弘前大学農学生命科学部
准教授 石塚 哉史
【要約】
近年の「女性による社会進出」および「単身世帯の増加」等に代表される、社会生活スタイルのさまざまな変化に伴う食の外部化および簡便化が進行しており、野菜需要の中心が、家庭内消費から加工・業務用に進展している。このことを示す象徴的なトピックとして、野菜需要に占める加工・業務用需要の割合が増加していることがあげられ、その規模は、過半数にまで拡大している。一般的に加工・業務用需要の大半は、廉価な輸入野菜の利用が多く、国産野菜は厳しい状況におかれている。こうした状況の中で、国産野菜の業務用・加工用需要の拡大や安定供給を目指す系統農協組織も現れつつあり、その動向への関心が高まっている。そこで本稿の目的は、近年、青森県内農協の業務用対応を補完するとともに、その取扱規模を増加させつつある全農青森やさいパッケージセンターの事例に基づき、野菜の主産地に立地する系統農協組織が、量販店に代表される業務用需要に対していかなる取り組みを行っているのかについて紹介し、その現段階と課題について検討していく。
検討の結果、全農青森やさいパッケージセンターは、日本最大の有力な産地からの安定供給を利活用し、ながいも、にんにくおよびごぼうのカット・包装事業を拡大させている。とりわけ、実需者からのニーズに対して、アイテム増加等の円滑な対応することによって、都市部の販路確保を実現させていた。これらの取り組みは、販路確保以外にも都市部での消費形態を把握するという重要な役割も果たしており、今後の産地振興を検討する上でも、有益な検討材料に資するものであると評価できよう。
わが国における野菜消費量は1495万トン(平成23年度)と前年よりは微増しているものの、平成当初の数値と比較すると著しい減少を示している(平成2年:1739万t、同12年:1683万t)。
こうした事象の背景には、「女性による社会進出」「単身世帯の増加」等に代表される、社会生活スタイルのさまざまな変化に伴う食の外部化および簡便化が進行しており、野菜需要の中心が、家庭内消費から加工・業務用に進展していることが主な要因として指摘できる。このことを示す象徴的なトピックとして、野菜需要に占める加工・業務用需要の割合が増加していることがあげられ、平成2年以降は過半数にまで拡大している(平成2年:51%、同12年54%、同22年56%)。加工・業務用需要の大半は、廉価な輸入野菜の利用が多く、国産野菜は厳しい状況におかれている。
以上のような野菜消費を巡る情勢の中では、国産野菜の業務用・加工用需要の拡大や安定供給を目指す系統農協組織も現れつつあり、その動向への関心が高まっている。その中でも、青果物卸売市場内において卸・仲卸が担っていたパッケージ等の包装・加工作業を、最近では全農県本部や農協が行うようなケースも見受けられている。しかしながら、現段階では、設備を有する全農県本部および農協が限られているために、その取り組み内容に関しては未だに不明瞭な点が多い1)。
そこで本稿の目的は、近年青森県内農協の業務用対応を補完するとともに、その取扱規模を増加させつつある全農青森やさいパッケージセンターの事例に基づき、野菜の主産地に立地する系統農協組織が量販店に代表される業務用需要に対していかなる取り組みを行っているのかについて紹介し、その現段階と課題について検討する2)。
今回、全農青森やさいパッケージセンター(以下、「やさいパッケージセンター」という。)に着目した理由は、他の系統農協組織による同様な機能を有する施設3)と異なり、①都市部の消費地とは遠隔地である点、②ながいも、ごぼう等といった根菜類の生産・出荷量が国内最大産地という、優位性を有する産地に立地している点である。従って、その取り組み内容が、他の野菜の有力産地に対して有益な情報になるものと判断したためである。
やさいパッケージセンター(写真1)は、①実需者への迅速な対応(消費者の少量購入や棚持ちの良さ等の実需者ニーズに対応したさまざまな個包装アイテム)、②農協出荷施設および労力不足の補完(青森県内単協のパッケージ施設不足や夏秋野菜の最盛期における労力不足の解消)、③流通コストの低減(資材の簡素化や通いコンテナの使用等)、④付加価値をつけた販売(契約販売や鮮度保持フィルムの活用等)の4点を目的として平成18年に設立し、翌年の同19年から操業開始し、現在に至っている。
事業の運営および企画は、全農青森県本部が行い、出荷および加工業務については、一般社団法人上十三広域農業振興会(青森県東部の上北郡、十和田市、三沢市の野菜産地の形成に資するよう、流通および情報事業の充実を目的として設立された組織である。以下、「上十三農業振興会」という。)4)へ作業委託を行っている。
施設の総面積は972.9平方メートルであり、その施設内にパックルーム(509.9㎡)、ながいも皮むきルーム(43.6㎡)、洗浄場(120.2㎡)、原料保管庫(122.4㎡)、製品保管庫(93.5㎡)および資材庫(50.1㎡)を設置している。従業員は、正規職員5名(全農青森県本部3名、上十三農業振興会2名)、パート職員30名(上十三農業振興会)である。
図1は、やさいパッケージセンターにおける加工、流通ルートを図示したものである。やさいパッケージセンターの原料野菜は、生産者(および農協の生産部会)から出荷された野菜を、単協を経由して全量調達している。単協との原料調達は、予約相対販売と買い取り販売の双方が存在していた。調達した野菜は、やさいパッケージセンターにおいて加工・包装に係る作業工程が施された後、実需者へ販売される。加工・包装に関しては、各品目が実需者のニーズに基づいた対応が行われている。やさいパッケージセンター内では、加工・包装(写真2)に係る業務が行われるのであるが、品目によってその作業は異なっている。
具体的に品目ごとの主要な作業を見ると、以下の通りである。ながいもは、「皮むき」「カット」および「袋詰め」と他の品目よりも作業の種類が多く行われている。次いでにんにくであるが、個包装が主流であるために、「皮むき」および「袋詰め」である。最後にごぼうについては、「洗浄」「カット」および「袋詰め」となっている。
こうした加工・包装を施された野菜(写真3)の流通先である実需者は、卸売業者、仲卸業者、生協、量販店、食品企業等である。ただし、生協、量販店および食品企業に関しては、卸・仲卸を経由して流通していた。これらの最終実需者に対して、直接販売ではなく、卸・仲卸を介在させた理由は、業務用・加工用流通および販売業務の経験の浅い系統農協が、量販店および食品企業と取引(主に代金決済)を行うよりも、日常の業務において従事している事業者が担った方が円滑に行えると、全農青森県本部が判断したためである。なお、卸・仲卸とは、予約相対販売による取引が中心となっている。
次に、やさいパッケージセンターにおける品目別取扱状況について見ていこう。表1は、やさいパッケージセンター設立後の品目別取扱実績の推移を示したものである。平成24年の取扱量3,161トン、同販売額は11億4800万円であり、前年比105.7パーセント、同128.5パーセントと、両者共に増加を示している。取扱量および取扱額の最大の特徴として、操業開始年度から現在にかけて、数量に関しては増加傾向を継続させていることがあげられる。その増加幅は、操業開始年次(平成19年)の数値(取扱量1,517t、販売額5億1700万円)と現在を比較すると明白なものであり、わずか5年間の期間で、数量、金額ともに2倍以上の規模にまで拡大したことが理解できる。
品目別にみると、ながいも(写真4)は、取扱量が2,821トン、販売額が9億5100万円(平成24年の数値)であり、全体の89.2パーセント(取扱量)、82.8パーセント(販売額)を占めており、その構成比は著しい。ながいもについては、操業開始年次(平成19年)から現在にかけて一貫して80パーセント台前後(取扱量82~89%、取扱額68~82%)という高い水準の構成比を維持しており、やさいパッケージセンターの主力品目であることが理解できる。ながいもの取扱量が増加している要因として、詳細は後述するが、3Lおよび4Lという大きなサイズのいもが、核家族や単身者が増加する最近の世帯員構成による消費実態との対応がしにくくなっており、これらのサイズをカットすることによって、市場に対応させるような取り組みを積極的に行っていることが功を奏したものと考えられる。
次ににんにく(写真5)についてみると、取扱量が150トン、販売額が1億4500万円(平成24年の数値)であり、前年と比較すると166.7パーセント(取扱量)、122.9パーセント(販売額)と増加しているが、操業開始年次から比較すると微減している。にんにくは、単協および生産農家が自ら包装する設備を所有しているケースも見受けられ、市場価格が高値で推移した際には、生産農家サイドがやさいパッケージセンターを経由せず、自ら包装・加工して流通するケースも存在しているので、取扱数量が増加しにくい品目といえよう。従って、設立年次から現在にかけてにんにくの占める比率は取扱数量で3~5パーセント、取扱額で11~20パーセントとなっている。数量の比率に対して取扱額の比率が倍以上のシェアを示していることから、他品目よりも収益性が高い品目であることが伺える。
さらにごぼう(写真6)については、取扱量が180トン、販売額が5000万円(平成24年の数値)と、主要品目の中では前述のにんにくと同様に、全体に占める取扱規模が小さい品目(取扱量5~13%、取扱額4~10%)に位置付けられる。こうした事象に関しては、最近3カ年におけるごぼうの市場取引価格が通常よりも高値で推移しており、加工・包装を施すと、さらに価格が高額となるために実需者側が敬遠し、取引量が停滞していることが影響している。
なお、その他に該当する主な品目として、かぶがあげられる。具体的には、野辺地町を中心に栽培されている、地域団体商標を取得した野辺地葉つきこかぶ5)がその大半を占めていた。
表2は、全農青森県本部の出荷量に占める、やさいパッケージセンターによる取扱量のシェアを示したものである。この表から、平成24年のシェアを見ていくと、ながいもは11.1パーセント、にんにくは3.5パーセント、ごぼうは1.3パーセントであることが読み取れる。とりわけ、ながいもに関しては、前年に引き続き、10パーセント強のシェアを確保し続けている。
なお、全農青森県本部やさい部の担当職員に対するヒアリングによると、やさいパッケージセンターによる年間販売額の目標は10億円と設定しており、現状の取扱規模を維持することが可能であれば、運営上において特段問題はない旨の理解を示していた(当初の設立段階における予定では、販売額10億円を達成するのは操業開始から5年以上の期間を要すると計画しており、平成23年での達成は、想定よりも早期に実現できたといえる)。
表3は、やさいパッケージセンターにおける主要品目の取扱アイテム数について示したものである。調査時点のやさいパッケージセンターによるアイテム数は26アイテムであり、品目別にみると、ながいもが12アイテム、にんにくが5アイテム、ごぼうが9アイテムであった。全ての品目において、各アイテムが出荷規格のサイズ(S・M・L等)に応じてアイテムをそろえる形態が主流であった。それ以外にも、ながいもおよびごぼうという重量野菜であり、なおかつ、他の野菜と比較すると形状も大きい(長い)品目は、カットした形状で包装するアイテムも存在していた。ただし、パッケージの規格は品目ごとに異なっており、ながいもは重量ベース(200g、250g、300g、350g)、ごぼうはサイズ(長さ)ベースで区分されていた。この点は、ながいもは前述の通り、他の2品目よりも需要が多いために細分化されたアイテム構成となっている。この要因は、エンドバイヤーが関東中心に多店舗展開している量販店であることから、カットに対する要望が多かったため、それに応じたものである。また、食品企業へ流通したながいもは、コンビニエンスストアおよび量販店のうどん、そば等のトッピング(とろろ)として消費されているのが主流である。
新規パッケージの提案については、設立当初は、パッケージセンターから卸・仲卸へ提案としていたのであるが、最近では、エンドバイヤーである量販店からの要望を、卸・仲卸が集約したものに対応するようにシフトさせている。具体的には、重量ベースのアイテムの事例が参考になるものと思われる。設置当初は、200グラム、300グラムというような、100グラム単位でのアイテムしか存在していなかったのであるが、量販店側から消費者の多種多様化に対応するよう、50グラム単位での販売を要望されたため、それに応じたアイテムが設置され、現在に至ったところである。
本稿では、全農青森県本部が主管する、やさいパッケージセンターによる業務用需要への取り組みについて検討してきた。最後にまとめとして、前節までに明らかとなった点を整理するとともに、残された課題を示すと、以下の通りである。
やさいパッケージセンターは、日本最大の有力な産地からの安定供給を利活用し、ながいも、にんにくおよびごぼうのカット・包装事業を拡大させている。とりわけ、ながいもに関しては、実需者からのニーズに対して、アイテム増加等の円滑な対応することによって、都市部の販路確保を実現させている。実需者ニーズへの対応の積み重ねが、現在の系統出荷量の10パーセントという一定程度の規模にまで取扱量を拡大させたことにつながったといえよう。これらの取り組みは、販路確保以外にも、都市部での消費形態を把握するという重要な役割も果たしており、今後の産地振興を検討する上でも、有益な検討材料に資するものであると評価できよう。
以上のように、取扱量を拡大させているやさいパッケージセンターであるが、残された課題も存在している。筆者は、品目間のバランスをもう少し図る必要があると指摘する。前述の通り、ながいも以外の品目に関しては、取扱量が限定されているため、実需者の需要増加への対応が制限されていることである。今後も全農青森県本部が設定する年間取扱額10億円以上という水準を維持するには、単一品目に傾倒するよりも複数品目でのバランス調整を図る方が、容易にリスク回避できるものと思われるので、改善することに期待したい。
とはいえ、設立後の数年間で現在の体制を構築した全農青森県本部およびやさいパッケージセンターの取り組みには、他産地が参考となる事象は存在しているものと考えられ、筆者も今後の動向に注目していきたいと考えている。
1)全農県本部が主管する選果およびパッケージ機能の関連施設について言及した研究として、主要な既存研究に尾高、佐藤等が挙げられる。前述の成果は全農茨城県本部のVF事業を中心に分析を行っている。
2)本稿の作成にあたり、筆者は平成25年8月に全農青森県本部やさい部やさい花き課において訪問面接調査を実施した。ご多用にも関わらず協力していただいた上述の部内の職員へこの場を借りて謝意を申し上げる。
3)主要な施設として、全農宮城青果物セットセンター、全農埼玉青果ステーション等があげられる。
4)上十三広域農業振興会は、昭和47年に社団法人上北広域野菜生産出荷振興会として設立し、平成24年に現在の組織体制となっている。会員は、9市町村(十和田市、三沢市、横浜町、野辺地町、東北町、七戸町、おいらせ町、六戸町、六ヶ所村)および3農協(十和田おいらせ農協、ゆうき青森農協、おいらせ農協)、全農青森県本部の13会員である。
5)野辺地葉つきこかぶは、平成24年8月に特許庁より地域団体商標の登録認可(第5513618号)を受けたブランド野菜である(権利者:ゆうき青森農協、全農)。生育期にヤマセの影響を受けるため(夏場において昼夜の寒暖差が大きい)、柔らかくで甘い特性をもっており生食に適している点があげられる。
参考資料
(1)尾髙恵美「JAグループにおける農産物販売強化の取組み-野菜の加工・業務用需要対応における連合組織の役割を中心に-」『農林金融』第65巻4号、24~38頁、2012年
(2)佐藤和憲「野菜の加工・業務用需要と産地のマーケティング」『農業および園芸』第82巻1号、2007年
(3)農林水産省編『食料・農業・農村白書』平成25年度版、農林統計協会、2013年