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調査報告(野菜情報 2013年3月号)


生産者支援を社是とする地方卸売市場
~出荷者が6,000名にのぼる地方卸売市場丸勘山形青果市場~

東京農業大学国際食料情報学部 教授 藤島 廣二


【要約】

 地方卸売市場丸勘山形青果市場(卸売業者:株式会社丸勘山形青果市場)は1990年代初期以降、卸売高の増加傾向を維持している全国的にもまれな卸売市場である。その要因は何かというと、一言でいえば「生産者支援=産地育成」活動のたまものである。その活動は大きく直接的支援活動と間接的支援活動の2つに分けることができる。前者は具体的には①生産者に対する苗木・資材等の助成と栽培防除講習会の開催、②コンテナの貸与とそれを利用したバラ集荷、および卸売業者による巡回集荷、③地元での生産経験のない新商品の生産奨励と、その定着のための安定価格での集荷など。後者は①スーパー・マーケット等の買い手側のニーズに応じた選別・包装の実施、②残留農薬検査と安全検査票による安全性の確認、等である。今後、卸売市場が生き残る上で、また国内産地を維持する上で、こうした活動の重要性はますます高まるものと思われるが、確実に国内産地を維持するためには、国や地方自治体がこうした活動の普及を図ることも重要と考えられる。

1. はじめに

 1990年代初期のバブル経済の崩壊以降、全国の青果物卸売市場において卸売量、卸売額とも著しい減少傾向にある。例えば1991年と2010年で比較すると、野菜と果実の合計で全国総卸売量は2,006万トンから2010年の1,454万トンへと28%減少し、総卸売額は5兆円から3兆3000億円へと34%も減少した。
 しかし、こうした状況の中、卸売高を逆に大きく増やしている卸売市場も存在する。その代表例がここで取り上げる地方卸売市場丸勘山形青果市場(卸売業者:株式会社丸勘山形青果市場)である。同市場の卸売高増大の最大の要因は、実は地元の山形県内を中心とする生産者に対する積極的な支援活動である。そのことは同市場へ出荷する県内生産者等の数の多さに端的に表れている。現在、その数は県内生産者が5,430名、県外の出荷グループが550団体にのぼるほどである。
 以下では、まず初めに地方卸売市場丸勘山形青果市場の卸売高の伸長度合を確認し、その後で同市場の卸売業者である(株)丸勘山形青果市場の集荷販売活動を、生産者支援の視点から具体的に紹介することにしたい。

2. 卸売高の急増を実現した卸売市場

 地方卸売市場丸勘山形青果市場(以下、丸勘青果市場という。)の開設は、制度上は中央卸売市場法から卸売市場法に移行した1971年である。が、他のほとんどの地方卸売市場と同様、実際の開設はそれ以前にさかのぼる。丸勘青果市場の場合は山形市銅町に丸勘北山形青果市場がオープンした55年が実際の開設年である。市場名と社名の「丸勘」はその最初の卸売市場を立ち上げた初代社長の井上勘左衛門氏の勘に由来している。
 丸勘青果市場はその55年の開設以降、2度の大きな転機を経験した。一度目は74年で、この時は二代目社長井上直洋氏(現会長)が新設の山形市中央卸売市場(75年4月開設)への不参加を決断した。その最大の理由は「多数の問屋等が合併して2卸売業者となるため、会社の代表者が多すぎ、まとまることが困難」と判断したことである。この判断の正しさは後に同中央卸売市場の2卸売業者のうちの1社が倒産したこと等で証明されたと言えよう。
 ただし、当時は中央卸売市場と地方卸売市場とのイメージ格差が大きかったため、山形市中央卸売市場への不参加は当然、系統からの集荷を著しく困難にした。そのため、丸勘青果市場の役員、従業員とも、各農家を直接回って集荷したり、販売先から注文を取って配送するなど、多くの苦労を重ねた。しかし、今から振り返ると、この時の苦労・経験があったからこそ、90年代初期から始まる大躍進が可能になったと考えられる。
 二度目の転機は、89年における旧所在地から現在地(山形市十文字)への新築移転である。これによって現市場用地の7,000坪(23,100㎡)が確保され、全建坪3,000坪(9,900㎡)に達する諸施設の設置が実現した。現在では第1売場から第3売場までの卸売場のほか、パッケージセンター、資材センター、さらには保管用冷蔵庫4基も置かれている。
 この移転を契機に新産地の開発や青果物農家の育成がさらに一段と強化され、91年以降、その成果が明瞭に現れた。そのことの概略を示したのが図1である。90年までは丸勘青果市場の卸売高の伸長率は山形市中央卸売市場や全国卸売市場の平均とほぼ同程度であったが、91年から両者を超えて伸び始めた。特に92年以降、同中央卸売市場を含む全国の大半の卸売市場の卸売高が減少し始めたのに対し、丸勘青果市場の卸売高は逆に顕著に増加し始めたことによって、山形市中央卸売市場や全国卸売市場平均との伸び率の格差が大きく開いた。実際、卸売額(野菜・果実の合計額)そのものの変化をみると、91年に山形市中央卸売市場が212億円、丸勘青果市場が22億円であったのが、2010年には前者が82億円、後者が100億円と、完全に逆転した。ちなみに、冒頭でも触れたように、全国の卸売市場の総卸売額は同じ期間に5兆689億円から3兆3369億円へと、3分の1強も減少した。

3. 直接的支援:栽培等の指導・助成と値決め・巡回集荷

 丸勘青果市場の卸売高増大の最大の要因は、地元山形県内を中心とする生産者に対する積極的な支援活動である。支援方法は1970年代後半から80年代後半にかけての苦難な時代に培ったものも多く、さまざまなものがあるが、まずは生産・出荷に直接かかわる支援策に限ると、主に以下の3点が挙げられる。

(1)苗木・資材等に関する助成と栽培防除講習会の開催

 その第1は、青果物生産に対する生産者の取り組みを極力容易にするための支援である。具体的には種苗・苗木や生産用資材(段ボール等)の購入にかかわる助成、および栽培防除講習会の開催である。
 先に述べたように丸勘青果市場の敷地内に資材センターがあるが、その中で農業関係資材専門店「ひまわり」(農業関係資材商社・山形日紅株式会社の出店)が種苗・苗木、農薬、肥料等を販売している。そして、そこで生産者が種苗・苗木や肥料、段ボール等を購入する場合には、青果物生産の拡大や品種・規格の統一等を目的に、丸勘青果市場が購入代金の一部助成や購入額に応じた商品券(山形日紅の店舗や卸売市場内で利用可能)の提供等の方法で生産者に対する支援を実施している。
 また、資材センターの2階に園芸研修室が設けられているが、そこに週2回(火、木の午前中)、2人の専門家が詰め、病害虫問題や施肥設計等の相談はもとより、土壌検査や残留農薬の測定等も行っている。さらに、同研修室において希望者を対象に野菜と果樹の栽培と防除に関する研修会を開いている。これらの相談や研修の費用は丸勘青果市場とひまわりが負担している。
 なお、2011年9月に丸勘青果市場は、住友化学株式会社と山形日紅との共同出資で農業生産法人「株式会社住化ファーム山形」を設立した。これは県内でのトマトといちごの生産力の強化とともに、農業後継者の育成を目的としたものでもある。
 住化ファーム山形は、住友化学の農業資材を活用し、地元の気候や土壌に適した栽培方法などの営農ノウハウを山形日紅が取引する複数の農家に導入する。この農家を組織化することにより、品質の同じトマトやいちごを地域で生産することができる。集荷と販売は丸勘青果市場が担当し、現在は、38アールの施設で試験的にカンパリトマトを栽培している。

(2)コンテナによるバラ集荷と巡回集荷

 直接的な支援策の第2は、生産者の出荷を容易にするためにコンテナ(通い箱)によるバラ集荷を実現し、さらに生産者のところまで集荷に出向く巡回集荷も行っていることである。
 集荷用のコンテナは普通の定型プラスチック・コンテナであるが、丸勘青果市場が所有し、無料あるいは有料で生産者に貸し出している。出荷先は当然、丸勘青果市場に限られているが、出荷する際、生産者は選別する必要はないし、包装する必要もない。バラでの出荷が可能なのである。これは特に高齢生産者にとって出荷しやすい方法と言えるが、青壮年の生産者にとっても生産規模を拡大できることなどから結構好評である。
 コンテナでバラ集荷した青果物については、品目によって取扱方法が異なるが、トマトやナス、あるいはプルーン等の場合は、市場敷地内において品目別、生産者グループ別に共選を行う。これによってスーパー・マーケット・チェーンにも販売しやすい同一規格のまとまりのある商品を作ることができる。ただし、ラ・フランスなどのように高級品で、しかも生産者間で品質が異なる傾向が強い青果物の場合は、共選ではなく、生産者ごとに選別・包装する。
 また、巡回集荷については現在、山形県内に67ヵ所の集荷拠点を設け、そこをスーパー・マーケット等からの帰りのトラックが回る方法で行っている。集荷拠点は篤農家の倉庫や山形日紅の店先など、さまざまである。生産者がどこの集荷拠点に出すかは自由である。集荷料は卸売市場から集荷先までの距離によって若干の違いはあるが、その多くは当該青果物の卸売価格の3%前後である。この巡回集荷は高齢生産者にとってはもちろんのこと、手間の少ない農家にとっても出荷する上での大きな助けになっており、丸勘青果市場にとっては集荷量の増加に大いに役立っている。

(3)新商品の生産奨励と定価集荷

 主な支援策の第3は、従来地元になかったような新商品を取り入れ、その生産を生産者に奨励するとともに、一定価格で集荷することによって生産者の安定的な収入を保証するように努めていることである。
 例えば、かつて山形県内では生産していなかった房採りトマト(ブランド名は「おやつトマト」)や福岡ながなすを初めて持ち込み、地元の生産者に奨励したのも丸勘青果市場である。現在では両品目とも卸売額が1億5千万円を超えるほどの看板商品に成長している。また、最近では米の減反で空いている育苗ハウスを利用してマンズナルインゲンやスティックセニョールを生産することも奨励している。特にスティックセニョールは9月下旬の定植で、11月下旬~3月下旬の収穫と、北国の農業であっても冬場の収入を確保できるという魅力がある。しかも、丸勘青果市場は値決めによって坪あたりの収入を保証できるように努めている。
 もちろん、こうした生産奨励は丸勘青果市場が生産者に種苗や苗木を渡しさえすればできるというものではない。新商品の産地作りに当たっては、まずは希望者を募って4~5人単位のグループを構成し、栽培講習会を行うことが必要である。商品化するためには同一規格で、それなりにまとまった数量が必要だからである。その上で、丸勘青果市場と生産者との契約によって一定価格での収穫物の引き取りを確約しなければならない。生産者にとっては当然、収穫物が売れるか否かが最大の関心事だからである。丸勘青果市場の佐藤明彦社長によれば、このようにして新商品の産地を育成するのに、通常3~5年はかかるとのことである。
 こうした産地育成の結果、丸勘青果市場が北国に位置しているにもかかわらず、また地元農業地帯の生産者の高齢化が著しいにもかかわらず、現在でも青果物の総卸売額の4割以上が地元山形県産と(野菜の県内産は3割、果実は7割)、総卸売額が100億円を超える卸売市場では珍しいほどの高率を維持している。

4. 間接的支援:選別・包装の代行と安全の確認

 生産者に対する支援策は、上述したような生産・出荷に直接かかわるものだけに限らない。卸売市場の販売先を拡大し、販売量を増やす方策も、結果的には生産者の収入の増加につながることから、生産者に対する支援であるとみることができる。そうした間接的な支援策として、主に以下の2点を挙げることができる。

(1)買い手のニーズに応じた選別・包装

 その一つの点は、スーパー・マーケット等の買い手側のニーズに応じて選別・包装を行い、売上の増加を図っていることである。
 前述したように、コンテナでバラ集荷した青果物は卸売市場内で選別しているが、さらに丸勘青果市場はその選別した荷を、同じ市場内のパッケージセンターにおいてスーパー・マーケット等の買い手側の個々の要望に応じて異なるパッケージングを行っている。特にスーパー・マーケットは競合相手と同じ包装であると価格競争を避けることができないため、互いに異なる包装を望む傾向がきわめて強い。最近は地元農産物であることの強調と同時に、いわば「究極的な製品差異化」の方法として、生産者の写真と名前が入ったシールの貼付を求めるスーパー・マーケットも現れているほどである。もちろん、小売間の競争という点からだけではなく、デパート等のように顧客の好む高級感のある包装を求めるところもある。
 そうした包装の重要性は山形県内の小売業者向けだけではなく、県外のスーパー・マーケットやデパート等への販売でもまったく同じであるが、特に県外向けの場合は他の卸売市場の卸売業者や仲卸業者への販売も多く、その場合、県内産青果物であることを明示する必要もあるため、現在では県内産については県内外向けを問わず、ほとんどの品目で外装に「山形青果出荷組合」という統一名称の入った段ボールを使用している。ちなみに、県外向けの主要販売品目は、サクランボ、房採りトマト、食用菊、ラ・フランス、りんご、柿、尾花沢すいか、かぼちゃ等の地元を代表する青果物が中心であるが、現在、その県外販売比率は3割前後にのぼっているとみられる。
 かくして、買い手側のそれぞれのニーズに応じた多様な包装を実行することによって、地元産青果物の販路の拡大に大いに寄与し、その結果として図1で見たような卸売額の大幅な増加を実現したと言える。

(2)残留農薬検査と安全検査票

 もうひとつの点は、山形県内生産者と一緒になって取り扱う青果物の安全性を確保できる仕組みを構築し、卸売高の増加に努めていることである。
 丸勘青果市場が販売面で最も留意しているのは、言うまでもなく、生産現場から始まる安全・安心対策である。そのため、表1に掲げた「安全・安心対策方針」を提示し、その実行を県内生産者に要請するとともに、自らも実行している。
 生産者に対する要請の第一は誓約書を毎年4月10日までに市場に提出することであるが(既に出荷者として登録している県内生産者の場合も、毎年の提出が義務づけられている)、その主な項目は農薬取締法の遵守と栽培防除歴の記帳・提出である。また、トマトやきゅうり等のように山形県の「やまがた安全・安心取組認証制度」に取り入れられている品目については、生産者は丸勘青果市場に出荷するためには、同「制度」に申請し、認証を得なければならない。そうした上で、最終確認の意味を込めて、生産者は出荷物の中に図2に示した「安全栽培責任票」を入れる必要がある。
 市場側の役割としては、誓約書や栽培防除歴、あるいは「安全栽培責任票」を確認するのはもちろんであるが、さらに既述した栽培防除講習会の開催と出荷品の残留農薬検査とが重視される。残留農薬検査は市場に出荷された青果物の中から1年間に150検体ほどを無作為に抽出して行っている。そのための検査費用は年間で400~500万円ほどに達するが、すべて丸勘青果市場が負担している。
 このように徹底して安全性の確保に努めてきたことが、県内はもとより、県外においても多くの関係者の支持を得たことは言うまでもない。そして、その結果が、前述の買い手側ニーズに応じた選別・包装と同様、販売先の拡大等による卸売高の増大にほかならない。

5. おわりに

 現在、農業生産者の高齢化は社会の平均を大幅に超えて進行しているが、そのため山形県内においても産地の縮小が著しい。丸勘青果市場は以上で述べたように、地元生産者の支援に極めて積極的であるが、それでも県内の集荷先産地の出荷量の減少を食い止めることができないとのことである。
 したがって、今後、丸勘青果市場の生産者支援ないし産地育成活動は、次のような方向に進むものと思われる。一つは、これまでに蓄積した生産者支援のノウハウを基に、支援活動を宮城県や秋田県などの周辺諸県へと一段と拡大する方向である。もうひとつは、「住化ファーム山形」のように青果物生産に直接参入する方向である。
 いずれも集荷先産地を維持する上で重視すべき方向と考えられるが、国内の生産力を確実に維持しようとするのであれば、国や地方自治体はこうした民間の活動だけに依拠するのではなく、率先してそうした活動が全国に普及するように努めるべきではなかろうか。


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