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調査報告


「第三回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」
における受賞者の取り組み事例の紹介①
JA利根沼田久呂保レタス部会、MCプロデュース(株)、
(株)サラダクラブの取り組み事例

~契約取引に安心して取り組める環境づくりが長年にわたる取引の継続につながる~

調査情報部
野菜業務部


 今月号から、平成22年3月23日に開催された「第三回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」において受賞された方々の取り組み事例について紹介していきます。

◆1. はじめに

 本稿では、「第三回国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」において、農林水産大臣賞を受賞した取り組みである、出荷団体の利根沼田農業協同組合(以下、「JA利根沼田」)久呂保(くろほ)レタス部会が、国産青果物の仕入販売を手がけているMCプロデュース株式会社(以下、「MCプロデュース(株)」)を介して実需者である株式会社サラダクラブ(以下、「(株)サラダクラブ」)にカット用レタスなどを長年にわたり供給してきた取り組みについて紹介します。
 この取り組みは、

○ JA利根沼田久呂保レタス部会の加工・業務用向けレタスが出荷量に占める割合が着実に増加していること(H19:48%、2,744トン、H20:49%、2,660トン、H21:50%、2,965トン)

○ JA利根沼田久呂保レタス部会において、部会員の中から、4名の部会員を選定・特定化して、(株)サラダクラブに特化した生産体制を構築したこと

○ MCプロデュース(株)が、複数の産地と取引を行うことにより、年間を通じた産地間リレー出荷を実現し、安定した仕入れ、供給体制を構築したこと

○ レタスは気温などの気象条件により身の締まり具合が異なり、同じコンテナでも重量が変化することから、MCプロデュース(株)から(株)サラダクラブへの納品は、通いコンテナ単位の納品から重量(キログラム)単位の納品へと切り変え、商品となるカットレタスの出来高の変動を抑えたこと

○ (株)サラダクラブは、新商品の開発を積極的に行うとともに、商品に産地名などの情報を記載し消費者に安心感を与えるなどして、消費拡大を図っていることの5点が評価されたものです。
 以下に、産地の概要と9年間にわたり契約取引を継続している要因について産地および関係者などからの聞き取りをもとに取り組み内容を紹介します。

農林水産大臣賞の受賞の様子

◆2. 産地の概要

 JA利根沼田は、群馬県北部に位置し、沼田市と利根郡を事業区域としています。
 管内沼田市の気象条件は、年間平均気温11.7度、年間降水量1,100ミリで、山間部は年間を通じて雨が多く、冬は降雪もある地域です。
(野菜生産の概要)
 野菜の生産は、主に標高300メートル~800メートルの準高冷地帯で行われ、平成21年度の野菜の販売額はおよそ62億9千万円と、同JAの総販売高(109億7千万円)の57パーセントを占めています。その中でレタスは、作付面積が492ヘクタール、出荷量は17,628トン、販売額は17億5千万円を誇る主力品目です。
 レタスの生産は、昭和村を中心に「久呂保」「糸之瀬」「赤城根」の3地区に組織されたそれぞれの部会により行われており、久呂保レタス部会の出荷数量に占める契約取引数量の割合は、久呂保レタス部会で9割となっています。

◆3. 契約取引を継続させるための取り組み内容

 JA利根沼田久呂保レタス部会、MCプロデュース(株)、(株)サラダクラブの三者においては、契約取引を継続させるために、日頃から次のような取り組みが行われています。

(1) JA 利根沼田久呂保レタス部会の取り組み

① 17名の部会員のうち、4名を(株)サラダクラブ用にレタスを生産する生産者として選抜・特化した生産体制が組まれている
② 収穫時期に合った品種の選定を行うとともに、土壌分析に基づくほ場および品種に合わせた肥料の投入を心がけている③ (株)サラダクラブのニーズに合わせて歩留まりがよく、加工・業務用に適した2Lサイズの大玉レタスの生産を行っている
④ 通いコンテナを導入して生産効率の向上とコストの削減に努めている
⑤ 天候不順などによる不作時を想定して、通常から2割程度の余裕を持った作付けを行うとともに、不作時の場合には、通常1通いコンテナに大玉を12玉詰めるところを小玉14~16玉詰めにて出荷したり、久呂保レタス部会の生産者(選抜された4名の生産者)間で数量を調整し、
それでは補いきれない場合はほかの生産者(13名)の分で補い、それでも足りない場合は、ほかの部会から調達するなど、農協管内全体でカバーすることとしている
⑥ 歩留まり低下の抑制および(株)サラダクラブの加工工場における廃棄物の減量のため、(株)サラダクラブが定めた「納品基準」に基づき、収穫時にレタスの外葉を1~2枚に調製して出荷している
⑦ 全レタス部会員による(株)サラダクラブの工場見学を定期的に実施するとともに、試食会、意見交換会を通じて(株)サラダクラブが求めるレタスの加工適性などの理解を深めている
 以上①から⑦までの取り組みの中で、特に①の取り組みの良い点は、選ばれた生産者は責任が明確化され、自覚と目的意識が高まり、実需者ニーズにあったレタスの生産を可能にする点です。
 また、生産者の方々に契約取引を長続きさせるコツを伺ったところ、市場価格を気にせず、実需者のニーズに合った品質の良いレタスの生産に専念することが重要であり、不特定多数を相手にするのではなく、既存の取引相手を大切にすることが重要であると語っていました。
 JA利根沼田では、久呂保レタス部会の取り組みが成功を収めていることを受け、今後、契約取引の品目数を増やし、多様なニーズへの対応を図り、農家の経営の安定につなげていきたいとしています。

(2)MC プロデュース(株)の取り組み

① MCプロデュース(株)JA利根沼田とは、綿密な連絡および情報交換を行っており、数量の調整や(株)サラダクラブのニーズの伝達、収穫体験、工場見学、試食会などの機会を定期的に設けることにより、JA利根沼田と(株)サラダクラブの双方の顔が見える信頼関係の構築に努めている。
② (株)サラダクラブには、作柄や栽培管理表などの産地情報の提供に努めている。
③ MCプロデュース(株)は、常日頃から産地の作柄などの状況確認を行うことによって、豊作の場合は実需者である(株)サラダクラブおよびほかの実需者に対して契約数量の増量を働きかけ、天候不順などによる不作時の場合は、産地の分散化、産地間リレーによるほかの産地や市場などから迅速にレタスを手当てする事としており、契約取引数量も産地の出荷数量の10パーセントから30パーセント以下に設定するなど、三者間のリスクの軽減を図っている。
 以上①から③までの取り組みの中で、特に③の良い点は、MCプロデュースが(株)調整役となり三者間のリスクを軽減することが、産地においては安心して生産に専念できる環境を与えることとなり、また、そのことが実需者に対して安定した量と品質のレタスを供給することにつながると考えられ、実需者としても、安心して新商品の開発、販路の拡大に取り組める環境を手にすることとなります。

【MC プロデュース(株)の紹介】
 MCプロデュース(株)は、三菱商事株式会社(以下、「三菱商事(株)」)が行っていた国内青果物取引を分社化させ、三菱商事(株)が100パーセント出資して2005年に設立した会社です。
首都圏に物流センターがあり、また、地方でも8社の提携先と連携して、安定供給・安定品質・安定価格の3つの「安定」を基本に、国産青果物の仕入販売を手がけています。
産地に対しては再生産価格を前提とした契約を心がけ、実需者に対しては、量、質、価格ともに安定した供給に取り組んでいます。また、トレーサビリティとコールドチェーンの確立にも力を入れています。JA利根沼田、(株)サラダクラブとの間においては、中間的調整機能の役割を担っています。

(3)(株)サラダクラブの取り組み

 加工工場では、人力によりレタスの芯抜きなどの処理が行われていることから、天候不順によりレタスが小玉傾向となった場合は、加工処理数が増えるなど、通常以上の手間と時間を要することとなりますが、このような場合でも(株)サラダクラブでは、産地の状況を理解した上で、通常と変わらない取引となるように努めています。また、
このように相手の立場、状況を理解するために(株)サラダクラブの職員は、日頃から産地を訪れ、生産者と意見を交換するなど積極的に産地との交流を図っています。このような産地と実需者との交流は、円滑な契約取引を推進する上で、重要であると考えられます。

【(株)サラダクラブの紹介】
 (株)サラダクラブは、キユーピー株式会社と三菱商事(株)が共同出資して1999年に設立したカット野菜メーカーです。サラダ向けを中心にカット野菜の製造販売を手がけています。全国5カ所(茨城県、東京都、兵庫県、岡山県、佐賀県)にカット野菜の直営工場があり、そのほかにも5カ所にグループ工場、協力工場があり、全国のおよそ10,000のスーパーなどの店舗に品質管理がしっかりと行われた新鮮で安全・安心なカット野菜を提供しています。また、新商品の開発や野菜の消費拡大の催しなどにも積極的に取り組んでいます。

◆4. おわりに

 野菜の契約取引は、作柄が天候の影響を受けやすいことから、産地における過不足時の適切な対応が契約取引を継続していく上で重要であると考えられますが、本事例では、特に不足時の産地の取り組みとして、生産者間、久呂保レタス部会内、部会間の順で数量の調整を図るなど、産地が一丸となった取り組みが評価の対象となったと考えられます。その点については、表彰式典における藤島審査委員長の講評の中でも、そうした産地の取り組みを踏まえて、加工・業務用向けの生産量が着実に増えていると評価されたところであり、それら産地に取り組みやすい環境を提供しているのが、中間的調整機能の役割を担っているMCプロデュース(株)と常日頃からの交流により産地の立場、状況を理解している実需者の(株)サラダクラブではないかと思われます。特にMCプロデュース(株)は、産地と実需者の間に立ち、産地の分散、産地間リレーの構築、出荷数量の30パーセント以下に抑えた契約などを徹底することにより、三者間におけるリスクを軽減し、安心して取引ができる環境を与え、安定した量と品質のレタスの供給を可能にしていると考えられます。
 実需者である(株)サラダクラブの話では、原料となる野菜が計画どおりに日々安定して供給される事が重要であるとしながらも、日々安定した品質により供給されることも重要であるとしています。つまり、量は揃っても、品質がまちまちであれば、商品化率の低下を招くということです。
 このJA利根沼田久呂保レタス部会、MCプロデュース(株)、(株)サラダクラブの三者間における契約取引の取り組みは、定量、定品質のレタスの供給を可能にする取り組みであり、契約取引を行う際に参考となる事例と考えられます。

(真空冷却槽)

(保冷庫)

(積み重ねられた通い容器)

(通い容器)


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