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調査報告


宮崎県における冷凍ほうれんそう生産の概要と
JAグループ宮崎の取り組み

調査情報部 調査情報第二課
吉田 由美
野菜業務第一部 交付業務課
加藤なづき


 冷凍ほうれんそうは2001年の中国産の残留農薬問題を契機に国内での生産が増え、特に宮崎県では、導入も早く現在も生産量を維持している。

 もともと「焼酎用かんしょ」や「切り干しだいこん」など加工原料野菜生産の歴史が古いという特徴がある宮崎県で輸入品との価格競争の中でどのように冷凍ほうれんそうの生産・加工を始め生産も規模を拡大してきたのか、また、JA・生産者と経済連、そして加工メーカーとの連携はどのようになされているのかを中心に事例を紹介するとともに今後の課題を述べる。

1.冷凍ほうれんそうの輸入動向
 冷凍ほうれんそうの輸入数量の推移をみてみると、安定的な国内需要から増加してきたが、2001年の中国産ほうれんそうの残留農薬検出を機に2002年、2003年と激減している。

 輸入国の推移をみると2003年を境に中国産が減少したのに対し、ベトナム、台湾、インドネシアからの輸入が一時的に増えた。しかし、中国産の安心・安全へ向けた技術普及の向上などから、近年は再び中国産の割合が増加しつつある。

 台湾産の価格は中国産が不足した2001年に急騰し現在も200円/kg前後で推移している。また、タイ産、ベトナム産は一時的に高騰したものの輸入数量は激減し、価格も台湾産よりも低い水準で推移している。

図1 冷凍ほうれんそう輸入数量と単価の推移

(円/kg)


資料:農畜産業振興機構「ベジ探」データベース


図2 冷凍ほうれんそうの輸入国別割合の推移


資料:農畜産業振興機構「ベジ探」データベース


図3 国別単価の推移


資料:農畜産業振興機構「ベジ探」


図3 国別単価の推移

(円/kg)


資料:社団法人日本冷凍食品協会「日本の冷凍食品生産高・消費高に関する統計」

2.国内における冷凍ほうれんそう生産概況
 国産冷凍ほうれんそうの生産数量は中国産冷凍ほうれんそうの残留農薬問題が発生した2001年以降、増加し2004年にやや落ち込んだものの現在まで増加傾向である。
価格は250円/kgから350円/kgの間で推移し、最も輸入量が多い中国産の価格が100円/kgから150円/kgの間で推移しているのと比べて2.5倍~3倍の価格となっている。

3.宮崎県における加工原料生産の概要
(1) 加工原料生産の歴史
 宮崎県の代表的な加工野菜である切り干し大根は明治後期に愛知県からの移住者により始められた。それ以前から、“むきさといも”、加工用かんしょなど加工原料野菜を生産しており、宮崎県はもともと野菜の加工業が盛んな地域である。

 昭和40年代にそれまで畑作の主流であったでん粉原料用かんしょが不況となり、多くの業者が漬物加工へ操業を転換した。
 同時期に農協・民間共同で設立されたのが缶詰加工工場である。

 この頃から、高付加価値化商品の開発と地域への企業誘致を目的にたけのこ、みかん、さといもの原料生産が経済連を介した契約栽培により拡大していった。しかし、この工場は昭和50年代の包装技術の変革により、大型缶詰製品の流通が減少したことで冷凍野菜部門へ生産をシフトした。

 冷凍加工主体になってからはニーズの高まりとともに、製品も多様化し契約産地も拡大していき、現在も他県の業者からの加工原料用野菜のオーダーに対応している。

 加工原料のなかでも焼酎用かんしょは産地で苗の定植時期をずらして収穫時期を調製するとともに貯蔵施設の整備が進んでおり、平成17年産の醸造用かんしょの収穫量は29,900tと鹿児島県とともに全国有数の産地となっている。

 また、その他の加工用野菜の平成19年度計画出荷量は、加工用にんじん12,700トン、加工用生だいこん10,598トン、切り干し大根用1,828トンとなっている。

 平成18年度の加工野菜(加工にんじん、加工だいこん、加工ほうれんそう、原料かんしょ、加工ばれいしょ)生産総量は110,727トン(対前年比103%)と増加傾向で宮崎県経済連では今後も加工原料野菜の生産拡大に努めていく方向である。

 今回の調査先である宮崎県西部地域も昭和40年代まで南九州を代表する原料かんしょの産地であったが、かんしょ澱粉の低迷により野菜生産が急増した地域である。また、この地域の土壌は葉菜、根菜の生産に適しスムーズに野菜生産に移行した地域でもある。

表1 ほうれんそうの栽培状況(平成17年)


資料:「市町村集計による野菜生産出荷実績並びに計画」宮崎県

(2) 宮崎県における加工ほうれんそう生産
 宮崎県における加工ほうれんそうの生産概況の推移を見ると、生産量は緩やかに増加していたものの中国産冷凍ほうれんそうの残留農薬が発見された翌年の平成14年(2002年)以降、作付面積、販売数量ともに増加している。

 平成12年から平成17年にかけて、加工・業務用におけるほうれんそうの輸入割合は30%から14%と大幅に減少しており(農林水産政策研究所)学校給食を中心にした国産原料へのニーズの高まりとともに宮崎県内での加工ほうれんそうの生産戸数は増加し、特に残留農薬問題発覚後の平成14年には対前年比で2割ほど増加している(表2)。

表2 宮崎県内の市町村別・加工ほうれんそうの生産戸数の推移

(単位:戸)


資料:「市町村集計による野菜生産出荷実績並びに計画」宮崎県

 原料ほうれんそうは製品にすると水分等が抜け、重量は約7割になる。
 平成17年(2005年)の販売数量7,786tは製品に換算すると約5,450tとなり一部カット野菜として使用されるものの、国内冷凍ほうれんそう生産量7,689tにおける宮崎県産の割合は高い。

 ほうれんそうという品目は外食・中食のメニューには通年欠かせない品目であるが、下処理の多さ、手間などから流通量に対する加工・業務用需要は44%と伸びてきている。一方で産地側としては軽量で高齢者でも比較的取り組みやすいこと、さらに、手間の割には単価が他の野菜よりも高いことから導入が進められたが、春先になると成長が急激に進み、収穫作業に人手が要ることが産地の悩みとなっている。

図5 加工ほうれんそう作付面積の推移(ha)


資料:「市町村集計による野菜生産出荷実績並びに計画」宮崎県


図6 加工ほうれんそう販売数量の推移(t)


資料:「市町村集計による野菜生産出荷実績並びに計画」宮崎県

(3) 契約野菜生産における宮崎県経済連の支援と役割~「担い手推進班」の創設~
 平成19年度からの国の農業政策の方針を受け、宮崎県経済連の営農振興課に「担い手対策推進班」が設置された。担い手等を対象の中心にした経営所得安定対策が実施されるなか、JA及び中央会等との連携を強化し担い手対応強化対策の企画、法人等の情報管理などを目的としている。

 具体的にはJA出資型法人(各JAの生産法人)および大型生産法人(大型農家)に対して作付品目の推進を行うとともに、販売促進にもきめ細かに対応するものである。

 特に契約野菜は販売先や価格が確定してから作付が行われるので、目標数量の決定が経営の安定に直結する。このため、販売先の選定が重要な作業となるが、JAや生産者レベルでは対応しきれない部分もあるため、販売先の確保を経済連として強化し、販売先、生産者双方にメリットがでるような体系を作っていく方針である。

宮崎県経済連 営農振興課
「担い手推進班」の主な業務内容
  • 担い手対策の企画・推進に関する事項
  • 担い手情報の管理に関する事項
  • JA及び中央会等との連携強化に関する事項
  • 系統及び系統外大型農家及び生産法人等に対する巡回・総合推進等
  • JAグループ宮崎担い手育成・支援方針の実践
  • 認定農業者・農業法人、集落営農組織、新規就農者の育成・支援

4.宮崎県における加工ほうれんそうの個別事例
 加工ほうれんそう工場は県内に数カ所あるが、今回は大手冷凍食品会社のOEM商品を生産しているA社と自社で原料生産、加工までをおこなっているB社の概況および今後の課題について聞き取りを行った。

 またJAについては早くから加工ほうれんそう生産を行っていたJAえびの市、及び、にんじんを中心に加工野菜原料の生産に積極的なJAこばやしについて調査を行った。


宮崎県地図

(1) 冷凍ほうれんそう製造メーカー(A社)
~会社概要~
 A社がある宮崎県清武町では昭和40年から積極的に企業誘致を行い、空港や港に近く高速道路も完備されているという有利な立地条件から工業団地が形成されてきた。

 冷凍ほうれんそうは通年、生産しており11~3月頃までの期間で原料ベースで2,000tを取り扱っており、もっとも多い冬場には500t/月となる。

 ピーク時には午前8時半から翌日の午前2時まで工場を稼働し、社員が2交代制で勤務している。

 この工場では大手冷凍食品会社のOEM商品のみを生産しており、冷凍ほうれんそうの他にかんしょ(ペースト、天ぷら用、大学芋向け)、などを作っている。冷凍ほうれんそうに関しては100%宮崎県産を使用しているが、かんしょは1割ほど鹿児島県産も使用している。


A社商品パッケージ

~契約方法・原料生産の流れ~
 契約数量は経済連とメーカーで協議し、生産者は前年及びこれまでの実績を考慮してJAが決定する。生産者の内訳は現在、JAこばやし約100名、JAえびの市約50名となっており、工場の必要量に応じて農家個別に生産計画を立てている。
 シーズン(8月~4月)2作となっている。

 品種については“とう立ち”しにくいものを3種類栽培し、リスク分散のために特定の品種に偏らないように対応している。

 茎を捨てることもあり歩留まりは7割を目標としており、おおよそ原料10kgから商品7kgの生産を目指している。

 農薬の使用頻度、濃度、種類は記録し、月に1度の頻度で提出してもらう。施肥については普及センターの指導に従っている。
 生産計画は6月頃に決定し、8月までに数量の契約を完了し9月に播種となる。

 その後、週単位で播種時期、面積、ほ場、生育をA社の担当者が管理する。収穫時期である11月~4月にかけてはほぼ毎日A社の社員がほ場へ出向き、生育のチェックと出荷指示を行う。

 規格は収穫時に確認し、A社の工場へ運ばれる。

~課題~
 冷凍ほうれんそうは収穫ピーク時が11月~4月に集中するので、この時期にバラ凍結の一次加工まで行い、夏場まで商品の製造を行っている。青果と違い「冷凍製品」となったほうれんそうに関しての消費者の目は厳しく、ちょっとした変色や異物も認められないことから、製品のチェックは人海戦術による目視での判断に頼るほかなく、ピーク時の人員の確保が大きな課題となる。

 また、宮崎県でのほうれんそう栽培は冬場に限られるため、一次加工したとしても夏場の工場の稼働率が思うように上がらず、この時期の稼働率を上げることが目標となっている。

 対策として、経済連の協力の元、原料からの新しい商品開発が進められている。またこれまではIQF(Individual Quick Freezing)と呼ばれる全ての葉茎がぱらぱらになっているバラ冷凍が多かったが、解凍するだけで食卓に出せる〔一皿分のおひたし〕のように小分けしたものなど新しい商品の開発。

(2) JAこばやし
~産地概要~
 JAこばやしは、県の南西部にあって、北は九州山地をもって熊本県、南は霧島連山をもって鹿児島県と接し、自然豊かな産地である。気候は高台地のため、昼夜の温度格差が大きく、夏は暑く冬は冷え込む温暖内陸型で平均気温年間15.8度、年間平均降水量は、2,500mmに達す。

 管内の耕地面積は6,888haで、畜産(肉用牛・酪農)を主軸に土物(さといも・こぼう等)と施設園芸(メロン・ピーマン等)の生産が盛んな純農村地帯である。

 加工用野菜としてはジュース用にんじんの生産が多く、8年前から宮崎県農協果汁に年間3,700t(本年計画)ほど納入している。

 もともと、ほうれんそう自体、栽培の経験が無い地域ではあったが、高齢化と担い手不足から、比較的、作業効率のよいという理由で12年前から冷凍原料ほうれんそうに参入した。10月から3月までの契約で、年間2作となっており、昨年の販売実績は1,200tでだった。

 通常、秋~冬場の青果用ほうれんそうは200円/kgが相場だが、加工用は半分以下の60円/kgが相場となる。

 前述したとおり、JAこばやしでは100名の生産者がA社へ出荷している。生産者ごとに生産量を決めており、出荷の調整を行っている。

 収穫したほうれんそうは集荷場に運ばれ、A社が集荷場で受け取る。運賃はA社が負担した方が生産者個々で納品するよりも安いこともありこのような出荷形態になっている。

 は種は機械化が進んでいるが、収穫はどうしても手作業に頼らざるを得ず、労務費がかかる。さらに、暖かくなる3月頃には1日に3cmほど伸びてしまうので、収穫作業を集中して行う必要があり人員の確保に苦労している。

A社の農協との連携模式図





A社の契約ほ場
青果向けほうれんそうよりもかなり大きい専用品種

コンテナに詰め込み工場へ直送される

(3) JAえびの市
~産地概要~
 JAえびの市は南九州の中部内陸地域に位置し、宮崎県の南西端にあたり、北は熊本県、南西は鹿児島県と接し総面積283平方キロメートルで、東西約26キロメートル、南北約22キロメートルの地域を有している。

 野菜だけでなく、米、畜産、花卉、果実と多様な品目を生産している宮崎県でも有数の農業地帯となっている。

~加工ほうれんそう部会を設置~
 加工原料野菜としては、冷凍ほうれんそう、ジュース用にんじん、焼酎用原料かんしょ、冷凍用かんしょ、漬物用だいこんと多品目にわたって生産している。

 ほうれんそう生産に関しては100%加工用で30年ほど前から生産が始まり、現在、50名の生産者がA社へ出荷している。A社とはもともと、加工用かんしょで取引があったことから、冷凍原料用ほうれんそうの納入に関してもスムーズに導入できた。

 実需者としては手数料がかかったとしても、JAで生産調整を行うことにより、数量を確保でき、また生産者にとっても品目によってだぶついたりした場合でも処分することがないという点でメリットがある。

  2006年には加工ほうれんそう部会も設置され、会員数は53名、栽培面積は23haとなっています。平成18年度の実績は生産量は557t/年、販売金額は3,500万円/年となっており、今後も安定的な契約生産を行っていきたいと担当者は話していた。

(4) 冷凍ほうれんそう製造メーカー(B社)
~会社概要~
 120haと広大なほ場を有し、社員99名を抱える農業生産法人であるB社では昨年、農産加工場の操業を開始し、生産から加工まで一貫したトレーサビリティーを武器に地域の農協とも連携し、野菜加工品の生産を行っている。

 B社は1965年に集荷業者として創業したが、1971年からごぼう、さといもの栽培により農業へ参入し、さらに74年には近隣の農家と契約栽培を開始し原料用野菜の集荷及び業者への供給を開始した。

~冷凍ほうれんそう生産の経緯~
 環境保全や生ゴミを減らしたいという供給先(スーパーや外食・中食)の要望から、2006年に国の「農業食品産業競争強化支援事業」の補助を受けほ場に隣接する加工工場を設立し2007年2月から本格稼働した。

 原料の調達は基本的に自社農園のものを使用するが、昨年度から近隣の農協との協力体制を強化する目的でJAこばやしから原料調達を開始した。今後も継続して地域生産者との協力体制を強化していきたいと考えている。

 売り先は大手量販店で契約はシーズンで決めている。
昨年度の冷凍ほうれんそうの生産量は日量12t~15tで、今年度は倍まで生産量を増やしていきたいと考えている。

 冷凍ほうれんそう用の種子は青果用ほうれんそうとは異なっている。メーカーからの要望は特にないが、地域にあった品種を選抜して種苗会社から購入している。

B社の連携模式図



B社・加工工場の製造工程




真空予冷装置




ほ場に隣接する加工工場
2007年2月から本格稼働

堆肥舎
2002年にエコファーマーの認定を受けた




ほうれんそう収穫風景
中国からの研修生を受け入れている

収穫された ほうれんそうは収穫後、
すぐに隣接する工場へ運ばれる

5.宮崎県の事例から
 国産冷凍用ほうれんそうの課題としては、「量目・重量等が産地、作柄によってマチマチ」、「産地間の連携による周年供給体制が確立していない」、「価格が不安定」という指摘されている。(参考文献(2))
また、学校給食を中心に国産冷凍ほうれんそうへのニーズは根強いものの、加工原料の取引は契約先の倒産などで代金回収ができないケースなど、市場取引にはないリスクもある。

 しかし、契約取引ということで、安定した収入が見込めること、また、冷凍原料ということで生鮮に比べて廉価だが、選別や包装の手間が省けることから高齢者にも比較的、栽培しやすい品目である。

 一方で、輸入冷凍ほうれんそうとの価格競争の激化で、これ以上、生産量を増やせないところまできているとメーカーの担当者は話していた。

 今回、調査した宮崎県では、経済連自らが販売ルートを開拓し、企業の信用調査を行った上で農協や大規模生産者へ作付を割り振るという方法をとっていた。

 “生産能力はあるが販売能力・情報収集力に乏しい”生産者側にとって、このような経済連の体制は非常に大きな力となる。経済連が介在することにより、出荷計画に基づき安心して契約取引を進められる。

 今年度からは担い手推進班による大規模生産法人に対する支援体制も強化され、経済連自ら積極的に販売ルートの開拓に乗り出そうとしていた。

 国産冷凍ほうれんそうの生産は、販売ルートを広げないと価格的に規模拡大が難しい。しかし、新しい商品開発も含め幅広い品目で加工業務用野菜生産への支援体制を強化していこうとする経済連の姿勢がJAおよび生産者の意欲の向上につながっているといえる。

 最後になりましたが、今回の調査にあたり各企業の皆様、JAこばやし、JAえびの市、宮崎県経済連の関係者の皆様に多大なるご協力をいただいたことに厚く御礼申し上げます。

参考文献 (1)
「日本の冷凍食品生産高・消費高に関する統計」
(社)日本冷凍食品協会
(2)
「平成17年度 加工・業務用対応型野菜産地普及・定着事業報告書」
(社)日本施設園芸協会
(3)
「農業生産法人における加工・業務用野菜の取り組み実態調査報告書」
(社)日本施設園芸協会



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