日本大学生物資源科学部
教授 下 渡 敏 治
鳥取県では、平成21年にロシアのウラジオストックとの間に国際定期貨客船が就航したのを契機に、全国農業協同組合連合会鳥取県本部(以下「全農とっとり」という。)が主体となって、ウラジオストック向けにすいか、メロン、梨といった農産物を輸出している。平成22年には、ロシア沿海地方との友好交流協定を締結し、幅広い分野での交流や協力関係を強化している。ウラジオストックは、ロシア沿海地方の海の玄関口として、シベリア鉄道によるロシア内陸部や中国東北部への交通のアクセスが良く、農産物輸出の拠点として注目されている。
現地では、すいかなど日本産の農産物は甘くておいしいとの高い評価が得られているが、農産物輸出のロットが小さいため物流コストが高く、販売価格が割高となり一般の消費者には手が届きにくいものになっている。
現在、中四国地方の他県との広域連携による多品目の輸出や販路の拡大を図ることで、物流コストを引き下げる工夫を始めており、本格的な農産物輸出に向けた取り組みが始まろうとしている。
全国有数の農産物の生産県である鳥取県では、日本梨のほか、らっきょう、すいか、白ねぎ、ブロッコリー、にんじん、柿、葉たばこ、花卉などの多種多様な農作物が生産されており、中でも鳥取ブランドのすいか、らっきょう、日本梨は全国的にも広く知られている。
一方、鳥取県は「二十世紀梨」の輸出において長い歴史と優れた実績を有しており、生産農家はもとより、農業団体や行政が一体となって鳥取県産農産物の輸出促進に積極的に取り組んでいる。全農とっとりでは、従来から輸出の重点品目になってきた「二十世紀梨」を中心とした日本梨、果物類に加えてすいか、メロン、らっきょうなどの野菜類の輸出拡大に取り組んでおり、平成21年6月に、鳥取県境港と韓国・東海港そして極東ロシアのウラジオストック港を結ぶ国際定期貨客船(DBSクルーズフェリー)が就航したのを契機に、ほかの国内産地に先駆けて未開拓の市場であるロシア沿海地方のウラジオストックに対して、すいか、メロンなどの輸出を開始している。本報告では、農産物の輸出産地として古い歴史と実績を有する鳥取県が地域農業の中で農産物輸出をどのように位置づけ、今後どのようにして輸出に取り組んでいこうとしているのか、「全農とっとり」の輸出事業への取り組みと鳥取県農林水産部が実施している輸出支援事業を中心に、その輸出事業の概略を紹介し、今後の展望と課題を探ることにしたい。
山間地が総面積の大部分を占め耕地率が10パーセントに過ぎない鳥取県では、3大河川に開けた扇状地の水田地帯で水稲栽培が、県東中部の中山間地域の傾斜地と黒ボクと呼ばれる火山灰が堆積してできた丘陵地帯で梨を中心とした果樹生産が、さらに黒ボクの畑地と砂丘地帯で野菜の生産が、大山山麓で酪農経営が、中山間地域で肉牛の生産がそれぞれ展開されている。平成22年の県内総農家戸数は3万1,953戸、耕地面積は3万5,100ヘクタール、平成21年の農業産出額は659億円に達しており、農業就業者の高齢化と就業人口の減少が顕著となる中で農業産出額が増加に転じるなど全般的に見て鳥取県の農業生産は堅調な推移を示しているといってよい。農業産出額に占める部門別の内訳を見ると、畜産部門が223億円(33.8パーセント)と最も大きく、以下、野菜の185億円(28.1パーセント)、米の146億円(22.2パーセント)、果実の60億円(9.1パーセント)、その他の25億円(3.8パーセント)、花卉の20億円(3.0パーセント)の順である(図1)。
図1 鳥取県の農業産出額(2009年)
鳥取県もほかの都道府県と同様に、農家人口の高齢化による農業就業人口の減少、農地面積の減少、農産物価格の低迷による生産(販売)額の減少といった問題に直面しているが、農地の効率的な利用、優良農地の保全・確保、新規就農者の確保などによって、平成20年度の農業産出額は702億円と前年に比べて20億円(2.9パーセント)増加しており、これに伴って生産農業所得も237億円へと前年比で17億円(7.7パーセント)増加するなど、地域の特色を生かした農業生産が着実に進展していることがうかがえる。
県内では全国的にも広く知られた多くの特産物が生産されており、芝の生産では全国2位、砂丘などを利用したらっきょうの生産では2位、すいかが4位、日本梨が5位、白ねぎが6位、ブロッコリーが10位、にんじんが11位、柿が16位、葉たばこが16位と全国的に見ても多品目が生産額の上位に名を連ねている(表1)。中でも鳥取県の自然条件、土壌条件を生かしたすいか、白ねぎ、ブロッコリー、二十世紀梨の生産が有名であり、大阪を中心とした近畿・関西市場への農産物の供給基地として重要な役割を果たしている。同県の農業生産額の2割強を占めている野菜の販売額の内訳を見ると、白ねぎが28パーセント(約31億円)、すいかが24パーセント(約26億円)ブロッコリーとらっきょうがそれぞれ13パーセント(各々13億円以上)とこの4品目で総生産のおよそ8割を占めており、ほうれんそう、ミニトマト、にんじん、メロン、トマト、キャベツ、ながいも、だいこん、いちご、そのほかが約2割を占めている(図2)。
県内の生産地を産物別に区分すると、東部地域では米の生産が多く、中部地域は果物の生産に特化し、西部地域では野菜の生産が盛んである。品目別の販売額で見ると白ねぎとブロッコリーの販売では西部地域が8割以上を占め、すいかは中部地域が生産の5割弱を占め、らっきょうと白ねぎは東部地域に産地が特化していることが分かる(図3)。今回の調査対象品目でもあるすいかの年次別作付面積と販売(出荷)量を示したのが表2である。平成14年には470ヘクタールであったすいかの作付面積は年々減少する傾向にあり、平成23年の作付面積は301ヘクタール(対14年比36パーセント減)と大きく減少している。作付面積の減少に伴いすいかの販売量も平成14年度の2万3,778トンから平成23年の1万3,131トン(45パーセント減)へと半減しており、産地間競争(価格の低迷)や農家世帯の高齢化(すいかは重量野菜で重労働)がすいかの生産に大きく影響していることがうかがえる。また、すいかの主な出荷先はトラック輸送で3~4時間と交通至便な京阪神市場が47.5パーセントと5割近くを占めているが、近年、東京、横浜を中心とした京浜市場向けに20.8パーセント、山陽・四国市場に17.9パーセントが出荷されるなど、以前に比べて需給調整を目的とした出荷先の多元化が進展していることが分かる。
現在、鳥取県では「全農とっとり」が輸出主体となってロシア(ウラジオストック)向けのすいかの輸出が進展している。輸出向け農産物として注目されている「鳥取産すいか」は、すいかの種と栽培方法がこの地に伝わってからおよそ400年の歴史がある。「鳥取県すいか沿革史」(全国農業協同組合連合会鳥取県本部)によると、すいかが日本に渡来した時期、経路には諸説があり、ポルトガル、中国、米国など複数の渡来経路が記録に残されているが、渡来した時期に関しては16世紀というのが定説のようである。江戸時代の天正年間か寛永年間に中国から日本に渡来したすいかはその後各地に拡がり、「三河すいか」、「伊勢すいか」、「大和すいか」などの産地ブランド、優良品種が誕生することとなった。全国に拡大したすいか栽培は大正時代の本格的な育種(品種改良)と接ぎ木技術の誕生などによって生産量が大きく増大した。鳥取県ですいかの栽培が始まったのにも諸説があり、戦国時代あるいは江戸時代前半とする説があるが、記録が残っているのは江戸末期の由良村付近での栽培のみである(因伯の園芸、1914年)。その後、明治時代には湖山、由良、日吉津、弓浜などの砂畑を利用して、さらに大正時代になると海岸部の砂丘地でもすいかが栽培されるようになった。明治後期に中国出征兵士が持ち帰った中国産のすいかの種子を栽培した「凱旋すいか」などの幾つかの品種が「大山すいか」も名称統一され、大正末期から昭和初期にかけてすいかの第一期黄金時代を迎え、大正13年には400ヘクタールの大規模生産へと発展した。第二次世界大戦によって生産の縮小を余儀なくされた鳥取県のすいか栽培は、戦後の昭和25年頃から栽培面積が序々に回復に向かい戦前の400へクタールにまで急速に回復し、第二期黄金時代を迎えた。当時、すいかの出荷量は全国第3位となり、面積、生産量共に大きく増加した。その後は産地間競争の激化やすいかよりも収益性の高い換金作物への転換などによって県内でのすいかの生産は次第に大山山麓の黒ボク地帯だけに縮小することとなった。現在、大山山麓の黒ボク地帯が県内のすいか生産の7割を担っており、これに倉吉、大栄、琴浦を加えると全県のすいか生産のほぼ100パーセントを占めるようになっている。栽培方法は昭和40年代まで続いた露地栽培に変わって、現在はトンネル栽培、ビニールハウス栽培が主体になっている。
わが国の中でも鳥取県は農産物輸出に長い歴史と実績を有する数少ない県のひとつであり、代表的な特産物である「二十世紀梨」は古くから東南アジアを中心に台湾、米国本土にまで輸出されてきた。二十世紀梨は現在でも米国、香港、台湾などを中心に10ヶ国以上の国・地域に輸出されているが、往時に比べると輸出量は大きく落ち込んでいる。近年では幸水、新高、あたごなど新たに開発された日本梨の品種が輸出されるようになっており、富有柿やあんぽ柿、西条柿などの柿類、すいか、メロン、らっきょう、ながいも、干ししいたけなどの農産物が新たな輸出商品として注目され、徐々に、これらの農産品の輸出が伸長しつつある(表3)。
中でも「全農とっとり」では、平成20年以降、市場での評価の高い鳥取産すいかの海外向け輸出に取り組んでおり、ロシア極東地方の軍事・商業拠点であるウラジオストックでの販促活動を開始している。ウラジオストックは、ロシアの沿岸地方の海の玄関口になっており、ロシア国内のハバロフスク、モスクワ方面や中国のハルピン、北京方面への鉄道による交通アクセスも良く、農産物輸出の新たな拠点都市として期待されている。
すいかの輸出は、全農とっとりの会長と地元選出の国会議員、鳥取中央農協が中心となって、高所得層(富裕層)の多い中東のドバイ(アラブ首長国連邦)に対して、高品質の鳥取産すいかのPRと販促活動を実施したことに始まる。ドバイでは、日本国内で2,000円で販売されていたすいかが3倍の6,000円の高値で販売されたが、富裕層を中心に購入され好評であった。しかし、その後のリーマンショックに伴う経済情勢の悪化により、ドバイ向けのすいかの輸出は中断している。同じ年に島根県の浜田港からロシアのウラジオストック向けにロシアと取引のある同県の商社経由で10キログラム入りのすいか40ケースがテスト的に輸出された。翌平成21年には鳥取県の境港とロシアのウラジオストックとの間で貨物と旅客を運搬する定期貨客船が就航したことから、鳥取県の要請もあってすいかの輸出を継続して実施することとなった。境港とウラジオストック間の定期航路は韓国の東海港を経由して週1便が就航し、ウラジオストック間を往復している。境港から貨物を積み込んだ貨客船は韓国の東海港に寄港した後ウラジオストックに向かうことになるが、境港を夕方出発した船は2日間かけて翌々日の昼頃にウラジオストックの港に到着することになる。
平成21年度以降本格的なすいかの輸出がスタートし、すいか600玉、二十世紀梨2,100玉が輸出された。鳥取産のすいかと二十世紀梨は共にウラジオストックの消費者に美味しいと好評であるが、中国産のすいかに比べて値段が高く、購入できる消費者層が限定されることから、全農とっとりでは、現時点での単一品目の大量販売は難しいと判断し、複数品目の混載や他県と連携を図りながらロシア沿海地方への輸出拡大に取り組んでいる。平成22年度は、ロシアへの輸出実績のある東北の商社と提携して、メロンなどの少量の農産物を複数混載し、また、他県産のピオーネ(ぶどう)、温州みかんなどを混載して輸出が行なわれた。これらの農産物輸出は、鳥取県がウラジオストックに開設している情報発信基地「鳥取県ビジネスサポートセンター」(平成22年2月開設、鳥取県は平成3年にロシア沿海地方との間で友好交流の覚書を締結しており、今年で20周年目となる。)の協力を得て実施されており、ウラジオストック市内のスーパー・マーケット(VLマート)の店舗を利用した試食販売という形で実施されている。表4は平成23年度のウラジオストックでのすいかとメロンの販売状況を示したものである。
6月にはすいかと共にメロンが出荷され、ウラジオストック市内のVLマートの店舗などでPR活動が実施された。9月8日には鳥取県知事がトップセールスのためウラジオストックを訪問し、県が開設している「鳥取ウラジオストック・ビジネスサポートセンター」内において、現地のマスコミ、取引業者や消費者に対してすいかをはじめとする鳥取産農産物をPRした。ウラジオストック市内で実施されたトップセールス(PR活動)では、
①ロシア語版のPR映像の上映
②県産農産物のPRポスターの展示とチラシの配布
③梨3品種(二十世紀梨、なつひめ、新甘泉)の展示と試食会
が開催されたが、鳥取産梨やメロンなどに対する現地消費者の評価は高く、小玉すいかを漬け込んだ漬物なども消費者に好評であった。ただ、現時点では販売単価が高すぎることが販促活動の大きなネックになっており、いかにして現地消費者の手の届く価格帯にまで価格を抑えられるかが今後の課題となっている。ちなみに、VLマートでのすいかの販売価格は、1玉2,400ルーブル(約7,000円、平成22年度は6,000円)と高く、一般消費者には手の届きにくい価格設定になっている。平成22年度には混載ですいか80玉、メロン250玉、二十世紀梨1,600玉、富有柿1,260玉、あたご梨180玉が輸出され、ウラジオストック市内の2店舗のスーパーで試食販売が実施された。平成23年度は1回目(6月)の輸出ではすいか180玉、メロン220玉が出荷され、2回目(8月)の輸出には二十世紀梨558玉、なつひめ56玉、新甘泉24玉が輸出され、3回目(9月)には二十世紀梨960玉、なつひめ1,280玉、新甘泉960玉、すいか40玉が輸出された。販売価格はすいかが2,400~2,800ルーブル(約7,000~8,000円)、タカミメロンが840~980ルーブル(約2,500~2,800円)、プリンスメロンが480~560ルーブル(約1,400~1,600円)と国内価格に比べてかなり割高(2~2.5倍)になっており、ウラジオストック市内で販売されている韓国産、ウズベキスタン産、中国産、現地(沿海州産)産のすいかの販売価格と比べて大きな開きがあることが分かる(表5)。糖度、食感、外観など品質面では、他国産すいかに比べて現地消費者から圧倒的な支持を得ている鳥取県産すいかであるが、価格競争力に欠けることが輸出上の大きな課題になっていることは否めない。そのひとつの原因は、境港からウラジオストックまでの物流(輸送)コストの高さにある。表6にウラジオストックまでのクルーズフェリーの海上貨物運賃を示したが、現状では農産物の輸出ロットが小さいこともあり、輸送単価が割高となっており、今後、輸出のロットを増やすことによって物流コストを削減し、現地での小売価格を適正価格まで引き下げたい考えである。鳥取県では販路拡大のため、宣伝用のチラシ(ロシア語)を作成し、鳥取産すいかが
①大山山麓の黒ボクという特殊な土壌で生産されたものであること
②ブランド品であること
③極めて高品質な農産物であること
④ロシア向けの専用の包装容器(段ボール箱)を使用していること
などを現地の取引先や消費者にアピールし販売量の増加を目指している。
全農とっとりでは、鳥取県知事のトップセールスに先立って、7月には県内の農業団体(全農とっとり、JA鳥取中央、JA鳥取西部)と鳥取県農林水産部で組織する「鳥取県農産物販売促進団」を現地に派遣し、地元報道機関(国営PTRテレビ局、ウラジオストック新聞社)を訪問し、放射能問題とビジネスサポートセンターでの県産品PR活動について説明した。さらにロシア沿海地方政府国際協力観光局長との間でロシアへの農産物の輸出促進について協議し、通関手続きの簡素化などを要請したほか、動植物衛生監督局沿海地方局、ウラジオストック税関などを訪問し鳥取産農産物の輸出促進に協力を要請するなど攻めの輸出活動を推進している。
※写真提供:鳥取県農林水産部、全農とっとり
表5 ウラジオストックにおける外国産すいかの現地販売価格
すいか輸出(2回目)までの主な日程は、
①産地および園芸試験場出荷(選果、箱詰めなど)(8月25日)
②国内での通関手続き(境港)(8月26日)
③境港出港(8月27日)
④ウラジオストック港入港(ロシア側の入関手続きなど)、(8月29日)
⑤店頭販売開始(ウラジオストック市内のスーパー・マーケット、VLマート2店舗)(9月3日)となっており、産地から現地の店頭販売までおおむね10日間の日程を要することが分かる。
福島原発問題による農産物の放射線汚染問題の農産物輸出への影響に関しては、現地の動植物衛生局、税関などから?植物輸入証明書の提出(以前と同様)、?放射能検査(一部の抜き取り検査と全量検査)の実施、?検査方法(船内検査か港での検査)、?消費者への説明責任が求められているが、鳥取県が地理的に福島県から離れた場所に位置していることもあって、ウラジオストックの消費者はそれほど敏感に反応していないというのが実態であり、ほかの輸出先のような原発問題(放射能汚染)に伴う風評被害などは見られないという。むしろ、鳥取産農産物の輸出拡大の最大のネックは価格問題であり、現地の消費者の所得水準、富裕層の人口規模などを勘案して他国産、現地産のすいかの何割高までだったら購入してもらえるかを見極めることが重要である。鳥取産すいかが他国産すいかとの明確な差別化ができていることが輸出の基本ではあるが、それだけでは現地の消費者に買ってもらえないことも事実である。いかにして現地の一般消費者に手の届く価格水準に近づけられるか否かが今後の輸出拡大の鍵を握っているといえよう。さらに、長時間を要するロシアの通関手続きによる商品劣化などの問題もあるが(ロシアの検疫条件に関しては付表に掲載)、検疫の問題はロシア側との粘り強い交渉と輸出実績を積み重ねることによって自ずと解消されてゆくものと思われる。
以上のように、全農とっとりを輸出主体にしたロシア沿海地方向けの農産物輸出事業は3年目が経過しようとしているが、現地市場(ウラジオストック)でのPR活動、輸出市場までの農産物の輸送(物流)、通関手続き、流通チャネルの構築、販路開拓、現地政府との協力関係などの面で着実に成果をあげており、今後の展開が期待される。
鳥取県では県産品のロシア沿海地方向けの輸出を促進するために、全農とっとり、JA鳥取中央、JA鳥取西部および県内の産地が一体となって農産物の輸出拡大に積極的に取り組んでいる。これらの支援事業の一環として、鳥取県では極東ロシアでの県産農産物のブランド化の推進と広域連携による周年的な輸出、ハバロフスクなど周辺地域への輸出市場の拡大、県内農業・農村の活性化、ロシアとの貿易振興を目的に「極東ロシア鳥取県産農産物ブランド化戦略事業(平成23~24年度)」を実施しており、平成22年度に600万円、平成23年度には494万円を予算計上し民間団体に対する支援活動を実施している(表7)。輸出促進戦略事業の内容は大きく3つに分かれている。そのひとつは、県内の農林水産業、農産加工団体が実施する農産物等輸出促進活動への支援策として販路開拓調査や販売促進活動に対して総額398万円(3分の2補助、ただし国の補助を受けている場合は補助率6分の1)の補助を実施していることである。2つ目は、県産農産物の認知度を向上させるために、ウラジオストックで開催している試食会などで放映するロシア語版のDVDやチラシを制作(制作費用は約96万円)するなどロシア市場に対する広報宣伝活動への支援である。ロシア語版のDVDや写真入りのチラシはビジュアルな内容であり現地の取引業者、消費者に好評だという。現在、DVDには収録されている鳥取県を代表するすいか、二十世紀梨、らっきょうの3品目が、3つ目は、近隣諸県はもとより中四国地域とも広く連携して、多品目による継続的な農産物の輸出促進活動を推進していることである。来年秋にはウラジオストック市内でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開催される予定であり、これを機に今後は人口60万人のハバロフスクにまで県産品の販路を拡大する将来構想が描かれている。
国の重点港湾にも指定されている境港と韓国ソウルとの間で週3便が就航している米子空港を最大限に活用しながら、近い将来、韓国、中国東北地方(吉林省と友好関係)との間での貿易振興も視野に入れて農産物の輸出拡大を図りたい意向である。
表7 鳥取県の輸出支援事業 (単位:千円)
以上のように、鳥取県では県の全面的な支援を受けて「全農とっとり」と県内のJAなどの農業団体が輸出主体となって攻めの農産物輸出事業が展開されており、地元の基幹的な農産物であるすいか、二十世紀梨、メロンなどを中心にしたロシア沿海地方(ウラジオストック)への農産物輸出も3年目を迎え、試験輸出や試食、PR活動を含めて輸出の第一ステージが終了し、来年度以降はいよいよ本格的な輸出拡大に向けた取り組みが始まろうとしている。輸出が軌道に乗り輸出のボリュームが増えれば増えるほど輸出コストも削減できる。中四国との広域的連携による多品目の品揃えと安定した価格帯での継続的、周年的な輸出が可能となれば、ハバロフスクを始めとするロシア極東地域はもとより、安心安全な日本食品、ブランド農産物の需要が拡大している中国東北部、韓国市場などへの輸出拡大も夢ではない。どのような品目(農産品)を、どの程度の価格帯で、どの程度輸出すべきか、詰めるべき課題は多いが、全県的な取り組みとなっている鳥取県の農産物輸出事業の今後の展開に注目したい。
注)本報告は、全農とっとりおよび鳥取県農林水産部農政課で入手した資料と関係者からのヒアリング調査結果に基づいて作成したものである。ご多忙の中、現地調査にご協力いただいた全農とっとり園芸部内外流通課の藏光輸出担当、同北浦調査役、鳥取県農林水産部農政課中島副主幹に対して深甚より厚く御礼を申し上げたい。