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調査報告


「第三回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」
における受賞者の取り組み事例の紹介④
JA常総ひかり長茄子倶楽部・全農茨城県本部園芸部東京VFS・
(株)マルハチの取り組み事例

~きめ細かな情報の伝達が契約取引を支える~

野菜業務部 調査情報部


1. はじめに

 本稿では、平成22年3月23日に開催された「第三回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」において、

 ○三者による強力な連携により7年間にわたり契約取引を実施
 ○流通経費削減のため、加工・業務用に適した出荷形態を導入
 ○長期間の安定した出荷を可能とする栽培技術を導入
 ○他県の産地と連携した周年安定供給の体制を整備
 ○規格の簡素化などによる労力の軽減

などの点が評価され、農林水産省生産局長賞を受賞した常総ひかり農業協同組合長茄子倶楽部(以下、「長茄子倶楽部」)、全国農業協同組合連合会茨城県本部園芸部VF(ベジタブル・フルーツ)ステーション(以下、「全農茨城県本部VFS」)、株式会社マルハチ(以下、「(株)マルハチ」)の三者が連携した契約取引の取り組みについて紹介します。

2. 契約取引の概要

 本契約取引は、系統組織の一部であり、青果物の契約・買取販売を行う全農茨城県本部VFSが、生産者(長茄子倶楽部)と実需者((株)マルハチ)との間でコーディネーター的役割を担い、生産者に対しては実需者ニーズを伝えるとともに、規格の簡素化やダンボールの大型化による労力の軽減、コストの削減を促し、また、実需者に対しては、きめ細かに産地情報を提供するなどして、三者間で情報を共有し、連携した漬物原料用長なすの供給が行われている取り組みです。

3. JA常総ひかりの取り組み

(産地の概要)

 長茄子倶楽部が所属する常総ひかり農業協同組合(以下、「JA常総ひかり」)は、茨城県の南西部に位置し、常総市、下妻市、八千代町の2市1町を営業区域としています。管内は、年間平均気温は約13.5度、年間降水量は1,300ミリ程度と気象条件に恵まれ、首都圏へはおよそ60キロメートルの圏内にあるなど、地理的にも恵まれています。
 農業生産は、東部の稲作地帯と西部猿島台地の畑作地帯に大別され、かつては水稲、小麦、陸稲、なしの生産が盛んに行われていました。野菜の生産は、高度経済成長期以降、都市部の人口増加に対応した都市近郊産地として生産量が増加しました。主力のはくさいの生産は、戦後まもなく作付けが行われ、昭和41年の野菜価格安定制度の創設を境に本格的に産地形成が図られました。現在では、はくさいのほか、レタス、キャベツ、メロンなどの露地栽培を中心とした園芸作物の生産が盛んに行われており、農畜産物の販売額のうち野菜が6割近くを占めるほどになりました。
 また、管内では昭和40年代以降、葉たばこや加工用トマトの契約栽培が盛んに行われた時期もあり、産地市場や買付業者も多いことからも、契約取引には馴染みのある産地と言えます。

JA常総ひかりにおける農畜産物の販売実績(平成18年度)

(長なすの生産)

 なすは連作を避けるためにほかの野菜との輪作が行われ、また、冬場の野菜(はくさい、レタス、キャベツなど)と組み合わせた生産が行われています。
 長茄子倶楽部は、加工・業務用需要に対応した部会として6名の生産者により構成されています。平成20年の実績では、年間328トンの長なすが生産され、そのうち105トンが加工・業務用に仕向けられ、さらにその中から77トンが(株)マルハチに供給されています。
 JA常総ひかりでは、市場価格の低迷が続き、差別化を図っても価格に反映されない状況にあるとの考えから、農家経営のリスク分散のため、長なすの全出荷量に占める契約取引の割合を30パーセント程度にしたいとしています。

なすの作型

JA常総ひかりのなすの出荷量の推移

(少人数、複数の部会組織)

 JA常総ひかりには、長茄子倶楽部も含め現在4つのなすの生産部会が組織されています。少人数による複数の部会の運営についてJA常総ひかり営農部園芸課の大山課長は「販売形態に対する考え方は、市場への委託販売を希望する考え方や契約取引を希望する考え方など、生産者によってまちまちであるが、農家経営を考えた場合、無理して一つの販売形態、部会にこだわるよりも、色々な販売形態に対応した生産部会を組織し、生産者が納得して生産に取り組める環境を作ることの方が、より高品質のなすの生産、所得の増加につながるのではないか」と考えを述べ、さらに、「JAは、販売方法、販売先などのメニューを生産者に提案し、生産者の選択肢の幅を広げることが重要である」とJAの役割について話していました。同課長によると、このような取り組みによりJA常総ひかりでは、以前よりも10パーセント程共販率は上がり、農産物の販売額も増えたとのことです。

(労力の低減とコスト削減に向けた取り組み)

 長茄子倶楽部から(株)マルハチへの長なすの供給量は、年々増加傾向にありますが、増加の要因の一つが、出荷規格の簡素化や出荷用ダンボールの大型化などによる労力の低減やコスト削減に向けた取り組みです。具体的には、長なすの出荷規格をA品とB品のわずか2種類に簡素化し、ダンボールについては、容量のサイズを4キログラムから12キログラムへと切り替えました。ダンボールの容量が増えたことにより、1箱当たりの重量は以前より重くはなりましたが、その分ダンボールの組み立てや持ち運びの回数が軽減され、コストが削減されました。
 また、定期的に肥料メーカーとJAが共同で個々の農家を回り、栽培講習会が開かれ、施肥について指導が行われます。適正な施肥は減農薬にもつながり、より安全・安心な長なすの生産とコスト削減に貢献します。
 このような取り組みにより、作業時間は短縮され、その分ほかの作業に時間を割くことが可能となり、より品質の良い長なすの生産や作付け規模の拡大へとつながりました。

(高品質な長なすの生産に向けた取り組み)

 また、長なすの品質の向上および長期にわたる安定した生産に大きく貢献したのが「V字栽培法」の導入です。V字栽培法とは、V字型に立てた支柱になすの枝を誘引する栽培方法で、太陽光線が内部まで良く入ることからなすの光沢が良くなり、風にも強く、実が擦れ合うことが少なく、キズが付きにくいといった利点があります。支柱などで10アール当たり20万円から30万円程度の初期費用がかかりますが、長茄子倶楽部では全生産者がV字栽培法を採用し、品質の良い長なすの生産に取り組んでいます。
 また、品質の個人格差の解消や契約取引を円滑に推進させる上で役立っているのが、生産者、JA、全農茨城県本部園芸部県西VFS(以下、「県西VFS」)により毎週開催される「定例会」の開催です。定例会の場では主に、(株)マルハチからの翌週分の発注量が生産者に示され、個々の生産者の出荷数量の確認・調整が行われますが、それ以外にも、気象状況を勘案した作柄状況の確認や実需者からの要望の伝達など、お互いの情報交換が行われ、情報の共有化が図られています。さらに、必要に応じてその場で何度でも目揃え会が開催されます。目揃え会には、実際にほ場で作業を行う者の参加を求め、実需者ニーズに沿った規格・品質の確認、肥料・農薬の散布に係る確認、生産履歴などを記録した「農産物生産管理台帳」の記帳の周知徹底が行われるなど、定例会の開催は、品質の均一化や円滑な契約取引の推進に寄与しています。

V字栽培法による長なすの栽培

光沢のある「長なす」

4.全農茨城県本部園芸部県西VFSの取り組み

 今回受賞の対象となったのは全農茨城県本部園芸部東京VFS(以下、「東京VFS」)ですが、本稿では実際に(株)マルハチに長茄子倶楽部の長なすを供給しており、VFSの中でも加工・業務用需要対応に特化している県西VFSの本契約取引の取り組みを中心に紹介します。

(生産者との信頼関係の構築)

 県西VFSでは、JA常総ひかりと共に毎日のように生産者のほ場を回り、労力・コストの低減などの新たな提案や情報の伝達、栽培指導、作柄に関する状況の把握などを行っています。そうした取り組みは、生産者とJA、県西VFSとの信頼関係の構築や、農家経営に対する生産者の意識の変化へとつながります。

(実需者との信頼関係の構築)

 生産者のほ場の巡回や定例会などにより把握した産地の情報は、毎日のように(株)マルハチに伝えられます。これにより(株)マルハチでは、早い段階から効率的に原料の確保に対応することが可能となります。
 また、全農茨城県本部では、県内外JAの理解や協力を得ながら、系統組織の全国のネットワークを利用して、茨城県内から長なすの出荷が行われない冬場に、九州のJAとの契約取引を通じて産地間リレーによる供給体制を構築しています。これは、冬場の国産原料を手当てしたいとする(株)マルハチの要望に応えたもので、こうした対応は、実需者からの大きな信頼の構築につながるとともに、新たな流通の流れを生むきっかけを作ると考えられます。

(豊作時、不作時の対応)

 天候不順などの影響により、契約数量の確保が困難な場合の不足分の手当については、①全農茨城県本部VFSが、ほかのグループや産地、市場から手当てし、費用は全農茨城県本部VFSが負担する、②(株)マルハチに事情を説明して、同社がほかの契約産地もしくは市場、地元農協などから手当てし、費用は(株)マルハチが負担する、③全農茨城県本部VFSがほかから手当てするが、費用は生産者が負担する(後日生産者の販売代金から徴収)の3つのパターンがあり、その時の状況により対応を協議して決めます。
 逆に、豊作時の対応は、基本的には契約数量を超えた分についても県西VFSが買い取ることとしており、主に食品加工業者、外食・中食業者、漬物業者へ販売されます。こうした豊作時の販売努力が、不作時の経費の一部生産者負担の理解へとつながっています。

(契約取引の実施に当たって)

 野菜の契約取引について、実際に生産者、実需者を相手に契約取引を担当している県西VFSの片野氏によれば、実需者(バイヤーなど)の中には、天候不順による不作をなかなか理解せず、ほかの産地は天候が良いので、ものはあるのではないかと考える者もいて、実需者の認識と産地の状況との違いに頭を悩ませることがあるとのことです。また、過去に(株)マルハチの担当者と九州の契約産地に訪れた際に、それまで規格外品として契約の対象外であったC品の長なすの一部が、原料として使用可能であることが判明し、その後取引量の拡大につながったという事例もあったことなどから、片野氏としては、実需者にはなるべく産地に足を運ぶなどして実際に状況を自分の目で確認して欲しいと話していました。

【全農茨城県本部園芸部のVFSの紹介】

 全農茨城県本部における青果物直販事業(VF事業)は、「生産者規模別育成」と「多様な販売対応」を目的に平成8年から開始されました。
 「生産者規模別育成」は、高齢生産者には規格の簡素化による省力化の提案、大規模農家には契約栽培、契約販売の提案、生産部会には産地パッケージの提案、系統外出荷者には契約取引や新品目の提案を実施しています。
 「多様な販売対応」は、量販店には産地パッケージの提案、加工・業務実需者には契約取引の提案、市場にはルート販売の提案を実施しています。
 また、VF事業では、「産地パッケージ機能」「簡易選果選別機能」「集出荷機能」を持った施設(VFS)を茨城県内に3カ所(中央VFS、県南VFS、県西VFS)と都内に1カ所(東京VFS)、生協の共同購入商品のセット事業対応用施設1カ所(青果集品センター)を整備しています。
 それぞれのVFSは専門の機能を有しており、①中央VFSは量販店対応②県南VFSは地方市場および地産地消販売対応③県西VFSは加工・業務用需要対応④東京VFSは外食産業対応⑤青果集配センターは生協対応と、ほかのVFSと機能が重ならない体制となっています。
 VFSは、物流機能と施設を併せ持ち、産地と実需者に対してあらゆる提案を行う一方で、双方のニーズに応えながら、両者の間の架け橋となっています。

全農茨城県本部園芸部県西VFS

5. (株)マルハチの取り組み

(契約産地の確保)

 (株)マルハチは、高品質の原料の手当と新商品の研究開発に力を注ぎ、差別化を図り、価格競争に巻き込まれない商品の販売を心がけています。全農茨城県本部VFSとの長なすの取引以外でも、約40年前から地元庄内地方を中心に契約産地の拡大および生産者との直接契約取引に努めてきました。
 知り合いの紹介による一軒の農家との取引に始まり、その後産地との信頼関係ができてくるに従い、契約農家を増やしていきました。今では庄内地方だけでも約300軒の農家と直接契約を結んでいます。原料の安定的な確保に向け、社内には原料課を設け、専門の栽培指導員が農家一軒一軒を回り、ほ場で栽培指導を行うことにより、品質の整った、安定した原料の生産・確保が行われています。
 実需者として、自らも複数の契約産地の生産者と取引を行うことは、それなりに部署や人員の手当てが必要となりますが、原料確保の際のリスクの分散となるほか、原料の規格や品質にこだわり、地場産野菜を使用するなどして差別化された商品の販売を目的とする実需者にとっては、必要なことであると考えられます。

(原料の過不足時の対応について)

 (株)マルハチでは、過去の商品の販売実績や当該年の販売目標などを加味して年間を通じたおおよその原料の必要量を算出します。その数値の確保に向けて、シーズンが始まる前に地元契約農家に作付規模の確認を行い、不足分について県外の契約産地などから原料の手当が行われます。県西VFSから毎日のように提供される産地の情報は、供給量の予測に役立ち、原料不足時を想定して素早い対応が可能となります。不足時の原料の手当は、ほかの契約産地や市場から行われます。
 一方、豊作などにより原料がだぶついた場合の対応は、自社内で原料をストックするなどして、可能な限り引き取ることとしています。

(契約取引として相応しい産地について)

 全農茨城県本部VFSとの契約取引は、契約産地を探す過程で偶然にも職員の中に全農茨城県本部に知り合いがいたことがきっかけで始まりました。今では、年間約500トンの長なすの使用量のうち、県西VFSからは15パーセントに相当する約77トンが供給されています。
 実需者として、契約取引の相手として相応しい産地について(株)マルハチの阿部社長は、「一方的に自らの条件のみを主張する産地もあるが、当社としては、『品質』『コスト』『デリバリー』『季節性』『作型』『生産履歴の記録』などの条件でお互いどの程度歩み寄れるかを重要視しており、まずは、キャッチボールできる余地のある産地かどうかが重要である」とし、県西VFSとの間で7年間も取引が続いた要因については、「お互い正直にお付き合いをし、契約をきっちり守るなど期待を裏切らなかったことにより信頼関係が構築されたことが大きいのではないか」と語っていました。さらに、契約取引の今後の在り方については、「個人の大規模生産者や農業生産法人が増えてきたこともあり、今後はそうした方々と実需者の接点が持てればおもしろい展開になるのではないか」とも話していました。

【株式会社マルハチの紹介】

 大正3年にみそ醸造と小売の「黄金屋」として創業され、昭和47年から現社名の株式会社マルハチとなりました。
 漬物の製造は、昭和36年の「みそ漬」がはじまりです。高度経済成長の波や、当時、すでに家庭では漬物を漬けることが少なくなっていたこともあり、同時期に販売した地元産だいこんを使用した「たくあん」は大ヒット商品となりました。しかし、昭和50年頃には他社との価格競争に陥り、売上げは減少し、会社は赤字経営が続きました。そこで、他社のまねのできない商品開発を心がけ、試行錯誤の末、昭和52年に世に送り出したのが、地元産「温海かぶ」を使用した浅漬けで、再び大ヒット商品となり、以後、次々に新商品を投入し、売上げを伸ばしていきました。
 (株)マルハチは、漬物の品質を左右する「原料の品質」にこだわるとともに、他社との差別化を図る商品開発のための「研究」に力を入れています。品質が良く、オリジナル性のある商品なら、消費者は受け入れ、価格競争に陥ることのない適正価格による販売が可能であると考えています。
 また、「温海かぶ」「青菜(せいさい)」など、地元特有の野菜の使用および農家との契約取引は、地元農家の収益向上に大いに貢献しています。

(株)マルハチの本社

本社に隣接する「ひまわり工場・研究所」

6. おわりに

 7年間にわたり継続されている本契約取引について、改めて生産者と実需者にとってメリットのある取り組み内容という点から整理すると、主に以下の2点が挙げられるのではないかと思われます。
 1点目として、全農茨城県本部VFSは、中間事業者として物流と情報を一元管理していますが、特に情報面において生産者および(株)マルハチに対してこまめに収集・伝達を行っている点が挙げられます。これにより、遅滞なく三者間で情報の共有化が図られ、円滑な契約取引が可能となります。生産者にとっては、定例会や目揃え会、JA常総ひかりと県西VFS担当者によるほ場巡回などの場を通じて、その時々の実需者からの意見や要望、天候や病虫害による栽培上の注意、新たな栽培方法の提案などの情報を得て、それらをほかの生産者と共有することにより、品質の均一化や効率的かつ安定的な原料の供給が可能となるため、結果的に予定どおりの収入を確保することができ、農家経営の安定につながります。また、(株)マルハチにとっても、全農茨城県本部VFSから毎日のように納品予定数量や産地の作柄などに関する情報が入ることにより、早い段階から供給の見通しが立ち、原料確保への対応がとりやすくなるといったメリットがあります。
 2点目は、全農茨城県本部が(株)マルハチの要望に応えて、系統組織のネットワークを活用して県域を越えた産地との契約取引に取り組んでいる点です。(株)マルハチにとっては、系統組織間の連携ということに対する安心感が得られるとともに、事情のよくわからない他県産地との個別の契約交渉や、その後の連絡調整などに労力を割く必要がなくなり、複数の契約産地を相手にしなくて済むといったメリットがあります。
 一方、JA常総ひかりにとっても、全農茨城県本部が他県の産地と取引をすることによる営業・流通範囲の拡大が、将来的には産地間リレーなどの形でJA常総ひかりも絡めた新たな需要の創造が期待されます。
 
 生産者、中間事業者、実需者のそれぞれに利益をもたらすためには、契約内容どおりの取引を行うことが重要となりますが、そのためには、契約取引に関するあらゆるリスクを想定して、日頃からこまめに産地と実需者がお互いの状況を把握することが必要となります。全農茨城県本部VFSが中心となり、長茄子倶楽部、(株)マルハチの双方に対してこまめに情報を伝達しているこの取り組みは、円滑な契約取引を遂行する上で参考になる事例であると考えられます。


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