野菜業務部予約業務課
レタスの作付面積について平成2年度と平成18年度を比較すると、全国的に減少しているが、指定産地内では増加している。また、都道府県別に生産・出荷状況を見ると、長野県と茨城県の2県で全国の出荷量の約5割を占めている。
レタスは、天候等の影響を受け価格変動が大きいが、価格の乱高下が大きかった1960年代と比較して、2000年代後半では価格変動が小さくなっている。これは、指定野菜価格安定制度(以下、「制度」という)がセーフティネットとして有効に機能し、レタスの生産及び出荷を安定させていることが一因と考えられる。
さらに、生産量の大部分を占める長野県川上村の事例を例に、制度の影響について考察を行った結果、制度へのカバー率の高さが産地づくりを支えていることが明らかになった。
第1報では、制度が、野菜の生産・出荷にどのような効果を果たしているか、制度の機能について検討を行った。
第2報では、露地野菜であり、食の西洋化や生食需要の高まりに伴い消費量を伸ばしたレタスについて分析を行った。レタスの家計購入量は、昭和45年度と比較すると、約2倍近い伸びとなっており、平成2年度と平成18年度を比較しても約1割増加している。こうした需要の増加を受けその生産量も増加し、作付面積で見ると昭和45年度の2.4倍の作付けとなっている(野菜情報2010年12月号に掲載の第1報を参照)。
平成2年度と18年度の全国のレタス作付面積を比較すると、22,400haから7%減の20,900haへと減少しているが、一方、指定産地内の平成18年度の作付面積は、平成2年度から4%増の16,200haへと増加している(第1報を参照)。
平成18年度の都道府県別のレタス作付面積を見ると上位から、長野5,860ha、茨城3,290ha、兵庫1,280haとなっている(表1)。
なお、対象出荷期間で区分した種別別に春レタス(4~5月出荷)、夏秋レタス(6~10月出荷)、冬レタス(10月中旬~3月)をそれぞれ見てみると、春レタスは茨城が32%、長野が12%、兵庫が9%となっている。夏秋レタスは、長野が62%と大きなシェアを占め、次いで群馬が10%となっている。冬レタスでは、茨城の17%に次いで、香川が12%、兵庫が11%のシェアを占めている。
資料:農林水産省 平成18年度野菜生産出荷統計
レタスの都道府県別出荷量を見ると、長野(34%)、茨城(15%)、兵庫(7%)の順となっている。
次に、種別別の出荷量上位10県を見ると、作付面積と同様に春レタス及び冬レタスでは、茨城が出荷量1位を誇りそれぞれ32%、18%のシェアを占める。また、夏秋レタスでは長野が69%ものシェアを占めている(表2)。
これらから生産は長野と茨城に集中し、通年においてこの2県で全国の半分のシェアを占めていることがわかる。また、長野では作付面積のシェアに対し出荷量が多く、大規模で効率的な生産が行われていることがうかがえる。
資料:農林水産省 平成18年度野菜生産出荷統計
次に、本制度の対象となる指定産地の作付面積が全国の作付面積のどの程度の割合を占めるか、また制度の加入状況について、全国の出荷量及び本制度の対象となる交付予約数量を用いて、制度カバー率を算出し分析を行った。
指定産地における作付面積は、16,200haであり、全国の作付面積の78%を占めている。
レタスにおける平成18年度の全国の作付面積に占める指定産地の割合(以下、「指定産地シェア」という)は、他の野菜に比べ高い。これを種別別に見ると、春レタスは65%、夏秋レタスは85%、冬レタスは76%であり、夏秋レタス、冬レタス、春レタスの順に指定産地シェアが高かった(表3)。
資料:農林水産省平成18年度野菜生産出荷統計より機構作成
また、指定産地内の作付面積上位5産地のシェアを平成2年度(H2)と平成18年度(H18)において比較し図1に示した。春レタスは66%(H2)から9ポイント上昇の75%(H18)、夏秋レタスは同71%から11ポイント上昇の82%、冬レタスは同52%から5ポイント上昇の57%であった。
このようにレタスにおいては、作付面積上位5産地がシェアを増加させていることから、大規模な指定産地に生産が集中してきていることがわかる。このことから、レタスは大規模な産地ほど優位性があるのではないかと考えられるが、その理由として、レタスは需要が伸びており、一定以上の品質を保持しかつ安価で大量の供給が求められている中、
①作付面積の拡大により耕起やマルチ張り、消毒などの作業を機械化し、より効率的な生産が行えること、②スケールメリットを生かし、肥料等の生産コストや物流コストを低減させ、より低廉な価格での供給が可能となること、―が挙げられる。
資料:農林水産省調べ
注:シェア=上位5指定産地作付面積/指定産地作付面積
平成18年度の制度カバー率(数量ベース)を以下の算式で算出した。
(制度カバー率(数量ベース)=交付予約数量/全国の出荷量)
レタス全体は、約27万トンの交付予約数量があり、制度カバー率は52%であった。
種別別に見てみると、春レタスは交付予約数量が44千トンであり、制度カバー率は41%、夏秋レタスは同11万トン、同48%を、冬レタスは同11.2万トン、同65%を占めた(表4)。
資料:農林水産省平成18年度野菜生産出荷統計より機構作成
第3項の(1)、(2)のとおり、レタスの作付面積における指定産地のシェアは78%であり、また平成18年度の制度カバー率(数量ベース)は52%と、第1報で見た6品目の中ではたまねぎに次ぐ高さとなっている。
制度カバー率(数量ベース)は、作付面積の指定産地のシェアと比較するとカバー率が少し低いように思われるが、これは、契約取引などにより、指定産地内において生産された農産物でも、市場出荷されずに直接取引がなされているものなどがあるためと考えられる。
近年、食の簡便化・個食化などが進展し、コンビニエンスストアなどの小売店においてもサラダやカット野菜が販売されているのをよく目にする。加工用として、カット業者向けに直接納入がなされたり、業務用として、飲食店においてもサラダやハンバーガー・サンドイッチなどの具材として用いられている。このような外食・中食産業の発展とともに加工・業務用野菜の直接契約取引がなされている。農林水産政策研究所によれば、レタスの加工・業務用需要の割合(2005年度)は全需要の6割程度であると推計されている。
今夏に野菜価格高騰のニュースが連日のように報道されたことは記憶に新しいが、このように野菜の市場価格は天候等により大きく変動する。
全国品目別価格指数の前年度を100とした増減の推移を図2に示した。図2を見ると、1970年代前半は、高度成長期の物価の持続的な上昇を受け、総合は15ポイントほど上昇しているが、70年代後半には落ち着きを取戻し、その後100前後で推移している。
一方、生鮮野菜及びレタスはともに価格が大きく変動していることがわかる。また、気象等の影響を受け、生鮮野菜と同様にレタスも価格変動をしているが、その増減率は生鮮野菜よりもはるかに大きいことが見てとれる。また、1980年代は乱高下を繰り返したが、その後1980年代後半を境に徐々に価格変動が小さくなっていることがうかがえる。
そこで、次に本制度の創設された1966~68年度当時と最近年である2007~09年度及びそのほぼ中間に当たる1987~89年度という3つの期間に分けて、種別別レタスの平均価格及び価格の変動係数の変化を図3に示した。
変動係数は、東京中央卸売市場の月別平均価格について標準偏差を平均で除したものであり、価格と比べた変動の大きさを表したものである。
1960年代は、野菜の需要の高まり、都市近郊産地の後退に加え、昭和38年の豪雪などの気象要因も加わり野菜価格が乱高下した。このため物価対策としての野菜対策の必要性が高まり、昭和41年(1966年)7月に「野菜生産出荷安定法」が制定され、現在の野菜価格安定制度が始まった。
制度の創設当時の1966年度からの3年度のレタスの平均価格をみると、キログラム当たり100円程度であるが、変動係数は40%ほどと価格変動が大きい。
1980年代後半はバブル経済の真っ只中であり、物価が比較的高く野菜価格も高値で取引され1987~89年のレタスの平均価格は200~250円の間であった。同時期の価格変動を見てみると、春レタス及び夏秋レタスの変動係数は下がっている一方で冬レタスの価格変動は大きかった。そこで、1987年から1989年までの冬レタスの平均価格を図4に示した。
図4を見るとレタス価格の変動が毎月大きいことがわかる。特に1989年の値動きが激しく、11月の平均価格はキログラム当たり114円であったが、その後上昇し同年2月には459円まで値上がりをしている。これが1987~89年度の冬レタスの価格変動が大きくなった理由であると考えられる。
このことからも、レタスを含めた野菜の価格は物価変動に合わせた推移ではなく、気象条件等の要因による価格変動の方が大きいことが確認される。
資料:東京都中央卸売市場月別販売単価より機構作成
2000年以降は、バブルの崩壊を受け全体的に物価は下がっており、野菜については全般的に過剰基調の中で、2007~09年の平均価格は150円前後となっている。
また、価格変動が大きかった制度創設当時の1960年代後半は40%近かった変動係数が2007~2009年においては、全ての種別で30%以下に下がっている。
図2のように、野菜の市場価格は山があれば谷もある。1960年代当初は、市場価格の低落が生産者の作付動向に及ぼす影響が大きく、作付面積の増減が、さらに野菜の価格変動を大きくする要因であった。
このような価格変動が農家経営に及ぼす影響を緩和するため、市場価格の低落時に交付金を交付する本制度が創設され、次第に専作経営を中心とした野菜産地が形成された。レタスの指定産地数は、1988年の89産地から2005年には74産地となっており、1990年代から2000年代にかけて、指定産地数が減少している。その一方で、指定産地内の作付面積は1990年から増加し、2005年には16,200haとなっている。農家1戸当たりの作付面積も0.43haから0.82haと約2倍と規模拡大が進み、小規模なレタス産地が淘汰され、産地が集約化されてきたことがうかがえる。指定産地のシェアが高まり、大規模化することにより、生産・出荷が安定し、これが価格変動が長期的に小さくなった要因の一つではないかと考えられる。
また、これを種別別に見てみると、春レタス及び夏秋レタスは上位5産地の占めるシェアが高く(図1)、産地の集約化が進んでいることから、生産・出荷が安定し、比較的価格が安定している。一方、冬レタスは上位5産地の占めるシェアが57%となっており(図1)、産地の集約化が進んでいない。このため生産・出荷の変動が大きくなり、それによって価格変動が大きくなっているのではないかと考えられる。
以上より、種別により価格変動の大きさは異なるものの、長期的に見るとレタスの価格変動が小さくなってきており、これは制度により農家経営が安定し、生産及び出荷の安定が図られてきているためと考えられる。
夏秋レタスの出荷量の7割を占める長野県において、大規模な野菜産地が形成されている川上村を例に見てみる。
川上村は、長野県の東端に位置し、1,100mを超える標高を活かし高原野菜の生産が盛んである。中でも、レタスの割合が高く、川上村で生産される夏秋レタスは全国生産量の25%をも占める(図3)。川上村の農業粗生産額(H17年度)66.3億円のうち、レタスが48.4億円(73%)となっている。
資料:JA長野八ヶ岳川上支所
川上村は、朝鮮戦争の米国特需としてレタス栽培を導入し、その後食の洋風化という追い風にのり大きく栽培を進展させた。その後も、外食産業の発展とともにその栽培を増加し、「年収1千万円」を超えるほどの農家が出現した。東京まで約3時間、大阪まで約5時間という立地条件の良さを活かし、川上村から全国に毎朝新鮮なレタスが出荷されている。この朝採りレタスを出荷するために川上村では暗いうちから各農家がヘッドライトをつけて収穫作業を行っている。
川上村の農家数及びその経営規模について、図8に示した。昭和40年には2ha以下の農家が96%を占めていたが、昭和50年代にはその割合は57%にまで減少した。
近年では2ha以上を作付する農家が7割を超え、5ha以上を経営耕地とする大規模な農家戸数が増加(平成2年度17戸⇒平成17年度37戸)し、経営の大規模化が進み効率的な生産が行われている。
資料:川上村資料より機構作成
レタスは、昭和44年に指定野菜に加えられたが、同年、川上村は夏秋レタスの指定産地に指定されている。
平成18年度の夏秋レタスの出荷量は、川上村において58,200トンであり長野県の出荷量の37%を占める。
川上村から出荷されるレタスは、市場出荷だけでなく契約取引による直接納入も含まれていると考えられるので、川上村のみの制度カバー率は算出できないが、長野県の制度カバー率(数量ベース)については、平成20年度の交付予約数量は91,700トンであり制度カバー率(数量ベース)は54%であった。また、夏秋レタスにおいては同56%であった。川上村における本制度の制度カバー率は長野県とほぼ同程度であると考えられる。
レタスは、先にも述べたが加工・業務用需要が6割との推計があるように、外食や中食産業にとって欠かせない素材であり、周年的に一定量の需要がある。しかし、葉物野菜であるという特性などから貯蔵性に劣り輸入はほとんどない。このため不作時には契約取引の不足分を補おうと、業務筋が市場で買付けを行い価格は高騰する。また、加工・業務用需要が一定量以上は吸収できないため、豊作時には大きな価格低落が起こりやすい。
このような品目特性からも、価格低落時のセーフティネットとして生産者にとって本制度が重要視され、高い制度カバー率となっていることがうかがえる。
また、こうした制度カバー率の高さが農業経営の安定に寄与し、産地づくりを支えている一因と考えられる。
レタスは作柄が天候等の影響に左右されやすく、貯蔵性も乏しいなどの理由から、価格変動が激しい品目であると言える。このため、レタス生産者は本制度のセーフティネットとしての機能をメリットと感じ、制度に加入しているため制度カバー率が高いと考えられる。
また、本制度は大規模産地の形成の一助となっていることがうかがえる。川上村にみられるように、農家経営が大規模化することにより、低コスト化などのスケールメリットが生かされ、より効率的な生産が可能となり、消費者へ低廉な価格で安定供給がなされていると考えられる。また、価格低落時には制度がセーフティネットとして有効に機能するので、安心して次期作付けを行うことができ、経営規模を増大させている。
近年、低価格の野菜輸入が増加し、国際競争力が求められているが、安全・安心な国産野菜を供給するため、生産者及び産地の努力により低コスト化に努め生産規模を増大させ、大規模な野菜産地を形成した川上村のような事例は、野菜制度の政策目的が具現化した好事例ではないだろうか。
次の第3報では、レタスと同様に露地野菜であり、消費量の最も多いキャベツについて報告する。