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調査報告


中間事業者の高い「魅力」とは
~生産者と業務用需要者の間の取引の円滑化のために~

東京農業大学国際食料情報学部  教 授 藤島 廣二


【要約】

 国産野菜を中心とした食材をレストランなどへ納めている中間業者の有限会社八百辰(以下「八百辰」という)は、多品目・多品種の野菜を提供するきめ細かい食材の提供を行っている。これを可能にしているのは、全仕入れの大半を占める卸売市場からの仕入れをはじめとして、地元生産者との契約や全国各地の数十に上る生産者・農協からの直接仕入れといった3つの仕入れ方法で、これが多様な品揃えを可能としている。また、午前0時まで受注できる体制と極めて小さな注文単位が顧客にとって、廃棄食材を少なくするというメリットとなっている。
 八百辰が業務用需要者(実需者)に支持されているもう一つの理由は、調理を行うことで顧客のサポートをできることである。高齢化が進む中で老人ホームへの給食事業者などへの調理作業の支援・分担が大きな魅力となっている。

八百辰やおたつの概要

 八百辰(代表取締役 原泰郎)は、神奈川県三浦市に位置し、国産野菜を中心とした食材をレストランなどの業務用需要者(実需者)に納めている卸売市場外の専門的中間事業者(納入業者)である。現在、その納入先はレストラン、ホテル、飲食店、給食事業者(老人ホーム)などで、総納入先数は約350(同一ホテルなどでも和食部と洋食部が別々に注文することがあるが、その場合、別個の納入先とみなすと総数は約500)を数え、年間販売額は6億円前後にのぼる。
「八百辰」という名称から推察できるように、同社はもともとは三浦市内の小売店(八百屋)であった。小売店時代から一部の業務用需要者への卸売業務を始めていたが、同業務に専念するようになったのはおよそ10年ほど前からである。それゆえ、八百辰はごく短期間に中間事業者としての確固たる地歩を築いたと言える。
 現在、野菜生産者と業務用需要者を仲介する中間事業者は、中央卸売市場の仲卸業者、地方卸売市場の卸売業者、卸売市場外の青果問屋など、意外に多い。しかし、八百辰のように比較的順調に業績を伸ばし、業務用需要者に対する売上が数億円に上る中間事業者となると、決して多いことはない。特に三浦市のような半島先端部の中小都市に立地する中間事業者で、これほど成功した業者となると、皆無に近いとみて間違いないであろう。
 では、なぜ八百辰は成功したのであろうか。それは八百辰が業務用需要者の要望を理解し、その実現に努めているからである。換言すれば、東京都内の業務用需要者でさえ、100キロメートル近くも離れた三浦半島先端部の八百辰に注文したくなるような、中間事業者としての大きな「魅力」をそなえているからにほかならない。
 以下では、「中間事業者としての八百辰の『魅力』とは何か」を具体的に明らかにし、既に中間事業者として活動している方々やこれから中間事業者になろうとされている方々の参考に資することにしたい。そしてさらに、このことを通して国内野菜産地の発展にいささかでも寄与できるならば、筆者にとって望外の喜びである。

多品目・多品種の提供

 八百辰の「魅力」は、もちろん1つや2つではない。冷蔵機能付きトラックでの迅速な配送や、業務用需要者の要望に応じたカットなどの一次加工、新たな野菜の調理情報の提供など、数え上げれば切りがないと思えるほどである。しかし、それらのうち主なものだけに絞った上で第1に挙げるとなると、それはレストランなどにおいて料理の目新しさやおいしさを実現できるように、シェフなどの要望に応じた多品目・多品種の野菜を提供していることである。その品目・品種数は数百種類、1日当たりで数十種類にも達するとのことである。
 中間事業者の食材の供給先がラーメン屋、そば屋、うどん屋などに限られるのであれば、納める野菜もねぎ、ほうれんそう、はくさいなど、ごく少数の品目で間に合うかも知れない。しかし、多様なメニューを「売り」とするレストランやホテルであれば、10種類程度の野菜で済ますというわけにいかないのは言うまでもない。だいこんを例にとると、料理の種類に応じて煮物用(黄河紅丸だいこん)、だいこんおろし用(小桜だいこん)、サラダ用(紅芯だいこん)、漬物用(青長だいこん)など、異なる数種類のものが必要とされる。また、奥様方が連れだって食事に来られるようなレストランでは、家庭とは違った料理や納得してもらえるおいしさを提供することが重要で、そのためには家庭料理でほとんど使わないような種類の野菜や、高鮮度の野菜が求められることになる。老人ホームでも入居者の楽しみはおいしい食事であり、それに対応できる食材の供給が求められる。しかも、八百辰の場合、食材の納入先が高級レストラン・ホテルから給食・飲食関係までと幅広く、その数も350ないし500と多い。それぞれの納入先の要望に応じるためには、多種多様な野菜を提供できなければならないのである。
 この多種多様な野菜を間違いなく提供するために、八百辰は仕入れに際し3つの方法を採っている。そのうちの一つは、東京都中央卸売市場大田市場をはじめとした卸売市場からの仕入れで、全仕入高の85~90パーセントを占める。この市場仕入れには5人の社員が専従で担当している。基本的な種類の野菜はこの方法で日々大量に調達される。
 二つ目の方法は、地元の生産者との話し合いによる契約に基づいた直接仕入れで、全仕入高の10パーセント前後にあたる。ここでの契約は口頭契約であるが、地元三浦市内の生産者(現在は15戸の農家)と毎年、1月と6月の年2回にわたって品目と取引予定数量を個別の話し合いで決め、作付面積(合計で約3ヘクタール)だけでなく、作付場所(ほ場)も決める。(図1)そして種苗の手当はすべて八百辰が行い、種または苗を生産者に渡す。収穫も八百辰の社員(シルバー人材)が毎日早朝に行う。もちろん、契約ほ場での収穫物は全量を八百辰が買い受ける(業務用需要者からの注文が少ない時には、収穫物を八百辰が卸売市場へ出荷することもある)。この契約仕入れは卸売市場に出回りづらい新規の野菜や地元の伝統野菜、あるいは鮮度が重視される野菜の入手が中心で、数量そのものは少ないものの、仕入れ品目数は年間で約100品目(200種類超)にものぼり、品揃えの大幅な拡充に寄与している。なお、八百辰は自社のほ場(30アール)で種苗会社から取り寄せた新野菜の栽培実験を行い、その成果を生産者に伝えるなど、新商品(新品目・新品種)の開発にも積極的である。

図1 八百辰と地元生産者との契約取引の流れ

 三つ目の方法は、地元以外の全国各地の数十に上る生産者・農協からの直接仕入れである。この場合は、キノコ類(マッシュルーム、マイタケ、なめこ、しいたけなど)が中心であるが、それ以外にも露地みょうが、ライム、オリーブ、紫やまといも、露地山菜などがあり、上記の地元生産者からの仕入れを補完し、より一層の品揃えの拡充を可能にするものとなっている。
 このように、八百辰は数量確保の観点から市場仕入れを基本としているものの、地元生産者などからの直接仕入れを重視し、業務用需要者の要望に応じた品揃えを実現している。中でも地元生産者との連携は、ほかの中間事業者では不可能と言えるほどの品目・品種の多様化を可能とし、八百辰の「魅力」の源泉となっている。

午前0時までの受注

 八百辰の主な「魅力」の第2は、仕入側である業務用需用者側の都合に合わせた注文のしやすさである。注文をしやすくする要因はいくつかあるが、そのうち最も重視すべきは注文の受付時間が原則午前0時までと遅いこと、最少注文単位が「1株、1個、1枚」と極めて小さいことであろう。
 かつて、あるレストランのシェフからお聞きした話だが、各料理の日々の販売数は曜日だけでなく、天候(特に風雨と気温)や行事などによっても大きく変わるため、食材の仕入量は日々細かに変えなければならないとのことであった。と言うのは、仮にトマトがわずか1個だけあまり、その鮮度が落ちて廃棄することになると、その1個分の損失(仕入額)をトマトの収益でカバーするためには、少なくとも3個、場合によっては5個のトマトを使用できる分量の料理を販売しなければならないからである。「たかがトマト1個」とはいかないのである。それゆえ、当日の食材の残りと、天候などによる翌日の必要量を極力正確に把握してから注文できるように、注文時間は可能な限り遅い方が良く、注文単位は可能な限り小さい方が良い(改めて言うまでもないが、たくさん必要な場合には、注文単位数を増やせばよい)。
 こうした業務用需用者の要望に応えようとしたのが、午前0時までの受注時間であり、「1株、1個、1枚」の最少受注単位であった。なお、午前0時までの受注を可能にするために、八百辰では4人の女性社員が真夜中に出勤して注文票を集計し、パソコンへの入力を行っている(図2参照)。
 八百辰への「注文のしやすさ」として、これ以外に重要な点は顧客(業務用需用者)への緻密な情報伝達と注文票の配布である。
 八百辰はインターネットのホームページを利用した情報伝達と同時に、パソコンに慣れてない方のことも考慮してファクシミリでも情報の提供を行っている。インターネットでは「野菜ニュース」や「産地直送情報」を提供し、ファクシミリでは「朝採り野菜(契約畑)情報」などを提供している。これらによって顧客(業務用需用者)は新種の野菜とその調理方法、あるいは品目ごとの産地名(品目によっては生産者名や顔写真なども)を知ることができるだけでなく、多様な品目について今週または翌週の出回り予想量や出回り期間、さらには価格も知ることができる(価格は基本的には八百辰側で決める)。価格は日々変化するわけではないが、品目によっては週間単位で若干の変動がある。顧客は各品目の価格と出回り量、産地などを勘案して注文することができる。
 また、注文票は地元(三浦市)の生産者を中心に、八百辰が生産者名と品目名および1日の生産量を整理した表を作成し、ファクシミリで各顧客(業務用需用者)に送付する。これらの品目の多くは顧客が自分の店の高級感を醸し出すために必要とするものであるため、多種多様でそれぞれの生産量はごく少量に限られる。それゆえ、注文・受注の間違いが起きないようにするために、八百辰側からファクシミリで送られた注文票を利用して、顧客がその中で必要なものに丸印を付け、それを再度、ファクシミリで八百辰側に送る、と言う方法で注文を行うのである。なお、言うまでもないが、中間事業者(納入業者)がやってはいけないことの第一は、受注品目・数量の間違いである。

当日収穫・当日配送

 八百辰の「魅力」の第3は、地元生産者の生産品に限られるものの、「当日収穫・当日配送」の野菜を提供していることである。これは「採れ立てが最もおいしい」という八百辰の経営者の精神に則ったものであるが(スイートコーンの糖度は収穫直後に18~20度ほどあるが、1日たつごとに2度ずつ低下すると言われている)、特に高級レストランのように「おいしさ」を訴求しようとする顧客(業務用需用者)にとっては、まさに大きな「魅力」にほかならない。
 この「当日収穫・当日配送」を実現するため、八百辰では日々、図2に示すような作業工程で仕事を行っている。
 先にも述べたように、まずは午前0時までに注文を受け、それを午前4時までに集計してパソコンに入力する。これによって、当日の品目ごとの販売量(配送量)とともに、地元産野菜の販売量も明らかとなる。これを受けて、市場仕入担当者と収穫作業担当者とが活動を開始するのである。
 収穫作業担当者(12~13名のシルバー人材)は、午前4時に受注票を受け取り、6台の軽トラックやライトバンで収穫に向かう。収穫は契約農家の契約ほ場(ほ場の場所が決まっている)と自社農地で行い、収穫量は事後に農家に連絡する。特別に大量の注文でも入らない限り、農家の方々が収穫作業を手伝うことはない(契約農家の主な作業はは種、定植、および雑草取りなどの生育管理である)。
 収穫物はコンテナに詰め、軽トラックなどに載せて、本社に運ぶ。そこでは女性社員(15名)が中心となって洗浄・選別を行い、また顧客の注文に応じてカットなどの加工も行った上で、配送用のトレイに載せ、配送トラックへの積み込みの準備をする。なお、ここでの残さ(生ゴミ)は60日間かけてたい肥化され、ほ場に施される。
 準備された商品を受けて、15名の配送担当者(運転手)が15台の配達専用車を使って、午前7時から配送を開始する。配達専用車はすべて冷蔵機能付きで、積載能力は2~3トンである。1台で通常、20カ所前後に配送する。その配送先は三浦市内や横浜・横須賀などの湘南地域を中心に、東京にまで達している。ただし、最大でも往復200キロメートル圏内とし、午前中に届けて、午後2時までに帰社できるようにしている。
 かくして、午前4時から7時ごろにかけて収穫された野菜が、同じ日の昼食時や夕食時に食されるのが可能になっているのである。

図2 八百辰における1日の主な作業工程

調理作業の支援

 八百辰の主な「魅力」のうちもう一つは、顧客(業務用需用者)の要望に応じて八百辰が配送前に調理作業を行い、顧客のサポートをしていることである。これは大きな野菜を半分や4分の1にカットすることで、顧客の調理作業を楽にするというだけでなく、だいこんやキャベツの千切り、にんじんの銀杏切り、煮物野菜の調製・下ごしらえを行ったり、サラダ用のカット野菜をセットで取り揃え、さらにドレッシングも用意するなど、盛り付け直前までの作業を行うこともある。
 こうした調理作業の支援を業務用需用者が中間事業者(納入業者)に要請する度合は、近年、ますます高まっていると言われている。例えば、食品リサイクル法(2001年施行)の強化によって、調理場での生ゴミを削減しようとする考えがレストランなどの関係者の間に広まっているが、このことが配送前の不可食部分をカットするなどの一次加工を納入業者に依頼する動きとなって現れている。
 また、社会の高齢化が進む中で老人ホームなどが増加しているが、それにつれて給食事業が大手の事業者を生み出すほどに急速に拡大している。しかし、大手の給食事業者とはいえ、調理担当者を大幅に増やすことは、人件費などのコストの面から極めて困難と言われている。そのため、給食事業者は食材の納入業者(中間事業者)に調理作業の支援・分担を強く要請することになる。
 さらには、社会が豊かになるにつれて外食をする機会が増え、また旅行をする機会も増えた結果、レストランや食堂、あるいはホテルにおいて繁忙期(繁忙時)と閑散期(閑散時)の格差が著しく大きくなっている。この格差がどの程度になるか、あるホテルを例に見ると、1日の宿泊客が最大時には1,500名にも達するのに対し、最少時には300名を割るほどに少なくなるとのことである。これだけの格差があると、そのホテルの調理部門において、当然、最大時の宿泊客1,500名に応じた人材を確保しておくわけにはいかない。閑散期に手ぶらな調理人が増え、不必要なコストの増嵩を招くからである。かといって、繁忙期に他部門からの応援を頼むわけにも行かない。他部門でも調理部門と同様、超多忙になっているからである。となると、繁忙期には納入業者(中間事業者)に調理作業を分担してもらうしかないのである。
 こうした時代の変化に応じた要請を真に受け止め、多様な品揃えやきめ細かい受注体制の整備と調理作業の支援に力を入れたことが、八百辰の大きな「魅力」になり、実需者との結びつきを強固なものとしていると言えよう。


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