調査情報部
食品小売業における青果物の調達は、卸売市場、産地、市場外卸、自社関連農業法人などの手段があり、現状では、卸売市場が約7割を占めている。
食品小売業の青果物担当バイヤーは、少人数体制で、短い在職期間で対応していることが多いため、「特産品などの商品開発」や「通年の産地リレーの確立」などの販売戦略を実現したいと考えていても実現は困難な状況であることが明らかとなった。このような中で、産地や中間事業者は、青果物担当バイヤーの個々の販売戦略を理解し、具体的な提案を行うことが期待されている。
当機構は、食品小売業の仕入れ・販売の実態および販売方針を把握し、川上・川中に当たる産地や中間事業者がどのような対応策を取り得るのか整理するために東洋大学の菊池宏之教授と共同調査を実施した。
調査では、食品小売業を対象にアンケート調査を実施し、仕入れ実態や意向を確認するとともに、食品小売業が生産者や中間流通業者に対してどのような取り組みを期待しているのか検証した。
平成22年8月31日~平成22年9月14日の間に実施した「平成22年度国産野菜の仕入れ実態方針に関するアンケート」の調査結果の概要は以下のとおり。
青果物を販売していると想定される食品小売業に、郵送によるアンケート調査を実施した。この結果104社の回答を得た。また品目については、いちご・すいか・メロンといった果実的野菜を除いた野菜を対象とした。
①食品小売業における青果物仕入れの現状
食品小売業の野菜の調達は、卸売市場、産地、市場外卸、自社関連農業法人などさまざまな手段がある。
青果物の仕入金額割合の平均が最も高かった仕入先は卸売市場であり、全体の72.1パーセントを占めている。次いで市場外卸が20.6パーセント、産地が16.4パーセント、自社関連農業法人が7.8パーセント、その他が13.1パーセントであった。現状は、市場からの調達が多くを占めている(図1)。
図1 青果物の仕入金額の割合
②仕入金額の直近3カ年の傾向と今後の意向
青果物の仕入金額の直近3カ年の傾向を見ると、卸売市場では、「横ばい」が41.5パーセント、「減少」が40.4パーセントである。産地では、「増加」43.2パーセント、「横ばい」40.5パーセントとなっている(図2)。また、市場外卸では、「横ばい」が50.7パーセントと過半数を占めている。この結果から食品小売業は、産地からの仕入れが増加している傾向が分かる。今後の意向を見ても産地からの仕入れを増やしたいという割合が58.1パーセントと高くなっている(図3)。
図2 青果物仕入金額の直近3カ年の傾向
図3 青果物仕入金額の今後の意向
③青果物の仕入先の選択理由(複数回答形式)
食品小売業が今後最も増やしたい仕入先を産地とする理由は、「自社の青果物販売の取組を理解」が56.8パーセントと高く、次いで「消費者ニーズに即した対応が可能」が47.3パーセントとなっている(図4)。この回答状況により産地は食品小売業のニーズに対して迅速な対応が求められていることが分かる。
図4 産地を仕入先とした選択理由
そのほか、現状の仕入金額割合の平均が高く、今後も引き続き仕入先を卸売市場とした理由は、「多様な青果物産地との連携力」が全体の70.2パーセントと最も多く、次いで「自社の青果物販売の取組を理解」が48.9パーセント、「高い需給調整機能」が45.7パーセントと高い(図5)。
また、市場外卸を選択した理由は、卸売市場と同様に「多様な青果物産地との連携力」が46.4パーセントと最も高く、次いで「自社の青果物販売の取組を理解」、「青果物の販売促進策の提案力」がともに31.9パーセントとなっている(図6)。
図5 卸売市場を仕入先とした選択理由
図6 市場外卸を仕入先とした選択理由
④青果物の仕入商品数(概数)
食品小売業における青果物の取扱アイテム数は、「300~399」が全体の18.3パーセントと最も多く、200以上が57.7パーセントを占め、平均も251となっている(図7)。直近の動向を見ても、「ほぼ同じ」が58.7パーセントと最も高く(図8)。200を超える青果物を取り扱っているところが多いことが分かる。
図7 取扱アイテム数(概数)
図8 取扱アイテム数(概数)の直近の動向
⑤青果物バイヤーの人数と在籍期間 食品小売業では、このように多くの青果物を仕入れているが、その責任部門でのバイヤー数は、「1人」が42.3パーセントと最も高く、「2~3人」が37.5パーセントと3人以下が80.8パーセントを占めており、バイヤー数は少人数であることが分かる(図9)。しかし、30人以上のバイヤー数を有する社が3社あり、最大では65人のバイヤー数を有していた。なお、全体の平均は3.8人である。
図9 青果物のバイヤー数
食品小売業で青果物の仕入れを担当するバイヤーの在籍期間は、「~6年」が全体の27.9パーセントと最も高く、次いで「~10年」が24.0パーセントと高い。なお、平均在籍期間は約8年となっている(図10)。
図10 青果物のバイヤー在籍期間平均
①売上比率と傾向
青果物の売上比率は、「10~14パーセント」が35.6パーセントと最も高く、次いで「15~19パーセント」が27.9パーセントとなっている。売上比率の傾向としては、「ほぼ同じ」が51.0パーセントと安定していることが分かっている(図11)。
図11 青果物の売上比率
②粗利益率
青果物の粗利益率を見ると、全体の「20~24パーセント」が40.4パーセントと最も高く、「25~29パーセント」が26.0パーセント、「~19パーセント」が19.2パーセントと続いており、30パーセント未満が85.6パーセントを占めている。
粗利益率の傾向は、「ほぼ同じ」が43.3パーセントと最も高いものの、「減少している」が42.3パーセントあり、売上比率と異なり粗利益率は減少傾向となっている(図12)。
図12 青果物の粗利益率
③売場面積の割合
青果物の売場面積の割合は、平均で16.7パーセントとなっている。売場面積の傾向では、「ほぼ同じ」が82.7パーセントと最も高い(図13)。粗利益率の傾向とあわせて見ると、売場面積当たりの粗利益率が縮小傾向であることが分かる。
図13 青果物の売場面積の割合
①特売サイクル
青果物の販売戦略の1つとして特売計画がある。青果物の特売計画のサイクルを見ると、「月間」が41.3パーセントと最も高く、次いで「週時」が37.5パーセントと高い。「月間」と「週時」合計が78.8パーセントを占めており、特売計画のサイクルが1ヵ月以内であることが分かる(図14)。
図14 青果物の特売計画のサイクル
②特売期間中に売り切る販売数の割合
特売期間中に売り切る販売数(青果物)の割合を見ると、「8割以上9割未満」と「7割以上8割未満」が31.7パーセントと均衡しており、特売期間中に売り切れることが少ないことが分かる(図15)。
図15 特売期間中に売り切る販売数(青果物)の割合
①商談
仕入れから販売までの流れがどのように行われているのかを商談スケジュールで見ると、商談は発売開始日の「15日前」が29.8パーセントと最も高く、次いで「その他」が28.8パーセント、「30日前」が24.0パーセントと高い(図16)。多くの食品小売業では、販売開始日の1ヵ月以内に商談を開始していることが分かる。
②採用決定
採用の決定は、「15日前」が40.4パーセントと最も高く、次いで「その他」が32.7パーセント、「30日前」が14.4パーセントと高い(図17)。商談を開始した当日に採用を決めるケースが多いといえる。
図17 青果物の採用決定の標準的スケジュール
③初回発注
青果物の初回発注の標準的スケジュールは、「7日前」が46.2パーセントと最も高い(図18)。
図18 青果物の初回発注の標準的スケジュール
④店舗納品
青果物の店舗納品の標準的スケジュールを見ると、「1日前」が48.1パーセントと最も高く、次いで「当日」が42.3パーセントと高い(図19)。店舗の納品は「1日前」または「当日」が常態化していることが分かる。
図19 青果物の店舗納品の標準的スケジュール
①仕入先との情報の共有の重要性
食品小売業では、仕入先とどのような情報を共有することを重要視しているのだろうか。仕入先との情報共有の重要性を見ると販売実績データについては、「非常に重要」が34.6パーセント、「重要」が33.7パーセントと高い。広告・特売の実績に係る情報では、「重要」が47.1パーセントと最も高い。販売促進に係る情報では、「重要」が42.3パーセントと最も高く、次いで「やや重要」が28.8パーセントと高い。年間・半期の販売計画に係る情報は「やや重要」が36.5パーセント、次いで「重要」が27.9パーセントと高い。在庫・陳列情報では、「重要」が36.5パーセントと最も高く、次いで「非常に重要」が28.8パーセントと高い(図20)。
全ての項目で重要との回答が多く、仕入先との情報共有を重要と感じていることが伺える。そのほか、価格情報や産地商品情報に関する情報の共有が重要視されていることが分かる。
図20 仕入先との情報共有の重要性
②仕入先からの情報提供の重要性
仕入先からの情報提供については、リサーチ関係、販売提案関係、市場情報、店頭実現業務関係の全てにおいて重要視されている。全体として、商品補充業務を除く全ての項目で「非常に重要」「重要である」「やや重要」の合計が5割を超えるなど、小売業が仕入先からの情報提供を重要と感じていることが伺える。
リサーチ関係と納品関係の情報提供についても情報や分析を重要視していることが分かる。また、そのほかの情報提供としては、鮮度向上関係の重要性が回答され、これはコールド・チェーンや朝取り商品の提供などが想定される(図21)。
図21 仕入先からの情報提供の重要性
③販売促進のために取り組んでいるもの(複数回答形式)
青果物の販売促進のために取り組んでいるものを見ると、「地場生産品販売コーナー」が65.4パーセントと最も高く、次いで「地域の生産者との連携」が50.0パーセントと高い。いずれも“地場”や“地域”など“地産地消”がキーワードとして浮かび、これらの活動は、食品小売業の販売促進策として比較的取り組みやすいものであると考えられる。また、「その他」としては、朝採り野菜販売、JA・産地による週末トラック市などの回答が挙げられた。食品小売業が“地産地消”に対して興味があることが分かる(図22)。
図22 青果物の販売促進のために取り組んでいるもの
④産地と取り組みたいもの(複数回答形式)
産地の生産者と取り組みたいものは、「特産品などの商品開発」が45.2パーセントと最も高く、次いで「中間事業者を除いた直接取引」が38.5パーセントと高い。また、「定期的な農家の生産物の直売市などの設定」が36.5パーセントであり、「中間事業者を除いた直接取引」とほぼ均衡している。さらに、「自社によるリレー産地体制への協力」が31.7パーセントと、食品小売業は産地の生産者と幅広い分野で取り組みたいと考え、産地の生産者に対して多様なニーズがあることが分かる(図23)。
図23 産地の生産者と取り組みたいもの
⑤卸売市場などの中間事業者と取り組みたいもの
中間事業者などと取り組みたいものは、「産地および商品開発」が53.8パーセントと最も高く、次いで「青果物の通年の仕入(リレー産地)の検討」が45.2パーセントと高い。さらに、「産地と連携した三者取引」が32.7パーセント、「青果物活用の通年での調理レシピの検討」が27.9パーセントと続いている。
また、「産地及び商品開発」が高い傾向は、前項の「産地の生産者と取り組みたいもの」と同様である。「産地を主体に連携した三者取引」では、前項の「中間事業者を主体に連携した三者取引」の約2倍となっている。また、前項の「中間事業者を除いた直接取引」が38.5パーセントある一方、中間事業者を加えて産地と連携したいとする割合も32.7パーセントあり、三者取引に関しては食品小売業が柔軟な考え方を有していることが確認できる。加えて、リレー産地の検討も、45.2パーセントと高く、前項の解答と併せると食品小売業が何らかの形で同年供給体制を構築したいとしていることが分かる(図24)。
図24 中間事業者などの仕入先企業と取り組みたいもの
①販売促進策としての「地場生産品の販売」
青果物の流通は、一般的に市場流通が7割、それ以外が3割といわれている。今回のアンケートでも卸売市場からの仕入金額の割合が約7割となっていることから、標準的なデータに近い数値で検証できたと考えられる。
食品小売業の青果物バイヤーは、「産地」と連携した仕入れを行いたいとの意向が強い。この理由は、食品小売業では、「地場生産品の販売」が販売促進策として効果があると考えているからである。具体的な例としては、「朝採り野菜販売」、「産地による週末トラック市」、「顔が見える野菜」など、地域を絞った販売促進策が提案されており、「地産地消」をキーワードとする個別産地との取り組みが行われている。
②「産地」との連携による特売戦略
食品小売業では、特売計画を月単位、週単位で策定することが多く、商談から発注までの期間は1ヵ月以内が半数以上を占める。青果物の販売では、鮮度の保持が重要なため、食品小売業と産地との綿密な情報交換が必要である。このため、食品小売業は仕入先に求める機能として「リサーチ関係の商品情報(商品特性・産地情報)」を重要視している。
③食品小売業の期待
青果物は、アイテム数が多い上、産地が全国に広がり、産地や産品に関する専門性が求められるにもかかわらず、青果物担当バイヤーの実態は、少人数体制となっている状況にある。調査回答企業の約8割は、青果物の担当バイヤーは3人以下であった。このうち、1人と回答した割合は42.3パーセントと半数近くを占めている。さらに、在籍期間は6年未満が27.9パーセントと総じて短い状況となっている。
このように煩雑で、専門的な知識の求められる業務を行っている環境下で、青果物担当バイヤーは、各店舗の特色を理解した販売戦略の提案を求めている。また、周年供給体制を望んでいることから「青果物の通年の仕入(リレー産地)の検討」に対する期待が大きい。
食品小売業が生産者や中間事業者に対し、最も期待している取り組みは、販売戦略に関する提案とリレー産地の検討である。回答企業の中には、販売戦略を提案している産地があった。当該産地では、食品メーカーとのメニュー開発を通じた店頭販売を実施し、消費者に青果物の販売を行っていた。このような取り組みは、食品小売業にとっても店舗展開をする上で大きなアピールとなり、産地の青果物の販売促進にもつながることとなる。
食品小売業では、消費者への周年供給が求められる一方、産地での収穫期間は限られていることから、多くの仕入れルートを確保する必要がある。このようなニーズに対し、中間事業者は、マーケティング対応力を有するコーディネート機能として、リレー産地の検討などの役割を期待されている。このほか、青果物担当バイヤーの要望として、「定時」・「定量」・「定品質」・「定価格」の4定のほかにも、商品鮮度が多く挙げられ、より良い「品質」の商品を消費者に提供したいという思いが強いことが確認された。食品小売業は、中間事業者からの仕入れについて、数量は確保できても「品質」には満足していないという意見もあり、食品小売業の視点に立った青果物の調達に課題があると考えられる。しかし、中間事業者の視点に立つと、青果物は生鮮品であるため品質の良い青果物を常に調達することは困難が大きい。両者のニーズを満たすためには、産地の生産状況を正確に把握し、食品小売業に対して品質に関する情報を頻繁に提供する仕組みの構築が必要である。
最後に調査実施に当たり、ご協力いただいた関係者の方々にこの場を借りて厚くお礼を申し上げる次第である。
本調査の実施者
東洋大学 経営学部 教授 菊池宏之
独立行政法人 農畜産業振興機構 調査情報部