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調査報告


耕作放棄地への企業の農業参入による野菜生産の取り組みについて
~農業特区を活用した長崎ダイヤモンドスタッフ株式会社の参入事例~

調査情報部 調査課
係長 小峯 厚


◆はじめに

 農林水産省「農林業センサス」によると、我が国の農地における耕作放棄地は、昭和50年の13万ヘクタールから平成17年の39万ヘクタールへと増加しており、増加の背景には、農業従事者の高齢化(農業従事者のうち65歳以上が占める割合は、昭和50年の21パーセントから平成17年の58パーセントへと増加)や農業の担い手不足などのいくつかの要因が考えられる(図1)。

図1 耕作放棄地面積の推移


資料:農林水産省「農林業センサス」

 耕作放棄地の増加は、国民への安定的な食料の供給のみならず、地域の経済、社会、環境などへの悪影響も懸念されているところであるが、最近では、耕作放棄地解消の一つの手段として、また、農業の新たな担い手として企業の農業への参入が注目されている。

 これまで、企業による農業への参入は、農地法により農業生産法人以外の法人への農地の貸出禁止などの規制があったが、平成21年12月15日付けで施行された「農地法等の一部を改正する法律」により、農地に対する考え方が「所有」から「利用」へと大きく軸足が移り、株式会社やNPO法人による農地の賃貸が可能となるなど、企業はこれまで以上に農業に参入しやすくなり、今後の動向が注目されるところである。

 しかし、企業にとっては、土地探しから地権者との交渉、生産の安定化など、経営が軌道に乗るまでには、さまざまな面で克服すべき課題があり、農業への参入が容易ではないことも事実である。

 そのような状況の中で長崎市では、農業の衰退に歯止めをかけることを目的に、地産地消や担い手の確保などを推進し、企業も含めた新規就農者による耕作放棄地への農業参入を支援している。その一例が、平成16年3月に導入した「長崎いきいき農業特区」注1)において平成16年10月から「長崎ダイヤモンドスタッフ株式会社」(以下、「長崎ダイヤモンドスタッフ」)が市内の耕作放棄地を借りて野菜の生産を開始し、その後順調に生産量を伸ばしているケースである。

 企業による農業参入の先行事例として、今回、この長崎ダイヤモンドスタッフによる農業参入への取り組みについて調査する機会を得たのでその内容を報告する。


注1)(農業特区)

 平成14年12月に制定された構造改革特別区域法により、国内経済の活性化を図るため、規制改革を行うことにより、民間活力を最大限に引き出すことが重要であることから、地方公共団体や民間事業者などの自発的な立案により、地域の特性に応じた規制の特例を導入するための構造改革特別区域が設置されることとなった。
 農業分野においては、農地法の特例として、地方公共団体が耕作放棄地や遊休地が相当程度存在するものと認めて内閣総理大臣に対して認定を申請し、その認定を受けた構造改革特別特区を農業特区と呼んでいる。
長崎市では、平成16年3月に同法に基づき農業特区の認定を受けた。

◆1.長崎市の概要

(1) 地域の概要

 長崎市は、江戸時代には南蛮貿易による海外への窓口として栄えた歴史があり、日本有数の観光都市であると同時に、造船業を中心とした工業都市としても有名である。平成17年1月に1市(長崎市)6町(旧高島町、旧外海町、旧香焼町、旧伊王島町、旧三和町、旧野母崎町)が合併し、さらに、平成18年1月には旧琴海町と合併し、面積は合併前の約1.7倍の406.34平方キロメートル、人口は約4万2千人増加して455,206人となった(平成18年1月現在)。

 同市は、九州の西端、長崎県の南部に位置し、市の西側に角力灘、南側に橘湾、東側に大村湾に面した山とリアス式海岸からなり、平たん地が少なく、傾斜地には住宅が密集している。年間の平均気温は17.3度、降水量は1,373ミリと対馬海流の影響を受け、比較的温暖な気候に恵まれている(図2)。

図2 長崎市の位置


資料:長崎市提供資料より

 このような地形的条件や歴史背景もあり、産業別従事者の割合は、第1次産業が全体の2.6パーセントと極端に少なく、第3次産業が同77.7パーセントと高い割合を占めている(平成17年度国勢調査)。

(2) 農業の概要

 長崎市の農業産出額(平成18年)は74億3千万円である。経営面積が50アール未満の農家が71パーセントを占めるなど、平坦なまとまった土地が少ないため米の生産は少なく、傾斜地では、温暖な気候を利用して「びわ」や「みかん」などの果樹の生産が行われている。果樹の生産額は29億円と農畜産物の中でも一番多く、農業生産額全体の39パーセント、面積では全耕作面積の45パーセントを占めている。また、次に生産額の多い野菜は14億6千万円と同20パーセントを占め、いちごやアスパラガスなどの施設野菜を中心とした少量多品目の野菜の生産が行われている(表1)。

表1 農業産出額

(千万円)


資料:農林水産統計年報

 生産される野菜の中には、「長崎白菜」「辻田白菜」「長崎たかな」などの伝統野菜や糖度の高い「高島フルーティートマト」「ダイヤとまと」が新たな特産品として市民にも親しまれている一方で、販売農家戸数は平成7年の4,315戸から平成17年の3,625戸へと減少しており、平成17年では、自家消費のみの農家の割合が全体の52パーセントを占めている。販売農家戸数の減少は、農業従事者の高齢化などが影響していると考えられ、2005年の65歳以上が農業従事者全体に占める割合は54パーセントであり、2000年の43パーセントから10ポイントも増加しており、今後の農村・農業の維持・継続が懸念されるところである(表2)。

 また、長崎市は、農地に占める耕作放棄地の割合が23パーセントと全国平均5.8パーセントと比較して高い(平成17年現在)。

 この理由としては、農業従事者の高齢化に加えて長崎市では、ほ場面積が小さく、自家消費用程度の小規模な農産物の生産が行われているとみられる傾斜地などの耕作条件の悪い農地において、耕作の中止が増えたことが考えられる。

表2 年齢別農業就業人口

(単位:人/%)


資料農林水産省「2005年農林業センサス」

◆2.長崎市における耕作放棄地の解消に向けた取り組み

(1) 農業特区の活用

 長崎市は、狭い土地での農業という不利な条件のもとで、地域農業を振興し、耕作放棄地を増やさないようにすることに力を注いでおり、農業経営に意欲を示す農業者、新規就農者、企業などさまざまな担い手と連携し、施設栽培による高収入、高付加価値農業の展開を模索、都市近郊型の農業の確立を目指している。その一つの手段として「地産地消」に力を入れており、特に、平成14年度からは市内小中学校の学校給食への地場産農産物の供給に取り組んでいるが、現在の農業従事者の数では、十分な地場産農産物の供給が困難な面もあった。このため、企業も含めた幅広い分野からの担い手の確保を目的に、平成16年3月に構造改革特別区域法に基づいて国から「地方公共団体または農地保有合理化法人による農地また採草放牧地の特定法人への貸付事業」の特例(農業特区)の認定を受け、旧長崎市の農業振興地域内に「長崎いきいき農業特区」を設け、長崎ダイヤモンドスタッフが参入した。

(2) 具体的な取り組み

 このほか、長崎市との合併前の旧高島町時代に設けられた「高島いきいき農業特区」に海運企業が新たに農業参入している。

 さらに支援のための環境づくり(図3)や新規就農や規模拡大のための支援策の実施(表3)に努めると同時に、「ながさき食の推進室」を設置し、毎月19日を「食卓の日」と定めて、家族で食卓を囲む日として市民に地場産農産物の消費に向けた啓発活動をイベントやテレビを通じて行っている。

図3 支援のための環境作り


資料:長崎市提供資料より

表3 長崎いきいき農業特区に適要される規制の特例措置


資料:長崎市の資料をもとに機構で作成

(3) 課題と対応策

 長崎市における企業の農業参入は、上述した2社の後に続く事例は出ていない。

 長崎市の担当者によると、参入が進まない要因には、

①貸付対象農地の情報が不足している
②農業の経験やノウハウがない
③農産物の販売価格が安い
④施設・設備などの初期投資が高額である
⑤まとまった面積を確保することが難しい

などがあるという。

 中でも最大のネックとなっているのが⑤である。これ以外にも、農地の貸借が進まないという問題がある。例えば地権者から借りた農地にビニールハウスなどの施設を建設する場合、企業は、施設の建設に費やした初期投資を回収するため、10年間程度の土地の賃借を求めるが、地権者はいつでも返還してもらえることを望むため、一旦施設を設置することで、土地の返還が困難になることを恐れて農地を貸したがらないケースがある。特に、長崎市では地形的に露地栽培では収益を上げられるだけのまとまった農地が少ないことから、主として野菜の施設栽培による農業参入が予想されるが、狭い農地、それに伴う複数の地権者との交渉が、農業参入をより困難にしている。

 特区制度では、企業は地権者から直接農地を借りるのではなく、地権者と契約して農地を借りた長崎市から借りている。このとき長崎市は、長崎市農業委員会が収集している遊休農地の情報を利用し、企業が希望する条件に合った土地を企業に提示することで、農地の貸し借りが円滑に進むような仕組みを作っている。

 そのほかにも、長崎市では、常時、市のホームページに地権者の「土地を貸したい」「土地を売りたい」といった遊休農地の情報を掲載し、企業を含めた参入希望者が常に閲覧できるよう情報提供に努めている。

◆3.長崎ダイヤモンドスタッフによる農業参入

(1) 長崎ダイヤモンドスタッフの概要

 長崎ダイヤモンドスタッフは、三菱重工業株式会社の関連会社として、昭和61年5月に設立され、設立当初は「人材派遣」「教育」「旅行業務」を行っていた。その後、三菱重工業株式会社長崎造船所の「警備事業」や、長崎市内外での「在宅介護サービス」を開始するなど、地元に密着した多角的な企業経営を行ってきた。

(2) 農業参入の目的

 長崎ダイヤモンドスタッフは、地元の学校給食や直売所、量販店などに地元で生産した新鮮な農産物を供給することにより地域に貢献することを目的に農業に参入した。農業参入には、地元に密着した企業として地域に貢献することが消費者に良いイメージを与え、長い目で見れば長崎ダイヤモンドスタッフにとってプラスになるとの考えがある。

 同社は、平成16年3月24日に長崎市が特区の認定を受けると同時に農業部を設立し農業に参入し、平成17年11月には、農業部の直売所である「三重・西海道場」を開設して野菜、果樹などの農産物の販売を開始した。

① 農業部の従業員

 現在の農業部の体制は、常勤職員5名、パート3名、シルバー人材センターからの紹介によるパート4名(元農家)、ボランティア4名(三菱重工のOBなど)の計16名で生産、販売を行っている。当初は、ダイヤモンドスタッフ内のほかの部門から毎日2名の加勢を必要としていたが、現在では、ほかの部門からの男性1名が週に2日手伝う程度であり、平成22年3月には手伝いは終了する。

 従業員には、それぞれ得意分野を持った者を雇用しており、例えば「ダイヤとまと」は、トマトの栽培の専門の知識を持った者が作り上げたブランド品である。そのほかにも大学でアスパラガスの研究を行っていた者による、アスパラガスの新たなブランド作りに現在挑戦している。販売面では、大手量販店出身者を雇用することで販売のノウハウを取り入れている。22年度は、近隣の高校から2名の新規採用を決めるなど事業拡大を視野に入れた積極的な労働力の確保を行っている。

② ほ場の選定

 長崎ダイヤモンドスタッフの農業参入に際しては、複数の候補の中から借地条件、権利関係が単純な土地を探した結果、長崎市から紹介された、市内松崎町にある地権者1人による6千平方メートルの耕作地を最初の農業参入地とした。

 ほ場はA地、B地、C地の3区域に分けて、A地には事務所や作業所を建設し、B地では露地栽培およびハウスによる施設栽培、C地ではハウスによる施設栽培を中心に行うこととした。

 その後、平成18年9月に市内才木町で約1,730平方メートルの農地を借り、平成18年10月に三京町1号ハウス、平成19年8月に三京2号ハウス、平成20年7月には西海町に農地を借りることができ、順次、規模拡大を図ってきた(表4)。

表4  規模拡大の推移


資料:長崎ダイヤモンドスタッフ提供資料より

③ 野菜生産の概要

 平成16年10月に参入してから、最初の3年間は試行錯誤の日々が続き、土作りや栽培品目を決定するためのテストが繰り返された。その間40~50品目の野菜の生産テストが行われ、伝統野菜の栽培などにも挑戦した。

 現在は、付加価値があり、安定した生産量が確保できる15品目程度の商品に絞った生産を行っている。付加価値を付けるための農産物のブランド化については、高糖度の「ダイヤとまと」やイボなしきゅうりの「ダイヤきゅうり」がある。そのほか、単収は少ないが良食味のばれいしょの「出島」や伝統野菜である「西海枝折なす」などの生産を行い、味にこだわった商品作りを目指している(表5)。

表5 商品


資料:聞き取りにより機構作成

写真 ダイヤトマト




資料:長崎ダイヤモンドスタッフHP

 また、野菜の生産だけでは販売期間が限られてしまうことから、とうがらしとゆずを加工した「ゆずこしょう」や「ゆずしぼり」などの加工品の生産による長期間の安定した販売による経営の安定化を目指している。

④ 生産量の推移

 平成16年に営農を開始してから、出荷量は順調に増加しており、平成21年度は60トン、1~2年後には80トンの出荷を目指している(図4)。しかし、設備費などの初期投資や人件費などの経費を入れると、まだ、収益を上げる状況にはない。特に、雑草の処理、地力の回復などが必要となる耕作放棄地における農業参入の場合、農作物の生産を安定させ、利益を上げるまでに時間を要することが予想される。そのため、参入企業には、一定期間を持ちこたえるだけの体力が必要となる。長崎ダイヤモンドスタッフの鈴木弘文社長も、長期的な視点に立った生産規模の拡大およびブランド化などによる付加価値農産物の販売を通じて、農業部門の赤字を解消していくとしており、今後とも農業活動を継続し、収益を上げるよう取り組もうと考えている。

図4 出荷量の推移


資料:長崎ダイヤモンドスタッフ提供

⑤ 主な販売先

ア 学校給食への納品

 学校給食へ納品する品目は、ばれいしょ、きゅうり、たまねぎ、ほうれんそう、かぼちゃなどで、平成21年度の学校給食への供給は、出荷全体量の15パーセント程度を占めている。過去には、学校からの要請によりにんじんも出荷したことがあるが、生産が安定せず断念した経緯がある。出荷に際しては、学校給食の規格に対応したA品のみを出荷するなど、特に品質には気を配っている。

 現在、市内小中学校合わせて22校の地産地消モデル校へすべて市場を通した相対取引により納品している。納品については、毎月20日前後に学校側と協議して翌月分の数量および価格を決定している。価格は、市場価格などを参考にしている。

イ 直売所・量販店

 生産開始から1年後には、長崎ダイヤモンドスタッフの直売所である「三重・西海道場」を開設し、農産物の販売を行うほか、地元の大手量販店、三菱グループ関連施設の売店や量販店などで農産物を販売している。

写真 農業部直売所「三重・西海道場」


資料:機構撮影

 販売上の工夫としては、

○ 直売所では、ほかの近隣農家の販売にあまり影響しないように農場で生産した農産物の価格設定を農家価格よりも若干高めに設定している。

○ 直売所では、軽トラック市(生産農家が直売所の駐車場で、軽トラックにより農産物を直接販売)や、餅つきなどのイベントを毎月1回程度行い、消費者に地場産農産物の良さをアピールしており、今後は、品揃えを増やし、さらなる販売の強化をめざしている。

(3) 生産現場の問題点

 農地のうち、松崎町のほ場は、20年近く放置された野菜のほ場であったため、除草にはじまり、道の整備(コンクリート舗装)、建屋のガス・電気・水道整備など多くの時間、労力、費用を要した。

 また、生産開始後も、イノシシなどの鳥獣による農作物への被害があるため、電気柵を設置するなど対応に追われている。さらに、ベト病やカビ病などの病気の発生や、日照不足、水不足、台風災害など天候の影響による生産量の減少など、工業製品とは異なる農業生産特有の予期せぬ事態に見舞われ、生産の安定化には、まだ課題が残る状況ではあるが、農業経験者の雇用や長崎市の農業ヘルパー制度を活用して農業技術を習得するなどして、問題の解決に取り組んでいる。

(4) 周辺農家との関係

 長崎ダイヤモンドスタッフの農場周辺の農家は、品質の良い農産物を生産していたものの「少量生産のため販路が確立されていない」「高齢のため農産物の運搬が困難である」といった理由から、主に自家消費用とするケースが多かった。長崎ダイヤモンドスタッフは、このような農産物を集荷して、自社のものと一緒に直売所で販売を開始した結果、農家にとっては現金収入を得ることとなり、生産意欲の向上にもつながっている。また、近隣の農家の中には、シルバー人材センターを介してパートとして長崎ダイヤモンドスタッフの農場で働く者も4名いる。

 一方、長崎ダイヤモンドスタッフにとっても、「小ロットの品目を補完できる」「近隣の畜産農家の良質なたい肥を確保できる」などの利点があるほか、地元生産者を雇用することで、農家が今までに蓄積した知識や技術を農場の生産に生かすことができるなど、お互いにメリットのある関係が構築されており、長崎ダイヤモンドスタッフ農業部の今後の規模拡大にも資する重要な要素であると思われる。

写真 参入前の耕作放棄地

写真 現在のほ場



写真 現在のほ場

資料:機構撮影

(5) 行政による支援

 長崎ダイヤモンドスタッフでは、アスパラガスの生産に際して市の農業センターから技術指導を受けている。そのほかにも三京町2号ハウスの建設に際して、「農業新規参入等促進事業(平成19年~平成21年に実施)」注2)を活用して、長崎市から400万円の補助を受けた。この補助は、長崎ダイヤモンドスタッフのこれまでの取り組みが評価されて交付されたが、これ以外の農業参入にかかる費用は、ほとんどが自己負担となっている。

 新卒者を雇用した場合の必要となる人件費や、農地、施設の拡充など、規模拡大に要する経費の一部への助成などが企業の農業参入に役立つのではないかと長崎ダイヤモンドスタッフの田代部長は話していた。


注2)農業経営意欲の高い企業や農業者を掘り起こすための制度で、1事業主体当たりの補助の限度額は400万円である。


(6) 今後の見通し

 長崎ダイヤモンドスタッフ農業部の田代部長によると、今後は、農産物のブランド化を推進し、生産の規模拡大を図ることにより、既存の販売先への出荷量を増やしたいと考えている。また、併せて長崎市が福岡市内で計画しているサテライト方式の農産物販売店舗への出荷や三菱グループの社員をターゲットとした農産物の販売など、新たな販売チャンネルの開拓も今後検討したいとしている。

◆4.おわりに

 改めて、今回の事例を検証すると、長崎ダイヤモンドスタッフが、農業特区を利用して耕作放棄地という厳しい条件の農地に農業参入を果たして、規模拡大を可能とした理由としては、
・長崎ダイヤモンドスタッフが、一定期間持ちこたえるだけの資金的な体力を有していたこと
・長崎市が率先して農地の確保を行い、長崎ダイヤモンドスタッフの農業参入を支援したこと
・長崎ダイヤモンドスタッフの既存部門および関連会社の特色を農業経営に生かし、多彩な販売チャンネルを持っていたこと
・同社の人材派遣などのノウハウを生かして、生産、販売と、それぞれの分野に適した職員の雇用を行ったこと
・農場周辺農家との協力的な関係
などが挙げられるが、中でも農家に利益をもたらす「農場周辺農家との協力的な関係」は、企業が農業参入する上で非常に重要なポイントであると思われる。企業の農業参入は、土地探しにはじまり、雇用、生産技術の確立(安定化)、有害鳥獣の駆除、規模拡大など経営が安定するまでには、さまざまな課題を克服する必要がある。それら課題の解決にかかる時間や労力の軽減に資する一つの要因が地元農家との協力的な関係ではないだろうか。長崎ダイヤモンドスタッフの場合、周辺農家にとっては「農産物の集荷および販売」、長崎ダイヤモンスタッフにとっては「小ロット品目の補完」「良質なたい肥の確保」などと、双方がメリットを受けており、お互いに必要とされる協力関係を築いている点が確認できた。

 長崎ダイヤモンドスタッフの田代部長も、農業部門においては、グループ企業としての相乗効果を発揮し、ある程度の結果を残しているとしつつも、農業部門単独で最終的に黒字化するためには、まだ数年かかることを覚悟しているという。また、企業が長期的な計画の中で農業経営を行っていくためには、ハード、ソフトの両面、情報提供などの行政の支援が欠かせないと思われる。

 最後になったが、本調査を実施するに当たり、ご多忙中にもかかわらず多大なご協力をいただいた長崎市農林水産部農業振興課の桐谷匠係長、長崎ダイヤモンドスタッフ農業部の田代博昭部長、宮崎英輝主任そして長崎ダイヤモンドスタッフ農産物直売所の松永功店長にこの場を借りて厚く御礼申し上げる次第である。


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