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調査報告


環境保全型農業における野菜栽培
~「岩手県におけるエコファーマー」と
「ちばエコ農産物」の取り組み事例から~

千葉大学大学院 園芸学研究科
准教授 櫻井 清一


  環境保全型農業の推進に関する制度としては、農林水産省が推進するエコファーマーの他、自治体が独自に推進する制度も多数ある。野菜産地では、地域の環境や自治体の方針に影響されながらも、それぞれの制度が順次導入され、面的な拡大が進んでいる。販売面では、慣行品と比べ一定の評価はなされているものの、直接高価格に結びつくことはみられない。しかし、食材調達者が商品を選択する際の重要な選択肢のひとつになっているという。


1.はじめに


 環境保全型農業の推進が政策としてとりあげられてから10年以上経過した。農林業センサスの集計結果をみても、相当数の経営体が環境保全に資する取り組みをしていると回答している。かつては限定的な取り組みにとどまっていた環境保全型農業の裾野が広がり、徐々にではあるが一般的な取り組みとなりつつある。また、環境保全型農業によって栽培された農産物や、その取引・取扱方法への関心も高い。


 その一方で、環境保全型農業を推進するための事業・制度や、その運用上のルールが多様化したため、生産・流通・消費の各段階で、制度の理解や運用をめぐって混乱が生じているのも事実である。


 そこで本稿では、野菜作を主な対象として、環境保全型農業の導入を支援する二つの制度を紹介し、これまでの普及の経過、導入による成果および運用上の課題を具体的に明らかにすることを目指す。検討の対象とするのは、農林水産省が推進する「エコファーマー」と、都道府県が独自に推進する制度である。前者の事例としては岩手県におけるエコファーマーと後者の事例としては、野菜作の盛んな千葉県が推し進める「ちばエコ農産物」を取り上げる。両制度について、制度普及の経過並びに行政の推進方向と、導入した産地の動きを紹介する。最後に簡単な比較を行い、共通点と相違点を整理することにする。


2.エコファーマーと自治体別認証制度


 環境保全型農業に取り組む農業経営体を支援するために全国的に取り組まれている制度として、エコファーマーが挙げられる。エコファーマーは、1999年に施行された持続農業法に基づき推進されている。農地の生産力が減退している状況に対処すべく、持続性の高い農業生産方式を導入することを目指し、種々の措置が講じられている。具体的には、都道府県が地域の特性を踏まえて策定した「導入指針」に基づき、農業者が①土づくり②化学肥料の投入量低減③化学合成農薬の使用回数低減の3カテゴリー全てに取り組むことを「導入計画」として作成・提出する。審査のうえ認められるとエコファーマーとして認定を受ける。認定されたエコファーマーには、農業改良資金の貸付に特例が適用される。また計画に沿って栽培した農産物の出荷時にエコファーマー・ラベルを使用することも多くの都道府県で認められている。ただし、エコファーマーは持続的農業を推進する農業者に対する「ヒト認定」であり、栽培された農産物の生産工程に関わる「モノ認証」ではない。なお、ここで言うモノ認証とは、生産工程に関わる認証を指し、最終製品の品質チェックを含むものではない。


 表2に近年のエコファーマー認定件数(実数)、および2005年センサスで把握された農業経営体数を分母として算出した認定率を示した。2002年に1万件を超えて以来、認定数は着実に増加し、2007年3月現在では12万7千件、認定率では6.4%に達している。経営体全体の中ではまだ多いとはいえないが、普及の裾野は広がりつつあるといえよう。ただし、認定状況には都道府県の間で大きな格差が生じている。山梨のように認定率が2割を超える県がある一方、認定率が未だにゼロに近い府県も存在する。


 しかし認定率の低い県が、環境保全型農業に消極的であるわけではない。むしろ認定率の低い県は、環境保全型農業を推進する独自の制度を持っていることが多い。例えば岐阜県が独自に実施している「ぎふクリーン農業」の場合、県内の認定率は3.1%(推計)となっており、決して低くない。しかも都道府県レベルで独自の制度を持っている場合、その多くが特別栽培農産物のガイドライン(2003年大幅改正)をクリアできる水準の生産工程を担保するモノ認証制度であることが多い。中にはガイドラインに定められるレベル(化学肥料使用量・化学合成農薬使用回数ともに慣行の5割減)を上回る厳しい基準を設け、さらなる環境への負荷低減と産品の安全性・安心感向上をアピールする制度をひく県も存在する。千葉県の調査によれば、37都道府県で特別栽培農産物を認証する地域独自の制度が用意されている。認証主体は自治体であるケースが多く、JAがそれに次ぐ。中には第三者機関を設置している県もある。どの例でも、肥料・農薬の使用に関して数値化された基準を持っており、課されている基準も厳しいこと、さらに収穫時にも検証が入ることから、実質的にはエコファーマーより高いレベルでの環境保全型農業の実効を担保する制度として機能しているといえよう。


表1 全国で展開するエコファーマーと自治体レベルの独自の取り組みの制度の比較



表2 エコファーマ認定件数と認定率



3.岩手県におけるエコファーマー推進の動き


 東北地方はエコファーマーの取得件数が多い地域であるが、その中でも岩手県は早くからエコファーマー取得を推進してきた県である。2007年3月現在の認定件数は9,010件であるが、これは全国第2位の多さである。認定率も全国有数の高さといえる。


 県が定めた導入指針に沿って、各経営体が持続性の高い農業生産方式を導入するための計画書を提出し、認定を受けるというプロセスは、持続農業法の示す雛形と全く変わらない。しかし県では、農協とともにエコファーマーを育成する事業を長年にわたり継続して実施し、普及に努めてきた。県では、2010年までに販売農家の半数、長期的には全販売農家のエコファーマー取得を目指している。


 県が策定した導入指針には、現在46品目について具体的な農業生産方式の内容が示されている。このうち野菜は25品目を占めており、多品目にわたり具体的な環境負荷低減に資する技術メニューが用意されている。普及部門と試験研究部門が連携して検証を重ねてきた成果が蓄積されている。


 エコファーマーの普及について、近年二つの傾向がみられるという。一つは稲作と野菜作を中心に、産地が一帯となり、関係農家のほとんどがエコファーマーを取得する例が増えていることである。特に野菜作の場合、果菜類の産地を中心にその動きが顕著である。2007年県内において登録件数の多い野菜品目はトマト(1,533件)、ピーマン(1,143件)、きゅうり(662件)であるが、これら3品目の認定件数のうち産地規模で集団的な認定がなされた割合は順に92%、94%、94%という高さを誇る。JA系統組織の普及活動や、省農薬技術が果菜類で確立・普及したことも、集団的認定を促したといえる。二つ目の傾向は、2007年度より本格導入された農林水産省の「農地・水・環境保全向上対策」と連動する動きが見られることである。同対策では、地域全体の農業者による環境負荷低減に向けた取り組みを実践することを導入の基礎要件として求めている。それを具体化する手だてとして地域一帯となったエコファーマー取得を目指す動きが増えているという。多様な地域でエコファーマーを増やすには、対象となる品目がなるべく多く導入指針の技術メニューに組み込まれ、実際の認定対象となっていることが望ましい。そのため県でも技術的検証を加えつつ、対象品目数を増やす傾向にある。


 早くからエコファーマーを推進してきた岩手県だけに、普及上の課題も明らかになりつつある。その一つが5年毎の更新問題である。現制度では認定期間は5年であり、更新が必要となる。その際、前回申請時には導入していなかった新しい技術を盛り込んだ計画を立てることが求められている。これは被認定者の環境負荷軽減技術をレベルアップするうえでは有効な措置であろうが、現実問題としては早急に新たな技術を確立・導入することは難しく、更新には苦労がつきまとうという。この問題を比較的簡単にクリアできる手だてとして、新しく開発された低負荷型の農業資材導入がある。しかし新資材は高価格であることが多い。現場では、肥効率のチェックや投入法の改善等により、農家の負担を現行以下に抑えるよう努力している。


4.JA新岩手にみるエコファーマーの取り組み


 JA新岩手は岩手県北西部の6市町村を管内とする農協で、合併により1997年に成立した。稲作/園芸/畜産(酪農・肥育牛・繁殖・養豚)の3部門が管内に展開しており、地域全体としてみればバランスのとれた複合農業が展開している。野菜販売額は約50億円(2006年度)に達する。葉菜類(キャベツ・ほうれんそう等)と果菜類(ピーマン等)の栽培が盛んである。


 同JA管内で最初にエコファーマー取得に力を入れたのは、管内のトマト、ほうれんそう部会員である。この動きが他品目の部会にも波及し、現在ではトマトについてはJA管内全体、ピーマンも東部地区全体の共販農家がエコファーマーに認定されている。さらに野菜作の盛んな管内東部の岩手町周辺では、ながいも、キャベツ等でも部会員がまとまってエコファーマーを取得している。しかしエコファーマー関連の特別な組織を作ったことはないという。換言すれば、日常的な部会活動の中でエコファーマー取得が推進され、定着してきたといえる。ただし、エコファーマー取得者は果菜類で先行し、管内野菜のもう一つの重要部門である葉菜類についてはやや取りかかりが遅れたという。その理由としては、露地栽培が多いため、気象条件の影響を受けやすいこと、また技術のコントロールが施設野菜に比べ難しいことがあげられる。


 販売においては、エコファーマー栽培品であることを全面的に押し出すことは少ないが、東部部会のピーマンについてはマークを包装資材に付して出荷している。だがエコファーマー栽培品であることによって明確に価格上の有利性を引き出せることはないという。しかしながら、販売の現場からは、エコファーマー産品であれば、価格プレミアこそつかないものの、慣行品に比べれば優先的に取り扱われることが多く、最後まで売れ残ることは少ないとの評価もあるという。換言すれば、産地としてまとまってエコファーマー取得と実践を推進していることが、一定の技術とコンプライアンスを確保しているという産地の「ミニマム・スタンダード」を示す基準として機能し、このことが買い手と産地の信頼構築につながり、取引の継続性を高める方向に作用している。


 特別栽培農産物への取り組みは主に稲作で増えているが、取り組む農家の多くがエコファーマーの先行取得者である。エコファーマー推進が環境負荷低減的な栽培技術を導入する第一ステップとなっているようである。


 また、JA新岩手管内でエコファーマー取得者が拡大した背景の一つに、管内の畜産農家の存在が挙げられる。地域内に良好なたい肥材料の供給源があり、畜産農家自らたい肥の品質改善に熱心に取り組んでいる。野菜農家も、適切なコストを払った上で畑に良質なたい肥を還元していくことが、自身の野菜作の持続性を確保し、かつ地域内の資源循環にもつながることを熟知している。




JA新岩手管内のエコファーマ-に取り組むキャベツ産地

JA岩手のピーマンの出荷の段ボール
(エコファーマーのマーク入り)


5.都道府県独自の認証制度:ちばエコ農産物を例に


 千葉県は全国有数の農業生産県であり、野菜の産出額もトップレベルにある。しかし県内にて登録されているエコファーマーは1,572名、推定認定率は2.4%(2007年3月現在)であり、増加傾向にあるとはいえ決して多いとはいえない。


 その一方で、千葉県では2002年より県独自の工程・モノ認証制度である「ちばエコ農産物」をスタートさせており、その認証件数はエコファーマーを上回っている。県では早くから環境保全型農業を支援する独自の施策を試行してきたが、数的基準を明示した認証システムの構築が重要と判断し、先行していた滋賀県の事例等を参考にして現システムを構築した。地域慣行に比べ化学肥料・農薬とも2分の1以上削減という基準は特別栽培農産物のガイドラインと同等である。しかし上記栽培基準だけでなく、栽培記録の記帳と情報公開、廃プラスティックの適正処理、生産管理体制の整備も要件として課せられている。さらに生産前の計画申請と出荷前の認証申請の双方が必要とされ、実際に検査されるので、実質的には作期毎に認証を受けていることになる。また、面的にまとまりのある産地(5haが目安)はちばエコ農産物の指定産地として登録される。


 なお、栽培基準のうち一部に国の特栽ガイドラインと異なる運用を行っている場合があるため、特別栽培農産物との表示は行っていない。だが流通業者からは、独自の基準による表示が増えることで生じる混乱を心配する声が強いため、今後はガイドラインとの齟齬を解消し、特別栽培農産物としても表記できるよう運用を改めることが検討されている。


 表3にちばエコ農産物の栽培状況に関する指標の推移を示した。生産者数、指定産地数、面積とも漸増傾向にあるが、あわせて対象品目数も増加していることが注目される。この中には林産物や水耕栽培品も含まれている。エコファーマー等、既存の環境保全型農業推進制度においては、土耕を前提として生産力の持続性や環境負荷の低減が議論されてきたため、水耕栽培は一種の盲点となっていた。しかし水耕品についても負荷を低減しうる環境下で栽培されたものについては何らかの認証を与えるべきという意見が多く寄せられるようになった。千葉県では関係府県とも情報交換しながら、施肥・投薬水準だけでなく養液の処理方法にまで踏み込んだ厳しい基準を設定し、認証手続きを行っている。


表3 ちばエコ農産物の栽培状況



 産地としてのまとまりを持たずに個人で認証を得る経営体も一定数いるが、そのタイプは二つに分けられる。一つは都市部を中心とする個人出荷志向の農家である。もう一つは直売所を主たる販路とする零細な出荷者である。一部の直売所では、環境保全への貢献を明確にアピールするため、ちばエコ農産物の認証を出荷者に推奨している。中には全出荷者の認証に向けて取り組みを進めている直売所もある。


 また、ちばエコ農産物の指定産地の中には非農協系の出荷ネットワーク組織も多く含まれている。こうした組織は生協、量販店などとの間にクローズドな販路を形成していることが多いが、取引先に対して、農産物の製品としての安全性や、産地としての環境保全への取り組みをアピールするための裏付けとしてちばエコ農産物の認証を活用している。


 最後に、ちばエコ農産物を積極的に販売する店舗を「協力店」として登録し、販促グッズや各種情報の提供を行っている点もユニークである。協力店は県内と隣接エリアに310店舗ある。全国チェーン店から個人商店、直売所に至るまで、店舗のバラエティは広い。しかし県民のちばエコ農産物に対する認知度はまだ低く、4割前後にとどまっているという。今後、マーケティング面では、県内にてちばエコ品常設店舗を増やし、情報提供をこまめに行って教育的効果も高めながら県民の認知度を上げること、それを下支えにして隣接する大市場である東京へさらなる販売促進を行うことの2点を大きな目標としている。


6.ちばエコ農産物に取り組む都市部の野菜産地:JA市川市・船橋地区の例


 JA市川市は、同市と船橋市・浦安市をエリアとする都市農協である。管内は宅地開発が進んでいるが、その中でも梨、にんじん、だいこん、かぶ等を生産する優良園芸産地として一定面積を保持している。このうち船橋地区の共販部会組織を中心に、ちばエコ農産物等の各種制度も活用した環境保全型農業導入の動きが活発化している。しかも都市部産地にみられがちな篤農家の個別の取組みとしてでなく、共販組織を核とした面的拡大が進んでいる点に特徴がある。動きが本格化したきっかけは、無登録農薬問題やポジティブリスト導入が議論されたことにある。隣人でもあり消費者でもある都市住民に対する説明責任を明確にするとともに、産品の安全性をアピールするため、2003年よりJA全農ちばが推進する「もっと安心農産物」運動へ本格的に着手することになった。具体的な取り組み内容はちばエコ農産物の要件に近いが、JAの場合、農薬要件が努力目標となっている点が異なる。導入後、かなりの出荷者が短期間でちばエコ農産物の要件を満たせるレベルに達したため、2005年よりちばエコ農産物の指定産地としても認証を受け、現在ではにんじん(10ha)、だいこん(4ha)、こかぶ(2ha)、こまつな(延べ5ha)でエコ指定産地となっている。さらに2006年からは、多数の農家がエコファーマーの登録も行っている。複数の認証・認定制度を活用し、環境保全型農業の励行とその情報開示に努めている。


 畜産農家が都市を追われることの多い現在、都市部で野菜作を続けていく上で、たい肥を確保することは困難を伴うことが多い。しかし船橋地区の場合、市内の競馬場や関連厩舎等から供給される敷わらを含んだ良質な馬糞たい肥を調達できる点が強みとなっている。


 管内野菜の販売は、原則として卸売市場経由でなされている。卸売/仲卸業者との取引では、ちばエコ農産物を出荷することで直接価格に跳ね返ることはないという。しかしこうした取り組みを継続していることが、取引先からの信頼度をアップさせることには貢献すると考えている。ここでも環境保全に貢献する技術で栽培されたという証が、取引を継続していく上で重要な要素となっていることがうかがえる。



宅地化の進む中でも「ちばエコ農産物」の
制度を利用して維持されている野菜産地
(JA市川市・船橋地区)


7.まとめ


 全国で展開するエコファーマーと、ちばエコ農産物をはじめとする自治体レベルの独自の取り組みを比較すると、相違点と共通点がそれぞれ浮かんでくる。最後にそれらをまとめておく。


 まず相違点として、制度の出発点において、エコファーマーが環境保全に資する農業技術を導入するという営農行為を認定する「ヒト認定」であるのに対し、ちばエコ農産物は環境保全的な肥培管理工程に沿って栽培された農産物であることを認証する「モノ認証」であるという大きな違いがある。そして後者の場合、農林水産省ガイドラインによる特別栽培農産物のレベルを確保するため、化学肥料と農薬の投入について明確な数的基準が設けられている。さらにそれを確認するために、計画・収穫各段階でのチェックがあり、実質的に一作毎の検証を受けていることになる。したがって現実問題として、エコファーマーに比べ多くの独自認証制度の方が、生産者にとってはハードルの高い取り組みとなっている。今回の調査では、この違いについて、産地レベルでは理解が進みつつあり、むしろその差をステップアップととらえ、新たな目標としてうまく取り込んでいる例もみられた。しかし流通・消費段階でどれだけの関係者がこの違いを理解しているかは不明である。制度や表示の厳格化は求められやすい。しかしそれをどう教育し理解させるか、場合によっては情報を縮約し簡素化したほうがよいのか、川上部門と川中・川下部門がもっと意見を交わし確認する必要があるだろう。


 もう一つ注目される相違点は、エコファーマーが依拠する持続農業法が土耕栽培を前提としているため、モノ認証システムの中では当然取り上げられる水耕栽培品への対処法がないことである。当初想定されなかった方法に沿って栽培された農作物が環境に与える影響を評価し、負荷にあたる面はその低減技術を開発して、現行制度にも組み込んで行く努力が今後求められる。


 一方、両制度の普及ないし運用プロセスにおいては共通面も多数見いだせる。まずいえることは、 どちらの制度も農林水産省による新たな農村地域政策である「農地・水・環境保全向上対策」とのリンクが進みつつあることである。様々な支援制度が提案・試行されることは、実際の推進役となる自治体にとっては混乱を生じる基ともなりかねない。なるべく複数の制度がうまく連動して導入できるのが行政効率上も望ましい。上記対策において、エコファーマーは当該地域メンバー全戸に求められる基底的活動、ちばエコをはじめとする特別栽培レベルの独自事業は相当数のメンバーに求められる上位の活動として導入される例が既にみられる。地域政策とも連動して導入されれば、環境保全型農業技術の面的な拡大・定着にもつながるだろう。


 二点目として、両事例とも、土づくりの実践で欠かせない有機質肥料の確保が重要であることを示している。今回の調査地では、産地周辺に良質なたい肥の供給源があったことが、短期間のうちに環境保全型技術導入を面的に拡大することに貢献したといえる。しかし畜産農家の減少と立地の局地化が進む現在、特に都市部や平野部において良好な有機質肥料を近隣から調達することは難しくなりつつある。輸送面の支援あるいは非畜産由来の資源利用(食品残さを含む)等、対策を検討する必要があるだろう。


 最後に、環境保全型農業技術の採用が即農産物の価格を押し上げる、あるいは有利な取扱いをもたらす状況ではなくなっていることもわかった。また産地側もその傾向を徐々に受け入れつつあるようである。しかし環境保全型技術が取引の場で無視されているわけでもない。現時点では、環境保全型技術を積極的に導入している産地であるかどうかが、バイヤーが商品を選択する際の重要な比較材料となっており、実際にそうした産地で栽培された農産物が慣行品に比べれば選択されやすい傾向もみられた。量販店との取引の場合は、環境保全型農業を実践する産地であることが、出荷者としてのミニマム・スタンダードとなる可能性もあるだろう。




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