致したものと考えられている。障害者施設と農業者の間で作業委託契約が結ばれるなどの例は、政府が進める「医福食農連携」の取り組みの中で、今後増加することが予想される。

 また、農業分野に特化するものではないが、障害者雇用の増加につながるもうひとつの要因として、「特例子会社」がある。

 障害者の職業安定を目的に制定された「障害者雇用促進法」では、民間企業の事業主に対し、障害者雇用率1.8%(平成25年4月以降は2.0%)に相当する人数の身体障害者および知的障害者の雇用を義務付けている。現在、これに基づいた民間企業での雇用障害者数は 40万8947.5人となっているが、 実雇用率は1.76%にとどまっている。また、法定雇用率を達成した企業は、 42.7%しかないというのが現状である(注1)。

 このような現状を改善するために利用できるのが、特例子会社という制度である。これは、事業主が設立した子会社が一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている障害者を、親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できるものである。大企業では、親会社が特例子会社を持っていれば、関係する子会社も含めた企業グループ全体での実雇用率算定が可能とされていることから、増加傾向にある。

 25年6月1日現在で、特例子会社は380社ある(注1)。そのうち、農業生産を事業とする会社は、農林水産省の資料(注2)によると、少なくとも22社が確認されているとあるが、厚生労働省の担当者によると、産業分類上の「農業」に該当するのは4社にとどまるという。サニーリーフは、そのひとつである。

6 売り先確保の強み

 農業分野での障害者の雇用については、さまざまな課題が指摘されているが、中でも販路の確保とその延長線上にある事業の黒字化は、事業を継続していく上で重要である。

 取材の中で見る限りでは、サニーリーフの従業員の仕事ぶりは非常に丁寧であり、私語のない静かな環境で作業が続いていた。通常であれば屋外に設置されることが多い機材の洗浄のための水場も、屋内に設置されており、水場担当の係だけが屋外での作業を強いられるということもない。先に述べたように、これには、監督者の目を行き届かせるという意味合いもあるのだが、労働環境については相応の配慮がなされている。

 また、販路の確保が重要課題であると指摘される中で、サニーリーフは、生産物を全量平和堂へ出荷するということで、その課題を軽々とクリアする。それだけではなく、むしろそれが最大の強みとなっている。サニーリーフ設立による農業分野への進出は、平和堂にとっては、地産地消を積極的に進める中での究極の地産地消であり、サニーリーフにとっては、「売り先の確保」という最大の強みをもたらす相互システムである。「通常であれば、事業化はとても厳しい。しかし出口(出荷先)が確約されていることは、われわれにとっては何よりも重要なことだ」と、山本氏は言う。

7 今後の課題

 サニーリーフの生産活動は2年目に入った。この1年間で明らかになった課題は、生産力の安定化である。

 昨年度は、平和堂への1日の納品が1000袋のところ、1200袋と多くなってしまうことや、逆に800袋に減ってしまうということがあった。出荷できる量が不安定であり、その度に「いわば、わがままを許してもらっているという状態」だったと、山本氏は振り返る。

 また、山本氏は品質についても、「お客様が十分に納得してくれるレベルかどうか、と言えば、まだまだという思いがある。これからもさらに努力していかなければいけない」と言う。

 異業種からの農業分野への参入のケースでは、当然のことながら、栽培技術やノウハウの獲得がひとつの大きな課題となる。社内での独自のノウハウの蓄積と合わせ、場合によっては、外部からの人材の確保について検討が必要になる可能性もある。

 また、サニーリーフの強みを最大限に活用するために、今後は、平和堂の青果物の仕入れ担当部署との、より深い連携が必要になってくる。

8 コーナー化の実現に向けて

 サニーリーフの商品を仕入れ、販売する平和堂の担当部署では、サニーリーフの事業は次のように評価されている。「初年度はなかなかうまくいかなかった部分もあった。徐々に生産の精度は上がってきてはいるが、2年目からの修正が必要だ」。こうした認識は、平和堂とサニーリーフの両者で共有されている。

 また、サニ-リーフの今後の事業については、平和堂側には次のような意見がある。「販売する方としては、こういう野菜を作って欲しいという希望もある。初年度の課題を共有しながら、生産性はもちろん大切だが、お客様需要の変化に対応した商品へもチャレンジして欲しい」

 平和堂が具体的に期待しているのは、ホワイトセルリー、スイスチャード、ルッコラなどの、「洋つま」と呼ばれている人気の洋野菜である。これらの野菜は市場での流通がまだ少なく、手に入りにくい。こうした独自性のある商品を、関連会社の農場から安定的に入荷できれば、平和堂にとってのメリットは大きい。「将来的には、売り場に『サニーリーフコーナー』を持ち、お客様に料理の提案までできるようにしたい」と、担当者は期待を寄せる。

 地域とのつながりを重視し、地産地消に積極的に取り組む平和堂は、139店舗のうち91店舗で地場野菜専用の販売コーナー(写真10)を設置し、青果部門の野菜の総仕入額に占める地場野菜の割合は、15.7%となっている。また、地元生産者が個人や団体で直接店舗に野菜を持ち込む仕入れシステム(直納)を採用している店舗も72ある(数字はすべて平成25年度実績)。通常の仕入れルート以外に、このような仕入れが増加する傾向は今後も加速すると、担当者は予想している。

9 最後に

 今回の報告は、平和堂の特例子会社であるサニーリーフの事業内容と、平和堂との関係についてのものである。障害者雇用の場としての同社の事業について、福祉の立場からはどのような分析がなされるのかについては、調査を実施しておらず、これについては、専門家の助けが必要である。

 平和堂の担当者は、取材の中で、地産地消や生産者との直接取引の増加が加速している状況について、「本来のあるべき姿に近づいている」と、表現した。そのような認識を持つ総合小売業者が、関連企業として農業生産法人を設立し、商品を仕入れ、販売するという新たな事業の展開を図るに至った背景には、地域との絆を大切する地元密着型の企業であるという自負が、大きく影響していると言える。

 これまで見てきたように、サニーリーフの今後の課題として挙げられるのは、まずは企業としての生産の安定化である。しかし、同時に忘れてはならないのは、地域に住む障害者の自立に向けた、雇用の場としての社会的責任である。

 少子高齢化が進行し、地域住民の生活の場を保証するための「地域力」の重要性が認識されている昨今、サニーリーフと平和堂の取り組みとその関係は、地域力の創造について考える上でも、参考になる多くのファクターを提示していると言える。


注1:平成25年11月19日付 厚生労働省 平成25年 障害者雇用状況の集計結果
注2:「福祉分野に農作業を~支援制度などのご案内~Ver. 2」パンフレット
   (農林水産省HP)


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