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調査報告


契約取引の実態調査⑤
安定した出荷数量が可能にした業務用需要者との契約取引
~岩井農協の白ねぎの契約取引を事例に~

東京農業大学 国際食料情報学部
教授 藤島 廣二

1.本稿の目的
  本年(平成20年)1月に始まった農薬入り中国産冷凍ギョーザ事件からも明らかなように、近年、輸入食品の安全・安心に関する信頼度はまさに「地に落ちた」感がある。このため、一般家庭向け販売比率の高い輸入生鮮野菜については、昨年あたりから顕著な減少傾向が認められる。しかし、業務用需要に占める輸入野菜(加工野菜と生鮮野菜)の比率は依然として高く、その結果、野菜全体としてみる限り、輸入量の大幅な減少は期待しがたい状況にある。

  輸入野菜が業務用需要者に高く評価されるのは、一般にいわれるように確かに低価格であることが大きな一因ではあるが、決してそれだけではない。供給が安定していること、より正確には必要量を確実に入手できることも重要な原因なのである。

  そこで、本稿では業務用需要者への国産野菜の供給比率の向上に資するべく、安定供給の方法として重視される契約取引のあり方を、茨城県の岩井農業協同組合(以下「岩井農協」)管内産白ねぎの卸売市場仲介型契約取引を事例として明らかにしたい。多様な契約取引方法のあり方の一つとして参考にしていただけるならば幸いである。

表1 岩井農協の平成18年度農産物販売額 


出所:聴取調査(2007.9.21)

2.岩井農協の販売事業と契約取引方法
(1) 岩井農協の販売事業の概要
  岩井農協は昭和43年(1968年)に7農協が合併して設立された。現在、正組合員数は3,136名、そのうち農協園芸部加入者は537名(ほぼ全員が白ねぎとレタスの販売者)である。

  平成18年度の販売額は、表1に示したように全体で約60億円(岩井農協管内の農業産出額のおおよそ50~60%)。そのうち野菜が58億円(1戸当たり平均販売額は1,000万円超)で、97%を占める。また野菜の中では白ねぎが25億円、野菜販売額の43%(農協総販売額の41%)、結球レタスが23億円、40%(同39%)にのぼる。販売額からみる限り、野菜専門農協、より厳密にはねぎ・レタス専門農協とも呼べるほどである。

  なお、これらの野菜は60%が京浜市場(大田、築地、横浜等)22社に、40%が北海道(札幌、帯広等)から関西(大阪、京都等)に至る市場21社に出荷している。

図1 岩井農協の夏ねぎの販売高の推移


出所:聴取調査(2007.9.21)

(2) ねぎの販売高の推移と販売方法
  岩井農協の主要販売品目である白ねぎは、出荷シーズンに応じて夏ねぎ(5~8月出荷分)とその他ねぎ(秋ねぎ等)とに分けることができる。しかし、前者が98%を占め、後者はたった2%にすぎない。

  その夏ねぎの販売高の推移を示したのが図1である。平成12年(2000年)に販売量、販売額とも大きく落ち込んだことがあるものの、通常年は販売量がほぼ8,000t~10,000t、販売額が25億円前後から30億円弱(1戸当たり平均販売金額でみると400万~500万円)である。

  出荷先(販売先)は野菜全体の場合と同様、昔も今も卸売市場に限られている。ただ最近は卸売業者を通さずに仲卸業者に直接出荷することもある。しかし、その場合も卸売市場向けであると言って間違いではない。しかも、そうした直接出荷は全体の1~2%程度で、特に問題にするほどでもない。

  出荷先卸売市場の卸売業者は京浜20社、北海道2社、東北3社、北陸1社、名古屋1社、京都1社である。ただし、北海道や東北、北陸向けは少なく、京浜向けが夏ねぎ全出荷量の90%を占めている。ちなみに、出荷時の荷姿は5kg入り段ボール(その他ねぎは6kg入り段ボール)で、5月から8月の出荷シーズン中1日当たり出荷量は平均1万5千~2万ケース、多い日は3万ケースで、シーズン中の出荷量を合計すると160万~200万ケースである。

  出荷先(販売先)はほとんど変化していないが、販売方法は平成12年(2000年)を境に大きく変わった。それまではすべてが卸売業者への委託販売であった(当時は仲卸業者への直接出荷はなかった)。ただし、卸売業者から仲卸業者または売買参加者への販売方法が競りであったか相対であったかは定かではない。

  これに対し、平成13年(2001年)からは卸売業者経由の契約取引(予約相対取引)が加わり、この販売方法が夏ねぎ販売の20~30%程度を占めるようになった。このように変化した理由は、平成12年の雹(ひょう)害で例年に比べ2割以上もの不作になったにもかかわらず(図1参照)、輸入増のために単価が前年よりも低下し(平成11年に岩井農協が出荷した夏ねぎの1kg当たり価格は298円、12年は270円)、中国産ねぎに対抗するための安定取引(契約取引)の必要性を痛感したからであった。


白ねぎの段ボール出荷の様子

(3) ねぎの契約取引方法
  岩井農協が行っている契約取引は卸売市場の予約相対取引であり、最終需要者との直接的な契約取引ではない。したがって、通常の取引と大差なく取り組むことができる契約取引でもある。実際、生産者が農協へ出荷する場合、通常取引と契約取引とではせいぜい規格数が異なる程度で、これと言った大きな違いはない。なお、現在のところ、岩井農協は契約取引数量として1日当たり5,000ケース(夏ねぎ全体の20~30%)を一つの目処としている。その理由は、これを超えると数量調整のリスクが大きくなりすぎるからとのことである。

  契約取引を行う場合、まずは出荷シーズン前の4月上旬に岩井農協、全農茨城県本部、卸売市場(卸売業者、仲卸業者)の各担当者が集まって取引会議を開催し、取引期間、主要規格、数量、価格を決める。ただし、ここでは契約書を取り交わすのではなく、口頭契約を行う。 契約価格は、シーズンや規格に応じて異なる。ちなみに、規格は、通常出荷品は8規格(2L、L、M、S、2S、B、2本結束、3本結束)であるが、契約品は3規格(大、L、M)程度に簡素化することもある。

  また、取引数量は基本的には1ヵ月単位で日々の数量を同一とすることで決めているが、悪天候で荷が少なく、競り価格が暴騰した時や、逆に豊作で競り価格が暴落した時は、1週間単位で変更することもある。ただし、特注でもない限り、1日5,000ケース程度に収めるのが目標である。

  なお、当然ではあるが、4月上旬の会議だけですべてが終了するわけではない。シーズン中は日々、全農茨城県本部が各対象卸売業者から希望数量を取りまとめ、岩井農協に報告し、それに対し農協は希望数量をベースに出荷可能数量を卸売業者別に微調整した上で県本部に報告し、さらに県本部が農協の出荷可能数量を卸売業者に伝達・確定する、といったやりとりが行われている。

3.仲卸業者A社の契約取引方法
(1) A社の概要
  岩井農協の契約取引は予約相対取引であるため、いわば契約先相手は卸売業者である。したがって、それ以降の契約取引は多くの場合、卸売業者、仲卸業者、業務用需要者の3者間で行われ、主に仲卸業者が調整役を果たすことになる。ここに取り上げた大田市場のA社はそうした仲卸業者の一つである。

  A社の創業は大正時代にまでさかのぼることができる。それゆえ、当然、神田市場時代からの仲卸業者である。主な取扱品目はキャベツ、はくさい、白ねぎ、だいこん、ばれいしょ、きゅうり、なす、トマト、にんじん、たまねぎ等であり、葉茎菜類、根菜類を中心に取り扱っているといえる。年商は20億円ほどである。

  仕入先は大田市場の卸売業者であるが、販売先は現在、外食・中食企業と一般小売店(八百屋)である。量販店への販売はない。中心は外食・中食企業で、取扱高の約7割を占める。もともとは外食・中食企業への販売はほとんどなかったが、昭和50年代ごろから増え始め、特に最近は食堂等に納めていた八百屋が営業を止め、その肩代わりを頼まれることが多く、外食・中食企業への販売高が急増した。

(2) A社の野菜の仕入方法
  A社はもともとは一般小売店向けに販売していたことから、仕入方法は競り等によるスポット仕入れが普通であった。しかし、外食・中食企業への販売比率が高まると、価格と数量の両面で安定性を求められるため、予約相対取引のような安定仕入比率を高める必要性が増した。現在では完全にスポット的な仕入比率は3割程度に低下し、契約仕入といえる予約相対取引が3割を占めている。この比率は取扱品目全体でも、また白ねぎだけに限ってもほぼ同程度である。

  契約取引(予約相対取引)の場合、岩井農協の白ねぎに限られることではなく、他の品目でも同様であるが、価格は出荷シーズンまたは年間を通して一定にするのが原則である。1ヵ月ごとに価格を決めるものもあるが、それは例外的である。この価格決定に際しては、1ケース(夏ねぎは5kg)当たり単価または1kg当たり単価で決めるのが普通であり、産地側でその価格決定のための条件を提示することが多い。なお、妥当な値決めをしようとすると産地との信頼関係がないと難しく、それゆえ堅実な契約取引を行えるようになるには4~5年が必要とのことである。

  取引数量についても、大まかではあるが、決めるのが普通である。ただし、後述するように、販売先の外食・中食企業とは事前に数量を決めてしまうことはない。したがって、予測に基づいて契約仕入を行うことになるが、その目算が狂う時にはスポット取引で調整する。すなわち、一般小売店との取引があり、そのためにスポット取引を行っていることが、いわば契約取引の調整弁になっているのである。

  ちなみに、A社の場合も仕入面での契約取引(予約相対取引)で契約書を交わすことはなく、口頭契約だけである。

図2 岩井農協のねぎの産地からB社までの流れ


注)白ねぎは、岩井農協から卸売業者へ直送する。
全農茨城は、商取引流通と情報流通を担当する。

(3) A社の契約販売方法
  A社の販売面をみると、そこでの契約比率は仕入れ時とほぼ同じ3割である。ただし、その契約先相手は外食・中食企業に限られる。この契約取引でも文書を交わすことは少なく、ほとんどが口頭で、通常は価格と規格、および納品方法等を決める。数量をも固定するような契約は、販売面ではきわめて稀である。

  白ねぎに絞って業務用需要者外食企業B社との契約取引を例にみると、主に以下のような方法で行われている。

  まずは取引開始のための商談であるが、B社との商談は毎月25日に行われ、口頭で必要項目について取り決めを行う。その際の最重要決定事項は値決めであるが、ねぎの場合は5kg(45本)単位で、配送料も含めて価格を決める。既述のように岩井農協とは原則として出荷シーズン前の4月に価格を決め、それで1シーズンを通すわけであるが、A社は販売先との契約取引においては1ヵ月ごとに価格を決め直すのである。

  そして商談から1週間後の翌月1日から、新たに決まった条件でA社はB社に白ねぎ等を納めることになるが、その際の納入数量は図3に示したように当日の午前0時に確定する。一方、予約相対取引(または注文仕入れ)によるA社の仕入量は、9時間ほど前の前日の午後3時までに確定しなければならないので、当然、仕入量と販売量は異なる。もしも、仕入量が不足する時には、A社は夜中に先取りするか、貯蔵分で補完しなければならない。逆にオーバーする時にはスポット仕入れを減らし、予約相対仕入分を一般小売店への販売に向けることになる。

  いずれにしても、契約取引とはいえ、B社にとっては食材の不足は絶対に避けなければならず、また過剰も損失につながるので好ましいことではなく、それゆえ取引数量を前もって確定してしまうことはできない。となると、そうした数量調整を行うのは、現状ではA社のような仲卸業者が担わざるをえないのである。ちなみに、A社のトップによれば、「現在の契約取引は一般小売店への販売分があるから可能であって、契約取引だけを行うというのはそもそも無理なこと」なのである。

図3 A社におけるB社との契約取引での日々の作業の流れ


出所:聴取調査(2008.1.24)

4.市場仲介契約取引のメリットと今後の課題
  以上から推察できるように、卸売市場(卸売業者、仲卸業者)が仲介する契約取引は外食・中食企業にとってはもちろんのこと、産地にとっても大きなメリットがある。その主なものを整理すると、少なくとも以下の3点が挙げられよう。

 第1は、産地側が業務用需要者の希望数量等を考慮することなく、契約に基づいた出荷を行えることである。両者間の調整は卸売業者と仲卸業者が行うことになる。

 第2は、産地側にとって通常の卸売市場出荷の枠内で契約取引が行えることである。もしも、卸売市場出荷とは異なる取引となると、農協において契約取引専門の担当者をおかなければならず、コストが嵩むことになる。

 そして第3は、産地側が品揃えを気にする必要がないことである。図3に示したように、A社はB社との契約取引で約30品目を取りそろえなければならないが、産地がこのような多様な品目を周年的にそろえるのは不可能であろう。

 もちろん、こうしたメリットだけではなく、卸売市場仲介型の契約取引の場合にも今後の課題は少なくない。特に数量調整機能の強化が重要な課題といえる。この強化がない限り、岩井農協が指摘するように産地の契約取引は3割を超えることが難しいであろうし、仲卸業者にとっても外食・中食企業との契約取引は一定のところに抑えられざるをえないからである。今後、開設者・行政が貯蔵施設の拡充等を行うことによって、仲卸業者の数量調整機能の強化に務める必要性が増すものと思われる。



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