調査情報部 村田 宏美
戸田 義久
東四国契約野菜安定取引協議会は、平成18年度から加工用キャベツの契約取引を始めた、生産者、流通関係者、実需者によるグループである。
収入の安定を求めた生産者、低コストでの調達が可能な仕入先を求めた流通関係者・実需者が結束して、安定的で継続的な取引を目指し、コスト低減や不作時のリスク対応に取り組んでいる。
日頃から密な情報交換や現場視察を行うとともに、天災によるアクシデントを共に助け合いながら乗り越え、信頼関係を築いている。
東四国契約野菜安定取引協議会は、「平成22年度(第4回)国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」において、当機構理事長賞を受賞したグループのひとつである。
生産者、流通関係者、実需者の結束により、加工用キャベツの安定供給を目指した本グループの取り組みについて、今回取材する機会を得たので紹介する。
徳島県のJA板野郡で加工用キャベツの取り組みが始まったのは、平成18年である。当時、キャベツの市場価格が安く、生産者は収入の安定を求めて栽培品目を模索していた。生産者とその思いを受け止めたJAは、徳島市内で加工用キャベツの取り組みを行っている団体を視察し、実需者の需要が高いと感じたことから、試験的に栽培を始めることにした。生産者数4人、作付面積約80アールからのスタートだった。
地域の生産者の興味をひき、翌年の19年度には生産者数20人、作付面積約6ヘクタールに急増。しかし、急激な増産は、収穫遅れや品質低下を引き起こすこととなり、計画出荷への対策や契約取引を行う上で組織化の必要性が生じ、20年度に「JA板野郡加工用キャベツ部会」(以下、「部会」という。)を発足した。発足時の部会員数は32人だった。
平成24年度の部会員数は約45人で、JA板野郡や全農とくしまも取り組みに加わり、「加工用キャベツ50ヘクタールの作付で1億円の売上」を目指し、日々励んでいる。
まずJAは、毎年2月に生産者から品種ごとの希望作付面積を取りまとめ、全体の希望をみながら協議・調整し、3月に取りきめを行う。そして6月の部会総会において、計画が決定される。
生産者は、JAが作成した品種ごとの作型表をもとに栽培作業を行う。栽培品種については、毎年試験的な品種を数種取り入れており、品種と作型による出荷期間の延長も図っている。生産者サイドからすると、栽培しやすくて収量効率の良い品種を取り入れたいところだが、流通・実需者サイドから貯蔵性に優れた品種などの要望があるため、三者で協議しながら品種選定を行っている。
肥料や農薬の使用については、部会で取り決めを行うとともに、出荷前に栽培履歴書の提出を義務付けている。もちろん、出荷前に㈳徳島県植物防疫協会において残留農薬検査を実施し、安全性を確保している。
またJA板野郡は、板野郡内の板野町、藍住町、北島町、上板町、旧吉野町、旧土成町の6町7JAが合併したJAであるため、各地域を代表する役員を選任し、定期的に役員会を開催することで、地域の生産者の栽培技術向上を目的とした情報交換を行っている。そのほかにも、農業支援センターの技術支援や種苗会社による栽培講習会などを行い、栽培技術の向上を図っている。
加工用キャベツは、JAが保有する1,700基の大型網コンテナ(以下、「網コン」という。)で市場に出荷している。部会組織の発足により県の補助事業の対象となり、20年度に700基、21年度に1,000基を購入した。網コンの利用については他産地の事例をモデルにしているが、積み方はオリジナルである。ほ場で収穫しながら網コンに詰めていくが、単に放り込むのではなく、網コンと接触する部分にキャベツの芯側を向け、あとは葉と葉、芯と芯が重なるように交互に積み、なるべく傷がつかないように詰めていく。
網コンの利用は、出荷資材費の低減と出荷作業の効率化を実現した。また、部会組織で肥料や農薬を一括購入することで、大口発注による低価格での購入が可能となり、生産経費を削減している。出荷規格は1.2キロ以上で、全農は過去のクレームをもとに、出荷不可となるものを示した出荷規格表を作成している。この出荷規格表は、生産者が目で見て分かるように写真付きで作成されており、出荷規格を簡素化することで、収穫作業や出荷ロスの軽減にもつながっている。
部会での加工用キャベツの取り組みは、生産者が栽培に専念し、JAが栽培などの支援を行い、全農が契約交渉やクレーム対応を行うことで役割分担が明確化し、発展につながったようだ。
現在は、全農やJAが持っているノウハウを実践しているところであり、「50ヘクタールの作付で1億円の売上」という当初の目標の道半ばにあるという。
今後も、栽培面積の拡大、生産者の所得向上を目指し、他の作物の後作としての農地の利用推進や遊休農地の利活用によるほ場の確保のほか、作業の効率化を図っていく。また、加工用キャベツ専用の予冷庫の設置や部会内で作業を助け合う互助会組織の発足を検討するとともに、絶えず品種や販売先の模索を行い、産地の維持、発展につなげていきたいと考えている。
香川県観音寺市の株式会社観音寺地方卸売市場(以下、「観音寺市場」という。)は、青果物およびこれら加工品の卸売りを行っており、現在の正社員数は23人である。
現在、売上の約65%を野菜が占めており、中でも加工用野菜(特にキャベツ、たまねぎ)のシェアは増えているという。冷凍ほうれんそうの残留農薬問題や冷凍ぎょうざ中毒事件以降、安心・安全という点から国産野菜の需要は大きいものの、これだけの価格競争のなか、また、原発事故による風評被害があるなかで、メーカーサイドが加工用を中心に輸入物に流れる可能性は否めないようだ。観音寺市場は、国内の農家所得を守っていくことが、国内産地存続につながると考えている。
観音寺市場では、6次産業化に向けた取り組みとして、平成22年7月に農業生産法人を設立した。加工用野菜のシェアが増えていることや、生産者の高齢化が進むなか、今後、重量野菜の入荷が危ぶまれるのではないかと、将来を見越しての設立だ。また、市場が価格設定できるという利点もある。現在、加工用たまねぎ約4ヘクタールなどを栽培しており、農業生産法人で栽培した野菜は、全量市場の買取となっている。
そのほかに、食育も含め、野菜消費拡大に向けた取り組みも行っている。国民健康・栄養調査によると、香川県民の野菜摂取量は全国の中でも低く、女性はワースト1位、男性がワースト2位である。これをうけ、24年3月、「香川県卸売青果ネットワーク」が設立された。これは、県内の卸売市場5社が連携し、地場農産物の効果的なPRや産地の活性化を図ることを目指したもので、地場産農産物をおいしく食べるためのレシピを作成して地元紙に掲載したり、生産者と消費者の交流促進を目的とした食事会などを開催しており、観音寺市場もそのメンバーとなっている。
香川県三豊市の株式会社細川食品(以下、「細川食品」という。)は、加工食品向けに冷凍加工原料を提供するほか、冷凍調理食品の製造を行っている。
取扱品目はキャベツ、ほうれんそう、ねぎ、たまねぎ、にんじんなどで、ほとんどは原体で納めているが、一部、にんじん、たまねぎ、キャベツなどは自社でカット加工も行っている。
青果部門全体の取扱量は年間7,000~8,000トン、うち、キャベツの取扱量は約3,000トンである。キャベツの仕入先は、香川、徳島、群馬、北海道などで、全て国産。キャベツは、メーカーからのニーズの高まりもあり、取扱量は増えているという。
国産野菜の魅力は、安心・安全という面での優位性にあった。ところが、原発事故以降、メーカーも敏感になっており、国産から輸入に切り替えようとする動きもあるという。しかし細川食品では、自主検査など出来ることは行い、今後も国産野菜を推進していきたいと考えているようだ。
今後の課題は、地場産野菜の消費を増やしていくことである。まだ実際の取り組みとはなっていないが、県内のJAと組んで、地場産野菜商品を開発したいと考えている。
部会、観音寺市場、細川食品による加工用キャベツの契約取引が開始されたのは、平成18年だった。
観音寺市場では、加工用需要の増大を背景に、流通経費のかからない近県で、かつ、安定供給できる仕入先を探していた。その矢先、人づてに「JA板野郡が加工用キャベツの栽培を始めた」と聞き、JAへ視察に行った。JAでも取引先を探しているところであり、話し合いの末、試験的にキャベツ約80アールの取引を行うこととなった。そして、観音寺市場は、以前からの取引先であり、国産原材料の低コストでの調達を求めていた細川食品へ話を持ちかけた。この取引は、それぞれの需要に見事にマッチしたことからスタートした。
売買契約は全農とくしまと観音寺市場で交わしており、出荷期間は11~6月。作付面積契約で、価格はオールシーズンの固定価格である。キログラム当たりの契約単価は、毎年6月に開催される部会総会時(観音寺市場も出席)に、話し合いで決定される。流通経費は観音寺市場が負担しており、市場手配の運送会社がJAへ集荷に行く。
作付面積契約であるため契約書には取引数量の記載はないが、作付面積計画や月ごとの予定出荷数量は部会総会で決定され、市場側でもおおまかな数量は把握できる。それとともに、毎月最低1回はJA担当者、全農担当者、部会長などがほ場を視察しており、全農は作柄状況について観音寺市場へこまめに報告し、市場との連絡を密にしている。もちろん、総会で決定した作付面積計画や予定出荷数量、全農から報告された作柄状況は、観音寺市場から細川食品へ伝達される。また、観音寺市場や細川食品も、JA同行のもと、定植後や収穫前など、年に何度となくほ場視察を行っており、より正確な状況確認が可能となっている。
前述のように、産地サイドでは、網コンの利用により出荷資材費を削減するとともに、収穫調整作業の簡素化により生産効率を高めて収量をあげるなどしている。また、流通、実需者サイドでは、近県との取引ということで流通コストの削減につながっている。
不作時の対応として大切なことは、産地との情報交換を密にし、早めに対応できる体制を整えておくことである。全農からの作柄状況の報告により、観音寺市場や細川食品は、不足に備えて入荷が多かった時期のキャベツを自社冷蔵庫で貯蔵し、調整しながら対応している。
また昨年は、9月の定植期に2度の台風にあい、ほ場の約3分の1が悲惨な結果となった。この時全農担当者は、ほ場からサンプルのキャベツを採って市場へ持ち込み、現物を見てもらった上で観音寺市場、細川食品との三者による協議を行い、出荷規格を若干変更することで調整を図った。価格も、基本的には契約取引単価を用いるのだが、この時は不足分の調整として小ぶりなものの出荷を促したため、生産者の収入低下を抑えるために、三者協議により単価を上げる措置をとった。
生産者、流通業者、実需者ともに、現在の取引数量を今後もっと増やしていきたいと考えているようだ。取引数量が増えれば、その分天災などによる不作時のリスクが増えるため、リスク回避をいかにしていくかが今後の課題となる。また、更なるコスト低減も課題となる。物流コストの抑制はもちろん、JAとともにより計画的な栽培を推進することで、観音寺市場や細川食品での貯蔵コスト低減に努めていく。
東四国契約野菜安定取引協議会は、グループ名のとおり、安定取引を第一に目指している。
取引の継続には、信頼関係を大切にし、お互いに共存し合える環境が必要であるが、このグループの取り組みには強い結束力を感じた。取材において「9割5分は人間関係だ」という発言があったが、流通業者や実需者も頻繁にほ場を訪れることで生産者との一体感を得て、不作時にも臨機応変に対応することができたのではないだろうか。
もちろん、今後取引数量が増えれば、人間関係だけでは解決できないことも多くなるであろう。それを見越し、全農とくしまでは資金面での支援として、国などの補助事業の活用も考えているという。
最後に、調査にご協力いただいた東四国契約野菜安定取引協議会関係者の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げる。
写真提供:全農とくしま