中村学園大学 流通科学部
教授 甲斐 諭
近年、農産物の中でも、特に青果物の卸売市場経由率が低下する中で〔1〕、農産物直売所(以下、「直売所」と略記)が全国各地で開設され、不況の中でも活況を呈している。
ちなみに、平成21年3月現在、福岡県内には222カ所の直売所があり、総販売額は280億円と推計されている〔2〕。そのうち、1億円以上の販売額がある直売所は、69カ所である。例えば、A直売所のレジ通過客を見ると、平成8年度の開設当初は、年間5万人程度であったが、平成20年度には約61万人に増加している。この数値は、レジの通過客数であり、配偶者や子供などの同伴者数を含んでいない。同伴者数を含めると、A直売所には年間120万人程度の来店者が立ち寄り、買い物をしているものと推定される。また、同様にA直売所の販売額の推移をみると、同期間に年間5千万円から約9億円に増加している。このような事例が全国各地で散見される。
直売所には多くの都市住民が来店しており、青果物などの農産物を購入することにより、農村地域が経済的に活性化されている。特に青果物は、直売所で販売される最大の品目であり、直売所で販売されている品物の「鮮度」や「品質の高さ」が来店客数の購買における決定要因になり、ひいては地域活性化のキーポイントになる。
そこで本稿では、直売所で販売している品物の「鮮度」や「品質」などの項目が、消費者をどの程度満足させているのか分析してみることにした。青果物などの顧客満足要因の解明が本稿の第一の課題である。
また、直売所は生産者を身体的、精神的に元気にする機能がある可能性もあるので、この点も検証するのが本稿の第二の課題である。
この2つの課題を解明するために、福岡県内の3つの直売所の実態調査および直売所に農産物を出荷している生産者と直売所で農産物を購入する消費者に対してアンケート調査を実施した。本稿では、収集した資料を基に分析と考察を行う。
まず、直売所の持つ「多面的機能」について先行研究を用いて整理しておこう〔3〕。以下の11の機能が考えられる。
①販売額向上による地域経済活性化機能
近年、農村部に立地する直売所に多くの消費者が来店している。直売所の販売額増加は、農村地域を経済的に活性化させる大きな要因である。
例えば、福岡県内のある地域は、10キロメートル圏内に3カ所の直売所があり、それぞれ7~9億円の年間売り上げがあるので、同地域では直売所の年間販売額が22億円になっている。
②生産者と消費者の直接交流機能~情報の非対称性注2)解消~
近年、地産地消の動きが活発になっているが、直売所は地産地消を代表する流通形態である。生産者と消費者が直接交流すること、すなわち、情報の共有化は情報の非対称性を解消し、消費者の信頼を回復する有力な手段となる。
直売所の販売品には、生産者の氏名や住所、さらに、ある直売所では生産者の電話番号まで記載されている。これは「安全・安心」を担保する究極のトレーサビリティ注3)であり、生産物の信頼性の確保になっている。
③食料の自給率向上機能
消費者が生産地に赴き、新鮮な国産農産物を購買することは食料自給率を引き上げることにつながる。自給率向上効果が大きい。
特に、野菜などは、外国産が販売されていないので、地産地消の展開に貢献している。また、直売所では弁当などが良く売れているが、これも国産穀物の販売増加に貢献しており、穀物自給率の向上に寄与している。
④フードマイレージ短縮機能(物流エネルギーとCO2の削減機能)
食料自給率が高くなれば、輸入品を購入する場合よりフードマイレージ注4)が短縮され、国際的にみて物流エネルギーとCO2の削減機能が発揮される。
外国産野菜ではなく地場野菜が売れ、海外の穀物で製造されたパンではなく地域産のコメで製造された弁当が良く売れるのは、フードマイレージの短縮に貢献している。
⑤「新鮮さを防波堤にしたセーフガード機能」
直売所の隆盛は、国産農産物への消費者の回帰現象と言える。これは国際的に許容されているものの、輸出国から反発の大きい国の法的制度としてのセーフガード注5)とは異なり、民間の「新鮮さを防波堤にしたセーフガード」であると理解できる。
ねぎなどの輸入急増の対抗策として国が実施した暫定セーフガードは、中国から猛烈な反発を受けたが、直売所で展開される地産地消に対してはどの国も反発する訳にはいかないのである。
⑥「社会化されなかった資源の社会化機能」
直売所では、高齢者や婦人が生き生きとして農産物を出荷している。大規模農業・大型機械化農業・大都市卸売市場出荷型農業では働き場のなかった高齢者や婦人が、直売所に農産物を出荷することによって働く場所を自ら創造している。
さらに最近では早期退職者や失業者がわずかではあるが、農地を耕し直売所に出荷して収入を得ているケースが増えている。直売所には、このような「社会化されなかった資源の社会化機能」がある。団塊の世代の退職後の新たな自己就業機会を提供する機能も秘めている。
最近、離職させられた派遣労働者が故郷に帰り、直売所用の生産を開始し、収入を得る機会も直売所は提供している。
⑦グリーンツーリズムのための都市農村交流センター機能
前述のように直売所には、多くの都市住民が訪問しており、都市農村交流センターの機能を果たしている。
特に、韓国や中国からの海外観光客は、日本の農村や漁村の美しい景観、山紫水明の農村、白砂青松の漁村に感動する。直売所が国際的なグリーンツーリズム注6)の拠点になることも期待されている。
⑧食育推進機能
最近、各地の直売所が、学校給食への食材供給を開始している。さらに生産者が、地域の伝統食を学校で教え、継承している事例が散見される。
ある直売所では、地域の学校に地域食材を配達するために、配送車を購入した。また、直売所の出荷者が小学校に出向き、「ふるさと先生」として授業を行ったり、給食を生徒と一緒に食べたりしている事例もある。
⑨生産者の身体的健康増進機能(医療費削減機能)
高齢生産者は、直売所に出荷を行うことによって生産意欲が増し、健康を回復し、結果的に医療費の削減に貢献している。
ゲートボールに興じていた高齢者がゲートボールを止めて、直売所に出荷する農産物の生産のために働き始め、病院に行く回数が減ったというケースもある。
⑩生産者の精神的健康増進機能
高齢生産者は、大規模農業・大型機械化農業・大都市卸売市場出荷型農業では働く場面が少なく、意気消沈していた。しかし、直売所に出荷が可能になったことで自己就業機会を得て経済的にも豊かになり、人生を楽しく感じている生産者が多くなり、精神的満足を得ている人が多い。
直売所の高齢出荷者が、海外旅行に行くほどの収入を得るなどして、人生を楽しめるようになったと話していた事例もある。
⑪消費者をもてなす機能
多くの直売所が周辺に菜の花やヒマワリ、コスモス、アンズなどを栽培し、都市の消費者が四季を楽しむことができるように工夫するなど消費者をもてなすサービスを行っている。
地域の老人会の方が、直売所周辺に花壇を作り、来訪者を楽しませている直売所もある。
以上のように、直売所には多面的機能があることが明らかなった。しかし、これらの多面的機能は、並列的に並べられているだけで、その機能同士は、どのように関連しているのか、何が基本的に重要なのかは先行研究では論究されていない。
そこで本稿では、上記の直売所が持つ「生産者の身体的・精神的健康を増進する機能(⑨+⑩)」と「消費者をもてなす機能(⑪)」を「直売所のホスピタリティ機能」と定義し、上記の①~⑧までの多面的機能より上位概念と仮定して、その重要性を生産者と消費者の両面からアンケート調査を実施して、検証する。
①開設の経緯
道の駅うきはは、グリーンツーリズム事業を推進していた旧福岡県浮羽郡浮羽町(現うきは市)において、「うきはのすばらしさ、ゆとりとやすらぎのある町」を都心から訪れた人達に広く紹介し、観光や農業体験の機会を与える情報発信地として整備され、平成12年4月8日に開設された。
国道210号線沿いの筑後平野を一望できる小高い大野原台地の西北端にあり、建物は国の重要文化財「くど造り民家」をモチーフにした木造建築であり、物産館のほか、レストラン、家宝資料館などがある。また、観光協会も隣接して設置されている。
②販売額の推移
道の駅うきはの特徴は、多様な農産物の提供である。物産館「西見台」には、750名にもおよぶ地元生産農家が登録されており、大地の恵みをいっぱいに受けた新鮮な野菜や果物・花などが店舗いっぱいに陳列されている。果物の産地であるので、収穫期には、特産品の桃、巨峰、梨、柿の通信販売や宅配も行われている。
平成12年度の開設以降の物産館の販売額の推移を表1に示す。
これ以外に併設したレストランとアイスクリームなどを販売するファーストフード店の販売額もある。物産館の販売額は、平成12年度の4.3億円からほぼ順調に増加していることが分かる。平成16年度に若干減少しているのは、開設当初集荷不足を補うために導入した地区外などからの集荷分を排除したことに起因している。当直売所は、現在では地域内で生産されたもののみを販売するという理念を掲げ実践している。
レジ通過客数は、平成12年度の36.1万人から20年度には49.8万人に増加している。19年度の51万人から20年度にかけての減少は、近隣にライバル店が数店開設された影響と理解される。
しかし、レジ通過客数は減少したものの、果実や総菜・弁当などの高単価の商品の販売に努力した結果、客単価が向上し、販売額を維持しているのは高く評価できる。
平成20年度の販売額の部類別構成比をみると、第一は果実の29.3%である。同地区は果実の大産地であることを反映した結果である。第二が総菜・弁当・菓子などの加工品の22.7%で、第三が野菜の18.7%である。今後ともこの3部類の集荷の拡大と販売の増加が課題である。
③生産者と消費者へのサービス
生産者に対して各種のサービスを行っている。第一は、営農指導員を1人雇用し、出荷農家の農産物の生産指導を実施し、特に、多様な農産物の安全性に配慮して生産するよう指導していることである。第二は、高齢者でも価格シールが簡単に作成できるようにITシステムを開発していることである。これにより高齢者でも手軽に価格シールを迅速に作成することが可能となり、手書きが不要になっている。また、ITシステムは、キーボードがなくてもパネルにタッチするだけで生産者が自分の当日、週間、月間、年間の販売額が分かるようになっている。
第三は、1日に3回(11時、14時、17時30分)、生産者の携帯電話にメールにより販売成績を配信していることである。それにより生産者は販売状況を知ることができ、午後の出荷分の調整が可能となっている。何よりも1日3回の販売状況の把握が可能となり、生産者は、生産・出荷のインセンティブを受けている。
また、消費者に対しても各種のサービスを行っている。第一は、インターネットを通じて消費者が自宅にいても直売所に何が出荷されているか知ることができることである。これにより遠方の消費者でも画像を見ながら宅配の注文をすることが可能となっている。昨年のガソリン価格の高騰時には、このシステムの利用者が増加した。
第二は、宅配サービスを実施し、九州管内であれば300キロメートルまでは600円で配送されていることである。
①事業主体と施設の概要
にじの
この施設には、「新鮮・安全・安心」を基本とし、農産物・加工品などを販売する「まんてん市場」とバイキング式レストラン「夢キッチン」、地元の食材を可能な限り利用し、加工・販売するパン工房「むぎ畑」、甘味工房「あずき畑」、豆腐工房「だいず畑」を有している。
敷地面積1.2万平方メートル(以下、「㎡」と略記)、建築面積1,899.5㎡である。そのうち、直売所・バックヤードが564㎡、事務所・休息所126㎡、レストラン194.23㎡、パン工房42.55㎡、甘味工房58.45㎡、豆腐工房58.5㎡、売り場111.6㎡、研修施設390㎡である。
②運営と取り組み
出荷会員数は約900名であるが、60歳以上の会員が70%以上を占めており、今後後継者の確保が課題になっている。出荷者のうち2名(平日)~3名(週末・祝祭日)が1日2時間ほど交代で売り場に出て、消費者の声を聞いたりしてコミュニケーションを図っている。また、各自が出荷する商品の荷姿や価格をチェックして、より良い直売所の運営に生かしている。
営業時間は、9時から18時までである。休館日は毎月第2水曜日である。販売手数料は15%であるが、冷蔵庫を使用する商品は2%加算している。従業員は正規2名、専門職5名、嘱託1名、パート22名、常雇アルバイト16名の合計46名で運営され、地域では大きな就業先になっている。
毎月1回以上のイベントを開催し、集客に努めている。毎週土・日は米と豆腐の日と定め、特売をしている。1,000円以上の買い上げ客には銘水をサービスしている。
品切れを防止するために出荷者の希望する時刻に各自の販売状況を携帯電話のメール(高齢者には電話)を通して1日に3回連絡し、出荷者に品不足の情報を提供している。
パン工房では、地元の米を使用して製造した米粉パンを販売するとともに、地元の小中学校に給食として納品している。また、豆腐工房では、「おから」のでない製法で豆腐を製造し、販売している。
平成19年1月からは、地元の小学校11校、中学校3校、保育園2園に給食用食材の供給を開始している。さらに弁当用総菜の供給を開始し、福岡市の5業者、北九州市の1業者に納入している。
農協が開設者である直売所間の提携も進め、福岡県前原市の糸島農業協同組合が開設者である直売所「伊都菜彩」との間で農産物の相互販売を推進し、耳納の里からは果実を、伊都菜彩からは牛乳乳製品(「伊都物語」)を取り寄せている。また沖縄からはバナナやパイナップルを仕入れ、耳納の里からは果実を送っている。提携により分荷と集荷の範囲を広げている。
③販売額の推移と平成20年度の部門別販売額
直売所である「まんてん市場」の販売額とレジ通過客数の推移をみると、表3のとおりであり、販売額は順調に伸び、レジ通過客数も経営の努力によって順調に増加している。
平成20年度の販売額(9億8,800万円)の内訳は、直売所である「まんてん市場」が8.52億円(86%)、夢キッチン0.63億円(6%)、あずき畑0.23億円(2%)、むぎ畑0.34億円(3%)、アイス工房0.1億円(1%)、たいず畑0.07億円(1%未満)である。
直売所である「まんてん市場」の平成20年度の販売高8.52億円うち、最大の販売品目は弁当・総菜などの加工品であり、その販売額は2.55億円(30%)、第2位の販売品目は野菜であり、その販売額は2億円(23%)、第3位の販売品目は果実であり、その販売額は1.71億円(20%)であった。
1日当たりのレジ通過客数は、平日が1,400人~1,500人、週末と祝祭日は2,500人~3,000人である。
以上の販売額は、農協の共同販売額を減らした結果ではなく、共販以外の販売による純増加額である。耳納の里の設置は地域に販売額の純増と46名の就業機会を提供していると高く評価できる。
①開設の経緯と目的
道の駅原鶴ファームステーションバサロ(以下、「バサロ」と略記)は、平成7年度に設置され、平成8年4月に営業が開始された。運営主体は福岡県旧杷木町であった。設立は、旧杷木町を運営主体に据えた農業構造改善事業(地域農業基盤確立)によるもので、建設事業費は1億5,708万円であった。
設置の目的は、町内産農産物の販売による農業の振興であった。旧杷木町は、農用地の65%を樹園地が占め、柿、梨、ぶどうなどの果樹栽培が盛んに行われており、特に柿については、全国有数の「富有柿」の産地であり、また、青ねぎが柿に次ぐ特産品として定着している。また、平成元年度より果樹とねぎを対象とした土づくり事業に取り組み、有機栽培を実施し、安全な農作物の供給を図ってきた。
しかし、販売では、柿の消費が減少しつつあり、今後とも販売量が確保されるか懸念されていた。だが、町内には県内屈指の湧出量を誇る原鶴温泉があり、年間約60万人の観光客が訪れる観光地を有していたことから、町内での農産物の販売が期待された。
そこで、
①農産物・加工品などの地域特産物の販売・販路の確保
②農産物のブランド化の促進
③都市住民との交流
④アンテナショップによる消費宣伝と消費者ニーズの把握
などを目的に、農業構造改善事業により産地形成促進施設(直売所)を開設することにした。
施設の規模は、敷地面積2,000㎡、うち直売所(売り場面積)741.59㎡、交流施設48㎡(設立時)である。加工施設は備わっていない。駐車場は145台分(大型車12台、普通車127台、障害者用6台)が駐車可能である。主要な設備は、商業用冷蔵庫12台、レジスター7台、バーコード印刷機5台、ソフトクリーム製造機2台であり、そのほかの設備として保冷庫はあるが、精米機は保有していない。
国道386号線(交通量1日約1万2千台)沿いの原鶴温泉内に立地している。
②販売額とレジ通過者数
バサロは、平成8年の開設以降、順調に発展してきている。図1に示すように、レジ通過客数は、平成8年度の7.3万人から20年度には61.3万人に増加している。また販売額も同期間に約8億円から9.4億円に増加している。
しかし、近年は近隣に新たな直売所が開設されたこともあり、レジ通過客数と販売額の伸びが停滞しているのも事実である。
③集荷量と販売額増加への取り組み
店長をはじめ職員の懸命の努力にも拘わらず、客数と販売額の伸びが停滞しているのは、近隣に2カ所の直売所が新たに開設されたことが大きな要因であるが、それ以外にも出荷者の高齢化の問題がある。
バサロは、現在のように直売所がブームになる前に開設され、既に12年を経過しているために、出荷者が高齢化してきており、生産力の低下による集荷量の確保が困難になっている。そのため販売額の伸びが低迷している。
その対策として、特に集荷量が減少する夏場の野菜が生産される熊本県阿蘇市の「道の駅波野」との連携により、「道の駅波野」からは、だいこん、キャベツ、とうもろこしを納品してもらい、バサロからは、果実を提供するシステムを構築し、集荷量と販売額の増加に努めている。
今後は、出荷者の高齢化により、農産物の生産は可能であるが、直売所までの自動車による搬入が困難になっていることを考慮して、直売所の方で生産者の自宅やほ場を回り、農産物を集荷するシステムの構築が課題になっている。
直販所関係者の間で「直販所への出荷者は、農産物を直販所に出荷する以前と比較して、出荷開始後は元気になる」〔4〕〔5〕〔6〕との指摘があるので、その真偽を検証するために、平成21年5月から6月にかけて、出荷者を対象にして直売所に出荷を開始した前後でどのような身体的および精神的な変化があったかを分析するためのアンケート調査を実施した。
アンケート回答者の性別構成は表4に示す通りであり、女性が約60%と多い。また、年齢別構成は表5に示すように50歳代後半が多い。直売所への出荷者は女性が多く、50歳から60歳の生産者が中心であることが分かる。66歳以上の生産者も約3分の1含まれ、後継者対策が課題であることがわかる。
表6により直売所への出荷頻度を見ると、毎日の生産者が約半数であり、2日に1度を加えると65%程度になっている。
しかし、直売所での年間販売金額は100万円以下の方が約3分の1であり、必ずしも販売額が多い訳ではない(表7)。
ただし、バサロでは、柿を含む果実の出荷を多く含むため、201~300万円の出荷者が19.1%となっており、販売額が最も多い品目として果実が、弁当・加工品と同率で2番目になっている(表8)。
出荷者の健康状態の変化を見たのが表9である。直売所への集荷開始後に「元気になった」と回答した方が26%から30%も含まれていることが明らかになった。
前述のように先行研究による「直売所への出荷者は、農産物を直売所に出荷する以前と比較して出荷開始後は元気になる」との指摘は間違いないと言えよう。
出荷者の病院への通院回数の変化を表10から見ると、バサロでは25%の方が減ったと回答している。
出荷者の精神的健康状態の変化を見たのが表11である。直売所への集荷開始後に「楽しくなった」と回答した出荷者が63~76%存在していることが明らかになった。
その理由を表12から見ると「人とのふれあいがあるから」が約45%であり、「自分で作ったものに自分で値段をつけることができるから」が33~40%となっている。このことは、従来の卸売市場流通への出荷では、価格形成は卸売市場に委ねられ、出荷者が価格形成に関与できなかったが、直売所に出荷することにより、自らが価格を設定することができることの喜びと理解される。
最近、農家の間で関心の高い直売所流通は、人とのふれあいや価格形成の関与といった非価格要因が影響していると指摘できよう。換言すれば、卸売市場流通は出荷者とのふれあい、価格形成への関与を許容しないと集荷者から離反されることを示唆している。
出荷者の精神的健康状態は、何によって影響を受けるのかを重回帰分析により行った。
ここでは、「精神的健康」(楽しくなった=1、変わらない=2、楽しくなくなった=3)を「被説明変数」とし、「精神的健康」に影響を与えると考えられる以下の①~④の要因
を「説明変数」として、①~④の要因が、「精神的健康」にどの程度影響を与えているかについて分析を行った。
「道の駅うきは」の生産者について
(解説)
被説明変数の精神的健康は、「楽しかった」が1、「変わらない」が2、「楽しくなくなった」が3であるために、楽しくなるほど数値は小さくなる。したがって、「ふれあいの評価」などの説明変数の係数がマイナスの場合には、被説明変数である「精神的健康」の数値が小さくなり、直売所に出荷することによって得られる精神的健康に対する効果があることを意味している。
ここで注意すべき点は、「ふれあいの評価」と「価格の自己決定の評価」の係数がマイナスになっている点である。「道の駅うきは」の場合で、「ふれあいの評価」以外の要因は、すべて変わらないと仮定すると、「ふれあいの評価」を認める場合の精神的健康は、0.754(定数)-0.569(0.569×1)=0.185となり、「ふれあいの評価」を認めない場合の精神的健康は、0.754(定数)-0(0.569×0)=0.754となり、「ふれあいの評価」を認める場合の精神的健康の数値は、認めない場合に比べ小さくなり、直売所に出荷することによって得られる精神的効果があることとなる。
つまり、「ふれあいの評価」と「価格の自己決定の評価」の係数がマイナスとなっていることは、「ふれあいの評価」と「価格の自己決定の評価」は、直売所に出荷することによって得られる精神的健康に対してポジティブに影響していることを示している。
以下同様に、「耳納の里」および「バサロ」の生産者についての分析は次式の通りである。
「耳納の里」の生産者について
「バサロ」の生産者について
上記の3式は、出荷者の精神的健康状態には、「身体的健康の変化」「販売額の変化」「出荷者同士などでふれあいがあることの評価」「出荷者が価格を自己で決定できることの評価」の4つの要因が有意に影響しており、その決定係数(R2)は道の駅うきはが「0.837」、耳納の里が「0.739」、バサロが「0.847」であることを示している。
生産者が、直売所に自分の生産物を出荷して人生を楽しいと感じるのは、経済的に豊かになるだけではなく、人とのふれあいや自分の生産物に自分で価格を決めて出荷できるという自己実現を実感できるからであろう。直売所の隆盛の一因として、生産者が感じる非価格要素の重要性を認識すべきである。
前述のように、直売所は食の地産地消とグリーンツーリズムの拠点であり、多くの機能、なかんずくホスピタリティ機能が重要であるが、そのためには、消費者から直売所が評価され、直売所を訪問してもらうことがまず前提条件として必要である。
そこで、多数の都市消費者は、直売所の何に満足しているのか、何を評価しているのか、顧客満足の要因は何かを解明するため、消費者を対象にアンケート調査を実施した。ここでは、そのアンケート調査結果を直売所に対する総合評価(顧客満足)の視点から検討してみる。
アンケート調査は、本稿の分析対象地域内にある直売所において、農産物を購入した消費者を対象に実施(2009年3月14日(土曜日)、3月17日(火曜日)、3月22日(日曜日))した。
その後、アンケートの回答資料を基に重回帰分析を行い、消費者の総合評価の要因分析を行った。
まずは、回答者の居住地を見る。平日(木)と休日(土・日)で比較すると、分析地である地元からは、平日が58%、土日が44%と37%であり、平日はもちろん土日でも地元の来店客の割合が比較的高いのが特徴である。久留米市などの近隣市からの来店者は、平日が23%、土日が19%と25%であり、福岡市などの遠方からも平日18%、土日が37%と38%である。
平日は地元から日常的な利用、週末は近隣市や遠方から週単位の利用が多いといえる。
来客者の95%が交通手段は車である。広大な駐車場が必要であることがわかる。
アンケートの回答者は、50歳代(34%)と60歳代(40%)の女性が多い。
直売所までのアクセス時間は、平日が27分、土曜日が35.2分、日曜日が40.5分であり、全平均は35.7分であった。この結果から、週末は近隣市や遠方からの来客が多いといえる。
2人で来る客が一番多く(平日が48%、土曜が45%、日曜が52%)、1人で来る客も多い(平日が40%、土曜が31%、日曜が25%)。3人以上で来る客は少ない。平日は、2人もしくは1人と小人数で買い物をして、週末は2人で楽しみながら買い物をする傾向にあるといえる。平日も週末も夫婦で来る客が一番多い(平日が36%、土曜が36%、日曜が45%)。
直売所は、夫婦で買い物できる場として存在し、また、休日は、家族連れで出かける場として考えられているといえる。2人で来る客の57%が夫婦である。さらに3人以上になると69%以上が家族連れである。夫婦・家族にとって気軽にみんなで出かけることのできる場として、直売所は位置づけされているといえる。
直売所の来店者の普段の食料品購入先は、34%の方がこの直売所であり、スーパーマーケットと回答した方は、29%であった。この直売所の来店者は、普段から同じ直売所を利用していることが明らかになった。また、そのほかとしては、Aコープやほかの直売所などの回答があった。
購入目的は、野菜が29%と一番多かった。次いで花が11%である。この直売所は果物の産地に立地しているが、調査期間が冬であったために果物の購入目的者は10%であった。
購入平均金額は、平日が2,454円、土曜2,351円、日曜2,717円であり、平均すると2,507円である。ほかの調査などでは、1人当たりの購入金額は1,500円程度であるのに比較して、やや高い。
最も要望の多かったのは、「通路が狭いので通路を広くしてほしい」であった。第2位が、「レジの数を増やしてほしい」である。来客数が計画時の予想以上に増加しているので、通路が狭く感じ、レジでの待ち時間が長くなり、来店者の不満がたまっているようである
第3位は、「商品の充実(品揃え)」である。直売所は、地産地消を理念としているので、季節により商品の品揃えには限界があるのも事実である。今後、地域農業を維持し、発展させていくことが直売所の品揃えにも有効であるといえよう。第4位は、「午後の遅い時間帯でも商品を揃えてほしい」との要望であった。直売所側が1日に3回、11時、14時、17時半に当日の売上を携帯電話のメールなどにより出荷者に情報を提供し、午後の出荷を促してはいるが、午後の出荷は、生産者が翌日の出荷のために出荷を控える傾向があることも影響している。
そのほか、「レジの対応の改善」「スタッフの商品知識の充実」「魚と肉の充実」「総菜の強化」「低価格」などの要望が寄せられている。
①消費者による野菜、果物、総菜・弁当・菓子の総合評価
アンケート回答者は、この直売所で販売している野菜や果物などの品目と店舗についてどのように評価しているのか、その評価には何が影響したのかについて分析を行った。
回答者から、この直売所で販売している品目(野菜、果物、食肉、生花・苗物、総菜・弁当・菓子)別に5段階に評価してもらい、最後に店舗についても5段階に評価してもらい、それを基に重回帰分析を行った。ちなみに、5段階評価の5は「非常に良い」、4は「良い」、3は「普通」、2は「悪い」、1は「非常に悪い」である。本稿では、特に野菜、果物、総菜・弁当・菓子について詳しく紹介する。
野菜の総合評価は、表13のようになっている。鮮度について176名(77%)が「非常に良い」と高く評価している。一方、価格については、ほかの項目と比較して5が少なく、3の「普通」が多い。回答者は直売所の農産物の価格は、もっと安いことを期待していることが分かる。
回答者の野菜の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図2である。同図によれば、「鮮度」と「品質」の平均値は高いが、「価格」の平均値は低いことがわかる。
果物の総合評価は、表14のとおりである。鮮度については、140名(70%)が「非常に良い」と高く評価している。一方、価格については、ほかの項目と比較して5が少なく、3の「普通」が多い。また、品揃えについては、5の「非常に良い」が比較的多い。この直売所の地域が果物の産地であることを反映したアンケート結果になっている。
回答者の果物の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図3である。同図によれば鮮度、品質、品揃え、安全の平均値は高いが、価格の平均値は低いことがわかる。
食肉の総合評価は、表15のようになっている。鮮度について77名(68%)が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少なく、4や3が多い。この直売所のある地域は、畜産物の産地ではないので、品揃えなどが不足しているので、このような回答になっているのであろう。
回答者の食肉の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図4である。同図によれば鮮度、品質、安全の平均値は高いが、価格の平均値は低いことがわかる。
生花・苗物の総合評価は、表16のようになっている。鮮度について142名(77%)が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少ない。品質と安全も比較的5が多い。価格については、3が他の項目に比較して多い。
回答者の生花・苗物の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図5である。同図によれば各項目の平均値はバランスよく水準も高いことがわかる。
鮮魚の総合評価は、表17のようになっている。鮮度について35名(57%)が非常に良いと高く評価しているだけである。一方、品揃えについては他の項目に比較して、5が少ない。品揃えについては、3と2が多い。総合評価は、5と4が拮抗している結果になっている。
回答者の鮮魚の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図6である。同図によれば品揃えの平均値が極端に低いことがわかる。
総菜・弁当・菓子の総合評価は、表18のようになっている。鮮度については104名(60%)が非常に良いと高く評価している。一方、価格については、ほかの項目と比較して5が少なく、4や3が多い。総合評価は、4が比較的多い結果になっている。
回答者の総菜・弁当・菓子の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図7である。同図によれば全体的に他の品目に比較して平均値が低いことがわかる。
②消費者による店舗の総合評価
この直売所の総合評価を表19に示す。「駐車場の広さ」「照明」については高い評価を受けている。しかし、「品揃え」「店舗配置」「レジの数」については4の「良い」が多い。「接客態度」は3の「普通」が、「店舗配置」は2の「悪い」が比較的多い。「接客態度」と「店舗配置」は改善の余地がある。
この店舗の総合評価は、4が比較的多くなっている。今後は、接客態度や店舗配置の改善が望まれる。
回答者の店舗の総合評価の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図8である。同図によれば、駐車場の広さの評価の平均値は高いが、そのほかの項目の評価の平均値は低いことがわかる。
品目別の総合評価に与える要因の重回帰分析を行った。分析結果は表20に示す通りである。数式の詳細は数式付録に譲る。
野菜については、「価格」「品質」「品揃え」「鮮度」「安全」の順で総合評価に影響していると言えよう。果物は、「安全」「価格」「品質」「鮮度」「品揃え」が総合評価に強く影響している。
店舗に対する総合評価は、表21に示す通りである。「品揃え」「駐車場の広さ」「総菜・弁当・菓子」の総合評価が強く影響している。以上の3つの要因の充実が不可欠であると結論できよう。
この分析結果から明らかになったことは、直売所は品揃えの充実した大型店舗で駐車場が広いことが望まれる傾向にあることである。
我が国において生鮮食料品の流通は、今後とも卸売市場流通が主流であることに違いはない。しかし、徐々に直売所流通が増加していくであろう。だが、直売所が持続的に発展していくためには、本稿の生産者と消費者のアンケート調査からも明らかなように、ホスピタリティ機能が重要である。最後に、直売所のこのホスピタリティ機能を支える5つの要因について検討しよう。
①新鮮農産物の提供
早朝から生産者が直売所に農産物を搬入・陳列し、夕刻にもし売れ残りがあれば、残品は生産者が自らの責任で引き取って、処分している。従って、直売所では毎日新鮮な農産物が提供されている。この点は量販店と大きく相違する点であり、消費者が最も高く評価している点である。
②信頼できる農産物の提供
一般的に直売所の農産物は、氏名と電話番号を表示して販売されており、誰が生産したものであるか明示されている。これはトレーサビリティ機能の一形態であり、消費者に信頼感を与えている。また、ある直売所では、メロンなどの果物の糖度を非破壊型検査機で測定して、糖度14度以上のものしか販売せず、消費者から信頼を得ている。
③安全農産物の提供
ある直売所では、慣行農産物栽培の50%の農薬と50%の化学肥料で栽培したことを明示する「特別栽培農産物」や「減農薬減化学肥料栽培農産物」などの認証マークを貼付した農産物を販売しており、消費者から信頼を得ている。
④生産者の顔が見える販売
直売所には、生産者が直接農産物を搬入し、陳列するので、早朝に行けば生産者に直接会うことができ、会話をすることが可能である。ある直売所では、伝統食の調理方法を伝授するために、ハッピを着た生産者を直売所に配置して、伝統野菜の販売を行っている。
⑤低価格農産物の提供
直売所で販売される農産物の価格設定は、一般に生産者に一任されている。生産者は直売所から提供される卸売市場での取引価格情報を参考にして価格設定を行っている事例が多い。従って、直売所の価格は、量販店の価格に比較して仲卸業者と量販店でのマージンに相当する部分だけ、安くなっている場合が多い。
直売所は、5つの要因に支えられてホスピタリティ機能を果たしているが、直売所への農産物の出荷者は、高齢者や婦人が多く、このままでは直売所のホスピタリティ機能を維持することが困難になる。
我が国の農業は、WTO体制の下で農産物が大量に輸入され、地域農業の維持が困難になっている。そのため我が国の農業政策は、大規模経営を育成し、コストダウンを図る少数精鋭経営育成施策を展開しており、直売所に出荷する高齢者・婦人達が主体になる多数の零細兼業農家は、制度的な手当は見られない。直売所のホスピタリティ機能を維持するためには、多数の零細兼業農家も大切にする農政の展開が必要である〔6〕〔7〕〔8〕。
それは、厳しい競争社会の中で生きている現代の国民・消費者を農村でもてなし、安らぎと癒しを与える重要な社会政策の一つでもある。
【参考文献】
【語句の説明】
本稿の分析に用いた推計式を付録として明示する。