野菜業務部予約業務課
近年、食の外部化など消費の多様化が進み、野菜生産を取り巻く環境が大きく変化している。また、今夏に見られるような異常気象や農産物価格の低迷もあり、生産者は厳しい経営環境に直面している。このような中、当機構の行う指定野菜価格安定制度が野菜の生産及び出荷の安定にどのような効果があるのか、指定産地内外の作付面積の増減などを比較し、制度の果たす機能について調査を行った。
指定産地内外の生産状況から、指定野菜価格安定制度は経営の拡大に寄与し、農家経営のセーフティネットとして有効であることが示唆された。
指定野菜価格安定制度(以下、「制度」)は、制度の対象となる指定産地(950産地)から出荷される指定野菜(レタスなど主要14品目)の価格低落の際に価格差補給交付金(以下、
「交付金」)を交付することにより、野菜農家の経営に及ぼす影響を緩和し、野菜の生産及び出荷の安定を図ることを目的としている。
具体的には、図1のとおりあらかじめ生産者、都道府県及び国から農畜産業振興機構に一定割合で資金を造成し、平均販売価額(市場価格)が保証基準額を下回った場合に保証基準額と平均販売価額または最低基準額との差額を交付金として生産者に交付する仕組みである。
消費の多様化や野菜を取り巻く環境が大きく変化する中、野菜業務部では、現行の制度下において近年の指定野菜の生産・出荷状況がどのような状況にあるか調査を行った。
今月号では、本制度が野菜産地に及ぼす影響などから制度の機能について考察し、来月号以降、各品目についての生産・出荷の状況について報告を行うこととする。
指定野菜14品目について、平成2年度から平成18年度の交付金交付率及び制度カバー率(数量ベース)を以下の計算式により算出し、その推移を経年的に図2に示した。
交付金交付率の推移を見ると、野菜価格の変動が大きいことを受け、交付金交付率も同様に大きく変動している。
制度カバー率の推移を見ると、長期的に見て上昇していた。
交付金交付率と制度カバー率の関係を見てみると、特に交付金交付率が高かった年の翌年、または、翌々年にカバー率が上昇するという現象が随所に見られた。
資料:農畜産業振興機構作成
たまねぎの平成4年度を見ると、交付金交付率が61.6%(交付金交付額62億549万円)と市場価格が大暴落した年であるが、翌々年の平成6年度の制度カバー率を見ると、前年度の34%から42%まで8ポイント上昇している。たまねぎの全体出荷量を見ると、平成4年度は1,162千トンであったが、平成6年度は935千トンと20%も減少している。一方で、交付予約数量を見ると390千トン(平成4年度)から388千トン(平成6年度)とわずか1%の減少にとどまっている。
これは、平成4年度の市場価格の暴落を受け生産者の作付意欲が低下し、その結果全国的には出荷量が減少した一方、制度の対象となる指定産地においては交付予約数量が維持され、作付面積が維持されたことがうかがえる。
以上より、指定産地外では、価格の低落が次期の作付けへ及ぼす影響が大きかったが、制度の対象となる指定産地内では交付金が交付されたことにより、生産者への再生産価格が確保され、作付面積及び出荷量が維持されたのではないかと示唆された。
レタスなど、ほかの品目でも同様の現象が随所に見られた。
野菜品目別の昭和45年から平成18年までの1人当たり年間購入量の推移を表1に、全国の作付面積の推移を表2に示した。
昭和45年と平成18年を比較すると、野菜全体の消費量は、24%減となっている。また、作付面積で見ると40%減となっている。品目別に見ると、はくさいは、消費量及び作付面積ともに6割減と大きく減少している。続いて、きゅうりとなすが消費量は5割減、作付面積は6割減、さといもが同4割減、同6割減、と減少の幅が大きい。一方レタスは、消費量は2倍に伸び、作付面積も2.4倍と大きく増加している。
これらのことから、野菜は、消費に対応した生産が行われていることが確認できる。
資料:総務省統計局「家計調査年報」
資料:農林水産省統計情報部「野菜生産出荷統計」、「作物統計」
次に指定産地内外の野菜の生産・出荷状況について作付面積を中心に調査を行った。
(1)指定産地内外の作付面積の増減について
全国の作付面積と制度の対象となる指定産地内の作付面積について、平成2年度と平成18年度の作付面積の増減率を品目ごとに以下の計算式により算出し、図3に示した。
全国の作付面積は、すべての品目において減少していた。一方、指定産地内の作付面積を見ると、トマト、ねぎ、ばれいしょ、ほうれんそう、レタスの5品目で増加していた。だいこんなどそのほかの品目については消費の減少に対応し、作付面積も減少したものの、さといもを除き全国の作付面積と比較しその減少率は小さかった。
さといもの指定産地数は平成2年度※1の時点では37産地あったが、平成18年度※2では19産地へと半減している。これは、指定産地となる要件の作付面積などが充足できなくなり、指定産地の指定が解除されたため、それらの産地が指定産地外へと移行したことにより、指定産地内の作付面積は4,079ha(平成2年度)から1,734ha(平成18年度)まで減少したものと考えられる。
(※1:平成3年3月31日時点 ※2:平成19年3月31日時点)
資料:農林水産省調べ及び「野菜生産出荷統計」より農畜産業振興機構作成
品目ごとの全国及び指定産地内それぞれの作付面積を収穫農家数で除し、農家1戸当たりの作付面積の増減率(平成2年度対平成17年度比)を算出し、表3に示した。
全国の農家1戸当たりの作付面積は、レタスを除き大きく減少していた。これは、全体の作付面積が減少傾向であることに加え、近年農産物直売所などの増加に伴い、農産物を直接農産物直売所に持ち込む小規模の農家が増加したことなどが影響しているのではないかと考えられる。なお、農産物直売所数は2005年時点では、13,538カ所であったが、直近の2010年センサスの結果においては16,824カ所へとその数を大きく伸ばしている。
一方、指定産地内の農家1戸当たりの作付面積は、すべての品目において大幅に増加しており、指定産地外と比べて指定産地内の農家は1戸当たりの規模拡大が進んでいることがうかがえる。
これは、指定産地内の農家は、制度により価格低落時にも生産者の手取りが確保できるため、安心して作付面積の拡大を行い、スケールメリットを生かしたより効率的な農家経営を行うことができるからではないかと考えられる。
近年の野菜の生産・出荷体制は、多様化している。
スーパーマーケットなどの小売店では、市場流通や契約による直接取引などが主流であり、多くの消費者に四季に応じたさまざまな種類の野菜が大量に供給されている。
また、外食や中食など食の外部化が進み、加工・業務用野菜が需要量全体の55%を占め、その重要性は高まっており、その多くは契約により取引されている。
一方で農村地域でよく目にする農産物直売所においては、生産者が直接出荷した地場野菜や伝統野菜等が陳列され、消費者の目や舌を楽しませている。
このように多様化した野菜の生産・出荷の状況を踏まえ、野菜産地の向かう方向性は
① 大規模な野菜産地を形成し、大量の野菜を低廉な価格で供給する野菜産地
② 消費形態の変化に伴い、需要が増大する加工・業務用野菜を供給する野菜産地
③ 各地域のブランド野菜や伝統野菜などの生産を行う野菜産地
と大きく3つに分けられるのではないか。
①大規模供給を行う野菜産地
近年のように、低価格の輸入野菜との国際競争にさらされる中で、生産費や物流費などの低コスト化により低廉な価格で、かつ安全・安心な国産野菜を消費者に供給するには、スケールメリットを生かし生産効率を上げる必要がある。
指定野菜価格安定制度の下で、キャベツにおける嬬恋村(群馬)やレタスにおける川上村(長野)に見られるような特定の野菜に特化した大規模産地が全国各地に出現した。本調査により、これら野菜指定産地においては、生産者の経営規模の拡大と生産性の向上(コスト削減)が見られ、制度が生産者の経営安定に果たす役割が大きいことが明らかになった。
②加工・業務用野菜を供給する野菜産地
加工・業務用野菜の契約取引の増大などを踏まえ、平成14年度から契約野菜安定供給事業が実施されてきたところである。ただ、本事業は契約取引における野菜の生産・出荷の安定を図るという観点では、初めての取り組みであったが、契約内容が途中で変更されることが多いなどの契約取引の実態を十分に反映し得ておらず、活用が進んでいないのが実情である。契約取引の実態などについてさらに検証するとともに、実態に即した施策を講ずる必要がある。
③ブランド野菜や伝統野菜などの生産を行う野菜産地
各地域で受け継がれてきた野菜品種や農業技術により、それぞれ特色をもつブランド野菜や伝統野菜などは、その地域ごとの食文化のひとつといえる。地産地消の高まりなどから、レストランなどでもその需要は高まっている。また、京野菜などの先進地域に続き、そのほかの地域でも伝統野菜の生産を行う動きが広まってきている。
当機構では、今後の制度改正の参考となるよう、さらに品目ごとの分析を行うこととしており、来月号以降では、品目ごとの近年の生産・出荷動向について考察を行い、掲載する。