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調査報告(野菜情報 2013年4月号)


和寒町における越冬キャベツの取り組み

調査情報部 戸田 義久/村田 宏美


【要約】

 北海道上川郡和寒町では、晩秋に収穫したキャベツを越冬させる「越冬キャベツ」作りを行っている。これは、雪が降る直前に収穫したキャベツをそのまま畑に置いて、雪の下で保存するというものである。昭和43年に偶然に生まれた越冬キャベツにより、その後の和寒町における農業経営は一変した。冬場の安定した仕事により、本州などへの出稼ぎがなくなったことで、地域の活性化につながったからである。JA北ひびき(旧JA和寒町)のキャベツ部会を中心に高品質の越冬キャベツ作りを続け、付加価値のあるブランドとして地域を支えている。

はじめに

 和寒町は、旭川から北へ36キロの距離にあり、名寄盆地にあることから、夏は気温30度以上、冬は零下20度以下にもなる寒暖の差が激しい気候となっている。北海道でも有数の米どころとして知られているとともに、日本一の作付面積を誇るかぼちゃの産地であり、農業が盛んな地域である。
 この和寒町における越冬キャベツ栽培のはじまりは、40年ほど前にさかのぼる。秋キャベツを出荷しようとした生産者が、市場価格の暴落で出荷を諦め、畑に放置していた。そこに雪が積もり、翌春になって畑を見ると、青々としたキャベツが残っていた。これをきっかけに、JAのキャベツ部会はキャベツを越冬させることが出来るのではないかと考え、10年の試行錯誤を経て越冬キャベツの保存技術を確立させた。キャベツが雪の中で冬眠状態のまま長期保存できる、天然の冷蔵庫とも言えるこの方法は、市場動向を見ながら出荷を調整することができ、価格の安定化を図ることも出来る。また、雪の中に置けば置くほどキャベツの糖度が上がり、みずみずしくて甘みのあるキャベツとなる。
 越冬キャベツの取り組みについて、今回取材する機会を得たので紹介する。

1. 有限会社NKファームの概要

 有限会社NKファーム(以下、NKファームという。)は、個人では十分に活用できていないトラクターやコンバインなどの機械を共同利用することで農作業の効率化を図るとともに、販売力の強化などを目指し、平成17年に設立された。現在は従業員5人、研修生4人、中原浩一社長の10人で、水稲、小麦、大豆などの土地利用型農業と、露地野菜や施設野菜の栽培に取り組んでおり、キャベツ部会の一員でもある。
 NKファームは、消費者に安全な野菜を届けたい、作った野菜の評価を得たいという思いから、春先のアスパラガスに始まり、なすやトマト、冬場の越冬キャベツまで、年間を通して毎日旭川市内の直売所へ出荷している。なかでも越冬キャベツは人気があり、NKファームのここでの売上の1/5は越冬キャベツが占めており、米の販売額よりも多い月があるという。
 越冬キャベツについては、約8割をJAに出荷しており、残りの2割は旭川市内の直売所やレストラン、札幌市内の居酒屋などに卸しているほか、インターネット販売も行っている。

2. 越冬キャベツができるまで

 越冬キャベツは、6月中旬には種し、7月中旬に定植、雪が降る直前(11月上旬頃)に根切り作業を行って、一度雪の下で越冬させてから掘り出すというものだが、部会が取り組みを始めた最初の10年間は、品種選定と越冬方法について試行錯誤の連続だった。まず品種については、ゆっくりと時間をかけて生育するもの、長期間の保存に耐えうるものを選定していった。越冬方法については、キャベツに土が付着すると傷みやすくなるため根切りしたキャベツを穴あきマルチの上に並べ、同時に、穴があいていることで解けた雪の余分な水分を逃す。
 NKファームの中原社長によると、越冬キャベツ栽培において最も難しい点は、根切り作業のタイミングだという。まれに10月に雪が降る事もあるが、降雪が早まるとキャベツの根切り作業が集中し、労力が4~5倍もかかってしまう。また、根を切る前に雪が積もってしまうと、雪の中で根切り作業を行わねばならず、これもまたかなりの労力を要することとなる。
 越冬キャベツにとって最適な条件は、地表と積もった雪の間の温度が零度であることと、適度な水分が保たれていることだ。零度という条件だけでは、保存中に水分が失われてパサパサになってしまうが、雪が程良く解ける事でみずみずしさが残る。そのほか、雪質も重要である。和寒町の雪質はサラサラであるため、雪の重みでキャベツが潰れる心配もない。和寒町の気候は、越冬キャベツに適した条件が備わっているといえる。

3. 収穫作業

 越冬キャベツは、根切り作業という「収穫」と、雪の下から掘り出すという「収穫」の、いわば2度の収穫作業を要する。収穫が2回あるというだけでも通常のキャベツより手間がかかるが、気温マイナス20度という極寒の中で雪の下から掘り出すという作業は想像を絶する。
 積雪が20~30センチであれば手で掘り出せるが、50センチ以上にもなると手掘りでは難しいため、生産者の9割は油圧ショベルを用いて掘り出している。雪の下から掘り出したキャベツは、極寒の外気にふれると凍ってしまうが、しっかり生育したキャベツは芯が凍らずに表面の葉が凍るだけなので、ゆっくり元に戻るそうだ。

 掘り出したキャベツは鉄製の1トンコンテナ(以下、鉄コンという。)に入れ、クローラトラクターなどで畑から農道まで運び、トラクターに付け替えて各自の選果場へ運搬する。選果場では、A品、○A品、外品、外品(カット用)の4つの規格に分類し、ビニール袋に詰めて紐でしばり、荷造りを行う。ひと袋の重量は10キロで、詰められる玉数に応じて紐の色を分け、わかりやすいようにしている。

4. 品質へのこだわり

 JAに出荷した越冬キャベツは、部会での個選共販であるが、生産者ごとの品質格差をなくし、市場評価の向上を図るため、15年ほど前、他産地の視察からヒントを得て、抜き取り検査によるペナルティー制度を導入した。もちろん、生産者全員の理解を得るには苦労もあったが、市場評価向上を目指し、試行錯誤しながら定着させていった。具体的な内容は、荷造り、色、玉並び、カットの仕方、重量などのチェック項目を設け、10日に1回の割合で抜き取り検査を行い、品質が劣るキャベツを出荷した生産者にはペナルティーとして数パーセントの減額を課し、品質の良いキャベツを出荷した生産者へ分配するというものである。審査員は各地域の生産者から順次選出し、皆が審査員を経験する仕組みをとっている。このように、生産者全員が自分の目で品質の差を確認することで、部会内での品質の標準化を図ることができる。
 また、こだわりの越冬キャベツのブランド化に向け、平成22年2月には部会において、「和寒町越冬キャベツ」「和寒町雪の下キャベツ」の商標を取得している。

5. 循環型輪作体系の取り組み

 キャベツは連作障害の影響を受けやすいため、輪作体系が重要である。NKファームでは、キャベツを栽培したあとのほ場では、3年間はキャベツの作付けを行わないという。基本的な輪作体系は、キャベツ→かぼちゃ→秋まき小麦→大豆で、循環型の輪作体系がとれている。また、この地域では酪農との耕畜連携を取り入れており、酪農家とは麦かんとたい肥を交換し、そこに稲わら、もみ殻、野菜の残渣などを混ぜながら、2~3年かけて自家製の完熟たい肥を作っている。キャベツの作付け前に、土壌改良としてこのたい肥を大量に投入している。また、キャベツを収穫した翌年には、次作のかぼちゃにとってもちょうど良い養分が残ることとなり、肥料の節約にもつながっている。

6. 越冬キャベツ規模拡大の要因

 越冬キャベツの掘り出しは、昔はスコップによる手掘りで、極寒の中での一日の掘り出しや運送には限界があり、1農家当たり20~30アールの作付けが限度だった。しかし、重機や鉄コンを利用することで作業効率は格段に上がり、現在では1農家当たり1ヘクタール以上の作付けが可能となった。NKファームでも、輪作体系をとりながら毎年平均4ヘクタールを作付けしており、平成24年度は4.2ヘクタールを作付けた。
 越冬キャベツの規模が拡大した要因は、機械化だけではない。もともと、日本一の作付面積を誇るかぼちゃの大産地であったことも関係する。収穫したかぼちゃは、出荷するまで熟成させるための倉庫が必要であり、冬至まで出荷を計画している生産者も多いことから、ほとんどの倉庫は断熱対策を施してある。かぼちゃを栽培している大規模生産者のほとんどがこの倉庫を所有しており、越冬キャベツの選果場として利用できるのだ。これにより、一度に大量に掘り出したキャベツも、ある程度は選果場で保管可能となり、荷造り作業が調整しやすくなっている。

7. 地域への影響

 和寒町が越冬キャベツの産地として確立したことは、地域への影響も大きかった。それまで和寒町の多くの農家は、冬場に収入を得るため、本州へ出稼ぎに行っていた。しかし、越冬キャベツが冬場の安定した収入源となったことで、冬場でも地元に残り農業を続けられるようになり、地元での消費も増える結果となった。また、町が活性化することで、知名度も上がった。

8. 越冬キャベツ利用者の感想

 旭川市内にあるロワジールホテル旭川は、3年前からNKファームと越冬キャベツの取引を行っている。ホテルのビュッフェレストランにおいて地産地消に取り組んでいるものの、冬場はたまねぎ、ばれいしょ、にんじんなどの根菜類以外に地場産の野菜がなく、目新しい野菜を探していた。そんな折、当時の上川支庁(現川上総合振興局)から越冬キャベツを紹介してもらい、NKファームと取引を始めることとなった。
 ホテルの話では、越冬キャベツは甘さとみずみずしさがあり、特に芯の部分の甘みは強く、糖度は12~13度ほどあるという。生でも加熱してもおいしく、どんな料理にも合う万能野菜である。越冬キャベツは12月中旬から3月上旬まで取引しており、冬場の貴重な生鮮野菜であることから、ビュッフェレストランだけではなくホテル全体で活用しているという。特に1~2月は最も甘く、この時期はホテル全体で月に200キロ以上の利用があるそうだ。
 取引価格は毎年一定で、輸送費も含め、手頃な価格で取引が可能となっている。そこには、越冬キャベツをもっと世間に広めたいというNKファームの思いが込められているのではないか、とホテル側はいう。

9. 今後の課題、取り組みについて

 前述のとおり、1農家あたりの栽培面積は拡大したものの、和寒町でも高齢化による生産者の減少は大きいようだ。キャベツは重量野菜であることや寒い中での農作業となることから、高齢者にとっては辛い農作業となる。新しい担い手の育成や、さらなる輪作体系の確立、作業の効率化など、課題は多いという。
 コンビニでもカット野菜が店頭に並んでいる時代。中原社長は今後、越冬キャベツに付加価値を付けて販売することを考えている。自社で1次加工、2次加工することにより、雇用対策にもつなげていきたい。

おわりに

 偶然に生まれた越冬キャベツ。しかし、ブランドとして確立されたのは、その後の貯蔵方法や品種の選定など生産者の10年にも渡る試行錯誤の結果である。また、和寒町の特産として市場や消費者から高い支持を得ているのは、高品質を維持するために導入されたペナルティー制度と生産者の努力が実ったものだと強く感じた。さらに、NKファームは、大事な越冬キャベツというブランドを守りながら、深刻な担い手不足を解消するために6次産業化の導入など、和寒町における農業全体を考えている。
 最後に、調査にご協力していただいたNKファームとロワジールホテル旭川の皆様には、この場を借りて厚くお礼申し上げる。

写真提供:NKファーム、ロワジールホテル旭川


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