調査情報部 戸田 義久
村田 宏美
北海道上川郡東神楽町にあるJA東神楽では、昭和60年から生産者が栽培した野菜の一部を買い取り、野菜の冷凍加工事業を開始した。これは、生産者の経営安定を考え、他産地と出荷が重なり単価の下がる時期に、一定価格で冷凍加工向けに買い取り、生産者の手取りを確保するために始めたものである。国産野菜にこだわりをもつ学校給食、病院、福祉施設などからの需要は高く、生産者、JAおよび実需者の3者による「JA東神楽加工・業務用野菜サプライチェーングループ」により、消費者のニーズや需要量に基づく計画的な安定供給の取り組みが行われている。
JA東神楽加工・業務用野菜サプライチェーングループは、「平成22年度(第4回)国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」において、農林水産省生産局長賞を受賞したグループのひとつである。
生産者、流通関係者および実需者の3者が連携し行っている冷凍加工向け野菜の計画的な安定供給へのさまざまな取り組みについて、今回取材する機会を得たので紹介する。
JA東神楽は昭和23年4月に設立され、大雪山連峰のふもとに広がる上川盆地の中央部を管轄する。平坦部は肥沃な土壌を生かし、北海道でも有数の米どころとして知られ、稲作を中心とした農業が盛んである。山間部はてんさい、ばれいしょ、小麦の畑作を中心に発展したが、近年はグリーンアスパラガス、とうもろこしなどのほかに、ほうれんそう、みずな、小松菜など施設野菜の栽培も進められている。平成16年2月には、JA西神楽と合併し、野菜は北海道の供給基地としての農業基盤を作り上げている。
JA東神楽の各蔬菜の生産者部会を取りまとめている東神楽蔬菜研究会(以下、「蔬菜研究会」という。)では、実需者のニーズに適合した品質、規格などに対応するため、生産者のグループ化を図り、生産効率の向上や品質維持に向けた取り組みを行っている。需要に見合った原材料の生産量を確保するため、JAの加工計画と生産者の営農計画を連動させ、毎年3月にJAの営農指導員との個別打ち合わせや生産者会議、栽培講習会が行われている。品種、栽培面積や作付時期などの生産計画を作成し、加工計画に合わせた栽培を行うことにより、安定供給に努めている。
JA管内のグリーンアスパラガス生産者は、平成23年度で64名おり、JAによる栽培講習会や現地研修を行い、気象条件に合わせて収穫を1日数回行うなど原材料の品質向上に努めている。23年度の栽培面積は86.9ヘクタール、生産量は188.1トンで、この一部(37トン)が加工用に仕向けられている。
収穫は、ミニコンテナを使用し、速やかにJAの予冷庫または地区ごとに設置してあるサブ予冷庫(3カ所)に生産者が搬入している。JAが1日に2回、各サブ予冷庫から原材料を集荷し、JAの共選場の予冷庫に運び入れることにより、流通関係者までのコールドチェーンを確立し、原材料の鮮度を保持している。
スイートコーンは、32名の生産者で栽培しており、JAの営農指導に基づき、個々の栽培面積、は種時期、品種などの調整により、原材料の出荷時期が集中し、品質の低下をきたさないように取り組んでいる。また、冷凍加工用のスイートコーンは、傷を付けないようにするため、機械による収穫ではなく手もぎで行っている。
加工施設の受け入れ量については、加工能力に基づき、JAの指導により各生産者の収穫量が決められている。以前は、良好な天候により収穫が重なり、加工施設に原材料がたまり、原材料を傷めたことがあったため、JAの営農指導員は収穫時期が近くなると毎日ほ場を巡回し、生育状況の確認と技術指導をしているという。
輸送には約500本が入る小さめの鉄コンテナを使用し、収穫後の劣化を防ぐため、速やかに予冷庫で原材料を冷却し、計画的に加工処理を行っている。実需者からは、スイートコーンの先端不稔がなく形が良くボリュームのあるものが求められていることから、適正な栽植密度と追肥の指導を行っている。
23年度の栽培面積は100ヘクタール、生産量は198万本。栽培面積の半分ずつを生鮮用と加工用に分けている。
かぼちゃは、37名の生産者で栽培しており、10月上旬から12月上旬の間に加工するため、完全に熟してからの収穫と、収穫後の風乾の徹底を行い、貯蔵性を良くし加工歩留まりを上げる取り組みを行っている。23年度のかぼちゃの栽培面積は29ヘクタール、生産量は440トンで、うち、加工用は17ヘクタール、生産量は270トンである。かぼちゃは、約1トンが入る網コンテナを使用したバラ出荷により、輸送のコスト低減に取り組んでいる。
露地栽培のグリーンアスパラガスは、道内産地の出荷時期がほぼ同時であるため、出荷の重なる時期に単価が下がる。その時期に冷凍加工用に仕向け、加工原料価格を一定にすることにより、生産者手取り価格の底上げが図られた。スイートコーンとかぼちゃは、生食出荷から見ると単価は安いが、原材料のバラ出荷などで流通コストを抑えている。生産者の使用している出荷容器はすべてJAが所有している通いコンテナで、生産者へ貸与することで資材のコスト低減につながっている。
JA東神楽は、組合員の農業経営の安定や発展のため、組合員の収益の向上や農産物の付加価値の向上を目的として、組合員が生産した作物の販売や作物を原料とした実需者ニーズに即した加工製品の製造に取り組んでいる。
JAは、昭和60年から急速冷凍技術を導入し、グリーンアスパラガスの急速冷凍品の加工事業に取り組み始めた。もともとは、市場への出荷では価格の低いM規格のグリーンアスパラガスを冷凍して、端境期において有利な価格(生食用よりも5割程度高い価格)で販売したのがきっかけである。露地栽培のグリーンアスパラガスは5月下旬から7月下旬までの収穫期間であるが、6月に入ると価格の下落が著しく、その時期に集中して冷凍加工の原料として加工処理を行うとともに、生食で価格の高いL規格は生食の需要を中心に販売し、MとSの規格は加工用の原料として仕向けている。現在では、スイートコーンやかぼちゃを含めた冷凍加工事業で、生産者の手取りを確保している。
JAは、国産冷凍野菜の有利販売に取り組むため、生産者の蔬菜研究会、実需者のイズックス株式会社(以下、「イズックス」という。)と連携し、冷凍野菜原料の安定供給の取り組みを行っている。しかし、食品衛生法の改正や実需者の多様な要望などにより、次第に事業を続けることが難しくなった。これを解決するために、国の補助事業を利用し、平成20年から2カ年に渡り、総事業費3億5千万円をかけて食品衛生や加工品の品質向上に必要な冷凍加工施設の設備を整えた。実需者のイズックスからは、製造方法、品質改善、衛生管理、原材料の品質改善、品種の選定まで幅広く技術指導を受け、一次加工品の品質改善につなげている。
JAは、社団法人冷凍食品協会(以下、「冷凍食品協会」という。)に加入しており、冷凍食品協会からは定期的に加工施設の監査が行われている。20年からの施設改修工事によりエアシャワーや金属探知機等の導入、従業員への衛生教育などを行うことにより、今年の冷凍食品協会による監査において、4年間という一番更新期間の長い免許を取得することができた。JA担当者によると、これは常に衛生面に気を付けており、また、実需者などによる視察で指摘されたことを確実にクリアできている証しだという。
JAは、組合員から買い取った野菜を実需者が求める形態で安定的に供給する体制を確立するため、生産者および取引量の多いイズックスを含む食品製造事業者等主要4社と国産原材料供給・利用協議会を設置し、加工・業務用野菜の需要拡大に向けた検討会を開催している。原材料生産の規模の拡大や機械化、輸送方法の改善などによるコストの低減、栽培履歴の記帳や残留農薬分析、細菌検査などによる安心・安全の確保、また、生産者の生産拡大や良質原材料生産による国産原材料の供給力強化、利用促進、加工方法や加工時期、貯蔵方法などによる一次加工品の品質向上について検討している。
天候などの影響による原材料の収穫量減少や品質低下への対応については、生食向けから転用することで出荷量を確保をしている。ただし、かぼちゃについては、加工用と生食用とでは品種(味)が違うため、相互に回すことはできない。また、近隣のJAから原材料の調達を行うこともあるが、加工品の販売額が決まっているので、買い入れ単価が高い場合は購入を控えるという。その他にトレーサビリティがしっかりしている産地からの調達も行っている。実需者には出荷量が不足する場合は他産地からの調達などの対応をお願いしている。また、豊作時は、収穫時の調整やJAの加工場の操業時間の延長などにより、加工処理量を増加させ対応している。増加分は実需者であるイズックスに発注数量以上の引き取りを依頼し協力を求めている。なお、発注量を超えた分の販売価格は同じである。
イズックスは、野菜全般について冷凍を中心に取り扱っており、国内は北海道や九州、国外は中国などから食材の原材料や一次加工品を調達し、食品製造事業者や食品小売事業者などに販売している。内訳は、輸入約7割、国産約3割(金額ベース)で、売上は冷凍野菜を中心に年間約53億円、取扱量は年間約2万7千トンとなっている。国内の産地から調達する原材料や一次加工品は、安心・安全の品質基準が高い学校給食や福祉施設など、国産野菜にこだわりを持つ取引先の要望に応えている。
イズックスは、取引先に国産原材料を使用した冷凍野菜を紹介し、国産にこだわりを持つユーザー向けに安定供給を基本に契約的な販売を行っている。また、消費者、実需者、小売店などのニーズをきめ細かく把握し、それを基にJA東神楽と一次加工の連携を図り、スイートコーンは1本ものから軸付きカットコーンまで、ニーズに合せた各種サイズを製造、かぼちゃは各種カットサイズを製造し、実需者が希望する規格を納入し、輸入品との差別化を図り国産野菜の需要拡大を図っている。
JAとは、昭和63年12月に設立した前身である蝶理フーズ株式会社の時から、冷凍のグリーンアスパラガス、スイートコーンやかぼちゃを取引しており、イズックスにとっては、国産原材料調達の重要な産地となっている。特にグリーンアスパラガスは、ピーク時にはJAと年間50トンの取引をしていた。JAは産地加工に取り組んでおり、原材料を収穫後、直ちに加工処理が可能なため、品質評価は高くなっている。
このように、国内産の利点は、安心・安全はもちろんのこと、小ロットや小さなカットでも対応できることや、旬の時期に加工できることである。
イズックスは、取引先からのニーズに対応するため、JA以外にスイートコーンは4社、かぼちゃは7社と、必要量を複数社から購入している。これは、各冷凍加工工場によって、製造の得意な規格があるため、その特徴を活用しているのと、不作による加工品不足をなくすために道内でも複数の産地と取引してリスクを軽減している。
全国的に取引産地を探しており、天候等により収穫量に影響がある場合、国内他産地から供給を受けている。価格については、需給関係により変動し、不足するときは、高値で買い取ることもある。
また、JAには豊作により処理しきれない原材料をほかの加工事業者に案内したりと、冷凍加工品の購入だけではなく、余剰の原材料を他社に斡旋するなど仲人役も行っている。
イズックスは、冷凍食材のほかに環境関連資材や産業資材の販売も行っており、JAが平成20年に冷凍加工施設を改修する際に、食品加工の専門家がいなかったJAに対して、作業環境の改善、衛生管理に必要な備品の提案など設備に関する協力や衛生管理手法に関する助言を行った。イズックスが食品加工に関するノウハウをJAに提供することは、より安全な原材料確保につながっている。
また、イズックスは省エネ対策につながるとして、加工施設にある配管バルブから逃げる熱を遮断するために、親会社である泉株式会社で製造販売しているインシュレートジャケット(断熱保温材)の提案協力も行っている。
ここ数年は、台風などの影響もあり原材料の生産が減少しているという。特にかぼちゃは、生産者の高齢化により生産が減少しており、原材料としては不足している。JAとしては、生産者にかぼちゃの作付けを指導したいのだが、生産者の高齢化で手作業による収穫作業がネックになっているという。
冷凍野菜は、1~2年は保存ができるので在庫として管理でき、安定供給できるが、輸入冷凍野菜に比べるとやはり値段が高いこともあり、需要のある学校給食や病院以外では、売りにくいのが現状である。最近では、輸入冷凍野菜の需要が増えており、自然解凍して食べられ、品質管理されている一歩進んだ冷凍食品に成長しているという。輸入冷凍野菜は、現地の工場ごとに全ロットについて、農薬検査が実施されており、製品は出荷するまでに検査を行っている。また、国内では、自主的に抜き打ち検査をしており、厳しい検査を受けている。今後、輸入冷凍野菜に対抗するには、国産冷凍野菜の更なるコスト低減、差別化や新商品の開発が課題となるだろう。
今回の調査において、国産冷凍野菜の製造は3者の協力のもと、供給網が構築されていることを確認した。特に実需者であるイズックスから製造方法や衛生管理などのノウハウを提供されることにより、品質の良い加工品の製造につながっているのではないか。JAもそれに応えるように衛生管理やコスト低減の方法、原材料の生育状況や出荷見込み量などの意見交換を徹底している。国産にこだわる消費者のために、製造するJAと販売する実需者としての責任感が伺えた。品質の高い国産冷凍野菜を生産するために、安定した取引関係に向けた信頼関係を構築しているからこそできることであろう。
今後は、JAの扱っている生鮮野菜を冷凍に加工することで付加価値を付けて、数量限定で病院や老人施設などに紹介したいと考えているという。
最後に、調査にご協力していただいたJA東神楽とイズックスの皆様には、この場を借りて厚くお礼申し上げる。
写真提供:JA東神楽