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調査報告(野菜情報 2013年6月号)


カット野菜を巡る状況(1)

~ カット野菜製造業者の実態 ~

野菜需給部


【要約】

 カット野菜製造業者は、実需者の要望に応えるため、原料野菜の調達先を複数確保している。原料野菜として使用される野菜はキャベツが最も多く、輸入野菜はたまねぎが大半を占めている。カット野菜の品質管理は、鮮度保持のための温度管理を重視し、製造から納品までの期間は非常に短い。また、安全性の確保のための厳しい検査体制が確立している。

はじめに

 わが国の野菜の需要は、加工・業務用需要の割合が増加しており、平成22年度には6割近くを占めるに至っている。この加工・業務用野菜の中でも、最近にわかに注目を集めているのがカット野菜であり、野菜の価格が高くなった時だけでなく、近年では、恒常的に販売数量が伸びているという話を聞くようになった。しかしながら、その製造、消費等の実態については、明らかになったものがなく、今後のトレンドも不明である。
 このため、農畜産業振興機構では、加工・業務用野菜、とりわけカット野菜の製造・消費等の実態を把握し、今後の国産野菜による適切な供給に資するよう、4種類の調査、すなわち①農業協同組合等における加工・業務用野菜の取引実態等調査、②カット野菜製造業者の製造・販売状況調査、③スーパーマーケットにおけるカット野菜の小売動向調査および④カット野菜の消費動向調査を実施した。今回から3回に分けて、これらの調査の結果について概要を報告するが、今回は、カット野菜製造業者の原料野菜の仕入れやカット野菜製造・販売環境の実態を把握するため、アンケート調査および聞き取り調査を実施した②の調査の結果について報告する。
 ところで、カット野菜と一口に言っても、どのようなものなのか、範囲が難しい。カット野菜と言われて最初にイメージするのは、量販店等で販売されている袋に入ったサラダやカップサラダである。次に、外食や内食向けに千切り、角切り、たんざく切りや乱切り等に加工され販売される商品。ここまでは、カット野菜と言えるであろう。では、剥きたまねぎや芯抜きキャベツ、店頭で2分の1や4分の1にカットされたものは、どうだろうか。カット野菜の定義は、公的に定められていないので、本調査においては、用途に着目してカット野菜の範囲を決めることとした。すなわち、剥きたまねぎや芯抜きキャベツは、カット野菜製造業者が付加価値を付けるために加工しているという考え方から、カット野菜とした。一方、店頭で2分の1や4分の1にカットされたものは、量販店等がホールで仕入れた野菜の価格低減や数量調整を目的にカットして販売しているものと整理し、カット野菜としないこととした。

1. カット野菜製造業者の概要

(1)多い、他の業種との兼業

 カット野菜製造業者は他の業種と兼業している場合が多い(図1)。中でも卸売業や仲卸売業と兼業をしている業者が多い。それはカット野菜製造を始めることとなったきっかけが影響していると考えられる(図2)。
 聞き取り調査によると、青果店を営んでいた関西の業者がカット野菜の製造を始めたきっかけは、昭和45年の大阪万博で、調理スペースがほとんどないパビリオンの中にカット済み野菜を納品したのが始まり。アンケート調査でも、カット野菜の製造を始めたきっかけは取引先の意向という業者が多く、ホール野菜を納入していた卸売業者や仲卸業者が野菜の販売方法の一つとして、カット野菜の製造・販売を開始したというようなことが多いと考えられる。

(2)大きく3つに分類できる形態

 当初想定したカット野菜製造業者は、ホール野菜を仕入れ、これをカットして実需者へ販売するという単純なものであった。しかし、聞き取り調査を進めるうちに、カット野菜製造業者にもさまざまな形態があることが分かった。
 すなわち、カット野菜製造業者は、

① 皮むき等の1次加工を専門に行うカット野菜製造業者

② 特定の品目に特化したカット野菜製造業者

③ さまざまな食材を加工する能力を持つカット野菜製造業者

の3つに大きく分類できる。それぞれの内容は次のとおりである。

① 皮むき等の1次加工を専門に行うカット野菜製造業者

 たまねぎの皮むき、ごぼうの皮むき、ばれいしょの皮むき・芽取り等、土物類等の1次加工を専門に行う業者。1次加工のみを行うため、食品衛生法の営業許可は必要ないが、付加価値が低く、価格競争が厳しい。産地に近い立場の農業生産法人等の団体や中間事業者が原料を販売する1つの手段として行っているケースが多い。加工した野菜は、カット野菜製造業者やホール野菜の下処理を外注化したい実需者に販売している。

② 特定の品目に特化したカット野菜製造業者

 品目を限定して加工する業者。特定の品目に特化することで、原料野菜を産地から大量に仕入れることが可能となり、原料価格を抑えることができる。また、多くの品目を加工している業者に比べ、カット用機械の設備投資を抑えられるというメリットがある。特定品目の調達価格を抑えたい実需者や少量品目を外注化したいカット野菜製造業者に販売している。

③ さまざまな食材を加工する能力を持つカット野菜製造業者

 多くの品目を加工することで、商品(カップサラダ、鍋物セット等)提案を可能にしている。業者によってさまざまであるが、コンビニエンスストアのベンダーとして活躍している業者もある。量販店や外食産業等では、肉等を含めた食料品全体で見ると、野菜は食料品の調達金額に占める割合が低い。このため原料野菜の調達に手間をかけたくない実需者にとっては、利便性の高い調達先となっている。
 1次加工が行われた土物類等は、そのまま消費に回るほか、別のカット野菜製造業者へ販売されて2次加工される。また、多品目を加工するカット野菜製造業者でも、少量品目を外部委託することで、カット用機械の設備投資を抑えている事例があった。このように異なる類型のカット野菜製造業者は、実需者との関係でライバルである一方で、お互いを補完する関係にある。

(3)多い、事業拡大の意向

 カット野菜製造業者のカット野菜製造・販売に関する今後の意向は、66.4%が「拡大したい」であった(図3)。理由として最も多かったものは、「需要が伸びているから」というもの。次いで、「現状を維持したい」という回答は22.1%で、「事業を拡大するには設備投資が必要だから」という理由が多かった。「縮小(停止)したい」という回答は6.2%とわずかであったが、「コストがかかり売値が厳しい」といったことが理由となっている。
 聞き取り調査でも、食生活の変化によって需要が増えており、今後事業を拡大していきたいという回答が多かった。

2. 原料野菜の調達について

(1)複数の調達先

 カット野菜製造業者の原料野菜の調達先は、「仲卸業者」が51.8%と最も多く、次いで「卸売業者」が49.1%、「生産者個人・任意グループ等」が42.7%であった(図4)。
 カット野菜製造業者は、実需者の要望に応えるため、常に一定の数量の野菜を確保する必要がある。一方、野菜の生産量は天候に左右されるという特性がある。聞き取り調査によると、カット野菜製造業者は、原料野菜の調達先を複数確保することでリスク分散を図っているという。原料野菜の調達先は、①生産者・農業生産法人、②農協・経済連、③卸売業者・仲卸業者・青果物等問屋、④商社・輸入業者の4つに大きく分類できる。
 ①の生産者・農業生産法人との取引では、契約取引を行っている事例が多く見られた。②の農協・経済連との取引も、同様に契約取引を行っている事例が多かった。また、①の生産者・農業生産法人や②の農協・経済連から原料野菜を調達している業者の多くは、③の卸売業者・仲卸業者および④の商社・輸入業者といった調達先も確保しているといった事例も多い。
 すなわち、聞き取り調査によると、①の生産者・農業生産法人と契約取引を行うことで、安定した価格で原料野菜を調達することができ、商品を安定した価格で販売することが可能になるとのことであった。②の農協・経済連との契約取引については、個人との契約ではなく、部会単位等で契約取引を行っているので、ある生産者の収量が悪いときでも別の生産者から出荷することが可能であり、安定した数量を確保しやすいというメリットがある。ただし、病害等により、地域の畑すべての作柄に影響が及ぶ場合は、必要な数量の調達が難しくなり、依然としてリスクが残っている。このようなリスクに備えるため、カット野菜製造業者は、③の卸売業者・仲卸業者や④の商社・輸入業者といった調達先を確保しているという。特に、レタスのように天候に左右されやすい品目は、国産原料の安定した確保が難しい傾向にあるため、④の商社・輸入業者を通じて台湾産や米国産を一定数量確保することでリスクに備えている。このような場合は、価格が高く利益が出ないこともあるが、どのような状況になっても原料野菜を確保して、実需者に対して継続的に安定供給することを優先しているとのことであった。

(2)原料野菜の使用量の一番はキャベツ

 原料野菜の品目別使用数量は、「キャベツ」が30.7%で最も多く、次いで「たまねぎ」が17.2%、「だいこん」が14.3%、「レタス」が12.1%となっている(図5)。これらの原料野菜の具体的な用途は、キャベツは千切りキャベツ、たまねぎは剥きたまねぎ、だいこんは刺身のツマ、レタスはカットレタスが最も多かった。

(3)輸入野菜の大半はたまねぎ

 原料野菜の中で輸入野菜を使用している品目は、「たまねぎ」が52.1%で最も多く、次いで「しょうが」が13.4%、「にんじん」が8.2%、「レタス」が6.2%となっている。今回調査した原料野菜の総数量は223,656トンであったが、そのうち輸入野菜の総数量は37,420トンと、全体の約17%であった(図6)。
 輸入野菜を使用する理由は、「国産と比較して、価格が安いため」が41社で最も多く、次いで「国内産がない、または少ないため」と「周年的な需要に対して、国内産地では対応できない時期(端境期)があるため」がともに30社であった(図7)。また、輸入野菜を使用することについて、取引先がどのような意向を持っているのかについては、「価格ではなく、国産原料の調達が困難な場合のみに限定したい」が28社と最も多く、次いで「価格高騰時のみに限定したい」が27社となっており、国産原料野菜の確保が困難な場合に限定した利用を掲げる回答が多かった(図8)。
 聞き取り調査によると、平成20年の中国の冷凍ギョーザ事件直後、原料野菜は、ほぼすべてが国産となったという。しかし、輸入野菜は価格が安価なことに加え、東日本大震災後、国産野菜より安全なのではないかという考えから、一部の外食産業では、カット野菜の原料として輸入野菜を使用することに抵抗がなくなってきている。これに対して、量販店は、一貫して国産野菜志向で、パプリカやトレビスといった国内では周年供給ができない限られた品目のみ輸入野菜を認めている。しかし、天候不良の影響から不作となり、国産野菜の調達が困難となるときがある。このような場合は、量販店向けであっても数量を確保するために輸入野菜を使用しなければならないが、中国産以外の輸入野菜に限定して認める量販店もあり、量販店では、依然として中国産野菜に対して抵抗を感じているとの意見があった。

(4)一定の規格

 取引時の規格は、「生食用ほど厳しくはないが、一定の規格を満たした原料野菜」が131社で最も多く、次いで「生食用と同じような規格の原料野菜」が119社であった(図9)。
 原料野菜は、カットするので規格外が多いのではないかと思われていたが、聞き取り調査によると、あまり大きすぎると味が悪く、反対に小さすぎると歩留まりが悪く作業効率が低下するとのこと。ある程度、歩留まりが良いものが好まれるが、生産者等が生食用のものを選別してカット用、生食用に分ける手間やコストを考えると、生食用ほど厳しくはないが、一定の規格を満たした原料野菜を求めているとの回答もあった。

(5)不作時の原料調達先は市場

 規格外品が多い場合の対応については、「市場より調達」が116社で最も多く、次いで「納入先と納入数量の調整を行う」が104社となった(図10)。
 聞き取り調査によると、カット野菜は、工業製品と違い自然を相手にする農産物を原料とするにも関わらず、「定時」「定量」「定価格」「定品質」の4つの条件を満たした製品を提供することを求められている中で、カット野菜製造業者は、不作で原料野菜の調達が困難な場合であっても納品数量や価格の交渉が難しいという。4つの条件をクリアするため、市場から単価の高い原料野菜を調達したり、生育不良により歩留まりの悪い原料野菜をカットするために人を増やすなどの工夫をすることで数量を確保しているとの回答があった。また、ここ数年は、事情を理解して納入数量の調整を受け入れてくれる実需者もいるが、それは代替品や輸入野菜の使用を提案するなどの努力をした結果であるとの回答もあった。

3. カット野菜の製造・販売について

(1)機械化の難しい乱切り

 カット野菜製造業者が利益を出すには、機械化によりいかに作業効率を上げるかが重要である。しかし、下処理の大半は手作業で行われている。これは、野菜のサイズが一定でないことから、ある程度のサイズまでは人の手でカットする必要があることや、レタス等の葉物野菜の外葉の処理は人の目で判断するしかないことによる。最終的なカットは、カット方法やサイズごとに機械化できるが、キャベツの千切りの3ミリと4ミリ等のわずかな違いであっても、異なる機械が必要となってくる。
 聞き取り調査によると、多品目を扱うカット野菜製造業者では、実需者から400前後の商品アイテム数を要求されているところもある。このため、実需者からPB(プライベートブランド)商品の提案を受けたときに、このサイズであれば安くなるといった交渉もするという。なお、機械化できるものでも手作業でカットしているものがある。それは、乱切り。乱切りを機械で行うと、きれいすぎて手作り感が出ないという。このため、乱切りに限っては、熟練工が手作業で行っているという。

(2)平均歩留まりが高いねぎ、低いレタス

 工場に納品される原料野菜の歩留まりは、「ねぎ」が最も高く81%、次いで「たまねぎ」が78%であった。一方、「レタス」は60%と最も低く、10品目の平均は、73%であった(表)。
 聞き取り調査によると、結球レタスの下処理をするときは、芯をくり抜き、外葉を取り除き裁断する。サニーレタス等の非結球レタスは、外葉を取り除き裁断する。外葉を取り除くだけでもかなりの量が廃棄されることになる。特に、結球レタスは、天候に恵まれず小玉のものが多いと、歩留まりが極端に悪くなるという。カット野菜製造業者によっては、歩留まりが50%を切るというところもあった。また、だいこんは、刺身のツマにカットする場合、青首だいこんの青い部分を取り除くことを要望する実需者も多く、急速に肥大し日光を浴びて青い部分が多くなる春先は、特に歩留まりが悪くなるという。

(3)販売先は、5割が外食・中食業者、4割が小売業者

 カット野菜の販売先は、「外食事業者」が58社と最も多く、次いで「量販店・食品スーパー」が51社、「弁当・惣菜事業者」が48社、「給食事業者」が36社、「コンビニエンスストア」が29社と続いた(図11)。また、販売額ベースでは、「百貨店」「量販店・スーパー」「生活協同組合」「コンビニエンスストア」といった小売業者への販売が37.1%で、「弁当・惣菜事業者」「外食事業者」「給食事業者」といった外食・中食業者の販売が48.9%となった(図12)。

4. カット野菜の品質管理について

(1)鮮度保持に大切なのは温度管理

 聞き取り調査によると、「品質」は、良くて当たり前。安定した品質を保持するためにカット工場内の衛生管理や洗浄水の使用といったことも大切だが、どの業者も共通してカット後の温度管理を重視していた。カット後の保管、配送、納品といった過程の中で10度以下のコールドチェーンを確立するかしないかによって、鮮度が格段に変わるという。
 カットされた製品は、製造日の当日や翌日に実需者へと渡っており、納品されるまでの期間が非常に短い。場合によっては、発注を受けた日に納品することもあるという。このような時は、過去のデータから必要な数量をある程度予測してカットしておき、足りない分だけ当日カットして納品することで、発注を受けた当日に納品できるようにしているという。

(2)厳しい検査体制

 聞き取り調査によると、HACCPやIS022000といった資格を取得しているカット野菜製造業者もいたが、多くの業者はこれらの資格を取得していなかった。安全性の確保については、カット野菜製造業者は、定期的に実需者の厳しい立ち入り検査を受けているという。これに合格しなければ、取引もできないため、登録料等のコストをかけて資格を取得する必要性を感じないという業者が多かった。また、1次加工を専門にしている業者から原料野菜を調達している業者は、原料野菜の調達先に実需者として立ち入り検査に入ることもあり、お互いに厳しい検査体制を確立しているという。

 以上がカット野菜製造業者の製造・販売状況調査の結果の概要である。アンケート調査および聞き取り調査にご協力いただいた全国のカット野菜製造業者の皆様には、この場を借りてお礼申し上げる。なお、次月号では、カット野菜の消費が本当に伸びているのか検証するため、平成21年度から平成24年度までのカット野菜のPOS(Point of Sales、販売時点情報管理)データを収集・分析した、「スーパーマーケットにおけるカット野菜の小売動向調査」の結果と、カット野菜の消費者がカット野菜に対してどのような認識を持っているか把握するため、インターネットで購入利用実態を調査した、「カット野菜の消費動向調査」の結果の概要を報告するとともに、カット野菜を巡る市場規模を報告する。
 
 今回報告した、「カット野菜製造業者の製造・販売状況調査」の結果については、
 当機構HP(http://www.alic.go.jp/content/000091984.pdf)に掲載してあるので、参照願いたい。


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