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調査報告(野菜情報 2012年9月号)


地域の活性化における食育の取り組み

調査情報部 戸田 義久/村田 宏美


【要約】

 群馬県利根郡みなかみ町では、平成23年12月7日に「みなかみ町スポーツ・健康まちづくり宣言~笑顔っていいよね~」が町議会にて議決され制定された。これは、町全域をステージとして、みなかみ町が、町民や観光客が笑顔で美しく健康でいられるよう、まちづくりを実践していくというものである。
 この趣旨に沿ったまちづくりを具体化するため、みなかみ町では、「みなかみハピネス計画」を立ち上げ、分野ごとに企業との協働によるプロジェクトを現在7つ予定している。
 その中のひとつの「ビューティ&ヘルスプロジェクト」では、宣言の趣旨に賛同した株式会社ドール(以下、「ドール」という。)と手を組み、平成24年3月20日に「ドールランド みなかみ」(以下、「ドールランド」という。)をオープンさせた。食育をテーマに、野菜と果物を用いたさまざまな体験ができる施設として、地域の活性化に役立っている。

1. みなかみハピネス計画

 群馬県の最北端に位置するみなかみ町は、利根川源流の町として知られ、谷川岳や温泉などの魅力ある観光スポットを数多く有する町である。また、豊かな自然と起伏に富んだ地形を生かし、いちご、さくらんぼ、ブルーベリー、りんごなど多くの野菜と果物が栽培されている。都心からのアクセスも良く、近年はラフティングなどのアウトドアスポーツのメッカとしても注目されている。町を訪れる観光客は増加傾向にある一方で、町の過疎化は進行している。そこで、町の来訪者をさらに増やし、町の財産でもある豊かな自然を多くの人に知ってもらい、ゆくゆくは町への移住を考えてもらいたいという思いから、「みなかみハピネス計画」を立ち上げた。
 みなかみ町は、それぞれの分野ごとに民間企業と協働でさまざまな事業の展開を図っており、「みなかみハピネス計画」はこれらまちづくりの総称である。

2. みなかみ町とドールによる「ビューティ&ヘルスプロジェクト」

 「ビューティ&ヘルスプロジェクト」では、健康づくりの推進や観光・農林業の振興などを、まちづくりの目標としている。このプロジェクトに名乗りをあげたのが、ドールである。
 ドールは、健康と美容のための食生活の実現を経営理念に掲げており、プロジェクトの内容と見事に合致した。また、自社の思いを伝えられる場であると考えた。町としても、ドールのネームバリューにより認知度のアップが見込まれ、双方にとって利点があるとして、みなかみ町とドールによる協働プロジェクトが立ち上がった。
 ドールでは、子どものころから正しい食生活習慣を身につけるため「食育」は必要不可欠であると考え、その一貫として幼稚園などの子どもたちを対象にしたイベント活動を平成15年から行っている。将来の日本を担う子供達にもっと野菜や果物に関心をもってもらいたいと考えている。
 みなかみ町とドールが考案したプロジェクトのコンセプトは、次世代を担う子供たちに、野菜と果物を用いたさまざまな経験ができる施設をつくり、野菜や果物の価値の啓蒙活動を図っていくというものである。
 また、忙しい毎日に追われ、時間がないことを理由に規則正しい食事が取れない人や生活習慣病の人たちに、フィトケミカルやビタミン、ミネラルを豊富に含む野菜や果物を日々の食生活に積極的に取り入れてもらう必要性がある。
 以上のことから、平成24年3月20日、食育をテーマとした体験施設であるドールランドがオープンした。

ドールランド建屋外観

3. ドールランド

 ドールランドは、もともと地域にあるものを生かしていきたいという考えから、一般財団法人みなかみ農村公園公社(旧財団法人新治農村公園公社)が管理運営するフルーツ公園・桃李館(とうりかん)をリニューアルし、ドールランドとしてオープンしたものである。リニューアルにかかった経費は3,800万円で、1,400万円をドールが負担し、残りをみなかみ町と一般財団法人みなかみ農村公園公社が折半した。
 ドールランドでは、約6.5ヘクタールの広大な敷地のなかで、いちごやりんご、さくらんぼなど10種類におよぶ野菜や果実を栽培しており、年間を通じて季節ごとの果実や品種、生育過程に触れ、収穫まで体験することができる。

いちごのハウス

 また、果物を使ったジャムやパンの作り方など、より果物をおいしく食べられる方法を楽しく学べる手作り体験教室が開催されている。そのほか、フルーツカフェではフレッシュフルーツジュースやフルーツジェラート、野菜と果物を用いたスムージーを提供しており、おみやげコーナーでは地元農家の新鮮な野菜などの販売も行っている。また、季節ごとに移り変わる景色が楽しめる半屋外のガーデンレストランでは、野菜や果物のほか、地元素材でもある和豚もちぶたを使ったバーベキューを展開しており、焼きバナナなど新しい試みもある。

キッズスペースのある館内

地元素材を用いたバーベキュー

 来場者数、客単価、売上ともに、オープン時と比較して20~30%増となっているが、なかでもカフェコーナーでの売上が多く、野菜と果物を用いたオリジナルのスムージーが人気となっている。このスムージーは、バナナやブロッコリー、セルリーなどから作られており、忙しい中でも手軽に野菜と果物を摂取することができるため、家庭でも気軽に作ってほしいという啓蒙活動の一環にもなっている。

スムージーとフレッシュフルーツジュース

 また、ドールで試作しているバナナ粉を用いたパウンドケーキやクレープの調理体験イベントも実施している。バナナ粉は、バナナとしての栄養価の高さも特徴である。ドールとしても、新しい商品のテストマーケティングの場として、ドールランドを活用している。
 ここでは、ドールが培ったノウハウを生かしながら、野菜と果物の「採る」「作る」「食べる」を体験できる。旬の美味しさ、食べ方の知識を自然に得ることで、野菜と果物を通して、健全な食生活の実践のきっかけづくりができる食育の場となっている。

4. 今後の目標

 今後の目標は、品質を高めながら安定した収量を確保することである。栽培は、天候に大きく左右されるので、通年で収穫できるよう近隣の契約農家とともに栽培技術を向上させることである。また、栽培繁忙期の雇用の確保が問題点としてあがっており、これらを改善して収穫量の増大を図ることが課題である。現在、収穫体験施設での栽培は果物と一部の野菜となっているが、今後はいろいろな野菜を視野に入れている。
 また、みなかみ町との協働プロジェクトであり、PTAや地元の学校との連携が取りやすい環境にあることから、積極的に子供達に食育のメッセージが伝えられるような活動を考えている。
 ドールランドは、地域の生産振興を目的に運営されている施設でもあるため、生産・販売基盤を強化するとともに、近隣農業関係者の生産力向上を図れるよう、今後も連携を強化していくこととしている。

5. おわりに

 自然豊かなみなかみ町は、行政と民間との協働により、野菜や果物の観光・農林業振興を図っている。
 ドールランドは、単に果物狩りをする場を提供するだけではなく、子供達やその家族への食育や健康と美容の増進を図る取り組みを行っており、双方の取り組みに対する積極的な姿勢を感じた。
 最後に、調査にご協力いただいたドールランドの関係者の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げる。

写真提供:ドールランド みなかみ


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