調査情報部
本契約取引は、北海道産のたまねぎがなくなる5月上旬~10月下旬の期間において中国産のむきたまねぎを利用していた倉敷青果荷受組合カット野菜部が、たまねぎ自動皮むきなどの導入を契機に、同組合蔬菜部と連携して国内の産地開発を行い、すでに取引を行っていた倉敷かさや農業協同組合(以下、「JA倉敷かさや」という)笠岡営農センター、真備根菜類生産者組合(岡山県)、因島玉葱生産組合(広島県)、有限会社いいだ農園(長崎県)などのたまねぎ生産者と契約取引を行うことによって産地リレー体系を確立し、国産たまねぎの利用拡大につなげた事例である。
同組合は、生産者への技術指導などソフト面も充実させ、生産者の立場を考えた契約取引を実現している。
加工・業務用需要に対応した国産野菜の生産利用拡大に取り組むグループを表彰する「第4回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」は、審査の結果、国産たまねぎ生産・利用拡大グループが農林水産大臣賞を受賞した。
この取り組みは、北海道産のたまねぎがなくなる5月上旬~10月下旬の期間において中国産のむきたまねぎを利用していた倉敷青果荷受組合カット野菜部が、同組合蔬菜部のコーディネートで、JA倉敷かさや笠岡営農センター、真備根菜類生産者組合、因島玉葱生産組合、有限会社いいだ農園などのたまねぎ生産者と連携して、契約取引を行い国産たまねぎの利用拡大につなげた事例である。
倉敷青果荷受組合は、岡山県倉敷市を基盤とするクラカグループの関連会社で、福岡県のみい農業協同組合との取り組みでも平成21年度に「国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」の農林水産大臣賞を受賞している。当時は、1,400平方メートルのカット野菜工場を所有し、洗浄殺菌ラインやデジタルスライサーなどの設備投資を行った取り組みが評価された。
今回は、実需者、流通関係者である倉敷青果荷受組合と生産者の真備根菜類生産組合などに聞き取りをする機会を得たのでそれぞれの取り組みを中心に紹介する。
倉敷青果荷受組合は、「蔬菜部」「果実部・輸入青果部」「カット野菜部」の3部門から構成されており、国産たまねぎ生産・利用拡大グループには、「蔬菜部」と「カット野菜部」が取り組んでいる。国産たまねぎの生産・利用拡大を模索した倉敷青果荷受組合は、異なる地域の産地開発を行うことで、周年供給を可能とするとともに不作の場合のリスクを分散できる体制づくりを始めた。
JA倉敷かさやは、岡山県の南西部に位置し、倉敷市、笠岡市、矢掛町の2市1町を管轄している。管内の組合員数は、約19,000人(正組合は12,649人)となっており、16の支店により運営されている。それぞれの地域では、温暖な気候を生かして、レンコン、ごぼう、トマト、いちご、アスパラガスなど多くの品目を栽培しており、産地化に取り組んでいる。JA倉敷かさや笠岡営農センターは、同グループに参画する以前から倉敷青果荷受組合に出荷しており、年間約100トンのたまねぎを出荷している。
真備根菜類生産組合は、生産者6名で構成されており、同組合設立前は、旧真備町(2005年に倉敷市と合併)が開設する青空市場で、さといも、ばれいしょ、にんじん、たまねぎを販売していた。しかし、青空市場は、大通りから離れており、販売量は少なく農作物のまとまった販売先がなかったため、平成20年に有志で真備根菜類生産組合を設立し、にんじんとたまねぎなどを中心に倉敷青果荷受組合を通して学校給食へ出荷を開始した。平成21年になると、地元、岡山県倉敷市の取引先より地産地消を目的に同市の食材を使用したいと要望があったこと、鮮度が高い食材を仕入れられること、流通コストが安価であることから、同市内でたまねぎの産地づくりを模索していた倉敷青果荷受組合より、栽培技術の講習会や検討会、先進地事例の視察などといったたまねぎ栽培のバックアップを条件にたまねぎの契約取引の誘いを受け、同組合との取引が始まった。
広島県尾道市因島は、安定した収入の得られる作物としてタバコの栽培が盛んであったが、近年、タバコの価格が下落してきたため、ほかに安定した収入の得られる作物が模索されていた。
村上清貴商店代表の村上氏は、因島で青果物のコーディネート機能を担っており、広島県、岡山県、大阪府、岐阜県、横浜市、東京都新宿区などの市場と取引をしている。倉敷青果荷受組合とは、村上氏の父親の代からの付き合いで、村上氏が倉敷青果荷受組合から契約取引の相談をうけたとき、安定した収入の得られる作物を模索していた農家6名が賛同し、因島玉葱生産組合を設立してたまねぎの栽培を開始した。
因島玉葱生産組合の組合員は初めてたまねぎ栽培する人が多かった。しかし、近隣にたまねぎを栽培していた農家がいたこと、倉敷青果荷受組合が栽培指導者を紹介したことで安心して栽培を開始した。
有限会社いいだ農園は、長崎県南島原市と諫早干拓地で、ばれいしょやたまねぎの栽培を行っている。遠隔地に産地を求めていた倉敷青果荷受組合とは、カット野菜用ばれいしょのB品を出荷していたことでお互いの信頼関係はすでに構築されていた。たまねぎについては、近隣の加工用たまねぎを取り扱う業者に出荷していたこともあって、倉敷青果荷受組合とも契約取引を開始した。
倉敷青果荷受組合では、年間1,000トンを超えるたまねぎを利用している。平成20~21年度は、300トン以上を中国などの外国産に依存していた(表1)。ユーザーの国産志向に対応して国産たまねぎ利用拡大の取り組みを本格化させた平成22年度より徐々に国産たまねぎのシェアが増加し、約30パーセントあった外国産は、約14パーセントへと減少する見込みである。最終的な目標としては、全量国産たまねぎを使用することを目指している。
表1 たまねぎ取扱量の推移
倉敷青果荷受組合「カット野菜部」は、全体仕入量の約3割のたまねぎを中国産むきたまねぎを主体として使用していた。同部では、ユーザーの国産への志向の高まりから、国産たまねぎの利用拡大を模索していた。しかし、安価な中国産むきたまねぎに対し、国産たまねぎは、加工に係る人件費のコストが高いことがネックとなっていた。
これを解消するため、平成21年度に農林水産省の補助事業である「国産原材料サプライチェーン構築事業」を活用し、たまねぎ自動皮むき機を導入した。これによって1人1時間当たり20キログラムであった処理能力が100キログラムと飛躍的に上昇するとともに、生産者にとっても、根切り、たま磨き、選別といった調製作業が不要となり、労力が大幅に省力化された。このことが、各産地の生産者が加工用たまねぎを導入する大きなきっかけとなった。また、従来はカット野菜工場内の前処理室で夜間に行っていたたまねぎの皮むきを同事業で新設した土物専用の農産物加工施設で行うこととしたため衛生水準が向上した。
さらに平成22年度には、同事業を利用して農産物集出荷貯蔵施設を整備したことで、晩生種の府県産たまねぎの冷蔵貯蔵が可能となり、北海道産の出荷が始まる9~10月まで府県産の利用が可能となった(表2)。
表2 国産原材料サプライチェーン構築事業
保存されている加工前のたまねぎ
たまねぎ自動皮むき機と
土物専用の農産物加工施設
施設内のたまねぎ自動皮むき機
たまねぎ加工の様子
農産物集出荷貯蔵施設
このような体制整備を経て、倉敷青果荷受組合「蔬菜部」は、従来から取引していたJA倉敷かさや笠岡営農センターに加え、平成22年より新たに真備根菜類生産組合、因島玉葱生産組合、有限会社いいだ農園と契約取引を開始した。北海道産の端境期となる5~8月のたまねぎの安定数量を確保するため、5~8月はJA倉敷かさや笠岡営農センターと真備根菜類生産組合、5~7月は因島根菜類生産組合、6~7月は有限会社いいだ農園といった産地リレーの体系を確立した。また、平成23年には農産物集出荷貯蔵施設で貯蔵された中晩生種のたまねぎが9~10月にかけて利用可能となった(図1)。
倉敷青果荷受組合と生産者の間で締結している「国産玉葱売買契約書」において、年度ごとに契約数量を取り決めている。契約どおり出荷できない場合は、契約上、両者協議のうえ数量を決定することとなっており、こまめな情報交換による倉敷青果荷受組合の調整により納得した取引を実施している。
また、契約単価は、全農岡山の算出している価格を参考にして農家手取り単価を定め、遠隔地に対してはこれに輸送経費を上乗せして3年間(H21~H23)の契約単価を決めた。
図1 たまねぎの産地間リレー一覧
倉敷青果荷受組合は、「ISO22000食品安全マネジメント」の認証を取得している。たまねぎについても、トレーサビリティができるように各生産者に栽培履歴の記帳を義務づけている。また、記帳が困難な生産者には栽培日記を書くことを推奨するなど、不都合が生じた時に何が問題であったのか確認できる体制に向けて努力している。
また、倉敷青果荷受組合のカット野菜の納入先は、外食、量販店、惣菜ベンダー、事業所給食など多岐にわたるため、ITを活用した新たな受注システムを取り入れ誤配送や商品劣化の防止に努めている。(図2)顧客からの受注データを管理するFAX-OCRやWEB-EDI(注)を導入し、現場への作業指示や商品ラベルを発行するシステムを構築し、さらにピッキングシステムと連動させることで作業を効率化するとともに各作業工程でのミスを防止することに成功している。
現在は、商品の納入に使用している通いコンテナに泥が付いているとのクレームを受け、コンテナ洗浄機の導入を検討している。
注:FAX-OCRとは、FAXから送られた注文書を自動で処理し、CSVやテキストデータに変換するシステム。WEB-EDIとは、ネットワークを通じた企業間取引で企業間における注文書や請求書のやり取りなど回線を通じて行うシステム。
図2 たまねぎ加工製品の納入先割合
栽培初年度である平成22年度の契約数量は、30トンであったが、実績は17.6トンと契約数量に満たなかった。反対に平成23年は35トンであるが、80トンの出荷量が見込まれている。平成23年度は試行錯誤が続いたが、倉敷青果荷受組合の紹介で技術指導を受けることもでき、作付面積も拡大が見込まれている(表3)。
表3 真備根菜類生産組合契約数量と出荷量の推移
真備根菜類生産組合では、早生と晩生の2つの作型でたまねぎ栽培している。早生は水稲の裏作として、‘七宝早生’を中心に栽培し5月中旬から6月上旬までに収穫する。たまねぎの収穫後は、水田に戻して田植えが行われる。この作型では、水田に水を張ることで連作障害が避けられるというメリットがある。
晩生は、6月中旬より収穫が始まる。晩生品種は貯蔵性の良い‘もみじ3号’を栽培している。倉敷青果荷受組合では冷蔵たまねぎとして貯蔵され、9~10月に加工されている。
真備根菜類生産組合のたまねぎ栽培風景
真備根菜類生産組合では、岡山県の補助事業「めざせJ1!園芸作物ステップアップ事業」を利用して、収穫機、移植機、トリマー(注)などを導入した(表4)。たまねぎ栽培では苗半作といわれるほど苗づくりが重要なため、平成23年度にも引き続き同事業で育苗トレイの整備を充実させようと考えている。
しかし、収穫時に降雨があると収穫機械が使えず、手作業で収穫せざるを得ない。また、早生の場合は、収穫が遅れるとその後の田植えの時期を逃してしまう。このように常に天候によるリスクを抱えている。
表4 めざせJ1!園芸作物ステップアップ事業
因島玉葱生産組合で生産されたたまねぎは、すべて村上清貴商店を通じて倉敷青果荷受組合へ出荷される。出荷量の調整は村上氏に一任され、現在6名の組合員は、たまねぎの生産に専念できる仕組みだ。
因島玉葱生産組合は、初年度である平成22年度の契約数量は27トンであったが、実際の出荷量は40.5トンと組合員が生産したすべてのたまねぎを倉敷青果荷受組合が引き受けている。平成23年度もたまねぎの生育状況が良く、80トンを超える出荷量となる見込みである。
村上氏によると、現段階では、非組合員のたまねぎは市場へ出荷され、出荷量が不足した場合の調整機能の役割を担っている。倉敷青果荷受組合の要望次第で、現在の組合員の作付面積を増やすか、契約取引を希望している生産者を生産組合に入れるといった選択肢があり、まだまだ、この契約取引を拡大させる余地はあるという。
表5 因島玉葱生産組合契約数量と出荷量の推移
因島のコーディネーター
村上清貴商店代表 村上氏
大きさが不揃いな出荷前のたまねぎ
平成22年5月、曇天の影響から全国的にたまねぎが小玉傾向で不作であったが、因島玉葱生産組合では、契約数量を上回る収穫量を確保できた。国産たまねぎ生産・利用拡大グループ内の他産地では、契約していた予定数量の出荷が困難であったため、倉敷青果荷受組合から出荷数量の増加を要望された。倉敷青果荷受組合との契約取引は、相場に左右されない固定した価格での取引である。契約数量以上のたまねぎは、価格の高い市場へ出荷した方がメリット大きいはずだ。しかし、因島玉葱生産組合の組合員は、同単価で契約数量を上回る数量を出荷した。
固定した単価で取引を行うことは、市場価格が低迷しているときには良いが、高騰しているときは市場へ出荷した方がメリットとなる。それは、組合に所属している生産者が今までの経験で充分に理解している。それでも契約取引に参加したのは、経営の安定を求めたからである。このときは、契約数量以上の出荷ができたが、農作物の収量は天候に左右されるため、契約数量に達さないときもある。これを話し合いで調整していくのが農産物の契約取引である。
長期的に見ると固定した価格で取引した方が安心して作物の栽培ができることを選択した因島玉葱生産組合の組合員からは、一切異論が出なかったという。
因島では、早生品種のたまねぎを中心に栽培しており、5月上旬から6月末までの収穫である。たまねぎを収穫した後のほ場は、8月から絹さやなどを栽培すると非常に収量が多いという。ほ場を6月から8月までの間、遊ばせておくのはもったいないとも思うが、結果として、病気や連作障害を避けられ、作物の収量も多くなるなどメリットが多いとのこと。
因島玉葱生産組合で栽培しているたまねぎの品種は、‘七宝早生’‘ソニック’‘トップゴールド’といった品種を試作した結果、‘七宝早生’が甲高で加工ロスの少ないことから、現在は‘七宝早生’を中心に栽培している。
因島玉葱生産組合では、真備根菜類生産組合への視察を通じて、植え付けの機械化を検討している。夫婦経営が多い因島の農家が生産面積を増加させるには、機械化が必要だと考えるからだ。しかし、約8割が傾斜地という地理的条件から、機械化は困難な状況にある。
今回の契約取引の最もすぐれている点は、生産者の立場を考えた取り組みである。農家の高齢化が進む中、たまねぎの選別、根切りやたま磨きなどせずにそのままコンテナに詰めて出荷できる体制を整備することで、農家の調製作業にかける労働力は格段に減少した。
これを可能にしたのが、倉敷青果荷受組合が取り組んだ国の補助事業を使った土物専用の農産物加工施設を建設やたまねぎ自動皮むきの導入である。また、これらの設備の導入により外国産の安価なたまねぎにも負けないコスト削減も実現できた。さらに、産地を第1に考え、栽培指導者の紹介や固定した契約単価により安定した農業経営ができる環境づくりを行っていることである。
次に、倉敷青果荷受組合が考えているのは、顧客のことである。取引先が増加する中で、誤配送を避けるため、ITを活用した新たな受注システムを導入した。また、今後の取り組みとして、顧客との取引に使用する通いコンテナに泥が付いているとのクレームを受け、コンテナ洗浄機の導入を検討している。
このように、農産物が我々の口に入るまで、生産者、流通関係者、実需者すべての関係者がメリットを受けられるように常に考え、行動することが大切であると今回の取材を通じて強く感じた。
最後に、本調査を実施するに当たり、ご多忙中にもかかわらず、多大なご協力をいただいた倉敷青果荷受組合の冨本理事長、寺田主任、真備根菜類生産組合の加藤組合長、因島の村上清貴商店の村上代表にこの場を借りて厚くお礼を申し上げる次第である。