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調査報告


契約取引の実態調査④
生産者リスクの軽減と品種に着目した契約取引への取り組み
~玉宝青果のたまねぎの契約取引を中心に~

農林水産省農林水産政策研究所
農業・農村上席主任研究官 小林 茂典
総括上席研究官 香月 敏孝

はじめに
 北海道札幌市の玉宝青果は、たまねぎを主力商材とする産地集出荷業者である。同社は、道内の産地集出荷業者の組織である「北海道青果商業協同組合」の会員であり、独自のネットワークを活用した、たまねぎの多様な集荷・販売を行っている。本稿では、玉宝青果と漬物業者の河村屋との間で実施されている、品種に着目したたまねぎの契約取引の取り組みについて、その概要と特徴等の要点を考察する。

 本稿の構成は以下のとおりである。まず、玉宝青果がたまねぎの主な集荷範囲の一つとしている札幌市におけるたまねぎの生産状況について概観する。次に、「北海道青果商業協同組合」の概要を整理する。これらを踏まえた上で、玉宝青果と河村屋の概要及び、そこで取引されているたまねぎ品種の特徴等について触れながら、たまねぎの契約取引の内容等を考察する。

1.北海道のたまねぎ生産に占める札幌市の位置
 北海道のたまねぎ生産は、表1に示したように、1990年で全国の作付面積の4割、同出荷量の5割程度を占めていた。この時点では、札幌市は北海道の作付面積、出荷量の1割を占める大産地であった。札幌市の作付面積1,080haは、富良野市(1,600ha)、北見市(1,460ha)、岩見沢市(1,230ha)に次ぐ規模であった。

  2000年以降になると、北海道のたまねぎ生産は、全国の作付面積の5割、出荷量の6割程度を占めるまでになるが、そうした状況の中、札幌市は都市化の影響を受けて、作付面積、出荷量とも1990年の半分以下の規模に縮小している。

  こうした札幌市のたまねぎ生産について、農家レベルでの特徴を農業センサス結果から整理すれば表2のようになる。道内の他の主要3産地と比較して以下のような特徴を指摘することができる。1戸当たりのたまねぎ作付面積は他の産地とは異なり、1990年から2005年にかけて縮小傾向をたどっている(札幌市が207aから165aに縮小しているのに対して、例えば北見市では303aから552aになるなど機械化営農の進展により大きく規模が拡大)。2世代専従農家割合(2000年)については、札幌市は8%に過ぎないが、他の産地は20%前後であり、逆に生産者に占める65歳以上の割合(2000年)は、札幌市が33%であるのに対して、他の産地では23~29%にとどまっている。

  以上のように、札幌市のたまねぎ生産については、経営規模の縮小と担い手の減少・高齢化が併進している状況をみてとることができる。
  こうした地域を基盤にして集出荷を行う業者の場合には、弱体化しつつある生産者を支えながら、小回りの効いた多様な集出荷対応が求められることとなる。

表1 たまねぎ生産の動向(全国、北海道、札幌市)

(単位:ha、千t)


資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」
注.2006年産は概数値

表2 たまねぎ生産農家の特徴(北海道の主要産地)


資料:農林水産省「農業センサス」


2.北海道青果商業協同組合の概要

  北海道青果商業協同組合(以下、「北商」とする)は、1962年に設立された産地集出荷業者の組織である。野菜価格安定事業の登録出荷団体となり価格安定事業に参画することが設立の主たる契機となっている。全国的にみて、ほとんどの登録出荷団体は生産者の組織である農協系統(県本部等)が担っている。そうした中で、農協系統以外の産地集出荷業者組織が登録出荷団体となっているのは極めて希な事例である(「北商」のほか、泉州玉葱商業協同組合、淡路玉葱商業協同組合等)。「北商」の組合としての運営費は、卸売市場の出荷奨励金等の中からまかなわれている。

  「北商」の会員数は、ピーク時には100社ほどであったが、現在では、玉宝青果を含めて52社となっている。たまねぎ、にんじん、ばれいしょ等を扱う業者が会員となっているが、このうち、たまねぎの取扱業者は30社ほどである。

  北海道産たまねぎの場合、古くから多くの産地集出荷業者が流通に携わっており、このことが「北商」設立の一つの背景となっている。従来、産地集出荷業者は自らの判断で生産物を生産者から買い上げ、売渡しを行った後に発生する売買差益を主たる収益としていた。価格安定事業に加入することは、卸売市場への委託販売が前提となる。このため、販売方式は買取販売から委託販売へ比重を移し、収益も生産者からの委託手数料に依存する割合が高くなった。「北商」の会員は手堅い手数料収入が得られる委託販売とリスクはあるが自らの裁量で取引を行う買取販売とを併用した取引を行っていることになる。

  「北商」はホクレンとも連携しながら、自主的な流通対策として「玉葱輸入抑制加工仕向共販事業」を実施している。この事業は、輸入依存度が高い加工需要へ北海道産たまねぎの供給を促進させることを目的に行われている取り組みである。加工向け需要への対応であるだけに、家計消費用向け出荷と比較して単価は安いが、この事業の推進によって輸入が抑制され、市場価格の安定化にも資することが期待されている。「北商」では、会員に価格安定制度の交付予約数量を勘案した数量を割り振って、同事業の推進を図っている。


3.玉宝青果の概要とたまねぎの取扱状況

(1) 会社概要
  有限会社玉宝青果は、たまねぎを主力商材とする産地集出荷業者であり、1978年に設立された。この仕事に長く携わっていた現社長が同年に独立して興した会社であり、従業員数は6名程(パートを含む)である。現在、取扱高に占めるたまねぎの割合は97~98%を占めており、年間のたまねぎの取扱量は約2,500tとなっている。

  玉宝青果が受託ないし買取を行っている生産者の数は35名程度である。これらの生産者には、玉宝青果だけに出荷しているものだけでなく、同業他社やJAへの出荷も併用しているものも含まれている。以前は、生産者からの買取がほぼ100%を占めていたが、現在では、受託販売と買取販売の割合はほぼ半分ずつとなっている。代金決済については農協系統よりも短い期間で精算が行われている。

  また、玉宝青果では、生産者の労働状況等に応じた作業支援等も行っており、生産者の負担軽減に寄与するものとなっている。短期間での代金決済等も含め、生産者にとって利便性のある対応が図られている。

(2) たまねぎの販売先等
  たまねぎの販売先は、卸売市場が3割、市場外が7割となっている。このうち、卸売市場については関西地域が主な出荷先であるが、一部は関東、北陸地域の市場にも出荷されている。市場外出荷については、量販店、生協等に納品している道内の流通業者2社への販売が中心であり、このほか、数量的には少ないが、中小の剥き玉業者や後述する漬物企業等との取引もみられる。このように、玉宝青果のたまねぎ販売は、家計消費向けが中心であり、加工・業務筋への販売は比較的少ない。なお、玉宝青果前の道路沿いでの直売(庭先販売)も若干行われている。

  規格については、量販店向けはLないしL大、学校給食向けは2L、業務筋へはMおよび長玉を、それぞれ中心としているが、実需者によっては特定のサイズだけを指定した取引となっているケースもみられる。

  価格については、量販店等の家計消費用向けは週間値決めが、加工・業務筋向けはシーズン値決めが、それぞれ基本となっている。

(3) 河村屋との契約取引に使用されるたまねぎ品種の特徴
  後述する河村屋とのたまねぎの契約取引においては、北海道農業試験場(現北海道農業研究センター)が開発した「トヨヒラ」という品種が利用されている(この「トヨヒラ」は「さらら」という商品名でも流通している)。北海道産のたまねぎは、一般に肉質が硬く辛味が強い品種が多い。この中で「トヨヒラ」は、北海道向けの品種の中で、「肉質が軟らかく辛味が少ない」品種として開発されたものである。

  玉宝青果は、生産者との面積契約によって、この「トヨヒラ」を調達している。契約農家数は2軒、作付面積は1.3haである。そこで作られた「トヨヒラ」は等階級に関わらず玉宝青果が全量を買い取っており、生産者のリスクは大幅に軽減されている。また、生産者からの買取単価については、普及途上の新たな品種の生産委託という点にも配慮して、通常のたまねぎの5割増の単価が設定されている(収穫時期は8月末から9月末)。

  ただし、河村屋に納入されるたまねぎの規格は、LないしL大に限定されている。このため、2Lサイズについては剥き玉業者に販売し、Mサイズ以下のものについては庭先販売を行う等の対応を図っている。このように、玉宝青果では、さまざまな等階級に応じた多様な販路を確保しており、このことが生産者との面積契約による全量買取を可能とする大きな条件となっているといえる。


4.株式会社河村屋の概要とたまねぎの漬物の特徴

(1) 会社概要
  株式会社河村屋は、創業190年近くに及ぶ漬物製造業の老舗である。同社の起源は、江戸時代後期(文化・文政期)の宿場における、地酒の取扱とその酒粕を利用した粕漬け製造にまで遡ることができる(1947年に社名を株式会社河村屋に改名)。本社および工場は埼玉県さいたま市にあり、直営店舗4店のほか、デパート等で自社製造した漬物の小売販売を行っている。従業員数は約80名(パートを含む)である。

  同社の大きな特徴は「創作漬物」の製造販売という点にあり、だいこん、はくさい、きゅうり、なす等の基本的な漬物食材のほか、たまねぎ、ねぎ、えりんぎ等の多様な食材を漬物原料として使用し、また、ワイン漬け等の新たな味付けにも取り組んでいる。季節限定商品を含めると年間約100種類の漬物が店頭に並んでいるという。

  国産原料にこだわった漬物製造を行っており、古漬け、浅漬けともに、原料はすべて国産品であり、生産者(グループ)、JA、農業生産法人、産地集出荷業者等との契約取引が基本となっている。

  漬物原料として使用される野菜で量的に最も多いのは、はくさいであり、以下、たまねぎ、きゅうり等と続いている。


(2) たまねぎを使用した漬物の特徴
  たまねぎの漬物は河村屋を代表する漬物製品の一つである。この漬物の特徴は、たまねぎを1個丸ごと漬物にしている点であり、醤油味、味噌味、梅鰹味、赤ワイン漬の4種類がある。こうした1個丸ごとの商品化に当たっては、独自の加工技術が必要とされるほか、使用されるたまねぎの品種にもこだわる必要がある。

  たまねぎの漬物の製造は、①天地カットして皮むき、②独自の機械処理、③調味液に浸す(2週間程度)、④袋詰め(袋詰めして熱殺菌)等の行程から構成されており、製品化までに要する期間は3~4週間程度である(製品化の歩留まりは7割弱)。たまねぎの漬物は、直営店、デパート等での販売のほか、生協へも納入されている。

  原料たまねぎは、9月~4月の北海道産、5月~8月の熊本産を中心に、1月~3月の静岡産等が補完する形となっている。北海道産たまねぎの品種は「トヨヒラ」であり、熊本、静岡等については「サラダたまねぎ」が使用されている。「トヨヒラ」等の品種が使用されているのは、独自の加工技術と組み合わせることによって塩漬け時の変色等がなく、漬物に適した特性を有していること等のためである。また、このたまねぎの漬物の販売においては、「トヨヒラ」については抗血栓作用に着目した試験結果を、熊本の「サラダたまねぎ」についてはエコファーマーによる栽培である点を、それぞれ情報として付与しながら消費者へのアピールを行っている。

  なお、原料として使用されるたまねぎの規格は、加工歩留まりや製品としての大きさ等の点からLないしL大に限定されている。




河村屋の玉ねぎの漬物(河村屋HPより)



5.玉宝青果と河村屋とのたまねぎの契約取引開始の経緯等

  玉宝青果と河村屋のたまねぎの契約取引は、「トヨヒラ」の種子を販売する種苗会社が仲介する形で開始された。品種の特徴を活かした漬物原料としての利用が、産地、実需者、種苗会社の連携によって行われたのであり、新品種の導入に当たって種苗会社の果たした役割は大きい。

  玉宝青果と河村屋との間では、毎年、収穫前の7月頃に数量、価格、時期等を取り決める商談が行われ、取引に関する覚書も双方で確認される。物流的には、月に一回、月毎の必要量が一括して納入され、河村屋の貯蔵庫で温度管理をしながら逐次漬物原料として使用される。毎月の使用量は5~6t(年間で約40t)である。取引価格については、シーズン1本価格となっているが、この数年間で価格の変更はみられない(なお、他のJA等の場合は月間値決めが基本である)。

むすびにかえて
  以上みてきたように、玉宝青果と河村屋とのたまねぎの契約取引は、品種に着目し、これを漬物用原料として利用するものである。この取り組みの大きな特徴は、玉宝青果と生産者との面積契約に基づいて行われていることである。生産者との契約栽培は数量契約と面積契約に大別されるが、数量契約の場合、生産者にとって圃場で生産されるさまざまな等階級品をすべて商品化できるとは限らない。これに対して面積契約の場合、玉宝青果による全量買取となっていることから、生産者の販売リスクは大きく軽減されることとなる。こうした面積契約の実施は、玉宝青果が等階級に応じた多様な販路を確保しているからこそ可能であるといえるが、産地への新品種の導入・定着を進めるに当たっては重要な条件の一つであるといえよう。

  また、たまねぎを漬物原料として利用する取り組みは、その品種が持つ特性を活かしながら消費拡大へとつなげていく方向にも合致するものである。各品種が持つさまざまな加工・調理特性に着目した新たな商品やメニュー開発が重要であることを、この取り組みは改めて示唆している。この点については種苗会社との連携も重要である。



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