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調査報告(野菜情報 2013年5月号)


野菜流通におけるコンテナ利用の現段階

―多段階の流通システムを横断した普及に向けて―

千葉大学大学院園芸学研究科 教授 櫻井 清一


【要約】

 野菜流通におけるコンテナの利用が、一定の進展をみせている。現在のコンテナ・システムは、多段階の流通を前提としたレンタル・システムであり、専門業者がコンテナの貸出から回収までの全プロセスを担っている。環境問題への貢献に加え、物流の現場における作業効率の改善にも役立っている。さらなる普及に向けて利用料金の低下が期待されているが、そのためには滞留するコンテナを把握し、速やかな回収とリユースを促す必要がある。電子タグを活用したコンテナ管理技術も確立されつつあるが、その普及には流通各段階でのハードの整備が必要になる。

1. はじめに

 野菜をはじめとする生鮮青果物の物流においては、包装資材として段ボール箱が大量に利用されている。しかし、省資源化や物流コスト削減を目指して、使い捨てが前提とされる段ボール箱に替わり、リユースできるコンテナ(通い容器)を利用することが古くから提唱されてきた。各地でさまざまな取り組みが試行されてきたものの、段ボール箱に代替するほどの全面的な普及には至っていない。それでも以前とは異なるコンテナ管理システムの登場により、産地と消費地を結ぶ多段階の流通システムにおいてもコンテナが部分的に導入され始めている。
 本稿では、現状のコンテナ利用システムにはどのようなメリットと制約条件があるのか、またコンテナ利用を促進するには、どのような点に留意すればいいのかを考えるため、コンテナ・レンタル業者と産地の取り組みを紹介する。

2. コンテナ利用の変化

 青果物流通におけるコンテナ利用は、1970年代に一定の広がりをみせた。1973年のオイルショックを契機に、全国的に省資源への関心が高まる中、出荷される青果物を包装する段ボールの削減も関心事となり、その対策として一部の卸売市場が生産者からの集荷時にコンテナを利用し始めた。当時の農林省もコンテナ流通を支援する事業を導入した。1980年代には全国で160カ所の事例が存在したとの記録もある。
 1980年代から90年代前半にかけてのコンテナ利用の様子は、山本勝成(1992年)による奈良県中央卸売市場の事例報告や、中国農業試験場(1995年)による明石市地方卸売市場の夕市(近郊軟弱野菜のみの取引)の報告で確認できる。共通する特徴は、卸売業者と市場周辺の生産者の間を往復する利用システムが設計されていることである。生産者は利用料金と保証金(デポジット)を支払い、コンテナを借り受ける。借りたコンテナに野菜等を入れて卸売市場に出荷する。保証金はコンテナ持ち込みが確認されれば返却される仕組みとなっている。こうしたコンテナ・システムは、特に農家の個人出荷が多かった大都市近郊野菜産地からの軟弱野菜集荷に一定の貢献を果たした。
 しかしその後、多くの卸売市場でコンテナによる集荷システムは衰退し事業終了に追い込まれた。先述した奈良市場では現在もコンテナ・システムを継続しているが、1980年代半ばには年間80万個もあったコンテナ利用が、2011年には6万個にまで減少している。衰退の主な要因は、都市近郊産地自体の縮小と、コンテナの回収率の悪さ・紛失率の高さである。コンテナについては、卸売市場に出荷されたコンテナがそのまま小売店に納入されることによる紛失が多かったという。当時のシステムでは、生産者と卸売市場の二段階のみが想定され、多段階の流通経路全体におけるコンテナの動きを想定していなかった。そのため、生産者との間には回収システムの工夫や保証金の導入によりある程度散逸を防ぐことができても、川下レベルへの流出にはなかなか有効な対策を取れない。その結果、紛失分を補うためにコンテナを新調するため料金が値上げされ、かえってコンテナ利用が敬遠されるという悪循環が発生した。
 本稿で紹介する現在のコンテナ利用システムは、70~90年代前半のシステムとはかなり異なっている。第一に、コンテナを利用する産地・生産者はかなり広域に分布しており、卸売市場周辺に限定されない。第二に、卸売市場より川下の流通を担う小売業者やその他実需者からのコンテナ回収を想定したシステム設計がなされている。第三に、こうした広域かつ多段階の流通システムを前提としてコンテナの貸出と回収を専門的に行う事業者が存在する。次節ではその事業内容を紹介する。

3. コンテナ・レンタルシステムの現在

―イフコ・ジャパン株式会社を事例に―

 青果物流通向けコンテナをレンタルする専門的業者は幾つか存在する。レンタルの仕組みはおおむね共通している。今回は代表的な企業の一つであるイフコ・ジャパン株式会社(以下、イフコ社という。)の取り組みを紹介する。イフコはドイツに本部を構え、ヨーロッパをはじめ各地でコンテナ・レンタル事業に取り組んでいる。その日本法人であるイフコ社は1995年に設立された。
 イフコ社のレンタル・システムの概要を図1に示した。前節で説明した1970~80年代のコンテナ利用システムは、生産者・産地と流通業者の間のみで成立しており、両者を離れた段階に流出したコンテナは回収できない。しかしイフコ社のシステムでは、契約はイフコ社と産地の間でなされるものの、コンテナは両者間を離れて川中・川下の流通業者まで運ばれる。イフコ社自身の手により卸売市場や量販店で回収されたコンテナは、全国40カ所にあるデポ(配送拠点)に集められ、検品・清掃された後、再びユーザーにレンタルされる。同社の青果物コンテナ利用実績をみても、卸売市場への出荷を想定した農協系統出荷での利用が全体の約4割を占めており、多段階流通を前提とした回収システムが定着していることがわかる。

 青果物流通で利用される一般的なコンテナの例を写真1・2に示した。タテ・ヨコの寸法はヨーロッパの標準サイズである60センチ×40センチに統一されている。高さについてはかなりのバラエティがあり、商材の特性に合わせて選択できる。かつてのコンテナと大きく異なる点は、折り畳みが可能なことであり、空きコンテナを畳んだ状態で積み上げ保管できるため、省スペース化につながる。メッシュ構造のため、重量も標準的なサイズで1.6~1.8キロに抑えられている。耐久性も向上し、破損によるロスは年間で1%程度といわれている。

 イフコ社はコンテナの配達・洗浄・回収全ての作業を含めた料金を設定し、利用者に課金している。同時に保証金制度を採用し、回収率の向上を促している。ただし、日本では保証金に対する理解を得るのが難しく、説明に苦労するという。青果物の品目や規格の多様性ゆえ、一概にレンタル料金と段ボール箱価格を比較することは難しいが、その差はかなり接近している。
 段ボール箱に対するコンテナ利用のメリットとして、従来から、リユースによる環境負荷の削減が指摘されてきた。だがコンテナ利用の現場では、日々の作業に関連するより具体的なメリットも指摘されている。例えば産地では、耐水性に優れているのでほ場にコンテナを持ち込み、すぐに収穫物を詰めることや、通気性が良いので予冷時間を短縮できることが評価されている。また流通業者サイドでは、メッシュ構造のため内容物を出さずに品質チェックできることや、そのまま店頭でディスプレイできることが評価されている。
 一方、デメリットも存在する。現行の物流システムが段ボール箱での輸送を前提に設計されているため、一般的なかご車やパレット、トラックの荷台の寸法とコンテナのサイズに微妙な差異がある。産地の選果ラインの規格でも同様の問題がある。そのため、積載率の低下や作業回数の増加などが発生することがある。
 コンテナ利用の促進のため、さらなる利用料金の低下が期待されている。しかし、コスト低下を妨げている大きな要因は、市中に出回りながら利用されていない空きコンテナの滞留と紛失である。年間通してのコンテナ出荷数に対する回収数の割合は98%程度で均衡しているが、これはあくまで「のべ数」での把握である。実際には相当数のコンテナが流通各段階で滞留しており、その一部は回収にも至らず紛失扱いとなる。滞留コンテナの割合はコンテナ保有量の30%近くに達するのではという推測もある。滞留を防ぐため、イフコ社でもさまざまな啓発活動を行っているが、根本的な解決には至っていない。
 そこでイフコ社では、産地や実需者と連携し、政府による物流関係の支援事業も活用して、電子タグによるコンテナ管理および流通業務の効率化を目指す実証事業に取り組んだ。例えば、2009年度の「新技術活用ビジネスモデル実証事業」では、個体レベルでのコンテナ管理と入出力作業の効率化、さらにコンテナに搭載した商品に関する情報の管理とトレーサビリティの確立を目指し、イフコ社と農協、青果物集出荷業者、カット野菜メーカーとの間でタグ付きコンテナを利用した実証試験を行っている。
 実証事業で構築された情報システムは、コンテナ自体の受払を管理するシステムと、コンテナに積まれる商材(実験時はレタス)の入出荷を管理するシステムの二つである。コンテナ自体には電子タグを埋め込まず、クレジットカード・サイズのカードに電子タグを埋め込み、これをコンテナのホルダーに装着することで管理している。電子タグおよび装着カードそれぞれにコードが付され、それをスキャナで読み取ることでコンテナの移動履歴が作成される。実証試験時はイフコ社自身の体系に基づいてコードが付された。その後、コードの標準化を進めるために同業者や外部専門家も加わった委員会で検討のうえ、2011年には「青果用通い容器識別コードガイドライン」が策定されている。一方、入出荷管理システムでは、コンテナに積む商材の基礎的情報(産地・生産者・重量など)を記録し、コンテナのコードに関連づけることで、従来手作業で行っていた伝票作成や検収記録を自動化している。同時に、コンテナ単位で必要時にその流通履歴を追跡できるトレーサビリティを確立している。
 実証試験の結果、電子タグの活用により、コンテナの入出力に必要な作業の自動化と時間短縮、およびコンテナの受払業務の高度化に効果があることが確認された。また実際に試験期間中に発生したクレームに対しても、電子タグに関連づけられた諸情報を迅速に確認することができたため、トレーサビリティの確立にも有用であることが分かった。ハード面での基礎的な技術は概ね確立しているといえよう。しかし少数の企業しか参加しない実証実験では、保守管理費用が高くつく。そのため実験終了後のシステム実用化については、イフコ社がコンテナ管理システムを利用するのみにとどまった。青果物流通システムの各流通段階に普及するには、段階毎に同業者間の合意により一定数のハード(タグ情報の読み取り装置など)を整備する必要がある。またイフコ社自身はコンテナ管理システムの有効性を評価し、実際に利用しているものの、電子タグを装着したコンテナはまだ全体の2~3%である。

4. 産地でのコンテナ利用

―JAはが野を事例に―

 JAはが野は栃木県南東部の真岡市と周辺の4町の農協の合併により1997年に発足した総合農協である。管内ではいちご、なす、トマトなど各種野菜の栽培が盛んで、年間販売高215億7000万円(2011年度)のうち43%を野菜が占めている。中でもいちごは栃木県内でも有数の生産高を誇り、同JAの基幹的品目となっている。
 JAはが野における野菜のコンテナ集出荷は1990年代後半、合併前の旧JA二宮と生協との間の産直事業で始まった。当時よりイフコ社のシステムを利用しており、合併後は卸売市場や量販店向けの出荷にもコンテナ利用を拡大してきた。現在、野菜ではいちごのほか、なす、にら、たまねぎ、メロン、はくさいなど多様な品目でコンテナ出荷が行われている。
 特に基幹品目であるいちごでは、70%がコンテナ出荷されており、従来の段ボール箱出荷をしのいでいる。いちごの集出荷では個選共販システムを採っており、生産農家は収穫したいちごを自宅で選別・パッケージしコンテナに詰め込んでいる。コンテナはJAがまとめてイフコ社と契約してレンタルし、農家は必要数をJA物流センターにて随時引き取る。コンテナのサイズは60センチ×40センチ×18センチであるが、この中に小分けされたいちごのパックをタテ×ヨコ=5×2=10個、さらにコンテナ内にラック(中敷き)を敷いて上下に2段詰め、合計20個のパックをコンテナにセットする(写真3)。コンテナはJAの物流センターに出荷され、検品を受けたのち出荷先ごとにまとめられ、トラックにて配送される(写真4)。

 この一連のプロセスの中に、いちごでコンテナ利用が進んだ理由・メリットが隠されている。まず、個選出荷の現場では、農家における作業効率の改善が重要であるが、コンテナ利用の場合、段ボール箱に比べ格段に組み立て作業の労力を軽減できる。段ボール箱の場合、四隅のつくりに注意して組み立てなければならないが、コンテナではタテ・ヨコの側面パネルを順に立ち上げれば組み立ては完了する。この作業性の高さが農家から評価されている。もう一つのメリットは、ラックを使うことでコンテナ内のいちごパックどうしの接触が回避され、輸送中の痛みが少ないことである。また、JAはが野は環境ISO(ISO14001)を取得し、環境負荷の削減に取り組んでいるが、コンテナ利用はその目標にも合致し、組織全体としてコンテナ利用を促進しようとしている。いちごの出荷先業者は東京大田市場、全農東京センター、宇都宮市場など関東近郊の主要卸売市場・業者が60%、大手量販店・生協などへの直接出荷が40%となっている。ほとんどの出荷先でコンテナ回収は実施されている。段ボール箱は産業廃棄物としての処理が必要となるが、コンテナは適切に回収されれば処理コストは不要となるため、出荷先からもコンテナ利用は評価されているという。
 また、JAはが野ではパッケージセンターという物流センターを管内4カ所で稼働させている。パッケージセンターでは、管内農家が生産した青果物をコンテナで集荷し、独自の規格で選別・パッケージした後、量販店などに直接出荷している。栽培・収穫に専念したい組合員の出荷労力削減や、実需者のニーズを踏まえた規格の簡素化・実質化に貢献しているが、コンテナは集荷と出荷の両段階で活用されている。
 もちろん、改善すべき点やデメリットもある。1点目はコンテナのレンタル料金の水準である。いちご出荷の場合、コンテナ1個のレンタル料金は現時点でも段ボール箱5箱分(コンテナ1個に相当)の価格よりも若干高いという。農家もJAも上記のメリットを実感しているためコンテナを利用しているが、さらなる利用を促すには利用料金の低下が望まれる。実際、いちごに比べると他の野菜のコンテナ利用率は低く、20%程度である。もう一つの課題は、従来用いられてきた出荷用のロットや規格の調整である。コンテナを利用すると、従来の段ボール箱出荷に比べ、物流および販売上の最小ロットが大きくなる傾向にある。例えばいちごの場合、段ボール箱出荷であれば1箱に4パックが標準であるが、コンテナの場合は1ケース20パックである。多頻度かつ小口での流通・販売が浸透しつつある日本の小売業者にとって、20パックは最少ロットとしては大き過ぎ、かといってそれ以下のパック数で出荷すれば積載率の低下や精算上の困難を生ずる。そのためコンテナによる段ボール箱の全面的な代替はできず、段ボール箱単位の出荷もある程度保持する必要がある。またコンテナ詰めする場合の出荷規格についても、いちごの場合は段ボール箱出荷の規格をそのまま利用できたが、他の品目では微調整が必要な場合が多い。現在の物流システムが段ボール箱利用を前提として設計・運用されているため、こうした食い違いは時折発生し、川下の流通業者との交渉が必要になる。

5. まとめ

 野菜流通におけるコンテナ利用によって期待される効果は、主に環境負荷の削減と物流コストの削減であろう。このうち環境負荷については、多段階流通を特徴とする日本の青果物流通においてもレンタル・システムが商業ベースで稼働し、コンテナのリユースが定着しつつあること、またコンテナ自体の軽量化と操作性向上が進んだことから、一定の効果をあげているとみてよいだろう。コンテナ・システムのさらなる普及に向けては、利用料金を含めた物流コストのさらなる低減が重要となる。品目により前提条件が異なるので即断はできないが、段ボール箱と比較した場合の利用料金の差はかなり接近してきた。それでもコンテナ・システムを普及・定着させるためには一層の料金低下が期待されるところである。料金低下を妨げているのは、川中・川下段階におけるコンテナの滞留である。滞留しているコンテナをなるべく早く回収しリユースすることで、コンテナの保有量を削減でき、コスト削減につながる。また紛失も防ぐことができる。電子タグを用いたコンテナ管理システムと製品入出荷管理システムの一体的整備は、実証試験を経て基礎的な技術は確立されつつあり、コードの標準化も提唱されている。したがって原料野菜の食品メーカーへの直送や、産地と量販店・生協などとの産直など、生産者と実需者が直結する流通システムにおいては、初期投資をカバーできるだけの取引規模があれば導入は可能だろう。しかし日本の青果物流通は総じて多段階である。そのため必要なハードを流通各段階で普及させることについては課題を残している。また普及がある程度進みつつある段階で、流通業者間の協議による利用法・様式の共通化・標準化も必要になるだろう。
 また産地では、物流の現場における重要な課題において、結果論的ではあるが、コンテナのさまざまな有効性が評価されている。組み立て作業の容易さや積み上げてもつぶれない頑強さに由来する作業効率の改善、通気性の良さに由来する予冷時間の短縮や検品のしやすさなどである。こうしたメリットを産地の関係者に紹介し理解してもらうことも、コンテナ流通を促進するには大切であろう。


引用・参考文献

イフコ・ジャパン株式会社「新技術活用ビジネスモデル実証事業報告書」2010年。
食品チェーン研究協議会「食品流通効率化・高度化推進検討委員会最終報告書」2011年。
中国農業試験場「兵庫県南部地震が食料供給・農業に及ぼした影響に関する調査研究」『中国農業試験場研究資料』26、1995年。
藤島廣二・山本勝成(編)『小規模野菜産地のための地域流通システム』富民協会、1992年。


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