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調査・報告(野菜情報 2014年8月号)


地場産物を使った学校給食の現状と事例

女子栄養大学短期大学部 教授 金田 雅代


【要約】

 平成23年3月に制定された「食育推進基本計画」では、学校給食での地場産物の使用割合を27年度までに30%以上にするとしている。栄養教諭等関係者の努力もあって年々微増してきており、24年度25.1%となったが、目標値30%の壁を乗り越えるには程遠い。それは、生産地(農林水産省)、調理場(文部科学省)には、それぞれが抱える問題点があり、給食関係者だけの取り組みでは容易に解決できないからである。
 そんな中、静岡県袋井市は、25年9月に中部学校給食センターを新設したことを契機に、本格的に地場産物の活用促進を開始したことにより、地産地消率(重量ベース)を倍増するなどの成果を上げている。また、富山県砺波市、秋田県五城目町では、夏野菜を年間通して使用できるように、乾燥や冷凍で長期保存している。いずれも、市町ぐるみの取り組みとしているからできることである。先進地の取り組みとせずに、全国的な取り組みとなるよう、国を挙げての施策が講じられることを期待したい。

1 地場産物を使った食育の推進

  平成17年の食育基本法制定以来、食育は、社会全体で取り組む国民運動として推進されている。文部科学省では、食育推進のための体制整備として、栄養教諭制度の創設や、学習指導要領総則に「学校における食育の推進」を明記し、学校給食法の目的を、食育推進の観点から大改正したりするなど、食育推進のための法的整備をしてきた。また、学校給食法に、食育推進には地場産物の活用が不可欠であることが明記されている。

  学校給食法第2条(学校給食の目標)では、改正前4つであった目標が、表1のように7つと、より具体的になり、地場産物に関連する目標は4から7である。第10条では、栄養教諭の職務内容を示し、「学校給食を活用した食に関する実践的な指導を行う」と、栄養教諭の特質を生かした指導を強調した。さらに、「地域の産物を学校給食に活用することその他の創意工夫を地域の実情に応じて行い、当該地域の食文化、食に係る産業又は自然環境の恵沢に対する児童又は生徒の理解の増進を図るよう努めるものとする」とするなど、指導に当たっての留意点を示した。地場産物は、食に関する指導に不可欠なものであることを強調している。

2 地場産物を使用する割合30%の壁

  内閣府に設置された食育推進会議で、平成23年3月に制定された「第2次食育推進基本計画」の中では、学校給食での地場産物の使用割合(食材ベース)を、27年度までに30%以上にするとしている。栄養教諭等の努力もあって、増加傾向で推移しているが、ここ数年横ばい状態が続いている。24年度の全国平均は25.1%である(表2)。

  文部科学省の行う使用状況の調査は、毎年6月と11月の第2週各5日間の学校給食の献立に使用した食品のうち、当該都道府県で生産、収穫、水揚げされた食材の使用率をまとめたものである。都道府県別に見れば、消費地である東京都、大阪府などは数値が低く、生産地である北海道をはじめとする道県が高いことは明らかで、全国平均を上げるには、農林水産省が農業政策の検討をするなど、国を挙げた施策が重要なのである。

(1)生産地、調理場が抱える問題

  以下は、目標達成が難しい地域の栄養教諭などの声である。

ア、生産地の問題 

・使用したくても地場産物が少なかったり、市場優先で学校給食まで回ってこない。
・生産地が少ない。
・作付面積が少なく、生産量に限りがある。
・稲作中心地では、稲作中は野菜栽培ができない。
・農地はあっても、専業農家の減少や農業従事者の高齢化で耕作放棄地が増加している。

イ、調理場の問題 

・虫など異物が多く、洗浄などに時間がかかり、時間内調理が困難。
・天候に左右されやすく、確実に使用できる保証がない。
・予定使用量だけ、まとめた発注ができない。
・品質、規格が不揃いで、調理時間内に調理できない。
・魚介類は、切り身にするなど加工されないと使用できない。
・地場産物の価格は高い傾向にあり、限られた給食費の中で使用し続けることは厳しい。

ウ、生産者、使用者両方の問題点から言えること

  安定的、継続的に使用できるようにするには、何時までも調理場や栄養教諭等任せにせず、設置者である市町村が中心となって早急に組織作りをすることである。さらに、生産者と調理場をつなぐコーディネーター役を作れば、生産者側、調理場側の問題点の調整をすることもできる。JAの役割が重要である。

(2)献立、料理内容で見る県内産食材使用割合

 表3は、静岡県袋井市における6月分の地場産物使用割合である。相対的に、主食がパンの日は使用割合が低く、ごはんの日は使用割合が高くなる傾向がある。
6月の使用割合の一番高い59.1%の日は、地場産物を中心に食材を組み合わせた『どまんなか給食の日』である。国が調査をする6月と11月に、地場産物の種類がたくさんある地域では使用割合が上がることが、表4の使用食材を見ると理解できる。6月と11月の調査時期に、旬の地場産物がなければ活用率は上げようがないのである。

(▲クリックすると拡大画像が開きます)

3 静岡県袋井市立中部学校給食センターの事例

 静岡県袋井市は、地場産物活用を推進するために、平成25年9月に中部学校給食センターを新設し、以下のような設備整備を図った。

①土付き根菜類、葉茎菜類などを処理する前処理室

 多少の不揃い、土付き根菜類や葉茎菜類、虫などの異物の問題があっても受け入れられるよう、野菜前処理室を整備した(写真1)。検収時に異物混入の可能性があると判断したときは、前処理室で確認しながら洗浄し、下処理室(野菜洗浄室)に運ぶことができる。

②果実・生野菜洗浄コーナーと上処理室

 生野菜、果実類専用洗浄ラインには、微酸性電解水製造装置を設置し、千切りキャベツ、レタスやトマトなどの生野菜や特産物のマスクメロンなどの果物類も提供

③手作り準備室と加工室(魚肉下処理室)

 地場産物の根菜類や葉茎菜類、桜エビやわかめ、茶、手作り味噌などを使用し、コロッケ、ハンバーグ、かき揚げ、フライ、てんぷら、グラタン、卵焼きなどを調理(写真2)

④炊飯室

 袋井産米を使用し、白飯、各種炊き込みご飯を炊飯

 また、納入体制の整備として、表5のような構成メンバーで「袋井市学校給食地産地消連絡会」(以下、「連絡会」という。)を設置し、教育委員会教育企画課内に「おいしい給食推進室」を新設して、連絡会の庶務を担当することにした。本格的に地場産物の活用促進を開始したことにより、年間を通じて安定的に納入が期待できる主要野菜10品目(注)の地産地消率(重量ベース)を上げることにした。

注:キャベツ、きゅうり、だいこん、たまねぎ、根深ねぎ、はくさい、じゃがいも、さつまいも、こまつな、ちんげんさい

 その結果、24年度の13.8%が、25年度は27.2%となり、目標の15%以上を大きく上回った(表6)。安定的に納入することが出来たため、主要野菜10品目の年間購入額の割合も、24年度の16.6%から25年度は26.8%となった(表7)。

 目標を倍増できた要因として考えられることは、中部学校給食センターの新設により、既存2センターの調理能力に合わせた食数調整ができ、大量の野菜処理が可能になったことである。それまでは、古い調理施設で能力一杯の調理をしていたために、施設不足が大量の野菜を洗浄することや不揃いの野菜処理を不可能にしていた。また、各連絡会構成メンバーの組織が機能するようになって、予想以上に納入量を増やすこともできた。

 特筆したいことは、袋井市では、学校給食の統括をするおいしい給食推進室を設置し、地場産物活用推進に大きな役割を果たすようにしたことである。室名は、日本一健康文化都市を目指す袋井市長自ら命名されたが、市として取り組む姿勢の表れだと考える。室長、職員、栄養教諭などが直接農家を回って、給食に使用可能な野菜を探したり、地域の栽培状況を把握したりしている。栄養教諭も市外から購入していた食材を、市内産を購入しようと視点が変わって、10品目以外の、たけのこ、グリンピースなど想定外の食材や特産品の新茶や粉茶、特産物マスクメロンから摘果した小メロンまで使用できるようになった。

 地場産物活用により、おいしい給食推進室の職員や栄養教諭が、改めて自分の住む町を知ることになった。

 中部学校給食センターでは、市民対象の視察や試食会が頻繁に行われている。口コミで地場産物の取り組みが広がったことにより、「来月○○が収穫できるが使用できないか」と生産者から直接情報が入るようにもなった。使用量が増加したことで、来年度に向けていろいろな野菜の作付けも進んでいるようである。袋井産地場産物活用率の増加は、国の目標とする、調理場がある県内で取れた地場産物の活用率増加、にもつながっている。

 また、袋井市では、連絡会による納入体制整備の他に、地元の食材販売、商品開発、レストランなどを経営している会社に、コーディネイト業務(表8)を委託し、さらなる地場産物活用の推進を図っている。

4 年間を通して地場産物を活用する取り組み

 生鮮食品には旬があり、当然使用時期が限られている。年間を通して使用するためには、乾燥、冷蔵、冷凍など加工品にする方法があり、47都道府県にある学校給食会では、栄養教諭などで組織する物資開発委員会などで、地場産物の加工品や冷凍食品などを開発し、販売している。大規模給食センターでは、直接食品製造業者と契約し、独自の規格で加工品を委託製造している。いずれも、一定のロットがあるから可能なのである。

 市町村独自あるいは近隣と協力して同様な取り組みをするためには、長期間低温貯蔵する倉庫や冷凍加工する施設設備が必要になる。近年、核家族の増加により、昔から砺波地方に伝わる「干しなす」作りや、「干しなすの炒め物」「干しなすの和え物」などの郷土食が、食卓にのぼらなくなっていることに憂慮して、富山県砺波市学校給食センターでは、干しなす作りを子供たちに体験させたり、生産者グループ協議会が、富山県が実施している「がんばる農村女性起業組織」事業で購入した野菜乾燥機(写真3)(JAが施設を整備)を利用して、なすを給食用に乾燥保存できるようにした。

 子どもたちは、生産者と会食しながら「低農薬にして虫を一匹ずつ取っている」などの苦労話を直接聞いており、地元野菜への信頼度は高い。苦手とするなすも「地場野菜(干しなす)の炒めもの」「地場野菜(干しなす)の和え物」と料理名を変えるだけで完食となる。また、生産者グループからトマト、オクラ、モロッコ豆を冷凍し長期使用してほしいという申し出があり、急速冷凍庫を設置し、冷凍保存が可能となった。

 JAなどに保存倉庫、加工施設設備の整備を図る事業や、市町村の小グループにも乾燥機、真空冷却機、冷凍庫なとの整備ができるようになると、全国各地で、年間を通して地場産物の活用が可能になると考える。

 最後に、秋田県五城目町立五城目第一中学校の事例を紹介する。

 五城目町では、給食がない夏休み中にたくさん取れるたまねぎやトマトなどを、学校の調理室を利用して加工冷凍保存している。もちろん、加工した食品の衛生検査は町費で実施している。保護者や地域啓発のために発行している給食便り「食べる力」を紹介する。



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