日本大学生物資源科学部
教授 下渡 敏治
北海道十勝管内の中札内村農業協同組合では、特産のえだまめの生産・販売が順調に推移しており、平成21年度には作付面積、生産量、販売額ともに過去最高を記録している。同JAではえだまめの生産、加工、販売までを一貫して手掛けており、瞬間冷凍技術により収穫時の風味を閉じ込めた冷凍えだまめは、米国をはじめ、香港、ロシア、ドバイなどへも輸出が行われている。
しかし、輸出に際しては、さまざまな課題もあり、今後、同JAが本格的に輸出に取り組むうえでは、輸出を仲介する商社・バイヤーの確保、価格面における競争力の強化、輸出のための明確なビジョンと計画性を持った組織体制の構築などが重要である。
1990年代以降急速に進展した経済連携協定(EPA)の締結や為替変動(円高ドル安)により、わが国の農産物市場は否応なしに安価な外国産農産物との競争にさらされるようになっており、農業を取り巻く経済環境は一段と厳しさを増している。こうした状況のもとで、農産物の輸出体制の確立は日本農業の将来にとってますます重要な政策課題になりつつある。政府は農林水産物の輸出目標にしている1兆円の達成時期を2020年まで延長することを決定した。わが国の農産物の中でも市場開放による外国産農産物との競争によって最も大きな影響を受ける可能性が高いのが北海道の畑作地帯である。
今回、わが国最大の畑作地帯である北海道十勝地方に位置する中札内村で取り組んでいる「冷凍えだまめ」の輸出事業に焦点を当てて、中札内村におけるえだまめ生産の経緯、冷凍えだまめの輸出の現状と課題について検討した。周知のように、わが国は冷凍えだまめの8割以上を輸入に依存しており、主な輸入先国は中国、台湾、タイなどである。とりわけ国産のえだまめに比べて割安で量的確保が容易な中国、台湾からの輸入量が多く、国内の産地は鮮度や食味、栽培品種の多様化による差別化戦略によって輸入品とのすみ分けを図っている。価格競争では劣勢を強いられている国内産の冷凍えだまめが輸出によって新たな販路を開拓し、安定した市場を確保することができるのか、国内有数の畑作地帯として知られる中札内村の農産物輸出事業への取り組みは今後のわが国の農産物輸出事業に多くの示唆を与えるものと思われる。
中札内村は北海道の東部に広がる十勝平野の南西部に位置する人口4,117人、1,770世帯が暮らす小さな村である。人口は戦後の昭和20年代半ばから現在に至るまでおおむね横這いで推移しており、大きな変動は見られない。中札内村の主たる産業は7,009ヘクタールの広大な農地を活かした畑作農業であり、小麦、ばれいしょ、てん菜、豆類などの主要作物のほか、近年ではだいこんなどの野菜類が作付されており、野菜類の作付面積は増加傾向にある。村内の農家戸数は174戸、1戸当たりの平均経営面積は40.3ヘクタールと都府県の1戸当たりの経営面積を大きく上回っている。北海道という地理的条件を反映して10月上旬から4月中下旬までの間は積雪があり、農地での作業期間は170日間(おおむね6カ月程度)と短い。しかも一連の農政改革による品目横断的な経営対策の導入、貿易自由化と規制緩和のもとでの市場原理の導入、民間流通への移行によって中札内村農業も厳しい経営環境下に置かれている。こうした厳しい自然条件と経営環境のもとで、地域農業の発展に主導的役割を果たしているのが中札内村農業協同組合(以下、「JA中札内村」)である。戦後間もない昭和23年に設立されたJA中札内村は、正組合員数222名(個人176名、法人40団体)、准組合員648名、農家戸数171戸、職員数76名を擁し、年間販売高(平成21年度)は76億3,300万円に達している(図1)。
資料:JA 中札内村提供資料をもとに作成
JA中札内村は、農業管理センター、営農コミュニテイセンター、農産物加工処理施設、肥料配合工場、肥料保管庫、ばれいしょ貯蔵施設、ばれいしょ選別施設、豆類乾燥施設、麦乾燥工場、車両整備工場のほか村内、村外に4つの農畜産物直売所と給油所を有し、農業の生産(営農指導)、加工、販売、購買、信用、共済の各事業によって、名実ともに中札内村の農業を支える中核的な役割を担っている。管内の主な農産物はポテトチップス、ポテトサラダ、でん粉の原料となるばれいしょ(作付面積955ヘクタール)、豆類(同530ヘクタール)、砂糖の原料となるてん菜(同1,092ヘクタール)、主にうどんの原料となる小麦(品種はホクシン、同961ヘクタール)、トウモロコシなどの飼料作物(同1,634ヘクタール)、山ごぼうなどの野菜類(同934ヘクタール)、その他作物(同44ヘクタール)(図2)のほか、畜産物として年間35,000トンの生乳、同1,800トンのブロイラー、同9,000頭の肉豚、同3,600トンの鶏卵が生産されており、総生産額は100億円に達している。
注:禾本類(かほんるい)とは、イネ科の植物の総称
資料:JA 中札内村提供資料をもとに作成
中札内村の農業の特徴は、国際化時代に対応した経営の合理化、大型化、システム化、生産コストの低減を図るための農業経営の法人化と、畑作と畜産を組み合わせた地域複合経営の展開にあり、「土から出たものは土に返せ」を合言葉に、農薬の使用を制限し、環境、健康、生命にやさしい「資源循環型農業」を推進している点にある。
中札内村に農作物としてえだまめが導入されたのは、今から20年以上前の昭和58年にさかのぼる。当時、マツダ樹生園種子圃場において試験的に手もぎのえだまめが生産され、地元の十勝産業の農畜産物加工施設で試験製造されたのが最初である。翌59年には3名の耕作者によって手もぎでえだまめの生産が開始された。当時の生産量はおよそ3トン、その後、作付面積と生産量は幾分増加したものの、面積、生産量に大きな変動はなかった。平成元年、中札内村の20戸の農家によって「枝豆を作る会」が設立され、本格的なえだまめの生産が開始された。その背景には相次ぐ農産物の輸入自由化によって畑作物の収益性の低下が顕著となる中で、経済効率の高い農作物を導入し、地域農業の新たな展開を図るという狙いがあったものと思われる。同年、群馬県の松本農機から手持ち式収穫機を導入し、帯広市生協と連携して商品開発と共同購入・販売がスタートした。栽培品種は「サッポロミドリ」の極早生で10トンが生産された。翌平成2年には「白熊3号」という新品種を導入し、コープさっぽろと釧路市民生協との間で共同購入・販売を開始した。平成3年には生産者も30名に増加し、本田農機からえだまめピッカー600型機を導入した。販売先も日本生活協同組合連合会(日生協)と提携し、関東地域の一部に試験販売を開始した。栽培品種も「白熊トップ」と「大袖の舞」などの新品種の試験栽培を開始し、生産量も50トンに増加した。平成4年には加工工場が建設され、作付面積も23ヘクタールに増加し、販売金額は2,400万円に達した。平成5年以降は作付面積も30ヘクタール台に拡大し、平成7~8年にはアーサーリフト収穫機が4台導入された。しかし平成16年度までえだまめ生産に大きな変動はなかった。中札内村のえだまめ生産に画期的な変化をもたらしたのが、平成17年のえだまめ加工工場の増改築とフランスからの大型ハーベスタ-(刈取機、1台)の導入である。これによってえだまめの作付面積は一挙に137ヘクタールへと3倍に拡大した。その後作付面積は年々増え続け、平成18年度には217ヘクタール、平成19年度には254ヘクタール、平成20年度には351ヘクタール、平成21年度には577ヘクタールにまで拡大した。それに伴い、生産量も平成18年度のおよそ2倍に当たる2,492トンとなり、平成22年度には3,000トンものえだまめが生産され、生産額も平成4年度の2,400万円から平成21年度の4億7,000万円へとおよそ20倍に増大している(表1)。
※ 平成14 年以降は、新品種「いわい黒」の導入により、「大袖の舞」と「いわい黒」を合算してある。
※ 単価( )はいわい黒の単価である。
資料:JA 中札内村提供資料をもとに作成
好調なえだまめ需要を背景にJA中札内村では、今後とも作付面積560ヘクタール、年間生産量3,500トン体制を維持することを計画しており、昨年、フランスから新たに大型ハーベスター1台(5,200万円)を追加購入し、3台の大型ハーベスター(2台は国と村から3分の1の助成を受けた)をフルに活用し、収穫後3時間半という短時間での製品化を可能にしている。フランス製の収穫機を購入したのは、日本製のハーベスターの耐用年数が短いためである。収穫作業は農協職員9名と生産農家10人の協力を得て、24時間体制で実施されており、8月25日から9月25日までの収穫の最盛期には休みなしの収穫作業が続くという。
収穫作業は104戸の農家を順番に振り分けて実施している。収穫作業自体は一日当たり30~40ヘクタールが可能であるが、加工工場は時間当たり7トンしか処理できないため、工場の処理能力に合せて収穫作業を実施している。生産農家1戸当たりの平均作付面積はおよそ5ヘクタール、最も作付け規模の大きい農家で22ヘクタールであり、えだまめの作付面積は農家ごとに異なっている。生産されたえだまめは、1キログラム当たり185円でJA中札内村が生産者から買い取り、JA中札内村は製品化したえだまめを300グラム当たり190円前後で販売している。JA中札内村の山本代表理事組合長は、えだまめは、少ない労働力と生産資材による生産が可能であり、ほかの農作物に比べて単位面積当たりの収益性が高く、最も経済効率の高い農産物であると話している。
地元農家はえだまめ以外に1,350トン(8億7,700万円)のさやいんげん、そのほか5~6品目の農産物を生産しており、えだまめだけでも平均870万円の農業所得を得ているという。
品質の高さと好調な市場需要によって中札内村の冷凍えだまめは、平成21年度には欠品状態に陥った。このため、平成17年に10億3,000万円を投資して建設した加工工場に、平成21年に20億円を追加投資して工場の増設に踏み切った。20億円のうち9億円は国の補助金で賄われ、平成17年の投資と合わせて、トータル30億円の投資である。これにより2,000トン程度であったえだまめの冷凍貯蔵量は、4,500トンから5,000トンへと増加した。増設された加工工場では現在、120人の職員が昼夜2交代制(1回の作業時間は8時間)で選別、洗浄、冷凍などの加工作業に従事しており、えだまめの収穫期(繁忙期)には24時間体制(3交代制)で加工作業に当たっている。
冷凍えだまめは、マイナス196度の液体窒素で瞬間冷凍してえだまめの風味を収穫時そのままの状態に閉じ込める独自の製造方法を用いており、使用する液体窒素は苫小牧港からタンクローリーで搬送し、工場敷地内に設置された専用タンクに貯蔵されている。液体窒素を苫小牧港から搬送しているためコスト高になっているが、液体窒素の地元での供給が可能となれば製造コストはかなり削減できるという。
また、冷凍えだまめの加工・製品化に際しては、収穫前から製品化に至るまでの間、残留農薬検査や色彩選別機による規格外品および不純物の除去を何度も行うなど、安全・安心を心がけた取り組みが行われている(図3)。このような厳しい検査・選別の過程を経た後の製品ロス率は、積載量がおおむね10トンのトラックに換算して15パーセント(1.5トン)、歩留率は85パーセントである。
資料:聞き取りをもとに作成
JA中札内村のえだまめ加工工場
えだまめを瞬間冷凍する液体窒素
中札内村産のえだまめは瞬間冷凍するため、解凍後も色落ちせず、ほ場で収穫したままのみずみずしい緑色を保持しているのが特徴である。このため、夏期に清涼感を与える学校給食用の食材として生徒達に人気が高く、当初は最初に引き合いのあった長崎県の小学校のみに納入していたが、現在は32道府県の小中学校に約300トンを炊き込みご飯などの食材として供給している。ある県からは平成22年度に34万食、23年度は100万食の注文が来ており、発注のロットが大きすぎるため中札内村以外の産地では対応できない量だという。かつては大手居酒屋チェーンとも取引していたが、注文に供給が追いつかず、2カ月間欠品状態が続いたため、年間200トンの取引が停止状態となっている。現在、商品化されたえだまめ加工品は「そのまま黒えだ豆」「そのままえだ豆」「枝豆みそ」「えだ豆焼酎」「えだ豆そうめん」「えだ豆そば」「えだ豆カレー」「黒えだ豆コロッケ」「そのまま黒えだ豆納豆」「えだ豆餃子」など20品目以上に上っており、合同酒精と共同開発した「えだ豆焼酎」は、昨年12,000本を販売した。「そのまま黒えだ豆」など一部の加工品は、道内はもとより全国各地のスーパーやコンビニ、生協などの店舗で広く販売されており、現在、170社のスーパーなどとの間で販売契約を結んでいる。大手量販店ではイトーヨーカ堂の首都圏の店舗のほか、日生協には年間600トンを納入している。そのほかの加工品については通信販売を通して販売している。一方、学校給食用については、流通業者を通じて本州各地の小中学校に納入している(図4)。平成23年の9月上旬には中札内村で「全国枝豆サミット」が開催される運びであり、全国のえだまめ関係者600人が参加する予定だという。
資料:JA 中札内村提供資料をもとに作成
えだまめ加工工場の増設を契機にJA中札内村は、えだまめ製品の本格的な販路拡大に乗り出している。そのひとつが海外市場での販路開拓である。道内では同じ十勝管内にある川西農業協同組合、大正農業協同組合の両農協が薬膳料理などの食材として年間およそ3,000トンのながいもを台湾、米国などに輸出しており、単品としてはわが国最大の輸出農産物となっている。地元ではながいもに次ぐ有望な輸出用農産物として冷凍えだまめに対する期待が高まっている。
最初にえだまめの輸出に着手したのが米国市場への進出である。平成17年6月、札幌市内で開催された商談会への出展がきっかけとなって東京に本社を置く輸出関連商社との間で商談が成立し、米国内に9店舗を展開する日系スーパー・ミツワが9月に開催した北海道フェアでの販売を目的に最初の輸出が行なわれた。輸出関連商社は、中国産のえだまめが市場を席巻している米国で、中国産に比べて格段に食味と品質のよい中札内村産の冷凍えだまめは、十分に商機があると判断したようである。輸出されたのは冷凍えだまめのほか、冷凍いんげん、冷凍かぼちゃであり、ロサンゼルス市内の4店舗で販売された。米国市場への輸出はその後も順調に推移しており、現在、2、3カ月に一回の割合で200キログラムの冷凍えだまめが輸出されており、輸出回数も通算16回に達し、平成21年度は6トン、平成22年度は8トンが輸出される見込みである。
一方、ロシア向けの輸出は、農林水産省の助成で実施されている「輸出事業農林水産物等海外販路創出・拡大事業」(受託先:ジェトロ・日本貿易振興機構)の一環として、平成21年3月下旬に在ロシア日本大使館で開催された「日本食・日本食材活用型フェア」に参加したのが最初であった。モスクワで開催されたフェアには、ロシア国内の百貨店のバイヤーや日本食レストランのシェフ、貿易会社の関係者などが多数参加した。モスクワのフェアには冷凍えだまめを持参して商談に臨んだ。モスクワ市内に約350店ある日本食レストランのうち、ほとんどの店舗でえだまめがメニューに採用されており、市内のマーケットで販売されているえだまめの値段は日本円に換算して300グラム当たり400円(出荷価格は187円)と割高である。ちなみに東京都内の店頭価格は300円程度である。モスクワには通算4回輸出したが、円高の影響を受けて輸出はストップしている。ロシア市場ではえだまめの消費需要が大きいことから、輸出体制が確立できれば継続的な輸出が成功する可能性が高いという。
香港へは平成21年2月に北海道発展協議会の仲介で、冷凍えだまめ3トン、冷凍いんげん600キログラムを試験的に輸出したところ、3トンの冷凍えだまめを10日間で完売した。現地での販売価格は日本円に換算すると300グラム当たり440円程度とのことである。香港からは1回に10トンのえだまめのオファーがあり、平成22年11月には現地商談会に参加した。
シンガポールでは日系スーパーの現地店舗で冷凍えだまめ、冷凍いんげん、えだまめアイスクリームなどの試験販売を2回実施しており、その後、順調に取引が行われている。さらに平成23年1月に現地で開催された商談会に参加し、新たな出荷ルートも模索している。
現在、順調に商談が進展しているのが中東のドバイ(アラブ首長国連邦)向けの輸出である。ドバイ向け輸出は、三菱UFJリサーチセンターが主催した日本食材の見本市への参加を契機に輸出が始まった。ドバイにはえだまめを食べる習慣があり、日本の大手水産会社が輸入販売している台湾産の冷凍えだまめが変色しているのに対して、高品質(食味、色彩)の中札内村の冷凍えだまめは商品力、消費者の評価ともに高い。現地での販売価格は日本円に換算すると300グラム当たり600円程度であり、ドバイには通算6回を輸出している。現在も1カ月から1カ月半に1回の頻度で注文がある。今後は従来の品質(食味、色彩)などの商品力に加えて、コスト低減を図り、価格面でも中国産、台湾産の商品と互角に戦える商品を安定的、継続的に輸出可能な体制をどう構築するかが重要な課題となっている。
手軽に食べられる試食用えだまめ
冷凍えだまめの商品
以上のように、JA中札内村のえだまめ製品の輸出事業も今年で6年が経過し、輸出の第一ステージを終了しつつあるといえよう。過去6年間の輸出事業をふり返ると、輸出経験のなかったJA中札内村にとって海外市場での市場調査と同時に、中札内村のえだまめ生産者に対して輸出事業に対する啓発活動を行い、海外市場での需要者の理解を得るためのいわば「先行投資・普及啓発期」と位置づけられる。過去6年間の取り組みによって中札内村産の冷凍えだまめが中国産、台湾産の冷凍えだまめと比較して食味や色彩などの品質面、商品設計面において高い商品力を有し、海外市場向けに輸出可能な商品であることが判明した。
今後は中国、台湾などの競争相手とも品質面のみならず価格面でも互角に戦える商品を供給していくことで安定した輸出量と収益を確保することを目指すべきとの方向性を得た。いかに高い商品力を持った商品であっても海外市場において現地のユーザーや消費者から受け入れられる商品、購入可能な価格帯でなければ農産物輸出事業は成功しない。国内には「いい物さえ作れば買ってもらえる」と考えている生産者が少なくないが、高価格帯のブランド品の市場は現地の富裕層や駐在外国人など少数の消費者層に限定されている。高級和牛や高級果実のようにブランド化された農産物は供給量に限界があり、現地の高所得層をターゲットにした輸出戦略、差別化戦略が有効であるが、中札内村のように大規模生産、大量加工、大量供給可能な産地における農産物の輸出戦略は、ブランド品の輸出戦略とは大きく異なることを十分認識する必要がある。
二つには、えだまめ輸出上の最大の障害となっている輸出関連商社の確保と輸出関連商社との連携・協力が重要な課題となっている。現在、国内では大小10数社の貿易商社が農産物・食品の輸出事業に関わっており、農産物・食品輸出に関心を持っている貿易業者や民間企業は少なくない。冷凍えだまめの輸出拡大を図るには、これらの貿易業者や企業が蓄積している海外市場情報や輸出ノウハウを有効に活用することが重要であるが、これらの輸出関連商社や企業の中には国、品目ごとに得意分野が異なっていたり、輸出産地や輸出商品に対する情報が不足している場合が少なくない。JA中札内村が輸出を仲介する商社や国内外のバイヤーを活用するには、農林水産省が輸出促進事業のマッチング対策の一環として実施している「輸出オリエンテーションの会」あるいは海外の食品見本市において設置する「ジャパンパビリオン」などに積極的に参加・出展し、輸出のターゲットとする輸出先国や輸出商品に精通した輸出関連業者を選定する必要がある。
過去6年間の輸出事業では試験的な輸出を含めて米国、ロシア、香港、シンガポール、ドバイ(アラブ首長国連邦)の4カ国1地域を対象に輸出が実施され、シンガポールを除いた3カ国1地域で輸出可能な商品との感触が得られた。しかしこれらの3カ国1地域は、人口規模、所得水準、食文化、民族性などにおいてそれぞれに性格の異なった市場である。一般的に、米国と香港は価格志向が強く、ロシア、ドバイは必ずしも価格志向的ではないものの、現地市場で誰と取引関係を結ぶか、現地のどの消費者層を販売(顧客)のターゲットにするかによって輸出への取り組み方も変わり、輸出戦略も異なってくる。国内市場は少子高齢化、人口減少社会の到来によって個人消費が停滞もしくは減少し、いや応なしに海外市場に目を向けざるを得ない時代が迫っている。国内最大規模のえだまめ産地である中札内村に求められているのは、国内向けにどれぐらいの量を供給し、海外市場のどの国のどの市場にどれぐらいの量をどの程度の価格帯で供給可能かという中長期なビジョンをもつことである。余剰農産物のはけ口を求めた一過性の輸出事業が成功しないのは、計画性や明確なビジョンを欠いているからである。明確なビジョンと計画性、輸出を目的とした組織体制なしには、農産物輸出事業で成功することは難しい。安全・安心で高い商品力を持った大規模畑作地帯の農産物輸出事業は、今第二ステージに足を踏み入れようとしている。JA中札内村のえだまめ輸出事業の今後の展開に期待したい。