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調査報告


「第三回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」事例の紹介⑦

レタスの周年リレー供給契約取引グループの取り組み事例

野菜業務部 調査情報部


要約

 グループのまとめ役として、中間流通業者の丸西産業株式会社は、実需者である株式会社ベジテックのニーズに応じて、年間を通じたレタスの供給を可能とするため、長野県以外にも茨城県、熊本県にそれぞれ契約産地を設け、産地育成を図るなどして、産地リレーによる年間を通じたレタスの安定供給を実現している。

1. はじめに

 本稿では、「第三回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」において、

 ○ 生産者・流通業者・実需者の三者が相互に連携した産地リレーにより、国産レタスの年間を通じた供給の仕組みを構築した

 ○ 本グループによる契約取引の数量は年々増加しており、国産野菜の生産・利用の拡大に大きく寄与している

などの点が評価され、独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞を受賞した「丸城出荷組合」「有限会社DIC(ディック)信濃川上」「有限会社源流信濃」「農事組合法人TAC(タック)やつしろ」「株式会社ベジタブルズ金剛」「丸西産業株式会社」「株式会社ベジテック」の7者で構成するレタス周年リレー供給契約取引グループのうち、「丸城出荷組合」「農事組合法人TACやつしろ」「丸西産業株式会社」「株式会社ベジテック」における取り組みについて紹介する。

2. 丸西産業の取り組み (1)組織の概要

 丸西産業株式会社(以下「丸西産業」)(本社:長野県飯田市)は、産地と実需者の間で取引の企画・調整を行う中間流通業者であり、本取り組みの中心的な役割を担っている。
 丸西産業は、本社近郊の農家に肥料、農薬などの販売を専門に行う農業資材販売会社であった。昭和50年代に夏秋レタスの大産地である同じ長野県の川上村で肥料の営業・販売を開始したことをきっかけに売上を伸ばし、平成元年には川上支店を開設するに至った。
 当時、外食・中食、業務用、有機農産物などの需要が伸び始めた時期でもあったことから、農業資材に加えて新たな事業展開として実需者ニーズに対応した夏秋レタスの販売を手掛けることとした。
 レタスの販売を模索する一方で、自社の有機質肥料を使用した川上村のレタスの生産者グループ(後の「有限会社DIC信濃川上」)の法人化を支援し、同法人から買い取ったレタスを実需者に販売することとした。このことが本取り組み事例の始まりである。
 現在、丸西産業が取り扱っている野菜は、主力のレタス(全体の60パーセント程度)のほかに、キャベツ、はくさいなどがあり、これら3品で全体の95パーセントを占めている。取引先は、本取り組みの実需者となる株式会社ベジテックをはじめ、大手量販店、加工業者などである。輸入品の取り扱いは、国内での生産量が少ない野菜(レッドキャベツなど)について、実需者の要望があれば取り扱う程度であり、ほぼ99パーセントを国産野菜が占めている。特に鮮度が重要視されるレタスはすべて国産である。

(2) 契約取引の仕組み

 丸西産業の呼びかけのもと、年に一回作付け前、産地ごとに、丸西産業と生産者との間で「計画会議」が開催される。この計画会議は、丸西産業にとってはベジテックなどの販売計画およびニーズを反映したレタスの供給を実現するための会議であり、産地にとっては、その年の作付面積(契約量)、契約単価などの契約内容を決める会議となる。会議では、お互いが持ち寄った数値のすり合わせや意見交換が行われ、以後、数回に及ぶ調整の後、当該年の作付計画が決定する。
 契約単価は、加工・業務用向けには契約期間を通じた単価が設定され、生食向けには市場価格に連動した週間・日々値決めによる単価が設定される。
 シーズンに入ると、生産者は計画どおりにレタスの作付けを行い、出荷時期には丸西産業からの毎日の発注に基づき、丸西産業の産地駐在職員が指定したほ場で、規格(すべてを商品の原料とするために11種類もの規格を設定)ごとの数量が収穫される。収穫されたレタスは、通い容器(規格に応じて玉数が異なる。一部産地では段ボールを使用)で集荷場に持ち込まれ、真空予冷機で芯まで冷やした後、丸西産業が手配した運送会社のトラック(予冷車)により、直接ベジテックの流通センターや加工センターに運ばれる。
 このようにして出荷したレタス生産者への販売代金の支払いは、月3回行われている。

(3)「受注生産方式」による無駄のない生産と生産者の負担軽減

 一般に野菜の契約取引においては、豊作などにより契約数量を超過した分は、生産者自らが販売先を探すか、やむなくほ場にて廃棄処分するなど、生産者は処理に苦慮する場合もある。
 本取り組みでは、生産者が計画どおりに作付けを行った結果収穫した分については、全量を丸西産業が買い取ることとしているため、生産者は安心して生産に集中できる環境にある。
 このことを可能としたのは、丸西産業の日々の販売および調整努力もさることながら、実需者であるベジテックの年間計画に基づき、出荷予定日、出荷規格などを綿密に組み込んだ生産計画どおりに作付けを行うといった、いわゆる「受注生産方式」によるところが大きいと考えられる。また、この「受注生産方式」を補完しているのが丸西産業の指導に基づく徹底した土壌改良、品種の選択、施肥設計、病虫害対策、その時々の気象条件への対応などの取り組みである。このうち土壌改良については、自社の機器による土壌分析に基づき行い、品種の選定については、実需者ニーズおよび作付け時期ごとに、複数の気象パターン、前年度の病害虫被害などの諸条件を勘案し行っている。
 また、計画に基づく作付けにもかかわらず、天候不順などの影響により、どうしても予定した数量が揃わない場合は、丸西産業がほかの産地、市場、系統組織などから手当して補充することとしている。さらに、このような場合、生産者に対してはペナルティーが課されないため、この点も生産者にとっては安心して契約取引に取り組める要因のひとつとなっている。

(4)出先機関の役割

 豊凶にかかわらず、生産者が安心して生産に専念できる要因には、契約産地ごとに設けられた丸西産業の出先機関による管理・調整が十分に機能していることが挙げられる。
 本グループの取引において、春と秋のレタスの供給を担当する「丸城出荷組合」に対しては茨城支店(茨城県)が、夏場を担当する「有限会社DIC信濃川上」および「有限会社源流信濃」に対しては川上支店(長野県)が、また、冬場を担当する「農事組合法人TACやつしろ」および「株式会社ベジタブルズ金剛」に対しては八代出張所(熊本県)がそれぞれ対応しており、丸西産業の職員が産地に常駐し、土作りからは種、栽培管理、病虫害対策、収穫、経営相談などに至るまで、年間を通じて生産者と一緒に取り組んでいる。毎日ほ場に接していることから、職員の中には生産者以上にほ場に詳しい者もいるとのことである。
 丸西産業では、産地の育成を事業に取り組む上の最重要事項と位置づけており、これら駐在職員は、実務面においても作柄などの産地状況の把握および数量調整、迅速な情報伝達など、産地との信頼関係の構築に大いに貢献している。つまり、実需者にとっては、豊凶など契約産地の状況をいち早く察知し、その先を見越した早めの対応を取ることにより、リスクを回避することが可能となる。また、生産者にとっても、病害虫への対応などの生産技術、実需者ニーズなどの最新情報などを丸西産業の職員から入手することにより、効率的かつ安心して生産に取り組むことができる。

レタスの契約産地別出荷期間

(5)産地間交流による品質の統一と信頼関係の構築

 年間を通じてレタスがほしいとの実需者の要望により、夏場以外の季節の産地の育成に乗り出したものの、「丸城出荷組合」、「農事組合法人タックやつしろ」、「株式会社ベジタブルズ金剛」のいずれも、それまでレタスを栽培した経験がなかったことから、栽培開始当初は、それぞれの生産者が一定期間、夏場の川上村の生産農家のもとでレタス栽培研修を受けた。この研修は、栽培技術の習得のみならず、実需者に年間を通じて一定品質のレタスを供給する上で、非常に重要である。このため、現在でも、新たに加わった生産者や希望する者に対して行われている。
 また、生産者による農閑期を利用した株式会社ベジテックの加工工場などでの作業体験、ベジテックの新入社員を対象としたほ場での現地研修などを通じて、生産者と実需者間との信頼関係の構築が図られている。

(6)契約取引について

 契約取引について丸西産業は、量的にも質的にも実需者ニーズに対応するためには、産地と中間流通業者が協力し、その都度さまざまな課題を解決し続ける取り組みこそが本質であると考えている。産地にとっても中間流通業者にとっても、ものが無い時こそ実需者から信頼を得るチャンスであり、その時の対応が豊作時の取引に反映され、信頼関係をともなった実需者との息の長い取引へとつながるという。
 今後について丸西産業総務部の原偉樹課長は、信頼できる産地と知り合い、規模拡大を積極的に図り、また、キャベツやはくさいについても同様に周年安定供給を目指したいと話していた。

【丸西産業株式会社の紹介】
 丸西産業株式会社(代表取締役 山下大輔氏)は明治10年、当時養蚕業が盛んであった長野県飯田市で「和紙問屋」として創業しました。その後、明治末期には、肥料用に「菜種粕」「大豆粕」「魚粕」の販売を開始し、昭和初期には化学肥料(硫安)の販売に力を入れました。太平洋戦争中は物資不足による統制経済により一時肥料の販売を中止し、竹細工の販売を手がけた時期もありましたが、戦後昭和24年には会社名を現在の「丸西産業株式会社」に改称し、昭和26年には統制経済も解かれ、再び肥料・農薬・飼料の販売を開始しました。
 レタス以外では、キャベツ、はくさい、スイートコーンなどにおいて、群馬県、長野県、静岡県、愛知県、長崎県の産地と契約取引を行っています。
 また、野菜以外では、平成10年にはフルーツカット工場(TASPASS〔タスパス〕:Tasty And Safe Products of Agriculture Supply System)を飯田市内に設立し、カットフルーツの販売も開始するなど「食文化の未来を見つめ新しい農業環境を創造する」をモットーに、増え続ける実需者からの要望に応えるために、さらなる取引規模拡大を目指しています。
 現在、同社の年間の売上高(約60億円)のうち、青果物の販売が占める割合はおよそ6割を超えています。

写真1 丸西産業株式会社の農業資材用倉庫

3. 丸城出荷組合の取り組み (1)組織の概要

 丸城出荷組合(代表 小野里勇氏)は平成16年9月、同年7月に解散した農事組合法人常栄農事(以下「常栄農事」)の構成員により茨城県八千代町にて組織された任意出荷組合である。
 八千代町は、古くから春と秋冬期のはくさいの大産地であり、国の野菜指定産地にも指定されている。丸城出荷組合(当時は常栄農事)も丸西産業と取引を開始する前は、主にはくさいやほうれんそうを生産していた。
 レタスに転換したきっかけは、以前から農業資材の購入などで付き合いのあった丸西産業から、平成7年に春と秋作用レタス産地の候補として、レタスの試験栽培(種4缶(2万粒)分)を依頼されたことによる。レタスの周年供給を図りたい丸西産業と契約取引により安定した収入を得て規模拡大を図りたい常栄農事の思惑が一致したことになる。
 本取り組みの中では、春と秋のレタスの供給を担当しているが、そのほか、キャベツ(春・秋)、はくさい(冬・春)、ブロッコリー、スイートコーンなどの生産にも取り組んでおり、総額約10億円の売り上げがある。
 また、全組合員数25名のうち、レタスの生産者は20名、そのうち半数近くには後継者を確保している。

(2) 生産概況

 平成21年度の結球レタスの作付面積は、春作分が85ヘクタール、秋作分は78ヘクタールであり、また、非結球レタスは、春作、秋作ともに14ヘクタールであった。出荷量は、結球レタスで年間約100万ケース、非結球レタスで同約17万ケースであり、全量が丸西産業との取引である。
 ほ場では、丸西産業の土壌分析結果に基づいた土づくりが行われる。ほ場に適した施肥設計が行われることから、肥料の投入に無駄がない上、ほ場に適した品種の選定、栽培指導により、農薬代も節減されている。
 はくさいからレタスに転換した生産者は、「レタスは、ほ場が合う、合わないがはっきりしているため、pH(ペーハー:酸性、アルカリ性の度合いを測る水素イオン濃度)値を調整した程度では良いものはできない」と栽培の難しさについて感想を漏らしていた。
 収穫は、春作は3月から6月まで、秋作は9月から12月まで毎日、丸西産業茨城支店の担当者が指定したほ場および規格に対して行われる。最盛期には、朝4時から午後8時までの間、丸西産業茨城支店の集荷場に順次持ち込まれる。出荷割合は、生食用が7割、加工・業務用が3割である。
 販売代金は、月3回生産者に直接支払われるため、生産者にとっては、販売代金の精算の速さもこの取り組みのメリットとなっている。また、肥料代、農薬代などの農業資材費が販売代金と相殺されることも生産者が安心して取り組む要因となっている。

(3)契約取引について

 丸西産業との契約取引について丸城出荷組合代表の小野里氏は、「再生産価格が保証されている上、収穫物が全量引き取られることから、スケールを追求した農業経営が可能となり、安心して生産に集中できる」という。
 また、生産者は、一時の価格の推移に左右される農業経営ではなく、期間トータルで見た農業経営が大事といい、さらに、産地から信頼を得る上で中間流通業者に必要不可欠な条件である産地を育てるという気概と生産者から信頼される行動を、丸西産業とベジテックの両者は、日々の努力により持ち続けていることに感謝していると率直な気持ちを語っていた。

丸城出荷組合のレタスの出荷量に占める加工・業務用仕向け量

写真2 丸城出荷組合の組合員の方々
(左から高谷さん、小野里さん、染野さん)

写真3 通い容器に詰められ真空予冷機にかけられるレタス(丸西産業茨城支店)

4. 農事組合法人TACやつしろの取り組み (1)組織の概要

 農事組合法人TAC(タック)やつしろ(熊本県八代市、以下「TACやつしろ」)は、現在役員4名、正社員13名、パート(常時雇用)6名で組織される。八代市は古くからいぐさの産地であり、代表理事の野田成之氏も以前はいぐさの生産農家であった。いぐさは、近年、安価な中国産に押され、農家経営は苦しい状況にあったため、代替作物として平成12年からレタスの生産に切り替え、2年後の平成14年には、志を同じくする生産者5名とともにTACやつしろを設立し、会社形態による組織の運営を行っている。
 レタスを選んだ理由は、米国と同様、いずれ日本も業務用レタスの需要が伸びるとの野田氏の考えによる。
 現在、レタスをはじめ、キャベツ、水稲、スイートコーン、メロンなども生産し、経営面積は延べ80ヘクタール、そのうちレタスは55ヘクタールを占めている。年間で総額およそ2.4億円の売り上げがあり、その7割はレタスが占める。

(2)生産概況

 本取り組みの中では、秋冬季におけるレタスの供給を担当しており、契約期間の12月から3月末の間、毎週金曜日に丸西産業から翌週分の注文が予告され、出荷2日前に最終的な発注が行われる。収穫作業は3班に分かれ、午前8時から午後3時まで行われる。各班には、主任、副主任が配置され、副主任にある程度任せられるようになった段階で、班の数を倍増し、規模拡大を図ることとしている。収穫されたレタスは一旦集荷場に持ち込まれ、輸送までの間、予冷庫(3,000ケースを保管可能)で保管される。出荷の最盛期には、1日当たり5,000ケースが出荷される。
 また、レタスは水稲の裏作で生産されていることから、連作障害の心配はない。ほ場が昭和初期からの干拓地で、地下水の水位が高く、排水が悪いことから根腐れが心配されるため、土づくりに力を入れ、畝を高くして地下水の影響をあまり受けないようにするなど工夫が凝らされている。
 生産されるレタスは、結球レタスが7割、非結球レタスが3割を占める。また、加工・業務用に6割、量販店などの生食用に4割と、加工・業務用向けの比率が高い。

(3)丸西産業との取引のきっかけ

 平成12年に5戸の農家でレタスの生産を開始し、最初の2年間はそれぞれが個別経営を行っていたが、個人単位での規模拡大の限界と農家間の品質格差解消のために法人化に踏み切った。販売先を模索していたところに、ある農業シンポジウムで丸西産業の岡島副社長の存在を知り、共通の知人を介して同社に契約取引を持ちかけたことがきっかけである。
 冬場の産地を探していた丸西産業は、TACやつしろにレタス栽培の経験がなく、土壌も生産に不向きと判断し、取引に応じるつもりはなかったが、TACやつしろの熱意に押された形で取引が始まった。転換当初は、地元農協にレタスの取り扱いがないため、丸西産業から栽培指導を受ける一方で、栽培技術の習得と品質の統一化を図るために、4年間ほど夏場に川上村に泊まり込みで研修に通った。そのような努力の甲斐もあり、転換後3年目くらいから徐々に生産量は増えていった。栽培経験のない品目への転換、栽培に不向きなほ場など、決して恵まれた環境ではなかったが、「とにかく無我夢中で、プレッシャーや恐怖感を感じる余裕すらなかった」と代表理事の野田氏は当時を振り返る。

(4)作業の効率化・コスト削減に向けた取り組み

 TACやつしろでは、コスト削減、作業効率向上の一環として、収穫作業を一斉に終わらせるために、ほ場ごとの正確なは種を心がけている。また、これまで外注していた作業機械の修理などは、講習を受けるなどして自ら行っている。
 一方、通い容器(コンテナ)については、輸送用トラック(10トン車)に一度に積み込む積載量が、通い容器が700ケースであるのに対して段ボールだと1,000箱と、積載効率の面から、現在のところ段ボールを使用しているが、売り上げの1割程度を段ボール代が占め、実需者にとっても廃棄料がかかることから、今後の課題として通い容器(コンテナ)の導入を検討したいとしている。

(5)契約取引と組織の今後について

 契約取引について野田代表は、「納品したレタスが直接実需者に評価され、生産者としてもやりがいがある」といい、今後は「若手の勉強のためにも、県内の高原地帯に標高差を利用した夏場のキャベツなどの生産を検討している」と人材育成、規模拡大に向けた抱負を語っていた。また、丸西産業については「産地に常駐し、熱意を持って生産者の指導を行い、生産者に深く溶け込んでいる」と信頼を寄せ、自らの組織については「若い社員が多く、また、不況の影響で地元に優秀な若い人材も多くいることから、若い人への事業の継承を円滑に図りたい」としていた。

TACやつしろのレタスの出荷量に占める加工・業務用仕向け量

写真4 水田の中のレタスのビニールハウス

写真5 箱詰めされ、出荷を待つレタス

5. 株式会社ベジテックの取り組み (1)組織の概要

 株式会社ベジテック(以下「ベジテック」)は、東京都昭島市に本社を構え、大手量販店を中心に、小売店、外食・中食業者、給食業者などにホール野菜(カットなどの処理を施していない野菜)、カット野菜、カットフルーツを供給している。また、青果物や総菜類、加工食品などを販売する子会社、関連会社との間で原料となる青果物の取引を行っている。業態は、中間流通業者であるが、本取り組みの中では丸西産業からレタスを仕入れる実需者として位置づけられる。
 主な事業は青果物の仲卸業であり、創業以来関東圏を中心に徐々に営業範囲を広げ青果物の調達に力を入れる一方で、新たな事業として配送業務の効率化を図るための「流通事業」、実需者ニーズに沿った供給のための「加工事業」、安定した入手・供給を目的とした「産地開発事業」、実需者への安全・安心を確保するための「品質管理事業」を立ち上げるなど、生産から流通、加工、品質管理、販売と、青果物に関する多種多様な事業を展開している。
 品目は、市場で取り扱う野菜、果物のすべてを対象としており、そのほとんどは国産が占めているが、加工用としてどうしても入手できないものや実需者の要望によっては輸入品を取り扱う場合もある。
 現在、同社の売上高は総額で約542億円、その約75パーセントが仲卸業、約15パーセントがカット野菜およびカットフルーツの売上が占めている。

(2) 契約産地

 現在、ベジテックでは、契約産地の生産者に安心して生産に専念出来るよう、千葉県山武市と埼玉県深谷市に産地サポートセンターを設置している。そこでは生産者に代わり、洗浄、選別、包装などの出荷調製作業が行われ、さらに、千葉県のサポートセンターにおいては、安全・安心な青果物の管理および土づくり、施肥設計、生産指導にかかる生産者への助言を目的とした残留農薬検査、土壌分析、新品種の試験栽培なども行われている。
 また、産地サポートセンターが設置されていない契約産地については、担当者が頻繁に足を運び、作柄などを確認している。本取組みの場合は、レタスの担当者が毎週産地を訪問し、作柄などの産地の状況を確認した後、丸西産業の現地職員らと協議の上、翌週分の数量、単価の調整を図るとともに、生産者も交えた勉強会、情報交換会を開催し、生産技術の向上と信頼関係の構築を図っている。こうした産地、中間流通業者、実需者の3者による度重なる勉強会の開催は、特に若い生産者にとって、生産技術の習得や農業経営の面で大きな刺激になるという。

(3) 丸西産業との関係

 ベジテックと丸西産業との取引は、新たな契約産地の形成を考えていたベジテックに丸西産業がレタスの取引を持ちかけたことをきっかけに、「産地づくりが大切」との共通した認識のもとに開始された。お互い中間流通業者という立場ではあるが、産地の育成・管理や生産指導などを丸西産業が補完しているといえる。ベジテックは、産地育成を重視しつつも、ある程度は丸西産業の契約産地に依存し、その分を生産されたレタスの数量調整に力を注いだ方が組織としてはより効率的であるとの考えを持つ。

(4)契約取引について

 天候不順などにより、納品が予定を下回りそうな場合は、主に自社の仲卸分門や契約産地から調達することとなるが、特に欠品が許されない外食企業向けには、市場から高値で購入してでも納める場合もあるという。また、反対に豊作の場合は、仲卸部門を通じて、カット野菜の増量販売の企画を加工業者などに早めに持ちかけるなどして全量販売に努めている。このように先を見越した素早い対応も日頃から頻繁に産地を訪問している結果といえる。
 豊作時、不作時のいずれの場合においても中間流通業者は、ある程度の損失を被ることとなる。特に豊作時の取引価格の値下げにより被る中間流通業者の損失についてベジテックの担当者は、過剰時に中間流通業者に対して何らかの政策的な支援があれば、野菜の契約取引がより推進されるのではないかと感想を漏らす。
 今後について担当者は、「現在、同社のレタスの取扱量は、国内全体のおよそ7パーセントを占めており、今後はさらに取扱量を増やし、実需者に対してより安定した供給を図るとともに、可能な限り安定した価格で、生産者、中間流通業者、実需者それぞれに利益をもたすようにしたい」としていた。

ベジテックにおけるカット野菜の生産・流通の流れ

【株式会社ベジテックの紹介】
 株式会社ベジテック(代表取締役社長 遠矢康太郎)は、昭和44年に東京都板橋区で仲卸業を目的として「株式会社紀之國屋」を創業したのが始まりです。創業以来、東京都、埼玉県、神奈川県内のいくつかの中央および地方卸売市場に仲卸業者や一般買参人として登録し、関東圏を中心に青果物の仲卸業を手がけ、平成4年には社名を「株式会社ベジテック」に改称しました。
 現在、同社では「仲卸事業」を中心に「産地開発事業」「加工事業」「流通センター事業」の4つの事業を柱として「青果物の専門商社」を目指した取り組みが行われています。
 また、環境面では、カット工場で発生した残さを利用したたい肥や飼料として活用するといったリサイクルの取り組みのほかに、平成22年11月からは、一部量販店などでロハスレタスの販売を開始するなど、環境を意識した新たな取り組みも行われています。

写真6 株式会社ベジテックの本社

6. おわりに

 本取り組み事例では、取材したどの生産者からも一様に「安心してレタスの生産に専念できる」「将来は経営規模の拡大を図りたい」といった話を伺うことができた。
 丸城出荷組合、TACやつしろともに期間トータルで見て利益を追求する経営感覚が重要との認識を有しており、契約取引による安定した収入を将来的な規模拡大につなげたいとしていた。
 このように生産者を明るく、前向きにさせているのは、「受注生産方式による生産」「きめ細かな生産指導および情報の伝達」「全量買い取りおよび不足時の補充」など、生産に専念できる環境づくりを丸西産業が行っていることが要因として挙げられる。
 さらに、それらのことに寄与しているのが、中間流通業者による数量の調整である。
 本事例においては、丸西産業とベジテックの双方により調整が行われている。
 丸西産業からは、生産指導などによる生産面から、また、ベジテックからは、仲卸事業などによる流通面からといったお互いの得意分野での調整が行われている。生産者に過度の負担をかけないこうした数量調整は、産地の育成および規模拡大に大いに役立つと思われる。
 こうした経営感覚を持つ生産者が集う産地と、産地の育成に力を注ぐ中間流通業者が連携した取り組みは、野菜の契約取引において参考となる事例であると考えられる。

写真7 表彰式典におけるグループの写真(平成22年3月23日)
(写真は丸西産業提供)


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