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調査報告


契約取引の実態調査②
卸売市場のコーディネーター機能を活用した契約取引への取り組み ~JA利根沼田のレタスの契約取引を中心に~

農林水産省 農林水産政策研究所
農業・農村領域上席主任研究官 小林 茂典
総括上席研究官 香月 敏孝


はじめに
  群馬県の利根沼田農業協同組合(以下「JA利根沼田」)は、レタス等の契約生産・販売に積極的に取り組んでいる。本稿では、レタスを対象として、同JAの生産・販売の実態について、外食企業B社との契約取引の取組を中心に、その特徴等を概観する。


■1.JA利根沼田の概況とレタス生産の位置づけ
  群馬県のJA利根沼田(正組合員数約8千人)は、県北部にある沼田市及び利根郡(片品村を除く)が管内であり、2005年の市町村合併前の範囲でいえば1市(旧沼田市)、2町(旧水上町、旧月夜野町)、5村(旧利根村、旧白沢村、旧新治村、昭和村、川場村)が含まれる広域農協である。

  管内の耕地は標高300~800mに展開しており、準高冷地の条件を生かした夏秋野菜を中心とした産地が形成されている。管内には集出荷施設が8ヵ所、真空予冷施設が4ヵ所設置されている。2006年度の同JAの総販売額は108億円で、このうち、レタス(16億円)、トマト(12億円)、ほうれんそう(10億円)の3品目が中心作物となっており、これらの品目で総販売額の3分の1を占めている。

  レタスの共販率は5割弱で、トマトの8割弱、ほうれんそうの5~6割よりは低い。レタスの場合、商系の業者による産地形成が早くから行われたことを背景として、農協系と商系の2つの集荷が拮抗している状況にある。

  管内のレタス生産は、昭和村が中核産地であり、(旧)利根村(現、沼田市利根町以下、「利根村」)がそれに続く。表1は、農業センサス結果から整理したものであるが、レタス生産のうち夏秋作が作型の中心である市町村を面積(2005年)が大きい順に列挙し、それぞれ1990年以降の変化をみたものである。

  昭和村、利根村ともに全国レベルでみて主要産地の一角をなしているが、他の産地と比較すれば、次のような特徴がある。

  主産地であっても産地規模が伸び悩む産地がある中で、両村とも2000年以降に面積規模の拡大基調が続いていることである。また、1戸当たりの規模も大きく、特に、昭和村は5ha(2005年)で全国最大規模となっている。

  このJAでは、1993年に育苗センターを立ち上げて機械用苗の供給を開始し、90年代半ば以降にはレタスの機械定植が一般化している。機械定植の場合、手作業の4~5倍の作業量が可能であるといわれており、こうした取り組みが規模の大きな経営を支える要因の一つとなっている。

  また、2000年時点の資料で若干古いが、より詳細な昭和村及び利根村のレタス生産農家の特徴を表2に示した。これでわかるように、昭和村、利根村とも他の産地と比較して、経営耕地に占める借地割合が高く、2世代専従農家の割合が高く(したがって、後継者が多く)、雇用も多く抱えているといった特徴がある。家族労働力が豊富なことに加えて借地及び雇用へ依存することで大規模層が厚く展開していることがうががえる。

  さらに特徴的な点は、契約栽培農家割合が極めて高く(昭和村で約7割、利根村で約8割)、農薬施用が慣行の半分以下の農家割合も過半を占めていることである。

  この産地では、既に2000年の段階で減農薬栽培と結び付いた契約栽培が広範に展開していることになる。以下、JA利根沼田におけるレタスの生産・販売の実態について、外食企業B社との契約取引の特徴を中心に概観する。



JA利根沼田農協管内のレタス栽培風景


表1  市町村別にみた夏秋レタス産地の動向

(単位:ha、戸、a/戸)


資料:各年次「農業センサス」
注:市町村は2000年時点。
   面積は販売目的農家の作付面積、ただし1990年については自給生産を含む収穫面積。


表2 昭和村、利根村のレタス作農家の特徴(2000年)

(単位:ha、戸、a/戸)


資料:「農業センサス」(組替集計)


■2.JA利根沼田におけるレタスの生産・販売の特徴
(1) 大玉レタスを基本とする生産
  JA利根沼田の2006年度のレタスの出荷量は約1万5千tで作付面積(延べ面積)は492haである(レタスの出荷時期は5月上旬~10月中旬頃)。

  同JAによると、レタス部会(非結球を含む)は53名の生産者で構成され、1農家当たりの平均作付面積が6~7ha(延べ面積(1.5作))規模の大規模経営が展開されている。また、農協出荷者の6割が育苗センター(2ヵ所)を利用している。一部の量販店向けを除き、実需者別部会は設置されていないが、同JAのレタス生産の大きな特徴は、2Lサイズの大玉生産が基本となっている点である。他産地の多くは、量販店向けがLサイズ(16~18玉/ケース)、加工・業務筋向けが2Lサイズ(12~14玉/ケース)を念頭においた生産・出荷が一般的であるが、JA利根沼田の場合、量販店向けについても2Lサイズを基本とした作付体系となっている。これは、他産地、特に長野県産との差別化を図る必要性から、量販店向けについても、大きくてボリューム感があり手ごろな価格のレタスを供給するとの考え方によるところが大きい。

  栽培されるレタスの品種は、栽培時期や圃場条件等を勘案し、現在では40種類以上にもおよび、また、栽培履歴については、圃場単位でマークシート方式による記帳が行われている。


(2) 「Gルート販売」の活用による契約取引中心の販売

  JA利根沼田のレタスは、卸売市場経由の出荷・販売が基本であるが、そのなかで、全国農業協同組合連合会群馬県本部(以下、JA全農ぐんま)が実践している「卸売市場経由型の契約取引」である「Gルート販売」の活用が特徴となっている。このJA全農ぐんまによる「Gルート販売」の取り組みの経緯や特徴等注)については、本誌2007年3月号で藤島廣二氏が詳述されているが、その最も大きな特徴は、(1)単協、JA全農ぐんま、卸売市場(卸売業者、仲卸業者)、実需者の4者(仲卸業者を含めると5者)が介在する、中間流通業者のコーディネーター機能活用型の契約取引であること、(2)単協と実需者の直接契約ではなく卸売市場が仲介する間接契約であるが、最終実需者が特定されていることから、単協と最終実需者との間できめ細かな情報交換を直接行うことが可能となっていること等である。なお、取引に当たっては、契約内容をまとめた「販売促進企画」が取り交わされており、単協名、仕向先(卸売業者名、仲卸業者名、実需者名)、取引期間、数量、規格、価格等についてきめ細かに定められている。

  JA利根沼田のレタスの販売先(実需者)は、量販店、外食企業、カット野菜製造企業等、多岐にわたっているが、「Gルート販売」の活用を中心に、出荷量に占める契約取引の割合は6~7割と高い割合を占めている。レタス全体の販売数量では、量販店向けが6割、加工・業務筋向けが4割という構成比であるが、契約取引だけをみるならば、その6割が加工・業務筋向けの販売である。不作時においても契約数量を確保できるよう、契約数量の2割増し程度の余裕作付を行っているが、余剰分が発生した際には量販店向けの特売用を含め卸売市場への出荷が基本となっている。

  出荷規格については、加工・業務筋向け、量販店向けともに、2Lサイズの大玉が基本である(ダンボール出荷で12~14玉、コンテナ出荷で11玉)。ただし、値決めについては、量販店向けが個数ベースの週間値決めであるのに対し、加工・業務筋の場合、重量ベースのシーズン値決めとなっている。


(3) 外食企業B社とのレタスの契約取引の特徴
  外食企業B社とのレタスの取引においても、「Gルート販売」が活用されており、JA利根沼田、JA全農ぐんま、A青果(卸売市場卸売業者)、外食企業B社の4者が関係する取引となっている。商流的には、産地側(JA利根沼田、JA全農ぐんま)とA青果間の取引、A青果と外食企業B社間の取引という、卸売市場が仲介する2つの契約取引から構成されているが、物流的には、JA利根沼田から外食企業B社の食材加工工場へ直接納品される商物分離取引となっている。

  外食企業B社との取引においては、播種前に、そのシーズンの大まかな取引数量(及び日別数量)と価格(シーズン価格)をあらかじめ決めた上で行われているが、最終的な取引数量が確定するのは納品の前週である。同JAの担当者は、この受注量と各生産者から提示される翌週の出荷予定量との調整を行い、納品前日の午後1時までに生産者毎の出荷量の割り振りを通知する。生産者は出荷当日の午前3時頃から収穫を行い、コンテナに詰めて予冷した後、午前5時頃にはA社の食材加工工場に向けてトラックが出発する。

  シーズンの取引予定数量や価格については4者の合意によって決められるが、「Gルート販売」の特徴を活かして、最終的な日々の取引数量の確定はJA利根沼田と外食企業B社の間で直接行われている。


注)『野菜情報』2007年3月号 藤島廣二『卸売市場経由の新型契約取引~「Gルート販売」を事例に』


■3.外食企業B社の概要と野菜調達の特徴等
(1) 会社概要
  外食企業B社は大手外食企業グループとして、全国各地に直営店舗を展開しているほか、野菜や肉類等の調理・加工及び精米等を行う加工場や物流センター等を有している。食材として利用する主な野菜は、たまねぎ、キャベツ、レタス、にんじん、きゅうり等であり、サラダ用等の生野菜は、自社の加工場等でカットされ各種の野菜を詰め合わせた「キット野菜」(約2kg/袋)の形態で各店舗へ配送される。


(2) 野菜調達の特徴
  B社の野菜調達においては、農業生産法人等については直接取引がみられるものの、単協との直接取引は行っておらず、特定の単協との取引においても県本部や卸売市場等を介したものとなっている。しかし、このことは、単協(及び生産者)との直接的な情報交換がおろそかにされていることを意味するのものではない。事実、B社の担当者は産地に頻繁に赴いて各圃場を回り、生産者や農協関係者との情報交換を盛んに行っており、また、生産履歴等のトレーサビリティシステムの構築にも積極的に取り組んでいる。こうした情報交換等の頻繁なやりとりの実施は、JA利根沼田との「Gルート販売」を活用した取引においても例外ではない。また、JA利根沼田側もB社の加工場を訪れて加工作業を実際に視察しながら、B社が必要とするレタスの品質、規格等の確認を行っている。

  また、野菜の調達においては、播種前に、数量、価格等を産地側に提示した上での取引がベースとなっているほか、リスク分散を図るため、同一時期に複数産地との契約取引を行うことが基本となっている。B社は、JA利根沼田とのレタス取引の時期においても他県の産地との契約取引を行っており、JA利根沼田での作柄が不良の場合、仲介するA青果が他の契約産地等から不足分を調達することによって必要量を確保する体制がとられている(また、JA全農ぐんまによる県内他産地からの調達も行われている)。


(3) サラダ用としてのレタスの使用
  B社のレタスは、サラダ用としての使用が中心である。品種については特に指定していないが、同社の原料レタスに関する納品規格書には、品質基準、大小基準、包装基準、容器基準が示されている。加工歩留まりのよい2Lサイズの大玉レタスが基本であり、また、重量ベースでの取引であるため、納品については指定した正味重量であることが重視されている(可食部分の重量が重要であり、外葉の数については2~3枚とすることが産地側と合意されている)。容器の外装には、生産者名(生産者番号)等の明記が義務づけられている。


(4) JA利根沼田とのレタス取引の経緯
  B社とJA利根沼田との野菜の契約取引は、A青果が仲介し「Gルート販売」を活用する形で約10年前にキャベツを対象として開始された。このキャベツの契約取引が双方にとって納得できるものであったことから、その後、A青果を介して、レタス、だいこん等へと品目の拡大が進められることとなった。これらの品目は、主としてサラダ用として使用されているが、取引数量の点では、現在、レタスが最も多い。


■4.中間流通業者(卸売市場)のコーディネーター機能を活用した契約取引の重要性
  JA利根沼田と外食企業B社とのレタスの契約取引は、JA全農ぐんまが実践している「卸売市場経由型の契約取引」である「Gルート販売」を活用したものである。JA利根沼田によると、実需者との契約取引を「Gルート販売」で行う最も大きな理由として、卸売市場の代金決済機能の活用が挙げられている。これに加えて、2割増程度の余裕作付を行っているものの、不作時の不足分の調整を卸売市場に委ねることができることも、「Gルート販売」の大きな利点として認識されている。また、数量の安定供給を必要とする外食企業B社からも、JA利根沼田の作柄不良が発生した際に、不足分を卸売市場を介して他の契約産地等から調達できる「Gルート販売」を高く評価する声が聞かれる。JA利根沼田、JA全農ぐんま、卸売市場(A青果)、外食企業B社の4者が連携したレタスの契約取引の推進において、JA全農ぐんまはもとより、卸売市場(A青果)の果たす役割がきわめて大きいことがわかる。

  このように、産地と実需者を結び、作柄状況等の変化に対応した機動的な需給調整等を行う中間流通業者(卸売市場)のコーディネーター機能の活用が、このレタスの契約取引の最も大きな特徴となっている。さらに重要な点は、JA利根沼田と外食企業B社との間できめ細かな情報交換が頻繁に行われ、お互いの「顔が見える」関係が構築されていることであり、これを基本とした上での中間流通業者の活用となっていることである。

  なお、JA利根沼田のレタスの出荷量に占める契約取引の割合は6~7割と高い。これを可能とする要因として、不足分を卸売市場が調達しリスク軽減が図られていることに加え、業務筋・量販店向けともに大玉レタスという共通規格を基本とし、産地全体としての契約数量の確保(及び調整)に向けた生産・出荷に取り組んでいること等をあげることができる。

  JA利根沼田では、相場に左右されない安定経営が契約取引によって可能となっている点を高く評価している。不作時においても契約数量を確保するため2割程度の余裕作付が必要となることから全量契約取引は考えられていないが、レタスの契約取引は8割程度までは可能であるとしている。



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