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調査報告


「ほうれんそう国産化推進チーム」の契約取引(1)
連携のきっかけは、セブンイレブンの国産野菜への切り替え

調査情報部調査課 課長補佐 平石康久
調査情報部調査課        藤戸志保



  平成19年度から始まった「国産野菜の生産・利用拡大優良事業者表彰」(平成20年3月19日開催)において、株式会社セブン-イレブン・ジャパン(以下「セブンイレブン」)、横浜丸中青果株式会社(以下「横浜丸中青果」)、有限会社(農業生産法人)テンアップファーム(以下「テンアップファーム」)の「ほうれんそう国産化推進チーム」は、農林水産大臣賞を受賞した。

 同チームは、ほうれんそうの契約取引への取り組みに関して、品質の差別化を図るための商品の原料の国産野菜への切り替えやコールドチェーンの構築、安定供給のためのシステムを構築している。

 これらの取り組みについて、今月号と次月号において報告することとし、今月号では同チームの契約取引の概要を紹介する。

◆1.各企業の概要
(1) セブンイレブン
  設立は1973年11月20日である。資本金172億円、従業員5,294人(2008年2月末現在)のコンビニエンスストア事業を行っている企業である。国内で12,013店舗(2008年5月末現在)を展開している。

 総菜などの原料として年間10万トン程度の野菜を使用している。鮮度と品質を保ち安全安心な商品を提供するという信念のもと、使用野菜の国産化に取り組んでおり、2006年度は93%が国産野菜であった。

(2) 横浜丸中青果
  設立は昭和22年9月9日である。資本金2.1億円、従業員261人の横浜市中央卸売市場内の卸売企業である。平成19年度(4月~3月)の青果物の取扱金額は761億円で、2年前(640億円程度)と比較して大幅に増加している。セブンイレブンとの契約取引の中では、セブンイレブンとテンアップファームをつなぐプロセスセンター(後述)およびコーディネーターとしての役割を果たしている。

(3) テンアップファーム
  千葉県富里市にある農業生産法人。昭和42年に発足したにんじんの栽培組合が前身である。良質の肥料を使用すると、作物のミネラル含有量が増加し、品質の良い野菜ができることから、作物のミネラルを10%以上アップさせるという意味で、「テンアップファーム」という名前がつけられた。

 生鮮向け野菜の出荷を基本としており、現在、にんじん、トマト、すいか(従来からの栽培品目)、ねぎ、ほうれんそう、かぼちゃ(話を持ちかけられて栽培)を約40戸の農家によって栽培しているが、当地で生育可能な野菜なら、どのような野菜でも供給可能であるとしている。

◆2.セブンイレブンで利用される野菜の流通概要
  セブンイレブンの商品に利用される野菜は、ほ場で収穫した後、総菜などの商品として店頭に並ぶまでに、表1のような流通経路をたどる。

表1 セブンイレブンで利用される野菜の流通経路


資料:
セブン&アイホールディングスIR資料「コーポレートアウトライン―グループの事業戦略─」などから機構作成
注1):
他のコンビニエンスストア事業では「ベンダー」という


◆3.契約取引を行うことになった契機

  三者がほうれんそうの契約取引を行うこととなったきっかけは、セブンイレブンが総菜などで利用している野菜を国産に切り替えたことであった。また、同社によるコールドチェーン体制の整備についても極めて重要な要素である。

 これらの動きはセブンイレブンにとって、自社の商品の差別化を図るための重要な戦略であったが、この動きに積極的に対応し、セブンイレブンのニーズに応えることができた者の代表例が横浜丸中青果とテンアップファームであった。また、セブンイレブンも天候に左右されやすい農産物の性質をよく理解し、柔軟な対応を行っている。

(1)   
セブンイレブンによる国産野菜への切り替えとコールドチェーン体制の整備
~国産野菜への切り替え~
 セブンイレブンでは、ほうれんそうのゴマ和えを10年以上にわたって販売しているが、商品寿命が短い(一般には4週間といわれる)コンビニエンスストアでは例外的なロングセラー商品である。

 2001年の9月まで、この商品には、中国産の輸入冷凍ほうれんそうが使用されていた。それまでは現地でブランチング注2)が行われた後冷凍され、その後デイリーメーカーで解凍され、再度加熱されていたが、合わせて2回の加熱が行われることから、食感が悪くなり、改善の必要があったことが原料を国産野菜に切り替えたことの背景にある。


注2)
ブランチングとは、加熱により野菜の持っている酸化酵素を不活性化させて貯蔵中の変質や変色を防いだり、組織を軟化させて凍結による組織の破損を防ぐ過程である(日本冷凍食品協会ホームページによる)。

 2001年10月より、輸入冷凍ほうれんそうから国産に変更する際、重量あたりの単価が上昇するため、量目を減らし販売を行ったが、その時期の販売は低迷した。このことから、量目を元に戻し、販売価格を引き上げて販売したところ、売れ行きは上昇した。しかし、他のコンビニエンスストア店との価格競争もあり、販売価格を抑えるため、2003年10月より契約取引に踏み切ることになった。

 その他の野菜についても、安全安心な商品を提供するため国産化を進め、2007年4月からはサラダ、総菜、調理パン(サンドウィッチ)に利用される非加熱野菜についてはすべて国産野菜に移行することができた。近い将来にはサラダ、調理パンに利用される加熱野菜についてもすべて国産野菜への移行を達成したいと考えている。

 ただし、その他の製品で利用されている野菜のうち、きくらげ、干ししいたけ、冷凍コーンなどは、需要を満たすだけの国内産の供給がなく、国産への切り替えは非常に難しい状況である。

 商品に利用する野菜の国産への移行は、一言でいえば他店との差別化が大きな目的となっており、セブンイレブンでは、こうした取り組みを増やしていかなければならないと考えている。

 なお、中国産冷凍ほうれんそうの残留農薬問題については、セブンイレブンが国産への切り替えを始めた後の2002年に問題となったものであり、同事件が国産野菜への切り替えの契機となったものではない。

~コールドチェーン体制の整備~
 セブンイレブンでは、サラダや調理パンに利用する野菜を、産地から店舗まで一貫して最適な温度(非加熱調理する葉物類は10℃、果菜類は15℃以下)で運ぶことができるコールドチェーン体制を2005年春に確立した。

 これは、産地からデイリーメーカーまでの一貫したチルド温度帯物流を構築することにより、野菜の品質、鮮度を保持し、商品の品質向上を図るものである。

 このため、プロセスセンターになる条件としては、コールドチェーンに対応できる能力を持っていることが必要であり、冷蔵庫を設置することが必須となっている。

表1 セブンイレブンで利用される野菜の流通経路


資料:2008年3月18日付 セブン&アイホールディングス ニュースリリース

(2) 横浜丸中青果の業務用需要への取り組み強化
  横浜丸中青果は、卸売市場手数料の自由化を控え、業務用需要への対応が必須であるとの危機意識が背景にあり、取り組みを強化していた。2001年には、病院などに配送を行っている給食センターとの取引が始まったことから100坪の低温卸売場を整備したが、施設を利用する時間が限られていたため、空いている時間を有効に活用できるよう相手先を探していた。

 一方、セブンイレブンは、国産野菜の取り扱い量の増加に伴い、プロセスセンターの候補として冷蔵施設を持つ市場の関連企業を探していたことから、両社の取引が始まった。

 また、横浜丸中青果の産地開発担当のコーディネーターであるA氏が、以前別会社に勤めていた時にセブンイレブン(デイリーメーカー)との取引を経験しており、同氏を通じて取引が始まったことから、人のつながりという側面も強い。

 物流は真冬を除いて冷蔵(チルド)車により行っており、輸送途中でも気温の変化が追跡できるようになっている。また、横浜丸中青果へ到着時には品温の計測を行っている。その後詰め替え(ピッキング)を行い、翌日には各デイリーメーカーの工場に配送されるが、工場への配送時にも温度検査が行われ、品質の確保に努めている。


ドックシェルター(入出庫設備)に野菜を運ぶ冷蔵車

(3) 流通側からのテンアップファームへのアプローチ
  テンアップファームについても、このほうれんそうの契約取引を開始する以前は、市場出荷主体の生産体系をとっており、書面で契約を交わした契約栽培は行っていなかった。

 ほうれんそうの契約取引を始めることになったきっかけは、以前トマトの栽培を行っていた時にテンアップファームの記事が載った新聞を目にした横浜丸中青果のA氏から働きかけがあったためである。

 A氏は、セブンイレブンが国産野菜への切り替え方針を打ち出したことから、一定の価格・数量で納入を行える産地を探していた。特に「ほうれんそうのゴマ和え」は長期に販売されている固定のメニューであったため、市況に左右されず、一定の数量を購入する安定的な取り引きが可能な産地であることが必要だった。

 テンアップファームにとっては、契約取引だけでなく、ほうれんそう栽培への取り組み自体も初めての経験であった。テンアップファーム代表取締役のM氏が、以前は他産業の仕事に従事していたため、農産物においても契約を行って生産するという考えに抵抗感がなかったことも大きい。特に最近の農家は、新しい品目の栽培を始める場合、売り先、値段が決まってから始める場合がほとんどであることも、この契約取引を始めることができた理由での一つとして挙げられる。


ほうれんそうの栽培状況(テンアップファーム)

◆4.セブンイレブンがほうれんそうに求める規格

主要な条件としては、
①国産であること
②草丈を35cm±5cmにすること(品種は生食用と共通でよい)
③産地から店舗まで、コールドチェーンが確立された状態で搬入されること
④異物混入を防ぐためにも適正な防除が行われていること
⑤必要な衛生基準を満たしていること(ポジティブリスト制度対応)
があげられている。

 特に、②のほうれんそうの草丈を通常量販店向けの25cmではなく、加工歩留まりが良く、栄養価も高くなる35cmにすることにより、生産者は単収を市場出荷品の1.5~2倍に増加させることができるようになった。


セブンイレブンの契約(業務用)ほうれんそうと
生食用ほうれんそうの草丈の比較

資料:セブンイレブン農林水産大臣賞「事例発表」プレゼン資料

◆5.契約取引を行うメリット

(1) セブンイレブン~仕入れ価格の抑制、商品品質の向上など~
  ほうれんそうの契約取引を行うことによって、年間固定化された契約単価で仕入れを行うことができるようになった。この単価は市場価格に比較すると安い価格であるが、単収の増加や包装の簡素化によるコスト削減により、生産者にとっても合理的な価格となり、セブンイレブンにとって仕入れ価格を抑えることが可能となった。

 また、草丈35cm前後の規格を採用することによって、歩留まりが良いだけでなく、表2のとおり、味や栄養面でもメリットが生まれ、消費者にも利益をもたらしている。

表2 セブンイレブンが考えるほうれんそう規格(草丈35cm±5cm)のメリット


資料 :  
セブンイレブン農林水産大臣賞「事例発表」プレゼン資料より作成
品質面の内容については、原資料は大久保増太郎氏の「日本の野菜」によるものとされている

(2) 横浜丸中青果~取引量の増加~
  セブンイレブンのプロセスセンターとして指定されたこと、この契約取引を始めたことなどがきっかけとなり、セブンイレブンなどからの取引量を大幅に増加することができた。

 全国中央卸売市場における青果卸売会社の取扱金額による順位表を見ても、横浜丸中青果は平成17年度の7位から、平成19年度は4位と上昇しており、大幅な取扱い金額の増加を達成している。横浜丸中青果はセブンイレブンなどとの取引を含めた業務用青果物への対応促進がこうした取り扱い増加の重要な役割を果たしたとしている。

(3) テンアップファーム~作業の省力化、販売の安定化~
  出荷したほうれんそうが、最終的にセブンイレブンでどのように使われるかということが分かっているので、不要な作業を省くことができた。集荷・包装についてもバラ詰め、無地のダンボール箱やコンテナ詰め、新聞紙で覆えばいい等簡略化できることから、コストを抑えられた。

 市場出荷のみでは不安定であるため、この契約は安定して続けていこうという方針で、グループ内で話がついており、余剰が出たときに他に転売をお願いしている農家からも不満は出ていない。

 その結果、平成16年から始まった取引が最初は37トンであったにもかかわらず、翌17年には57トンへ、平成18年には100トンへと急増した。

 以下、次月号でセブンイレブンの国産ほうれんそうの契約取引における安定供給のための工夫とその実態について報告を行う。



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