野菜業務部
【要約】
農業協同組合等においては、生鮮用としての市場出荷が産地における野菜生産の柱となっているものの、安定した所得の確保や販路の拡大を期待し、加工・業務用野菜の生産に取り組む農業協同組合等が増えている。加工・業務用野菜の取引先の約半数は食品加工メーカーが占め、カット野菜製造業者は全体の4分の1程度である。加工・業務用野菜を出荷する農業協同組合等の4割は取引拡大の意向を示している。
主要な野菜(ばれいしょを除く指定野菜13品目)の用途別の需要割合を見ると、家庭で調理することを前提に消費者が青果店やスーパー等で購入する生鮮野菜に対する需要は減少し、カット野菜等の業務用食材や食品加工業者の加工原料に供される加工・業務用野菜に対する需要は増加する傾向にある。
このような現状から農畜産業振興機構では、カット野菜の需要に焦点を当てて、「カット野菜を巡る状況」と題し、5月号ではカット野菜製造業者における原料野菜の調達実態、製造・販売体制、今後の動向等について報告し、前月号ではサラダ商材(カップサラダ、ポテトサラダ等)として販売されているカット野菜の消費動向およびカット野菜の市場規模等について報告してきた。
いずれの報告においても、カット野菜に対する潜在的な需要は高い、という結果が得られ、また、「食の外部化」が普及、浸透しつつあるわが国の現状を踏まえると、加工・業務用野菜の需要は引き続き伸びていくものと予想される。
一方、加工・業務用野菜の国産野菜のシェアは、平成2年度に9割を占めていたが、原料調達の安定性や価格面に優れる輸入野菜の使用割合が徐々に増え始め、平成22年度には7割まで低下している(表1)。
このことから、今月号は、国産野菜の加工・業務用需要への対応に向けての課題を明らかにするとともに、加工・業務用野菜等のセーフティネットとして運用されている現行の野菜価格安定制度について、運用改善すべき点等を把握することを目的として、農業協同組合等を対象に、加工・業務用野菜の取引実態をアンケート調査した「加工・業務用野菜取引実態等調査」の結果を報告する。なお、本調査では、169の農業協同組合および全国農業協同組合連合会から、キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ピーマン、レタス、たまねぎ、ばれいしょおよびほうれんそうのいずれかの野菜を、加工・業務用として出荷している、と回答があった。
加工・業務用野菜の出荷を品目別に見ると、「キャベツ」を出荷品目とする農業協同組合等が60団体と最も多く、次いで「にんじん」が33団体、「トマト」が31団体となっている。
出荷品目を、野菜生産出荷安定法に基づく野菜指定産地内の農業協同組合等が出荷しているものとそれ以外に区別すると、「ねぎ」「はくさい」および「ほうれんそう」は、指定産地以外の農業協同組合等が多く、「キャベツ」は同数、それ以外の野菜は指定産地の農業協同組合等が多い(図1)。加工・業務用野菜を出荷する農業協同組合等のうち6割(106団体)が複数品目を出荷し、4割(63団体)が1品目のみを出荷している(表2)。
加工・業務用野菜の取引量を3年前と比べると、「変わらない」が5割、「拡大」が4割、「縮小」は1割であった(図3)。
農業協同組合等が出荷する野菜の一部は、卸売市場の分荷によって加工・業務用へ仕分けられるものも少なくないが、全体の出荷動向として取引量を縮小させる団体よりも拡大させる団体が多いことを踏まえると、野菜の需要の変化に応じ、農業協同組合等における加工・業務用野菜の供給の主体的、意識的な取り組みが広がってきていることがうかがえる。
これを品目別に見ると、拡大と回答した品目で最も多かったのは「キャベツ」で19団体、次いで「トマト」と「ねぎ」が7団体であった(表3)。
取引先は、レトルト、冷凍野菜、缶詰、漬物野菜等の製造を行う「加工食品メーカー」が46.7%と最も多く、次いでスーパーマーケット、中食・外食業者等に野菜素材を提供する「カット業者」が25.9%、「外食業者」が6.9%、「中食・総菜業者」が6.5%となっている(図4)。
産地における加工・業務用野菜の出荷体制は、「毎年、その都度希望者を募り対応」が47.3%と最も多く、次いで「市場出荷向けの一部を出荷」が45.6%となっており、「実需者と個々の生産者を特定化」(19.5%)と「実需者ごとに生産者をグループ化」(18.9%)を大きく引き離している(図5)。
加工・業務用野菜は、加工の歩留まりを高めるため、規格は大きなもの、調理に適すること等が重要とされ、生鮮野菜の規格、品種等と異なるのが一般的である。しかし、「毎年、その都度希望者を募り対応」と二分する形で「市場出荷向けの一部を出荷」の回答が多かった。カット野菜製造業者の製造・販売状況調査の聞き取り調査によると、カット野菜製造業者は、生鮮野菜と同等またはそれに近い規格のものを求めている。農業協同組合等における加工・業務用野菜の供給は、これまで市場に出荷することができない、いわゆるすそ物野菜で対応していると見られていたが、加工・業務用需要の増加を背景に、取引先から生鮮野菜と遜色がない一定品質以上の野菜の供給を求められていることがうかがえる。
加工・業務用野菜の生産や出荷に当たっての取組みとしては、「流通コストの削減」(54.5%)や「機械化による省力化」(48.6%)が多く、一次加工の実施は1割に満たない。個別の取組み内容で見ると、「通いコンテナの利用」が27.1%で最も多く、次いで「収穫作業の機械化」が18.4%、「大型コンテナの利用」が16.5%となっている。皮むき、芯ぬき、芽とり等の「一次加工の実施」では、外部に委託するよりも自前の施設で実施する農業協同組合等の方が多い(表4)。
その他、本調査によると、「機械化による省力化」と「流通コストの削減」がともに多いのはたまねぎとばれいしょである。たまねぎやばれいしょ以外の品目では、にんじんとねぎは「機械化による省力化」が多く、キャベツは「流通コストの削減」が多い。
農業協同組合等が採用する契約価格の設定方法の8割は「固定価格」となっており、「変動価格」を採用する比率は全体の1割にすぎない。そのうち「シーズンごとの固定価格」が全体の過半を占め、最も多く採用されている価格形態である。変動価格の中では、「市場価格連動」(7.5%)の比率が高い。
契約数量については、「数量をあらかじめ固定」が43.3%と最も高く、次いで「(おおむね数量が決まっているが)状況に応じて変動」が37.7%となっている(表5)。
加工・業務用野菜の取引を行う上でのリスク軽減対策については、「代金決済確保のための正式な書面契約を締結する」(43.2%)と「代金決済確保のための市場を含めた第三者契約を締結する」(39.6%)の、代金回収リスクへの対策に係る回答が上位2位を占め、次いで「不作時に契約数量の見直しの条項がある」(23.1%)、「契約期間を収穫最盛期のみに絞っている」(18.9%)となっている(図6)。
農業協同組合等における加工・業務用野菜の取引の今後の意向は、キャベツ(56.7%)およびトマト(51.6%)は過半、ねぎ(45.8%)、はくさい(45.0%)およびほうれんそう(45.5%)は半数近くが「拡大」と回答している。「現状維持」まで含めると、全ての品目で加工・業務用野菜の出荷を前向きに取り組んでいきたいと考えている(図7)。
拡大の理由については、5割が「経営の安定」、2割が「販路の拡大」や「需要増に対応」と回答している。
以上が農業協同組合等における「加工・業務用野菜取引実態等調査」の結果の概要である。今月号を含め3回に分けてカット野菜を巡る状況を報告してきたが、製造、販売、消費のいずれの面でも、カット野菜をはじめとする加工・業務用野菜に対する需要の大きさがうかがえた。
この増加する需要に対して、「定時、定量、定品質」を担保しやすい生産体制を活かし、農業協同組合等が加工・業務用野菜の生産に意欲的な姿勢を示していることの意義は大きい。しかし、本調査によると、農業協同組合等の野菜出荷量全体に占める加工・業務用の出荷量は4分の1程度に留まっている。需要の増加が見込まれる分野とはいえ、加工・業務用野菜は一般に生鮮野菜よりも安価な価格で取引されている現状下において、農業協同組合等が加工・業務用を主体とする生産体制に方針転換するにはまだ多くの課題が残されている。もちろん、その対策については、産地全体での加工・業務用野菜の生産拡大に向けた対策の1つとして、今後さらに検討を深めていく必要がある。
当機構は、今回のアンケート調査等を踏まえつつ、契約野菜安定供給事業をはじめとする野菜価格安定対策事業等を通じて、加工・業務用野菜の取引の拡大につながる必要な支援等を、効率的かつ確実に実施していきたい。
最後に、アンケート調査にご協力いただいた農業協同組合等の皆様には、この場を借りてお礼申し上げる。今回報告した、「加工・業務用野菜取引実態等調査」の結果については、当機構HP(http://www.alic.go.jp/content/000093505.pdf)に掲載してあるので、参照願いたい。