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調査報告


契約取引の実態調査③
北海道JAおとふけのにんじんの契約取引

農業ジャーナリスト
青山 浩子


 十勝平野の中心部、北海道音更町にある音更町農業協同組合(代表理事組合長 大塚宏明 以下「JAおとふけ」)は、わずか2年間で生産量、品質ともににんじんの代表的な産地となった。播種から収穫までの作業をJAが請け負う“委託生産方式”を採用し、洗浄選別予冷施設を新設したことで、品質と鮮度のよさが実需者から高い評価を受けている。収益性をアップさせるため、現在30%である契約取引の比率をさらに高めようとしている。JAおとふけ、同JAと取引している実需者を調査し、産地が契約取引をすすめるにあたっての課題を整理してみた。


■地域事情を踏まえにんじん作付拡大を決断
  JAおとふけは十勝平野の中心部にあり、小麦、豆類、ばれいしょ、てん菜など畑作物の栽培が盛んで、日本でも有数の穀倉地帯に位置する。また、ながいも、たまねぎ、にんじん、ブロッコリーなどの野菜振興にも力を入れている。

  同JAがにんじんの作付面積を大幅に拡大したのは2006年からだ。前年には、にんじんの洗浄選別予冷施設を新設した。当初から有利販売を念頭においた上で生産体制を整えていた点が特徴で、わずか2年でJA単位の集荷量でみると、国内トップクラスのにんじん産地となった。

  にんじんを選択した背景には、①機械による作業が可能である点、②輪作体系の維持、③水田・畑作経営所得安定対策への対応、などがあったという。

  十勝平野はもともと機械化可能な畑作物の作付が多く、野菜栽培の割合は少なかった。だが1980年頃から国の補助事業で土地改良が行われ、排水性のよい土地への転換に成功した。同JAで野菜が本格的に栽培されるようになったのは1990年頃からだという。当初はながいもが主力だったが、1メートルほどの深い作土が必要である上に、農家の労働力不足が重なり次第に面積が減ってきた。一方、にんじんは播種から収穫まで機械作業が可能で、小麦、豆類、ばれいしょ、てん菜などとの輪作体系に組み込めるなど、地域的事情ともマッチしていた。

  また2007年からスタートした水田・畑作経営所得安定対策も、野菜作付面積拡大の要因となった。同対策の施行によって従来に比べ農家の収入が減るとの見込みから、所得減少を抑えるための新たな品目を早くから模索していた。

  同JAでは1995年から、にんじん栽培の先進地の視察を重ねたり、栽培試験を通じ、品質の良いにんじん作りをするための仕組みを整えていた。この結果、2005年まで27ヘクタールにとどまっていた作付面積が2006年には191ヘクタール、2007年には398ヘクタールにまで拡大した。


にんじんほ場


■鮮度保持を重視した選果施設
  同JAのにんじんの生産体制には2つの大きな特徴がある。一つはJAが播種から出荷までの作業を請け負う“委託生産方式”を採用している点である。もう一つは有利販売を狙って、洗浄選別予冷施設を新設したことだ。

  委託生産方式を採用したことについて、同JA販売部青果課の竹市正宏課長は「農家の高齢化が進み、一戸当りの耕作面積が増加する中で、これからの産地としての生き残りを考えてのこと」と話す。

  播種から出荷までの作業は、JAが委託する業者が請け負う。播種は4月下旬から7月上旬にかけて実施、収穫は7月下旬から11月上旬にかけて行う。播種前の耕起作業、および除草、防除といったほ場の管理作業は農家自らが行う。管理作業の間にも、JAの担当者がほ場を巡回し、土壌分析、施肥設計、センチュウの検診などをもとに営農指導にあたる。現在147戸の農家が参加している。

  洗浄選別予冷施設は約11億円の事業費をかけて2006年に新設した。委託業者が収穫したにんじんは1時間以内にこの施設に持ち込まれ、粗選別→洗浄→冷水に浸漬→オゾン水殺菌→選別→箱詰→真空予冷→低温貯蔵という過程を経て翌日出荷される。7月から11月までのシーズン中、この施設から一日に約12,000ケースのにんじんが出荷される。この施設での作業も委託業者が運営しており、ほ場での農作業とあわせ約120人(ほ場作業員:40人、施設内作業員:80人)が作業を行っている。




JAおとふけ洗浄選別予冷施設


■出荷量の30%が契約取引
  こういった生産体制を整えたことで「品質が格段に向上した」と竹市課長は話す。農家との契約により、除草・防除が徹底され、後に述べるように株式会社イトーヨーカ堂(以下「イトーヨーカ堂」)のプライベートブランドとして販売される機会も得られた。

  もちろん生産体制を転換しただけで、にんじん産地としての同JAの評価が上がったわけではない。それに見合う販売活動が功を奏した。同JAのにんじんは現在70%が卸売市場に出荷され、30%は実需者とあらかじめ数量や価格を決めた上で販売される。30%のうち2/3は、生食用でスーパー、量販店に納められ、1/3は加工用として食品加工メーカー、野菜のカット工場などに納められる。

  実需者とは再生産価格をもとに価格を設定する。取引先によって週決め、月決め、年間通しなどさまざまだという。大半の取引先と契約書を交わすが、作柄によって収量が変わる可能性が高いため、数量や価格については協議しながら決めている。

  また生育状況を含め、産地情報を伝える手段の一つとして、WEB上でにんじんの生育状況、出荷状況に関する情報を公開している。

  生産拡大して2年という短期間ではあるが、にんじんの生産体系を新たに整え、後述するように、販売先からも高く評価されるなど順調に推移しているようだ。委託生産方式に参加している生産者にも「新たに機械投資をせずににんじん生産ができる」、「小麦、ばれいしょの播種・収穫作業を行いながら他作物の収穫が可能となった」など好評だという。

  鮮度重視の生産・販売体制を構築した同JAのにんじんは、すでに実需者から高く評価されている。生食用にんじんを出荷しているイトーヨーカ堂、加工用を出荷しているホクレン関東野菜センターを訪ね、同JAのにんじんに対する評価、取引方法について尋ねた。


■青果物の過半を産地から直接調達
  イトーヨーカ堂(2006年2月の売上高:1兆5,000億円、店舗数:180店)が同JAのにんじんを取り扱うようになったのは、折しも大規模生産を始めた2006年からだ。それ以前から、同社は同JAのながいもを調達し、販売してきた。青果部の 恵本芳尚 えもとよしのぶ チーフバイヤーは、「同JAによる一貫生産体制と選果施設を見て、品質的によいものが調達できそうだったこと、JAの組合長をはじめ担当職員がたいへん熱心に働きかけてくれたことが大きい。また、当社もにんじんの新たな産地を探していたのでタイミングもよかった」と話す。

  同社では、あらかじめ産地を指定して調達する方法を「産直取引」という。青果全体に占める産直取引の比率は60~70%に及ぶ。逆に産地を指定せず卸売市場から調達する比率は30~40%だという。ただし、産直といっても両者の都合や便宜を考え、卸売市場を経由せずダイレクトに取引する方法と、卸売市場や仲卸を経由させる方法の両方があるという。同JAとの取引ではホクレンが間に入っているが、卸売市場は経由していない。

  同JAは同社にとって契約産地の一つであるが、播種前に数量、規格、価格などをすべて確定させるわけではない。同氏は「播種の1~2ヶ月前にベースとなる数量、規格などは決めておく。しかし農産物は工業製品とは異なるので目標どおりになるとは限らない。そこで、シーズン最初の収穫直前までに同JAを何度も訪れ、産地や生育の状況を見ながら収穫が始まった時点で数量、規格を決めていく。産直取引の青果物はこの方法が多い」と話す。


■品質の高さと鮮度のよさで高い評価
  同社が同JAから調達するにんじんはすべて生食用である。2006年には720トン。2007年には1,480トンを仕入れた。これは同JAが出荷するにんじんの1割から2割を占める。仕入れたにんじんは主に同社の首都圏内にある店舗(約120店舗)で販売される。7月から10月のシーズン中に売られたにんじんのうち、同JAのにんじんが90%という高い割合を占めたという。新興の産地でありながら、これほどの高い割合を占めるということは、同社が同JAのにんじんを高く評価したことの証でもあろう。

  実際に恵本チーフバイヤーも「色、形、肌目とも抜群」と高く評価する。「やはり、JAが播種から収穫まで一貫して請け負っていることもあって品質が安定している。またあれだけの選果施設で処理されるにんじんなので鮮度もいい」という。

  鮮度保持のための物流体制も整備されている。同JAのにんじんは店舗においてバラ売りあるいは2本、ないし3本で袋売りされる。バラ売りのにんじんは同JAの洗浄選別予冷施設から、関東にある同社の配送センター(4カ所)に直送され、さらに店舗に配送される。収穫して2日後には店頭に並ぶことになる。袋売りの商品は旭川市内にあるパッケージセンターでの袋詰め作業が加わるため、収穫して3日後になるが、従来の市場流通と比べるとかなり短縮されている。

  現在、同JAのにんじんの一部が「顔が見える野菜」というプライベートブランド(以下「PB商品」)で販売されている。これは、味や品質にこだわるとともに、安全性や環境に配慮し、栽培に関する法令を順守するなど同社の基準をクリアした農産物だ。2007年12月現在、同社におけるPB商品は野菜と果物で約100品目、農家数は約2,700名に及ぶ。

  400ヘクタールのにんじん畑の計画的な収穫により、作付農家及び農薬・肥料の使用について追跡可能で、「顔が見える野菜」の基準をクリアできることから、現在70農家のにんじんが「顔が見える野菜」ブランドで販売されている。大手量販店のPB商品として売られているということは、産地にとってもPRになり、農家のモチベーションの点でもメリットは大きいであろう。


■契約取引に欠かせない信頼関係
  ところで、イトーヨーカ堂として調達する産地を一カ所に集中させると、不作になった時などの過不足が生じるなどリスクがあるのではないだろうか。この点について恵本チーフバイヤーは、「葉物とは違って、根菜類はある程度保存ができる。また同JA以外にも契約産地がある。最悪を想定して複数の産地の状況を常に把握し、不測の状況に常に対応できるようにしている」と話す。

  とはいえ、同社のような大手量販店になると、契約を結ぶ産地も同JAのように大産地に限られてしまうのではないか。これに対して、同氏は「そんなことはない。同JAのような大産地はむしろ少ない。1ケースからでも取引はしている」と話す。

  ならば、産地に求めることはどんなことか。同氏は即座に「まずは品質、鮮度。その次に安心・安全、安定供給できるかどうかを重視する」という答えが返ってきた。にんじん、ばれいしょ、たまねぎといった土物野菜は、バラ売りが増えてきたこともあり、とりわけ品質が問われるという。

  これら土物野菜は、従来ならば袋詰めが一般的な販売方法であった。だが少子高齢化の時代に入ったこと、家庭でロスを出したくないという消費者の要望もあり、同社は10年ほど前から小売業界として初めてバラ売りをスタートさせた。「バラ売りをすると、お客さまは色、形のいい野菜から選んでいく。そうでない野菜は売れ残って、ロスとなる。それだけにバラ売りをするときは、形がそろっているか、品質の悪いものが混ざっていないかどうかが非常に大事になる」と同氏は話す。

  また、長年にわたって取引を続けている産地に対しても「いったん契約すれば継続すると思わず、一年ごとの契約と思って欲しい」と話す。

  同社は青果物については国産志向が強く、にんじんも冷凍のミニキャロットを除けば国産しか扱っていない。また消費者が買いやすくなるような陳列・販売方法にも力を入れている。産地にとっては頼りになるパートナーであろう。ただしパートナーとなるためには品質、鮮度、安心・安全、安定供給能力ということに加え、いったん結んだ契約に甘んじず、常にレベルアップに向けて改善していく姿勢を持っているかどうか。これが量販店との契約取引には重視されるといえよう。



JAおとふけのにんじんの販売の様子(イトーヨーカ堂にて)



■外食・中食向けの加工原料として活用
  ホクレン関東野菜センターは2004年12月、茨城県常総市に新設された野菜の一次加工施設である。北海道産のたまねぎ、ばれいしょなどの一次加工品を外食・中食業者へ供給することを目的に設立された。北海道石狩市にも同様の施設があり、ホクレンが関わる一次加工施設としては2件目だ。

  同センターでは、たまねぎ、ばれいしょ、にんじん、キャベツなど北海道産の野菜を主に加工している。皮をむいた状態、あるいはカットした状態のものを5~20キロごとに包装し、コンビニエンスストアのベンダー、外食・中食業者、冷凍食品工場に供給する。実需者からオーダーを受けた分だけ加工し、配送するという完全受注方式をとっており、2007年度の売上げ見込みは約10億5,000万円である。

  2007年に使用した野菜は原料ベースで11,500トン。製品ベースでは8,500トンを加工した。品目別ではばれいしょ、たまねぎの使用量が圧倒的に多く、全体の90%近くを占める。にんじんは4.4%ほどで、原料ベースでは540トンを使用した。

  工場に搬入されたにんじんは、洗浄→ピーラーによる皮むき→首の部分や不可食部分の除去→微酸性の電解水による殺菌・洗浄→計量→金属検査→出荷という過程を経る。皮をむいただけのムキにんじんと、イチョウ切りにしたカットにんじんが主なアイテムである。加工適性という点から、L以上のサイズで、割れたり折れたりしていないにんじんが好まれるという。

  同センターが同JAのにんじんを使うようになったのは2006年から。ホクレン販売本部園芸販売室の大内将史主査によると、「それまでにんじんは、固定産地がなかったが、同JAが委託生産方式により栽培面積を大幅に拡大するという話を聞き、試験的に使うことにした」と話す。2006年に100トンを使用してみて、品質や価格面でメリットが多いと判断し、2007年には166トンに増やした。同センターが一年間に使うにんじん全体の約30%が同JAのにんじんである。



ホクレン関東野菜センターのカットにんじん



■数量、価格ともに安定を重視
 同センターでは、同JAを含む産地との間で、播種前の段階から購入数量に関する話し合いを始め、播種する段階で、さらに具体的に数量を詰めていく。

 取引に関する基本契約は交わすが、数量・価格といった変動の可能性がある数値は記載しない。同JA以外の産地との契約も同じだという。

 同センターが一時加工品を納入するコンビニエンスストアのベンダー、外食・中食業者などは、「年間を通じて安定した量を調達したい」、「価格はできるだけ安定させたい」という要望を持っている。そのため同センターも産地との話し合いで、年間あるいはシーズンを通じて安定した数量を供給してもらうように商談をすすめ、価格についても相場に左右されず、安定した価格での調達を産地と交渉をするという。

 同センターが使うにんじんは、生食用に出荷する規格品からはずれる規格外品で、価格はシーズン固定で1㎏単価(重量ベース)で調達する。にんじんの播種前である4月頃におおよその数量と規格を決め、収穫直前に確定させた後、同JAの洗浄選別予冷施設から1トン入りスチールコンテナのまま同センターに搬入される。

 代金は原料が同センターに納入され、品質などに問題がなければ、4~5日後にホクレンを通じて同JAに支払われるようになっている。


■鮮度、加工適性、価格で高く評価
  同センターが同JAのにんじんを評価する理由は①棚持ちのよさ、②加工のしやすさ、③府県産と比べた場合の価格の安さの3点からだという。

  ①の棚持ちのよさは、同JAの一貫生産・出荷体制によるところと関係が深いようだ。原料の購買を担当する同センター製造課の山口和則さんは「予冷施設での鮮度保持技術が品質のよさ、棚持ちのよさにつながっているのだと思う」と話す。

  また予冷施設での厳密な選果作業が、②の加工のしやすさにもつながっている。大内主査は「同JAからは規格品に近い規格外品が届けられるという印象を持っている」と話す。

  同センターの取引先の一つに、牛丼チェーン店を展開する大手企業があり、同センターからたまねぎ、にんじんを供給している。7~11月の期間は主に、同JAのにんじんが届けられ、サラダやカレーライスの具材として使われる。「この企業は、原料として受け入れるかどうかという厳密なスペックを持っており、割れや折れのあるにんじんはよしとされない。同JAのにんじんにはこれらが少ないのでありがたい」と大内主査。

  一方、③の価格の安さは、大規模なほ場で機械を使って効率的な作業ができるところに起因するようだ。もっとも、最近では府県以外の産地も対応が変わってきた。同センターでは北海道以外に千葉県、鹿児島県からにんじんを調達しているが、生食用メインで栽培してきた産地に、畑で掘り出した状態で買い付ける方法を提案したところ、「コスト的にメリットがある」と受け入れるところが出てきたという。販売額ではなく手取りで計算し、その上でメリットがあることを農家が納得できれば契約取引も広がり、また生食用と加工用を区別して販売するという形態が府県でも広がっていくかもしれない。

■輸入品との差別化をどう図るか
  同JAは収益性を踏まえ、生食用の規格品をメインに出荷している。出荷量全体の65%が規格品だ。洗浄選別予冷施設を通過した結果、規格品の比率が高ければ、その分だけ同センターに供給する規格外品が不足する懸念がある。この点について、大内主査は「規格外品が発生する率はさほど変化がない。また当センターが使う数量は、規格外品のうちの一部なので、量が不足するということはない」と話す。仮に不足した場合は、卸売市場から調達するが、今までのところ契約産地とのやりとりで調整することができたという。

  同センターが調達で重視するのは、契約した数量を確実に供給してくれるかどうかということとともに、歩留まりだという。たとえば、注文した10トンの原料が届いたとしても、品質がよくなければ8トンしか使えないかもしれない。「それだけに、信頼できる産地から仕入れることがとても重要」と同氏は話す。

  外食、中食業者が材料の一次加工をアウトソーシングする傾向が強まり、同センターが行っているような「ムキ」、「カット」という一次加工に対するニーズはますます高まっていくように思われる。しかし一次加工品は、輸入品との競合も多く、価格面で条件をつけてくる実需者も少なくないという。同センターが供給しているムキにんじん、カットにんじんも同様の輸入品と比べると、2~3倍の価格差があるという。「国産の原料を使っていることを理解してくれる実需者を選定していく必要がある。現在、農産物の安全性を気にする業者も多いので、われわれとしても安心・安全の面をPRしていきたい」と大内主査は話す。国内産地も、輸入のカット野菜との差別化を図るためのさらなる品質向上、安全性の強化が求められるだろう。


■まとめ
  スーパー・量販店も、野菜の一次加工工場も、特定の産地と契約取引を広げようという動きが活発なことは今回の調査からよくわかる。産地や農家を特定することで、エンドユーザーの信頼を得られるし、固定産地を持つことで確実に調達できるなどメリットは多い。だが、実際に取引するかどうかを決める際、いずれの企業とも明確な判断基準を持っている。イトーヨーカ堂は品質、鮮度、安心・安全、安定供給であり、ホクレン関東野菜センターは鮮度、加工適性、価格だった。逆にいえば、産地が契約取引を始めるにあたって、「うちの産地はどういう特徴、切り口を持っているか」という強み弱みを明確にして、戦略を立てておくことは不可欠だ。

  JAおとふけの場合、大規模な面積を有し、かつJAによる収穫から出荷までの一括管理により、安定した品質、鮮度のよさが高い評価を受け、契約取引につながった。ところで「安定という点では大産地との取引を望むか」という問いには、両社とも「実需者は産地リレーを組んでおり、求める時期に確実に調達できるかどうかが最も重要で、小さな産地であっても契約取引の道は拓かれている」とのことである。

  契約取引をするために、実需者を開拓し、商談に臨んだことのある産地の担当者が共通していうことだが、「実需者が求めるものを作れば、売り先はある」という。ただし、実需者は市場出荷用とは異なる規格、荷姿での出荷を求める場合が多い。市場出荷に慣れている産地の場合、その要望に迅速に応じられず、結果的に取引成立のチャンスを逃すというケースがよくある。

  こうなると産地の対応、農家の理解が重要になってくる。ホクレン関東野菜センターは「生食用メインで栽培してきた産地に、畑で掘りだした状態で買い付ける方法を、コスト計算した上で提案したところ受け入れてもられた」と話していた。初めてのことに慎重にならざるを得ない農家のことを考えると、実需者と農家の間に立って、農家が理解し、納得できるような形でわかりやすく説明できる人材が欠かせない。

  一方、農家の理解を得られ、契約取引が始まればそれですべてよしかというと、そうとはいえない。今回調査した実需者はいずれも「いったん結んだ契約に甘んじず、毎年レベルアップをしようという姿勢で臨んでいるかどうかが、取引を継続させるカギである」と語っていた。

  農産物価格の低迷に加え、産地間競争が激しくなっている今、契約を通じた安定した取引は今後ますます重要性を増していくだろう。だがそのためにはまず、契約取引による産地のメリットは何かということを農家にわかりやすく説明するという作業が先決だ。また、いったん取引が始まれば、量の過不足や質のブレ、その他のトラブルへの対応が求められ、そうした産地の対応を正当に評価してくれる実需者を選別する作業も必要となる。

  そういう調整機能を産地(JAを含む)自らが担うのか、あるいは産地と実需者の間に立つ卸売市場に調整機能を任せるか。契約取引を成功させるためには、そこに関わる全ての人が役割分担、責任分担をしっかり決めるところから始める必要がある。



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