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調査報告


千葉県の若手農家グループ
「エイトマン」の取り組み

調査情報部 小峯  厚
         村田 宏美


【要約】

 千葉県の千葉みらい農業協同組合(以下、「JA千葉みらい」と記載)土気支店管内で、昨年4月、若手農家で組織される「エイトマン」が結成され、加工用寒玉キャベツの契約栽培に取り組んでいる。
 グループ結成のきっかけとなった部会の後押し、取り組みの提案や取引先の紹介など全農・農協の支援、市などによる資金面での支援など、活動の舞台裏では地域の支えがあった。メンバーたちもそれを肌に感じつつ、自分たちならではの活動で、将来の地元地域の農業に活気を与えたいという思いで奮闘している。

はじめに

 産地でお話を伺うと、生産者の高齢化や後継者不足といった問題をよく耳にする。農林水産省大臣官房統計部が平成23年7月5日に公表した「平成23年農業構造動態調査結果の概要」によると、平成23年2月1日現在における基幹的農業従事者(自営農業に主として従事した世帯員のうち、ふだん仕事として主に農業に従事しているもの)数は186万2千人で、前年に比べ18万9千人(9.2パーセント)減少した。これを年齢階層別にみると、75歳以上の階層が全体の27.8パーセントと最も多く、60歳以上の占める割合は74.4パーセントとなっている。
 そのような中、今回、千葉県のJA千葉みらい土気支店管内の若手農家グループ「エイトマン」を取材する機会を得たので、これからの農業を担う若手農家がどのような思いでどのような取り組みを行っているのか紹介する。

1. 組織の概要

①JA千葉みらい土気地区出荷組合連合会の概要

 JA千葉みらい土気地区は、わけねぎや根菜類、いちごなどさまざまな野菜が栽培されている地域で、管内には土気地区出荷組合連合会(以下、「土気連」と記載)という組織がある。
 土気連は、にんじん・ごぼう・わけねぎ・さといも・ばれいしょ・葉しょうが・葉物という7つの部会で構成されており、組合員は43名。そのうち60代以上の組合員が7割を占めているが(図1)、そのような中20~40代の若手も9名所属しており、この9名が現在の「エイトマン」のメンバーである。

②「エイトマン」結成の経緯

 土気連の部会の中でもわけねぎ部会には若手が多く所属しており、「せっかく若手がこれだけいるのだから、集まって何かやってみてはどうか」というわけねぎ部会からの一言が、「エイトマン」結成のきっかけだった。そこで、土気連の各部会から集まった若手8名で、土気連助成による10万円という資金を元に市場視察へ行ったのが3年前。せっかく同世代の若者が集結する機会を得たのだから何かやろうということで、グループ結成を決意し、平成22年4月に土気連の承認を受けた。「エイトマン」というネーミングは8名で始めたということと、数字の8を横にすると∞(無限大)になり、可能性を秘めているということで決定した。「エイトマン」は土気連に所属する若手農家グループで、「エイトマン」としての活動は今年で2年目になる。

③「エイトマン」のメンバー構成

 メンバーは当初の8名に加えて今年新たに1名の新規就農者が加わり、現在は23~42歳の9名で活動している。メンバーは皆農家出身者で、うち、6名は現在親元で就農し、残り3名は自ら経営就農している。「エイトマン」の活動目的のひとつに、自分たちで経営してみたいという思いがあった。今は親元で農業をしていてもいずれは自ら経営する事になるため、「エイトマン」の活動を通じて自営の経験ができることは将来にもつながる。そのため、「エイトマン」の活動はメンバーそれぞれの家業を本業とし、その合間を縫っての活動となっている。

「エイトマン」のメンバーたち

2. 「エイトマン」の取り組み

①栽培品目について

 「エイトマン」では現在、加工用寒玉キャベツの契約栽培に取り組んでいる。土気連に承認され、具体的に何をやろうか模索していたとき、全国農業協同組合連合会千葉県本部(以下、「全農千葉県本部」と記載)から加工用寒玉キャベツの紹介があった。ほかにもいくつか候補に挙がった品目はあったが、メンバーで意見を出し合って最終的に決定したのが加工用寒玉キャベツだった。販売ルートが決まっているということもあるが、それぞれ本業がある中で、消毒作業が減るなど冬場の手の空く時期にうまく作業をはめ込めそうだったことが、決定した大きな理由だった。メンバーは本業として、わけねぎ、にんじん、ごぼう、さといもなどさまざまな品目を栽培しており、収穫はだいたい10~4月と、作業が重なってしまう。しかし寒玉キャベツであれば、12月までにほ場である程度大きく生育させてしまえば、1月以降の寒さが天然の保冷庫代わりとなり、ある程度ほ場においておける。本業の収穫作業の合間に収穫できることが、寒玉キャベツの魅力だった。

②加工用寒玉キャベツの契約栽培

 ほ場は個々の家の農地を利用し、作業可能な分を各自で栽培している。年度当初にメンバーそれぞれがどれだけ栽培出来そうか意見集約して作付面積を決定するが、今年の作付面積は約2.2ヘクタール、初年度の倍の面積となった。
 契約先へはシーズン前に作付面積などを報告し、具体的な数量は週決めで行っている。出荷形態は通い容器による出荷で、1容器6~10玉入り。全て市場を通じて加工業者へ出荷され、若手グループということもあり激励の意味で契約単価は高めに設定してくれているそうだ。メンバーたちもそれを十分理解しているので、しっかり応えていきたいという思いがある。
 作業は個々の判断で行っているが、7月からは種作業を始めほ場管理し、収穫は翌年の1~4月に行う。また、土壌診断は千葉市農政センターで無料で行えるため、作付するほ場が決まったら土壌診断を行う。そして、栽培講習会を兼ねた土壌診断結果報告会を行い、そこでのアドバイスを参考に畑を作り、育苗、定植と作業を進めていく。その過程でそれぞれの畑を皆で巡回し、勉強会なども行っている。
 これまで土気地区では契約栽培の実績はなかったが、「エイトマン」の取り組みが浸透され、ある程度の収入も確保できるということが実証されれば、ほかの組合員たちにも広まっていく。そしてこの先10年後、20年後に地域全体が盛り上がっていくことが望ましいし、そうなるように活動していくことが今自分たちに出来ることだと、「エイトマン」は言う。

寒玉キャベツのほ場

メンバーのほ場を巡回

③リベンジ

 昨年度は干ばつの影響により、思うような出来ではなかった。また、原発による需要低迷により出荷できなかったものもあり、昨年度に栽培された寒玉キャベツの出荷は目標の半分である48トンにとどまった。ロット的には納得のいかない部分もあるが、「商品としての出来は思った以上に良かった」という契約先からの評価もあった。初年度は思うような出来ではなかったものの、2年目となる今年は作付面積も2倍に増え、メンバーの意欲も十分だ。
 昨年度の経験から、今年は全体的に作業を早めることにした。土気地域は千葉市の平均気温よりも寒く、平均データを元に作業すると出来上がりが遅くなってしまうからだ。また、品種については新しいものを取り入れたり、昨年の出来を参考に良かったものは継続するなどして見直しを行った。品種選抜については個々のほ場により微妙な性質の違いがあるので、経験を積んでいくしかない。

④その他の活動

 寒玉キャベツ以外の取り組みとしては、現在、旬菜くらぶ(JA千葉みらい土気支店直売所)の秋祭りで行う収穫体験用に、にんじんの栽培管理を行っている。このような取り組みは地域とのつながりが強まるため、地域の行事には積極的に参加している。
 またメンバーの中には、県内の地域をまたがった青年農業者組織「温Line(おんらいん)」の活動に参加している者もおり、農業体験などを通じて消費者との交流を深めるなどの活動を行っている。

3. 周囲のサポート

 最初は軽い気持ちで集まった「エイトマン」だったが、実際に活動を始めるとなった時の周囲からの反応、バックアップは凄かったそうだ。
 まず、品目選定の段階で全農千葉県本部やJA千葉みらいからの提案があった。また、「エイトマン」にとって寒玉キャベツは新規作物であったため、JA千葉みらいの他地域のキャベツ生産者に栽培などの指導をしてもらった。もちろん、本業との兼業であるため家族の理解や協力もある。資金面では、結成当初に土気連からの助成を受けたほか、全農千葉県本部からは担い手育成支援の助成金を受けている。地域の中でも若手グループで取り組みを行っているということは珍しく、千葉市や全農、農協も助成金の交付や取引先の紹介など、さまざまな面でバックアップしてくれているという。
 しかし、それに甘んじるばかりではなく、農協などと共存しつつも従来の部会とは違う角度で活動していきたいと考えており、プレッシャーを感じる中でも自分たちの意志を大切にしたいと考えている。

4. 今後の課題

 「エイトマン」では将来を見据え、定植機の導入を考えている。取り組みの拡大には機械化は不可欠であり、メンバー全員が高額な定植機を自費で購入することは困難であるため、現在、来年度の千葉市の補助金を申請中である。
 育苗については現在自分たちで行っているが、どうしても生育にむらが生じてしまうため、育苗について外部委託も検討している。
 今は寒玉キャベツに絞っているが、後々はほかの作物での取り組みも視野に入れている。また、一緒に取り組みたいという思いがあれば、メンバーの増員は大歓迎ということだ。

おわりに

 今回エイトマンを取材させていただき、皆さんが生き生きと取り組んでいる様子が伝わってきた。経験豊富な年配者の知識や助言はもちろん欠かすことのできないものだが、何でも言い合える同世代との交流は、お互いの意欲向上にもつながっているのではないか。
 また、若手農家グループ結成のきっかけとなった部会の後押しや、結成後の市や農協をはじめとする地域のサポート体制の充実などからも、若者がチャレンジできる環境づくりが重要であることがわかる。そのためには、行政などによる資金面での支援が必要であり、生産・出荷における地域の支援が不可欠である。
 最後に、調査実施に当たりご協力いただいた関係者の方々に、この場を借りて厚くお礼を申し上げる次第である。


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