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調査報告(野菜情報 2013年2月号)


耕作放棄地を活用したコスト低減への取り組みと今後の課題
~鳥取県米子市の岡野農場の事例分析~

日本大学生物資源科学部 教授 下渡 敏治


【要約】

 わが国の食料消費支出の8割強を加工食品と外食が占めるようになっており、生鮮品だけでなく加工用の農産物の生産や生産物を加工して付加価値を付けて販売することが新たな農業の展開方向として注目されている。農業の6次産業化もまさにこうしたフードシステムの展開方向に沿った取り組みにほかならない。しかし、生鮮向けの生産と異なり加工用農産物を生産するには品質だけでなく生産コストの低減や安定した販路の確保などが重要となる。鳥取県では行政が中心となって新規就農者や法人を含めた地域農業の新たな担い手に耕作放棄地や遊休地を集積し地域営農活動を支援する取り組みを行っている。米子市の岡野農場では、これらの耕作放棄地を活用することによってコスト低減と加工用食材生産において顕著な成果を上げている。岡野農場の営農販売の基本は、①耕作放棄地の活用、②循環型輪作体系による高収量の実現、③自家製堆肥による化学肥料の節減、④加工事業との連携による生産物の完全利用、⑤量販店などとの契約取引による安定した販路の確保にある。今後ともこれらの取り組みが拡大し、地域全体としてコスト低減や品質向上が実現することに期待したい。

1.はじめに

 わが国の農業・農村は、農業就業者の高齢化や後継者不足等によって耕作放棄地や遊休農地が拡大し、全国各地の中山間地域では限界集落が増加するなど地域社会そのものが大きな危機に直面している。こうした中で、国内の食料品市場は消費の成熟化やデフレスパイラルの進展、廉価な輸入農産物の流入等によって国産農産物の市場が年々縮小するなど農業・農村を取り巻く経済環境は一段と厳しさを増している。こうした状況を踏まえて、政府や地方自治体等の行政機関や農業団体等が中心となって、農地集積による経営規模拡大や農業の6次産業化の推進等による農業再生や新たな地域振興策の推進に取り組んでいる。中でも鳥取県は全国的にも農産物の輸出振興等を含めて農業・農村の活性化に積極的に取り組んでいる地方自治体のひとつであり、農地集積や担い手育成の面でも顕著な成果をあげている。一方、農産物の消費市場では生産物に対するニーズも従来とは大きく変化しており、品質面だけでなく、価格の面でも手頃な値段、安定した価格帯での商品供給が求められるようになっている。したがって、生産現場でも市場のニーズに対応して高品質な農産物を手頃な値段で提供可能な供給(生産)体制の構築が求められているといえる。そこで、鳥取県が推進する遊休農地の集積・活用事業を利用して根菜類の大規模生産と加工事業を組み合わせることによって農産物のコストダウンに成功している鳥取県米子市の農業法人岡野農場の事例分析を通じて地域営農活動におけるコスト低減への取り組み、さらにはその重要な鍵となる農地集積のあり方と今後の課題について検討した。

2.鳥取県西部農業の概況と地域農業の振興方向

 米子市を中核都市とする鳥取県西部地域は肉豚、酪農などの畜産部門と梨、柿などの果実のほか、金額ベースでおよそ3割以上を占める白ねぎ、ブロッコリー、にんじん、トマト、スイカ、メロンなどの特産品生産の盛んな地域であり、鳥取西部農協の中期計画においても最も高い成長が期待されている農業部門のひとつである。中でも春ねぎ、夏ねぎなどの白ねぎとブロッコリーの両品目の作付面積はそれぞれ243ヘクタール、427ヘクタールと特産・園芸作物部門の84%を占め、販売金額でも8割(79.7%)を占めている(表1)。山間地が大部分を占める鳥取県にあって西部地区は干拓地を含めて比較的平地の多い地域であり、砂地の多い土壌が白ねぎ、にんじんなどの根菜類やスイカ、メロンなどの果菜類の生産に適していることもあってねぎなどの生産が盛んな地域である。白ねぎはヘクタール当たりの反収が80万円と比較的収益性の高い作物であるが、その一方で決められた規格にするための葉切りや皮むきなどの調整作業に手間がかかり、この作業に30万円程度の費用が必要となる。このため、2~3ヘクタール以上の白ねぎ生産農家では労働負担を軽減するために調整作業を出荷センターに委託している農家が多いという。昔はこの一帯はタバコの栽培が盛んであったが、現在ではタバコ農家はわずかしか残っていない。平成23年度の部門別の農業生産額を見ると、米、麦、大豆などの米穀部門が29億円、白ねぎ、ブロッコリー、花卉等の特産品部門が37億円、肉豚、肉牛、酪農等の畜産部門が19億円、梨、柿、いちじくなどの果実部門が8.5億円となっており、鳥取県の農業生産額(659億円)の15%程度を占めている。鳥取西部農協の第5次地域農業振興計画書によると、遊休農地の再利用等によって3年後の平成26年度には米穀類の生産額を105%に、特産品を128%に、果実類を107%にそれぞれ増産する計画であり、唯一畜産部門だけが現状維持にとどまる見込みである。これらの結果、全体の売上高も平成23年度の105億円から平成26年度には119億円へと13%程度増加する見込みであり、農業就業者の高齢化や後継者不足、それに起因した遊休地の拡大など地域農業の衰退が指摘される中で鳥取県西部地区の農業生産はこれらの問題を克服しながら着実に成長し続けていることがうかがわれる。

3.鳥取県農業農村担い手育成機構と遊休農地の集積

 鳥取県西部地区の営農の推進と農業振興において「財団法人鳥取県農業農村担い手育成機構」が果たしている重要な役割と機能を見過ごすことはできない。鳥取県農業農村担い手育成機構(以下、担い手機構という。)は、平成21年12月に(財)鳥取県農業開発公社と(財)鳥取県農業担い手育成基金の統合によって再発足した公益法人(平成25年4月以降)である。担い手機構は、法人等を含めた農業の担い手への農地の集積を図ることにより、地域農業を支える多様な担い手を育成・確保することによって地域が抱える農地問題を戦略的に解決することを重要な使命にしている。周知のように、平成21年12月の農地法の大幅な改正によって一般企業の農地賃借が可能となり、また農地取得の下限面積を弾力化することによって農地の利用増進を促す仕組みが制度的に方向付けられた。しかしながらそれが実効性のあるものになるには、遊休農地等の利用推奨や利用対策に関する政策的な支援が不可欠となっている。そういう意味において、鳥取県の担い手機構はまさに制度と実態のギャップを解消するための行政機関のひとつとして重要な役割を果たしているといえる。担い手機構の主な事業活動は、①担い手への農地集積、②新規就農者を対象としたインキュベーション機能の強化、③農業会議、農業委員会等との連携、④中海干拓地の有効利用とその対策、⑤担い手機構の事業を円滑に遂行するための人員と財源の確保である。とりわけ、①大規模経営体に対する農地集積の支援、②新規就農希望者に対して就農能力に対応した研修プログラムを作成し、これらの就農希望者が地域に根付いて営農できるような「着地型」支援体制の展開、③中海干拓地の彦名干拓地の有効活用による営農再生に向けた取り組みが重要な事業内容となっている。表2に示すように、事業管内の市町村は境港市、米子市、伯耆町、南部町、江府町、大山町、琴浦町、日吉津村の2市5町1村にまたがっており、農地面積では大山町の4,030ヘクタールが最大で、以下、米子市3,040ヘクタール、琴浦町2,880ヘクタール、伯耆町1,670ヘクタール、南部町1,230ヘクタールの順となっており、管内全体では14,147ヘクタールの農地を保有している。農業地域の類型区分では、①都市的地域、②平地農業地域、③中間農業地域、③山間農業地域に分かれており、平成22年度の実態調査によると管内の耕作放棄地は718ヘクタール(管内農地の約5%)に達し、市町村別では米子市の227ヘクタール、境港市の192ヘクタール、大山町の191ヘクタールで全体の85%を占めている。このうち、農地保有合理化事業によって売買された農地が22.7ヘクタール、件数にして104件であるのに対して、賃貸借によって利用されている農地が418.4ヘクタール、件数にして453件に達しており(表3)、売買による農地移動よりも貸借関係によって地域内で移動した農地が面積的にも件数的にも多数を占めていることが分かる。一方、営農再生が重要な課題となっている弓浜、彦名両工区の合計面積は220.9ヘクタール、このうち既に農家等への売渡しが完了した農地は196.1ヘクタール(88.7%)に達し、貸付地が21.8ヘクタール、管理地が3.0ヘクタールとなっている(表4)。市町村別に賃貸借面積と売買面積の実態を示したのが表5と表6である。それぞれの農地移動についての詳細は省略するが、水田では貸借によるものが5,409.8ヘクタール(担い手機構が扱った農地が17.4ヘクタール)、売買によるものが47.0ヘクタール(担い手機構扱いが8.1ヘクタール)、畑地では賃貸借によるものが1,457.8ヘクタール(担い手機構扱いが405.7ヘクタール)、売買によるものが24.1ヘクタール(担い手機構扱いが24.1ヘクタール)となっており、賃貸借による利用権移転が田畑合計で6,867.6ヘクタールであるのに対して、売買による田畑の所有権移転はわずかに71.1ヘクタールにとどまっている。しかも担い手機構が扱った農地面積でも賃貸借が423.1ヘクタールであるのに対して、売買による移動は11.9ヘクタールにとどまっている。つまりそれは、鳥取県西部地域においては所有権移転を伴った農地の売買よりも、貸し手と借り手の契約によって賃借料を支払って農地を有効活用することの方が地域振興や経済面からも極めて合理的な方法であるということであり、今後とも所有権移転を伴わない農地の有効利用を推進することが地域営農の再生や新規就農希望者の就農のうえでも極めて重要な課題であることがうかがえる。

4.岡野農場の経営概況と遊休農地を活用した大規模食材生産

1)岡野農場の事業概要

 有限会社岡野農場は地域内の遊休農地を積極的に活用してだいこん、さといも、白ねぎ、ばれいしょ、ごぼう等の根菜類を大規模に生産し、さらにそれらの食材を自社工場で加工することによって付加価値を付け、量販店のイオンやコンビニエンス・ストアのローソン等と取引しているユニークな農業企業(アグリビジネス)である。元々、青果物の卸問屋であった岡野青果は大型スーパーのダイエーと取引してきた。しかしながら、その後、主要取引先であったダイエーの業績が悪化したことに加えて、1990年代以降、日本市場に中国産の廉価な青果物が大量に流入したことによって岡野青果は経営危機に陥った。価格競争では輸入品に対抗できないことを痛感した岡野社長は、経営の存続には取扱品目の差別化が必要であると判断し、平成6年に有限会社岡野農場を設立し、自ら外国産農産物に対抗できる農産物を生産することを決意した。当時、岡野社長は2ヘクタールの農地を所有しており、会社設立と同時に、農林水産省の干拓事業によって新たに造成された干拓地3ヘクタールを購入した。購入金額は10アール当たり180万円であった。これが基点となって、現在ではかんがい設備など全天候型の施設を備えた農地を拡大し、経営面積も160ヘクタールに拡大している。岡野農場では地域貢献の一環として地域内の遊休農地を全て借り上げることを基本方針に、たとえ1畝(1アール)、3畝の小面積の農地であってもいとわずに借り上げることにしており、その結果、岡野農場のほ場は2市5町1村に分散している(表7)。

 主要生産物は、だいこん(100ヘクタール)、さといも(30ヘクタール)、白ねぎ(17ヘクタール)、ばれいしょ(10ヘクタール)、ごぼう(10ヘクタール) などであり、これらの農産物を青果として販売する一方、青果だけの販売では十分な利益が確保できないことから、だいこんはおでん用に、規格外のだいこんは切り干しだいこんとして販売するといった具合に生産物の全量を利用し尽くすことによって再生産価格以上の利益を生み出している。岡野社長によれば生産物を利用し尽くし利益を生み出すことが営農販売の基本だという。今やかつてのように品質さえよければ高く買ってもらえる時代ではなくなっており、良いものを作ってそこそこの値段(適正価格)で買ってもらう時代へと市場環境が大きく変化している。このため、岡野農場では、ばれいしょは青果用と加工用(おでん用)に、ごぼうは青果用と加工用(きんぴら用)にといった具合に裾物(規格外品)を商品化し、規格外品を商品化することによって単位面積(10アール)当たりの収益性を高める経営を実践している。例えば、だいこんは規格の大きさによって販売価格が大きく異なっており、L規格が最も高値で取引されるが、最も値段の安いS規格であっても、おでん用や切り干しだいこんに加工し付加価値を付けて平均価格帯で販売することによって、スーパー等の量販店が提示する値段との折り合いを付けている。しかしながら、作付期間が年1回に限られることから、直営農場のだいこんを加工できる時期は10月以降であり、10月までは北海道からだいこんを調達することによって年間を通して加工を行っている。岡野農場の全出荷量はさといも、ばれいしょ、白ねぎなど年間1万トンに達しているが、8~9月は北海道からだいこん2,000トンを購入している。
 だいこんなどの生産物は境港市の干拓地や大山山麓など県中西部のおよそ150ヘクタールの耕作放棄地を活用して、県内で最初となるエコファーマーに認定された岡野農場独自の特別栽培(有機栽培、減農薬栽培、自家製堆肥)によって生産されており、生産費を節減するため種子、肥料、農薬、マルチ用ビニールなどの生産資材は複数の業者(商人)から低価格で調達している。10アール当たりの生産コストは、青果用ではおよそ10万円プラス人件費であり、10アール当たりの借地料は8千円が相場であるが、農地のクリーニングに必要な休耕地(輪作を含む)を含めた地代を2万円と算定している(図1)。通常、生産規模を拡大することによって単位面積当たりの生産コストが低下するスケールメリットが働くが、岡野農場の場合には農地(規模)の拡大と生産コストは必ずしもパラレルな関係にはないという。むしろ岡野農場におけるコストダウンの要因は、①自家製堆肥(畜産物厩肥)使用による高価格窒素の削減、②補助金を活用した農機具・機械施設の購入による経費節減、③循環型輪作体系による高収量生産(ヘクタール当たり10トン)にあるといってよい。こうして生産された生産物を加工事業とリンクさせることによって余すところ無く利用して販売するという独自の経営手法が高収益を生み出す源泉となっている。栽培方法は、基本的に露地栽培とマルチ栽培の2種類であり、これらの農作業に必要な資本装備としては大型トラクター10台のほか、作物毎に異なる収穫機が整備されている。土壌条件の良いほ場に作付することによって反収も上がり、結果的に高収益の確保につながるという。

2)量販店との契約取引による大規模食材生産

 岡野農場のもうひとつの特徴は、農業生産と加工事業を一体化した経営を実践していることである。その典型的な事業として、コンビニエンス・ストア大手のローソン(東京)と共同出資してローソンの全国店舗1万店で販売するおでん用だいこんを供給する農業生産法人「ローソンファーム鳥取(70ヘクタール)」を平成23年5月に設立し、農場で生産されただいこんなどは岡野農場のグループ会社である「有限会社大根屋」の加工工場でカットから味付けに至るまで加工して出荷している。農業生産法人「ローソンファーム」の出資比率は岡野農場75%、ローソン25%の割合であり、県内に散在している膨大な耕作放棄地を借り入れることによって生産効率を高め、年間売上高10億円を目指している。平成25年度以降は、岡野農場がローソンのおでん用だいこんの生産を一手に引き受ける計画であり、生産物確保のため、ローソンファームから1時間以内の範囲に10ヘクタールの農地を確保し、残りの40~50ヘクタールの農地も早急に手当する予定である。農地の面積拡大を目指す目的は単に生産性の向上だけではない。農地をクリーニング(休耕)することによって連作障害を防止するためであり、将来的には200ヘクタールの農地が必要になるという。農業生産にとって自然災害や天候異変は最大の障害であり、連作することによって自然災害への抵抗力が失われることから農地のクリーニングが必要となる。
 生産物の加工事業は敷地内に併設されたグループ企業「大根屋」の加工工場で実施されており、規格外のだいこん、さといもの一次加工が中心であり、加工品は量販店のスーパー、イオン、ダイエー、ローソンに出荷されている。出荷は配送専門業者によって量販店の配送センターまでトラックで配送されており、配送費用は量販店の配送センターまでの費用を岡野農場で負担している。生産が大規模化するに伴い生産物の販売ルートの確保が重要となり、岡野農場では50店舗以上を所有する量販店(スーパー)との契約取引を基本に大手スーパーや生協などとの間で取引しており、商品を配送する配送センターの数は数10カ所に及んでいる。イオンとの取引では、イオン側が、①こだわり、②特別栽培、③GAP認証を取引条件にしており、価格交渉は年1回、岡野農場が再生産に必要な価格条件を提示して値決めし、他の生産者との価格競争は一切しないという。
 加工は商品によって一次加工で出荷されるものと二次加工されるものとに分けられており、加工工場は100人体制で運営されている。一方、農場は男性従業員30人、女性従業員35人の60人体制で運営されている。農場での生産・管理作業には主に中国・河南省から派遣されている農業研修生が従事している。好景気のときには人材の確保が難しいが、現在は景気後退の影響で人材の確保が容易であり、近くにある陸上自衛隊の退職者を65歳まで再雇用している。

5.遊休農地の活用と加工事業によるコスト低減への取り組み

 岡野農場では、安定した販売先である量販店との取引を維持しながら、生産物の反収アップにより再生産価格で生産物を販売することが最大の課題となっていた。この課題解決のために、地域内に散在している遊休農地、耕作放棄地を活用することによってコスト低減が可能であると判断し、耕作放棄地等の借入れを積極的に推進してきた。岡野農場のコスト低減は、徹底した機械化と省力化、反収低下の原因となる連作障害を克服することにあった。連作障害を克服したことによって反収が増加した結果、栽培品目数を増やすことが可能となった。連作障害を防ぐには輪作等による農地のクリーニングが必要であり、農地のクリーニングには作物栽培に使用する農地以上の農地の確保が必要となる。このため、表8に示すように、岡野農場では地域内の耕作放棄地、遊休農地を賃貸借契約によって次々に借り入れており、大山山麓の2市8町村に所有する160ヘクタール(このうち100ヘクタールの農地は担い手機構が中間保有している)の農地に加えて、今後更に100ヘクタールの農地を借り入れすることによってごぼう、ばれいしょ、だいこんなどの根菜類の産地化を目指している。これらの借入農地では減農薬栽培による農産物を生産したい考えである。岡野農場が借入を希望している農地は、①4トントラックが出入りできる耕作放棄地であること、②農地面積が広いことが望ましいが、面積の大小は問わない、③点在した農地でも可、④土質は不問(ただし砂利が無いことが条件)の4つである。以上のように、岡野農場では地域内に散在する多様な条件の耕作放棄地、荒地を借り入れることによって、生産性の向上を図ると同時に、耕作放棄地の活用、荒地の再利用によって地域活性化や地域振興にも大きく貢献している。
 次に、岡野農場が借り入れている干拓地の売渡しや貸付はどのように行われているのか、その流れを示したのが図2である。まず売渡しの場合には、現在当該農地を借受けて利用している借受者に優先的に売り渡されることになり、借受者に購入する意思がないと確認された場合には公募によって売渡農家を募集することになる。それでも買受け希望者が現れない場合には、その農地は貸付けに回されることになる。貸付けは公募によって行われ、新規就農者等に優先的に貸付けられることになるが、それ以外の農家に対しては貸付け年数が1年と制限されている。ただし、貸付期間終了後に買受け等がない場合には更新が可能となっている。農地の買受・借受の手続きは、まず買受・借受申込書に記入し、県農林事務所に提出、審査会での審査を経て申請者に審査結果が通知されるが、審査にパスすれば担い手機構の農地保有合理化事業によって売渡しあるいは貸付が実施される(図3)。岡野農場が利用している賃貸借事業による農地、耕作放棄地の借入れ、貸付けと賃借料の支払いの流れを示したのが図4である。土地所有者は担い手機構を介して耕作者に農地を貸し付け、耕作者は担い手機構経由で農地を借入れ、その使用料を機構経由で土地所有者に支払っている。中間に担い手機構が介在することでトラブルや賃借料の不払いといった問題が回避されることになり、土地所有者も耕作者も安心して農地の貸し借りが可能となる仕組みである。

6.地域営農活動におけるコスト低減の課題と行政の役割

 以上、農業企業「岡野農場」の耕作放棄地、荒廃地を活用したコスト低減と高品質農産物生産への取り組みについてその概略を紹介してきたが、岡野農場が会社設立後、順調に拡大発展してきた背景には、担い手機構による岡野農場への耕作放棄地、干拓地のあっせん、農地の集積という支援活動の役割が大きかったといえる。農業就業者の高齢化、廉価な輸入農産物の流入や、人口減少・少子高齢化の進展によって縮小する食料品市場の下で、わが国の農業環境は極めて厳しい状況に置かれているものの、将来の農業構造のあるべき姿とその担い手育成という観点から見て、耕作放棄地・遊休農地の活用に対する期待は大きいと言わざるを得ない。とりわけ、需要が拡大している加工用農産物の生産は、生産規模の大小が市場での優劣を決定する場合が多く、生産者(企業を含む)にとっては農地の確保が重要な課題となる。岡野農場の取り組みから学ぶべき点は、①耕作放棄地の活用による規模拡大、②加工事業との一体化による生産物の完全利用、③安定した販路の確保、④特別栽培など独自の栽培方法の工夫によるコスト低減、⑤循環型輪作体系による高収量の実現にある。しかしながら、岡野農場の経営手法が経営規模や経営環境、販路等の異なる全ての生産者や経営主体に適応できるわけではない。それぞれに条件の異なる各々の地域の地理的条件、自然条件、市場条件等にマッチした地域営農の仕組みを作り上げることが重要であり、6次産業化を含めて地域内で生産、加工・調理、流通、消費などの諸機能を縦横に組み合わせることによって、地域総合力の強化に努めることが肝要である。農地の確保、耕作放棄地の利用ひとつをとっても地域ぐるみの取り組みが必要であり、農地に関する情報提供など地域農家と農業委員会の連携が不可欠である。鳥取県の場合には、担い手機構が農地のあっせん、集積を通じて多様な担い手を支援しており、岡野農場のような大規模経営から新規就農を目指している小規模経営まで幅広く支援している。そもそも地域営農活動とは農地の確保から作業機械の装備、生産資材の調達等のハード面から営農・技術指導、担い手の研修事業、さらには経営管理、生産物販売等のソフト面までをひとつのシステムとしてとらえることが重要であり、さらに近年では、販売先であるスーパーなどの量販店の大型化と、高齢化や単身世帯の増加などによる消費者ニーズの多様化にいかに対応するかが営農活動を大きく左右するようになっている。多様化し、変化の激しい農産物市場において個々の生産者や経営主体が独自に対応することには限界がある。行政機関が長年培った情報機能、開発機能、資金融資機能、リスクヘッジ機能などの諸機能を駆使して地域営農活動に必要な情報や機能を提供し生産者を支援していくことが重要である。今回の担い手機構の取り組みのように農地の売買・貸借のあっせんによる遊休農地の集積・活用、農地の利用増進、契約の履行、労力の軽減、就農支援研修、就農支援資金の貸与等々において行政組織が連携して地域農業の振興・強化に寄与してきた事業が多々存在している。今後ともこれらの取り組みが増加し、それらの結果として生産性の向上につながり、岡野農場の取り組みのすそ野が広がり、地域全体としてコスト低減や品質向上が実現されることに期待したい。

参考資料

(1) 鳥取西部農業協同組合『第5次地域農業振興計画書・第5次中期経営計画書』
(2) 鳥取西部農業協同組合『第18回 通常総代会資料』平成24年4月27日
(3) 鳥取県『財団法人鳥取県農業農村担い手育成機構改革プラン』平成24年3月
(4) その他「鳥取県農業農村担い手育成機構」提供資料

謝辞

 本報告書を取りまとめるに当たりご協力いただいた有限会社岡野農場 代表取締役 岡野修司氏及び財団法人鳥取県農業農村担い手育成機構 理事長 上場重俊氏並びに鳥取西部農業協同組合 参事 中西広則氏に深甚より感謝申し上げたい。


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