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調査報告


農業生産法人と結び付いた仲卸の野菜の安定供給のための取り組み
~みくりやグループと鹿児島農園の結び付きを事例として~

調査情報部調査課 課長補佐 平石 康久
調査情報部調査課 係長   小峯 厚


◆はじめに

 大阪府中央卸売市場(北部市場)の仲卸業者である「みくりや青果株式会社」は、同社の子会社である「株式会社ニューふぁ~む21」を通じて、生産者と結び付きを深め、農産物を産地から直接仕入れる取り組みを行っている。

 その中で、九州地域においては、「みくりや青果株式会社」と「有限会社鹿児島農園」をはじめとする現地の生産法人が共同で「株式会社ニューふぁ~む21九州」を設立し、野菜の生産から流通、販売まで一貫して行うことにより、品質の良い野菜を生産者や消費者の双方にとって適切な価格で提供する取り組みを行っている。

 本稿では、「みくりや青果株式会社」および「有限会社鹿児島農園」における聞き取り調査などをもとに、「株式会社ニューふぁ~む21」を通じた双方の取り組みの内容について紹介する。

◆1.みくりやグループの概要

 みくりやグループは、顧客の要望に応えるため、役割を分担したグループ企業体となっており、「みくりや青果株式会社(仲卸業)」、「株式会社マキシム(外食産業やホテルへの納品担当)」、「株式会社誠孝(カット野菜の製造販売)」、「株式会社ニューふぁ~む21(産地との直接取引や伝統野菜、有機野菜などの調達を担当)」、銀杏家食品有限公司(中国からの野菜輸出や中国国内への野菜販売)から成り立っている。

 これらの企業が、それぞれの専門性を発揮しつつ、グループ総体としてのスケールメリットを発揮しながら、顧客のニーズに応じた野菜の安定供給に取り組んでいる。

 その中で、みくりやグループの中核企業である「みくりや青果株式会社(以下、「みくりや青果」)」は、昭和34年に現在の大阪木津卸売市場で創業した後、大阪府中央卸売市場の開設に伴い、昭和53年に移転と同時に株式会社へ転換した。年間の野菜の取扱額は180億円程度であるが、野菜の調達先は、市場内と市場外流通による調達がそれぞれ半分程度となっている。

 みくりやグループは、新鮮で安全・安心な野菜を多くの消費者に食べてもらうとのコンセプトのもと、「ニューふぁ~む21」を通じて、野菜の契約栽培による直接取引を各地の生産者と行っている。

 また、「ニューふぁ~む21」は、過去に、国産野菜の生産拡大および利用増進に向けた取り組みが認められ、全国農業コンクール農林水産大臣賞や、国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰において受賞歴がある。

写真1 市場外にあるみくりやグループの関連施設


資料:機構撮影

◆2.有限会社鹿児島農園の概要

 社長である延時氏が、昭和57年に長距離トラックの運転手から農業へ参入し、だいこんの生産を開始した。その後、借地などにより生産規模の拡大を図り、平成11年に法人化して「有限会社鹿児島農園(以下、「鹿児島農園」)」を設立した。さらにその後、有機JASやエコファーマーの認定を受けるとともに、平成18年に近隣のほかの農業生産法人と連携し、みくりやグループとの共同出資により、「株式会社ニューふぁ~む21九州(以下、「ニューふぁ~む21九州」)」を設立した。

 「鹿児島農園」をはじめとする構成員の農業生産法人は、「状態の良い土で作った農作物は本当に美味しい。 多くの消費者に購入してもらうためにも、それらを慣行栽培と変わらない価格帯で提供する努力が、生産者と流通業者の双方に必要」との信念のもと、「ニューふぁ~む21九州」を設立・運営している。

 これは、「鹿児島農園」の社長である延時氏の、「家族とともに暮らしつつ、子供が裸足で畑に入っていけるようなほ場で野菜作りを行いたい」との信念が影響していると考えられる。

表1 鹿児島農園の概要


資料:東串良町役場提供資料などをもとに作成
注 :品目別栽培面積には、ニューふぁ~む21九州に参加しているほかの法人の面積を含む

写真2 ハウスの外観

写真3 真空予冷施設



資料:機構撮影

資料:機構撮影

表2 主な野菜の収穫時期


資料:東串良町役場提供資料

◆3.みくりやグループのビジネスモデル

 みくりやグループの特徴としては、SPA(製造小売業)※方式を取り入れていることである。さらに、産地を持ち、さまざまな業種の顧客を持ち、市場内にある仲卸という強みも持っている。

 このことから、野菜の仕入れについては、市場での調達に加え、生産地から直接、実需者のニーズに合った特色のある野菜を仕入れることが可能となっている。

 一方、販売においては、多様なニーズを持つ顧客を持ち、加工機能も持つことによって、特定の品質の野菜だけでなく、納入される野菜をすべて効果的に販売することが可能となっている。

 その中で、「みくりや青果」は、顧客(特に量販店)への野菜の販売を行うとともに、全国の野菜の産地情報を把握し、顧客のニーズに応じた野菜の納入について中心的な役割を果たしている。顧客のニーズに応えるため多様なグループ構成となっており、「(株)マキシム」は外食産業への納品、「(株)誠孝」はカット野菜の製造販売、「銀杏家食品有限公司」は中国産野菜の取り扱いに特化している。

 同様に「ニューふぁーむ21」についても有機野菜や地場野菜などのこだわり野菜の取り扱いを担当するとともに、市場を通さない産直野菜の取り扱いも専門としている。この産直野菜については、全国にある提携先農家以外に、子会社である「ニューふぁーむ21九州(そのほかに信州、奈良、徳島、長崎、熊本がある)」などからの仕入れが重要な役割を果たしており、みくりやグループは、このような産地との強い結び付きが今後の発展につながるとしている。

※SPAとは、speciality store retailer of private label apparelの略で、企業が製造から販売まで一貫して主導的に管理することによって、ニーズの変化に素早く対応するとともに、中間マージンの削減も同時に図る経営戦略。

図1 みくりやグループおよび全国のニューふぁ~む21のそれぞれの役割


図2 機械化した工程の例


資料:東串良町役場提供資料

◆4.鹿児島農園における取り組みの工夫と経営の特徴

(1) 機械化による省力化と規模拡大

 土壌管理から作物の栽培・管理・収穫・出荷作業の各工程の機械化による一貫体系を確立し、省力化・低コスト化を実現した。農業機械や施設については、自社の所有である。

 施設の導入に当たっては、東串良町をはじめとする行政のサポートも得ている。

図3 規模拡大の状況


資料:東串良町役場提供資料

(2) 借地による規模拡大

 高齢農業者などからの借地により生産の規模拡大を進めるとともに、耕地の80パーセント程度は、自宅近隣に集積させるなどして、機械の移動やほ場管理などの作業の効率化を図っている。このように、土地の集積については、比較的恵まれている。その要因は、地元農業委員会からあっせんされた農地について、「鹿児島農園」が管理を十分に行うこと、土地を借りるときに取り交わした約束を必ず守ることなどを徹底したことにより信用を得ることができたためである。

 今後、さらに規模を拡大したいと考えているが、これ以上借り入れできる農地があまりない状況にあり、規模拡大を行う上で課題となっている。

(3) 安全・安心や環境保全に関する工夫

 土づくりには力を入れており、平成9年から有機栽培に取り組み、平成13年には有機JASの認定を受けている。良好な土壌を作るために、土壌診断を行い、たい肥と線虫対抗植物としての緑肥作物(ギニアグラス、クロタラリア)を組み合わせた土づくりを実践している。

 また、秋冬野菜栽培において重大な害をおよぼすハスモンヨトウやコナガなどの害虫に対するフェロモン剤を用いた生物的防除の実施を平成15年から行っている。

図4 土作りから収穫までの行程


資料:ニューふぁ~む21のホームページによる

(4) 夏作におけるかんしょの導入

 「鹿児島農園」のほ場がある東串良町は、気象条件からすると、冬春ものの産地ではあるが、経営の安定および年間を通した土地や労働力の有効活用の点から、夏場に高温下でも栽培が可能なかんしょの栽培を取り入れている。夏から秋にかけての鹿児島は、台風の常襲地帯であり、高温でもあることから栽培できる作物が限られるが、その中でかんしょは、台風や干ばつ、長雨などの気象災害に強く、夏季にも栽培できる貴重な作物である。雇用対策・農家経営上、重要な作物であり、用途は、でん粉、焼酎原料用である。

写真4 鹿児島農園のかんしょのほ場風景


資料:機構撮影

(5) 労働力確保

 社長の延時氏は、当初から労働力の確保に苦労し、現在でも難しい課題であるという。そのため、同農園では、中国からの研修生を受け入れている。研修生の受け入れに対しては、休暇の確保や福利厚生に気を配っている。

◆5.みくりや青果と鹿児島農園との結び付き

(1) 取引が行われるようになった経緯

 みくりやグループの細田取締役は、商社の研究所に在籍していたころ、各市町村のブランド品作りの仕事に携わっていた。

 これは、地元にあるものを見直して、新たな価値を見出そうという試みであった。その過程で、鹿児島県において野菜農業の大規模経営を行い、付加価値のついた野菜を生産している「鹿児島農園」の存在を知ることとなった。

 一方、「鹿児島農園」では、「みくりや青果」との契約取引が始まる前の野菜の出荷先は、漬物業者や地方市場が中心であったが、漬物原料用野菜は、収益性が低く、また、地方市場では品質の良いだいこんを出荷しても、価格が不安定な相場に左右されてしまうことから、より商品価値を認めてくれる安定した取引先を探していたといった事情があった。

 「みくりや青果」にとっても、取り扱う野菜の品目・数量が増加するとともに、野菜に求められるニーズが多様化し、顧客のニーズにあった野菜について必要な数量を市場では十分に調達できなくなっていたことから、取引をすることには、双方に利点があった。

 また、双方の経営理念についても、安全・安心な野菜を消費者に安定的に供給したいといった想いなど、通じ合うものがあった。

 契約取引に際しては、東串良町をはじめとする行政サイドが、「みくりや青果」と「鹿児島農園」をはじめとする生産法人との間において、中間的な立場で仲立ちしたり、施設整備を支援したりとサポートしている。

 こういった背景があり、双方の取引が始まり、その後関係を深化させるためにほかの生産法人とともに、「ニューふぁ~む21九州」が設立された。

(2) 取り引きの内容

 「みくりや青果」と「ニューふぁ~む21九州」との取引は、11月~5月の期間行われるが、出荷期間が終わり、実績(単収や販売データ)が出そろう8月に反省会を行い、併せて次シーズンの計画を策定する。契約単価の値決めは月別に行い、契約期間は7カ月間である。その際、出荷量のおおよその目安も決める。「みくりや青果」は、それら計画書をもとに作成した提案書を作成し、9~10月に販売先と取引の交渉を行う。

 「ニューふぁ~む21」との取引の特徴としては、各構成員から出荷される野菜を契約した数量以上(取引によっては全量)引き取る形態にある。

 これには工夫があり、まず、産地は欠品のリスクを軽減させるため、契約数量より多くの生産を行う。

 一方、「みくりや青果」側は、野菜が100ケース必要であれば、契約はそれよりも少ない数量(例えば80ケース)でとどめておき、残りを産地から市場価格を若干調整した価格で買い取るようにして、生産者が抱える余剰分を少なくするようにしている。また産地での不足時においては、最終的には「みくりや青果」がリスクを負って納入に責任を持つことになる。

 その他過剰時においては、産地から週100ケースのところ、豊作により150ケースの出荷の要望があった場合、前もって(おおむね10日前)その情報を得ておき、顧客(量販店)に対してセールをもちかける。これは、量販店に対してチラシが印刷される前に情報を提供するためである。

 また、常日頃から、幅広い顧客に多くの量を卸していることから、予定外の数量や品目を出荷したいという要望があっても、グループ企業というスケールメリットを生かし、さまざまな顧客に販売することが可能である。

 そのほかに、全国に「ニューふぁ~む21」が提携する農場を分散させることによって、不作時などのリスクを分散させている。

 「鹿児島農園」においても、当然のことながら契約を遵守するために、天候のいかんにかかわらず、収穫作業は毎日行っている。同農園としては、契約を継続させるために最も重要なことは、契約内容を厳守することと考えており、例えば、キャベツの肥大が遅れた年には、1ケース当たり10玉、12玉の小玉となっても数を集めて納入箱数を確保したことが過去にあった。このような経験も踏まえ、冷蔵庫で若干の出荷調整も行えるようにしている。

 また、包装形態については、外食産業はボクサー針(段ボールを留めている針)混入の可能性が少ないコンテナを好むが、カット野菜工場は顧客への納入に再利用できる段ボール箱を好むなど、包装形態のニーズも多様であり、それら要望に対しても対応している。

 だいこんについては、取引先のニーズに応じて、同農園で皮むきを行ったものを出荷することがあり、同農園にとっては有利販売につながり、取引先も、ゴミの後始末に困らないといった双方に利点がある。また、折れただいこんでも、皮むきすれば利用できる。

 流通面においては、青果物の輸送に実績のある宮崎県の運送会社と提携しており、コンテナ、ダンボールなど365日運送することが可能となっている。また、冬には、山陰道、山陽道で道路が凍結し、輸送に支障がきたすことがあることから、そのような場合には、志布志港から船で運輸するなどして対応している。契約取引においては、約束の時間、場所に野菜を届けることも重要であることから、輸送面においても、リスクに対応しうる方法と信頼できる輸送パートナーを見つけることは大事である。

図5 みくりやグループによる安定供給の工夫(イメージ図)


図6 全国のニューふぁ~む21および提携農場


資料:ニューふぁ~むホームページによる

◆6.今後の課題と見通し

(1) みくりや青果

 「みくりや青果」は、販売のプロであるという意識のもと、生産のプロが作った野菜の販売に全力を尽くしたいと考えている。

 経営にとって大事なことは、①目的が明確化されている、②役割分担を守る、③具体的な数字をもとに計画を作り、対策を講じる、④すべての情報を共有化することと考えている。

 「ニューふぁ~む21」を通じた取り組みは、「生産者」、「みくりや青果」、「実需者」の3者にとって利益がなければ継続できないため、ともすれば、対立してしまう生産者と実需者の利害をうまく調整しつつ、事業を発展させていくことが、「みくりや青果」や「ニューふぁ~む21」の役割と考えている。

 今後は、コンプライアンスをさらに重視し、農薬、品種、ほ場管理を徹底していくこととしている。

(2) 鹿児島農園

 今後とも出荷先との契約の遵守に力を注ぐこととしている。一方で、キャベツは、近隣の農家も栽培していることから、不作時の手当てもある程度は可能であるが、レタスは、近隣では栽培されておらず、不作時などへの対応が、今後の課題となる。

 また、ほ場が水はけの良いシラス台地にあることから、一部のほ場を除き、かん水用の水が不足気味であり、かんがい施設のない多くのほ場では、トラックに水を積み込んでかん水を行うなどして、安定生産に努めるとともに、海外への販売も検討したいとしている。

 「みくりや青果」、「鹿児島農園」ともに信頼関係を発展させ、人と人とのつながりを大事にしていけば、結果的に商売が発展するとの感想を述べていたことが印象的であった。

 最後になりましたが、調査にご協力いただいた「鹿児島農園」の是枝専務、「東串良町役場」の柳谷指導員、江口補佐、「ニューふぁ~む21」の細田取締役に、この場を借りて深く感謝いたします。


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