野菜業務部直接契約課
野菜の生産者及び実需者を対象に、野菜の契約取引に関する全国規模のアンケート調査を行ったので、その結果を報告する。
本調査により、これまでスポット的に明らかにされてきた野菜の契約取引に関する内容を、具体的な数値をもって実証することができた。具体的には、生産者及び実需者の概ね7割が契約取引を実施しており、需給事情の変化等に対応し契約内容が途中で見直されることが多いことが明らかになった。
野菜の加工・業務用需要が拡大するなか、当機構は、契約取引によるリスクを軽減するために『契約野菜安定供給事業』を実施している。
この度、契約野菜安定供給事業をより多くの皆さまに知っていただくとともに、野菜の生産者や実需者の契約取引の実態をより一層把握し、制度の改善に資する観点から、アンケート調査による契約取引の実態把握を行った。
既に9月号にて「野菜の契約取引の実態に関する調査結果の概要について」と題し、調査結果の一部を掲載しているが、未公表の調査結果を含め詳細分析を行ったので、具体的事例と共に紹介する。
なお、今月号では生産者の契約取引の実態について報告し、次号では同様に実需者について報告する。
調査期間は、平成22年7月9日から同年7月31日までとし、郵送によるアンケート調査を行った。
生産者については、地域ブロックごとに目標数を設定し、農業生産法人等1,000者を選定した。実需者については、野菜の加工・流通を網羅する代表的な実需者(量販店等小売業者、外食・中食・給食事業者、加工業者等)の9団体の傘下企業を中心に400者を選定した。
生産者からは171者、実需者からは123者の合計294者より回答を得た。
本報告書では、生産者からの回答について分析を行った。
アンケート調査を補完するため、次の2者について具体的事例としてヒアリングを行ったので、その概要を紹介する。
宮崎県で主に、さといも、ごぼう、キャベツ、にんじん等を延べ100haで生産しており、自ら野菜の加工業務も行っている。
茨城県で農産物の生産・仕入・販売を生産部門と販売部門に分けて経営している事業者。主な取扱作物は、グループ会社の農業法人が延べ70haで生産したレタス、はくさい、キャベツである。グループ会社により生産した作物の販売を行っているため、今回の事例紹介では生産者として紹介する。
生産者(有効回答)の作付面積は、
①根菜類の生産者は、平均で10.7ha。「7ha以上」が51%、「5.6~7ha未満」が5%、「5.6ha未満」が44%である。
②葉茎菜類の生産者は、平均で15.4ha。「7ha以上」が48%、「5.6ha未満」が52%である。
③果菜類(夏秋もの)の生産者は、平均で2.1ha。「3ha以上」が21%、「2.4ha未満」が79%である。
④果菜類(冬春もの)の生産者は、平均で2.2ha。「2ha以上」が33%、「1.6ha未満」が67%である。
出荷先をたずねたところ、「農協等の農業団体」や「集荷業者、仲買人に販売」など各出荷先を「80%以上」と答えた者は82名と全体の48%を占めており、1つの出荷先に特化している者と出荷先を分散している者の割合は概ね5:5とみられる。特化している者の出荷先の内訳をみると、「集荷業者等」、「加工業者等」がやや多く、「農業団体」、「市場に自ら出荷」がやや少なくなっている。なお、農業団体に出荷していないとする者は106名と62%を占めている。
契約取引は、生産者にとっては、生産前に販売先が決定すること、価格が安定することで収入が予測できることなどのメリットがある。
契約取引の実施に関する有効回答は122名で、概ね7割(122/171=71%)の者が契約取引を行っており、多くの生産者が、取引に際し契約を交わすことで、野菜の安定的な出荷及び確保を図っていることが明らかになった。
なお、このデータについては、予想よりも高い数値であるとの印象を受ける方もいるかもしれないが、これは、個々の生産者が実需者と個別に取引を行う場合と、生産者を代表する農業団体(農協等)が実需者と取引を行う場合があることが背景にある。生産者は農業団体を通して実需者に出荷する取引も契約取引と認識している場合が少なくないため、高い割合になっているのではないかと考えられる。
また、契約取引の相手方を見つけた方法については、「流通業者からの打診」が最も多く56%を占め、「実需者からの打診」が37%とこれに次いでいる(表1)。流通業者も実需者の需要を反映していることを踏まえれば、原材料の安定的な仕入先を求める実需者の志向が強いことがうかがえる。
具体的事例の紹介① ~契約取引と市場出荷~
(実態)
A農業法人は、市場出荷だと取引価格が日々変動することから収入が安定しないため、市場出荷から契約取引へ移行し、取引相手は自ら開拓している。契約取引は、事前に取引相手、品目、出荷数量、価格が決まり、収入を予測できるので経営の安定が図れるという利点がある。
一方、B事業者は、実需者からの打診を受け取引を開始することが多い。実需者の業種ごとにそれぞれネットワークがあり、生産者情報を得た者が取引の打診をしてくるという。納品についての責任は重いが、価格が安定するというメリットが大きく契約取引を行っているが、天候不順が頻発しているここ2~3年は、契約取引のデメリットを感じることが多く、今年は、春先から秋にかけての異常気象により、創業以来、初めて欠品を出したとのこと。
(分析)
以上から、取引内容、とりわけ価格が安定するというメリットを求めて契約取引が行われているといえるが、その裏返しとして、B事業者の「価格高騰の際にはデメリットを感じる」というのもまた、本音ではないかと思われる。
契約取引を行っている野菜の生産地域については、「指定産地内のみ」は半数弱にとどまり、半数弱が指定産地外または指定産地内外だった(図1)。指定産地の内外にまたがった生産を行っている者については、62%が「内外にはこだわらない」とし、31%が「混合することはない」(図2)としており、特段の区別は意識されていない。
契約取引を行うにあたっての数量、価格等の定めについては、事前に「数量・価格を定めている」が53%と最も多く、「価格のみ定めている」が21%でこれに次いでいる(図3)。
数量、価格をそれぞれ個々にみると、「数量」を定めているとする者は、62%、「価格」を定めているとする者は、74%となっている。
これらの差については2つの要因が考えられる。ひとつは、作況の影響を受ける数量よりも、収入を予測するために重要な価格の取決めが重要であること。もうひとつは、価格と違い、数量は作柄や需要量が確定するようになった際に取り決めることが少なくないため、契約締結時点では取り決める割合が低くなっていると考えられる。いずれにしても、契約取引においては、やはり価格の取決めがポイントになっているようだ。
具体的事例の紹介② ~取決めの仕方~
(実態)
A農業法人は、前年の実績を踏まえつつ実需者と交渉を行い、作付け前に契約を締結する。初めて取引を行う場合は、基本的事項である取引時期、品目、数量、価格の希望聴取を行い、自社の生産に余裕のある品目、面積、時期を計算し、交渉しつつ契約を行っている。
契約数量については、植付前の3~6月前に決まる。例えば、キャベツであれば、11月1日~翌年6月末までが出荷時期であり、その中で、月何トン必要なのかを聞いて、自社で出荷できる量を決める。不足が生じた場合には、中間事業者が他の産地を見つけることになる。作付状況、生育状況、出荷見込みを月々レポートにして取引相手に報告し、生育状況を知ってもらうことで、実需者側が早めの手当てができるようにしている。
契約価格については、新しい産地ほど実績がないので、自社の価格交渉力は弱い。キャベツはシーズン固定が8割。市場価格連動が2割。さといも、ごぼう、にんじん(ジュース、加工用)は年間固定10割。にんじんは春と秋で原価が違うのでシーズン固定にしてもらいたいというのが本音。価格の設定方法に業種ごとの差異はない。
契約内容は、担当者同士が、前年の反省・検証をし、改善して決める。電話だけで取り決めるのは全体の3割以下である。植付前、植付後、収穫前、収穫後と年3~4回は行き来し打合せを行っている。
B事業者の契約締結の時期は、7割が産地が移る時期の1か月~1か月半前、3割が作付(播種・定植)前とのこと。加工業者は早めに契約を行い、その他は、実需者の卸先が決定してからの契約になる。
1シーズン毎に価格(変動価格ではない)及び数量を取り決める。価格はケース当たりで設定。
価格は、実需者の所在エリア毎に基本価格(「再生産価格」+「資材費」+「輸送費」)が決まっており、必要に応じ輸送費を上乗せしたり、時期によりトンネルなどの諸経費を上乗せする。生産者の再生産価格を確保することが最も重要と考えている。
狭い世界なので、同業者で契約価格が違うことが分かれば、信用問題に発展する可能性がある。長い取引を考え、実需者により価格を変えることはない。
(分析)
以上から、
① 相手との信頼関係を重んじ、再生産価格を確保するなど共存共栄が図られていること
② 中間事業者が介して作柄をこまめに把握し、実需者に不便を与えないようにしていること
③ 生育段階に応じて連絡を取り合い、信頼関係の醸成に努めていること
がうかがえる。
契約内容の途中見直しについては、契約内容が守れない、または相手方から変更を申し入れられることについては、54%が「ある」(図4)としている。
その内容については「数量の削減」が71%と最も多く、「価格の引き下げ」が55%でこれに次いでいる(表2)。
契約すると取引に制約があるというイメージがあるが、野菜の取引では、数量・価格を取り決めて契約したとしても、作況などの需給事業の変化に対応していることによるとみられる。
また、農林水産省が平成22年10月に実施した野菜の不作時の対応に関するアンケート調査結果では、供給量に不足を生じた際の対応として、生産者の概ね6割が「契約先に話をして供給量を削減した」と答えている。
具体的事例の紹介③ ~契約内容の途中見直し~
(実態)
契約内容の途中見直しについて、A農業法人は、契約数量の見直しを求めることもあり、求められることもあるという。数量を完全に守らねばならない取引が半分あり、その場合は他産地から買ってでも納めるという。多種多様な入手経路を持っている実需者ほど市場価格が安いときには数量の見直しを求めることが多いようだ。買い手が強いため応じるしかないのが現状である。余った場合は、市場出荷か自社で冷凍、きんぴらにする。リスクヘッジのため、ほうれんそう、さつまいもペースト、ごぼう・にんじんをきんぴらにして冷凍する。
概して、相手先の7割は契約数量を守ってくれるが、3割が見直しさせられる。生産者側は原価から価格交渉をするが、相手は製品価格から逆算して提示する。他から購入することをほのめかされると売り手は立場上弱いため価格、数量を下げてしまうことになりやすい。
B事業者は、1シーズン毎に価格(変動価格ではない)及び数量を取り決める。
加工業者から、市場価格低落時に契約価格を下げるよう打診されることがある。価格の見直しの打診には、数量の変更で対応する。例えば、価格を下げるように求められたら、納品数量を減らす。
加工業者は、豊作時には、同じ1ケースでも1個当たりの重量が増加することから、歩留まりが高まり、結果として発注量の減少につながるケースが多く、外食業者は、月末の調整等で数量の減を求めてくるケースがある。業務用冷蔵庫を借りているため、実需者からの数量の変更の打診には対応できる。一方で、急な数量増の要請にも対応できるよう、適正在庫も確保している。
(分析)
以上から、
①「不作時にも規定の数量の納入は必須」、「価格低落時には数量削減の申し入れ」、「価格交渉においては製品価格から逆算した価格を提示される」など、実需者側の交渉力が強いこと
②価格の見直しに対し、数量変更で対応するという方法も行われていること(生産者は減らされた数量を市場出荷に廻せるという点で折衷的な解決策といえるのではないか)
③作柄によって大玉傾向となった場合にも数量変更が行われていること
がうかがえる。
書面契約を行っている者と行っていない者の割合は概ね4:6だった(図5)。
書面契約を行っている者を品目別にみると、葉茎菜類が43%と最も多く、次いで根菜類が35%、果菜類(夏秋)が32%だった(表3)。
また、書面契約を行わない理由としては、「数量が確保できない可能性がある」が60%、「契約が履行できない場合補償問題の可能性がある」が20%だった(表4)。その他の理由としては、信頼関係のうえで取引を行っているためとする趣旨の回答が多くみられた。
書面契約を行わない場合の契約内容の担保の方法としては、「流通業者に対応を任せている」が40%と最も多く、「誠意をもってできるだけのことをしてもらえばよい」がこれに次いで37%となっているが、「あくまで契約内容の履行を求める」も11%みられた(表5)。
書面契約を行わない理由として「信頼関係があるため」という趣旨の回答、契約内容の担保については「誠意をもってできるだけのことをしてもらえばよい」との回答が多くみられたことから、契約取引はこうした相互の信頼関係を基礎として行われていることがうかがえる。
具体的事例の紹介④ ~書面契約~
(実態)
A農業法人は、取引の7割で書面契約を行っている。
大きい実需者ほど納入期間、数量、価格、荷姿、規格、決済方法は細かく定めるが、小さい業者ほど大まかな定め方になり、細かいことを要求すると面倒くさいと取引してもらえない。そのような小さい業者とは、5年、10年と取引しているため、信頼関係が構築できているし、お互いに逃げられる道を確保しておきたいとも考えている。
年々、数量、規格、単価を入れる契約が増えてきている。A農業法人としては、できるだけ細かく定めてもらいたいのが本音である。数量に関する取り決めについては、量販店のY社との書面には盛り込まれているが、I社との書面には盛り込まれていない。書面には数量を盛り込まないケースが多い。相手先によって書面に定める項目に傾向はなく、それぞれの会社の考え方によっている。
B事業者は、全ての取引において、書面による「売買基本契約」を締結し、決済方法等の基本的な内容を定めている。納入期間、数量、価格、規格は、個別契約で定める。個別契約の8割が書面(担当者印あり)、2割がメール(実需者から指定のフォーマットあり。ペーパレス化による。)による。一部、全出荷量に対する契約取引95%のうちの調整分5%だけは、口頭でやり取り。定める内容は業種による違いは無い。
(分析)
図5では、書面契約を行っている者の割合は約4割となっているが、A農業法人、B事業者は共に大半の取引で書面契約を行っており、上記から、
① 大規模生産を行っていたり、契約取引の経験が長い生産者は、取引内容を確定させるため、できるだけ書面で細かく規定することを望む傾向があること
② 一方で、信頼関係の成立している取引先とは、お互いの利便性を考えて柔軟に対応したいという考え方もあること
③ 基本的事項を基本契約として定め、数量、価格等を個別契約で定める方法も行われていること
がうかがえる。
契約内容の変更と書面契約の有無の関係についてみると、「契約で定めた事項が守れない、または取引の相手から契約内容の変更等を申し入れられたことがある」とする者の割合は、書面契約を行っていない者で33/70=47%、書面契約を行っている者で33/50=66%であり、書面契約を行っている者においても6割以上が契約変更を申し入れられたとしていることから、書面契約を取り交わしていることが契約変更を妨げる要因になっているとはいえない(表6)。
契約内容と書面契約の有無の関係についてみると、書面契約を行っている者と行っていない者の割合は、数量と価格を事前に定めている者では概ね5:5、価格のみ事前に定めている者では概ね4:6で、大差はみられない。一方、数量のみ事前に定めている者及び数量・価格以外の定め(荷姿・規格等)をしている者では、書面契約を行っていない者の割合が7割以上であった。このことから、数量、価格のように取決め内容の重要度が高いものほど書面による契約を締結する傾向にあることがわかった(表7)。
また、生産者、実需者ともに、書面契約を行わない理由として「信頼関係があるため」という趣旨の回答、契約内容の担保については「誠意をもってできるだけのことをしてもらえばよい」との回答が多くみられたことから、契約取引はこうした相互の信頼関係を基礎として行われていることがうかがえる。
契約内容の変更と書面契約の有無の関係についてみると、生産者では、「契約で定めた事項が守れない、または取引の相手から契約内容の変更等を申し入れられたことがある」とする者の割合は、書面契約を行っていない者より書面契約を行っている者の方が高く、実需者では、「変更を求めたことがある」とする者の割合は、書面契約を行っていない者と行っている者とでその割合が近接していることから、書面契約を取り交わしていることが契約変更を妨げる要因になっているとはいえない。
生産者の56%が「原価(流通コストを含む生産コスト)割れが生じたことがある」(表8)と答えたが、「原価割れが生じたことはない」とする者の割合は根菜類で60%、葉茎菜類で31%、果菜類(夏秋)で85%、果菜類(冬春)で95%となっており、品目によって収益の安定性に大きな差異があることがわかった。
本調査により、これまで「一般的」とされてきた契約取引の実態を具体的な数値をもって明らかにすることができた。その主なことがらは次のとおりである。
(1)生産者の概ね7割が契約取引を行っている。
(2)契約取引において事前に取り決める事項は、「価格」が最も多い。
(3)需給事情の変化等により、契約内容の途中見直しが行われることが多い。
(4)契約取引を行っている生産者の概ね4割が書面により取引を実施。
契約取引は、事例の農業法人等も述べているように、生産前に販売先が決定すること、価格が安定することで収入が予測できることなどのメリットがあり広範に行われていることがわかった。
契約取引を行うにおいて、その取り決め事項に「価格」を含める生産者は概ね7割と多く、「数量」を含める生産者は概ね6割でこれに次いでおり、事例のA農業法人も、書面による契約では数量を定めないケースが多いとのことだった。
取引内容の見直しについては、生産者の7割以上が「契約数量の変更を求めた、求められた」、5割以上が「契約価格の変更を求めた、求められた」としている。これは、価格及び数量について取り決めて契約を締結したとしても、作況など需給事情の変化に柔軟に対応していることによるとみられる。事例の農業法人等によれば買う側が強いため応じざるを得ない実情はあるが、例えば、実需者からの価格の見直しの打診には数量での調整を求めるなど、交渉を行い対応を決定していることがわかった。また、いずれの事例も出荷できなかった残量を冷蔵庫で貯蔵したり、加工するなどの対処方法を確立しているため、契約内容の途中見直しに対応することが可能なのであろう。
生産者の概ね4割が書面による契約を行っており、書面契約を行わない理由として「信頼関係があるため」という趣旨の回答が多くみられた。また、事例のA農業法人は実需者の意向で契約の3割が書面によらないものであるが、可能な限り書面により数量、価格等を詳細に定めてほしいという意向はあるようだ。また、小さな実需者は書面契約締結の手間を嫌い、口頭での契約を望むとのことだった。
いずれの事例でも、取引には信頼関係が欠かせないものとしており、一時の取引ではなく継続的な取引を念頭に、もちつもたれつの関係を構築しているようだ。