調査情報部調査情報第二課
村野 恵子
丸岡 良介
株式会社リンガーハット(以下、「リンガーハット」)は、国産キャベツを100%使用し、年間を通じて納入業者を介して全国の産地と契約取引を行っている。そのなかの一つに、納入業者の丸仙青果株式会社(以下「丸仙青果」)を介して茨城中央園芸農業協同組合(以下「茨城中央園芸農協」)と愛知、北海道の生産者が、周年で供給する体制がある。
茨城中央園芸農協はこの取り組みを20年近く続けており、本稿では、同農協を中心に、リンガーハット、丸仙青果の3者の連携の仕組みを紹介するとともにこの連携を維持していくうえで重要なポイントと今後の課題を述べる。
Ⅰ 茨城中央園芸農協の概要
◆1 契約取引と市場出荷の割合は、7対3 農協の沿革・概況
茨城中央園芸農協は、茨城県の中央部に位置する東茨城郡茨城町にある。昭和53年5月に園芸専門農協として発足した。発足当時は、茨城県は農業生産額が多く、行政が農業協同組合を創設することを推進していた時代であった。
現在、従業員は、正社員7名(うち組合長1人、販売担当1人)とパート18人注1)である。取扱品目は、ほうれんそう、こまつな、キャベツ、レタス、ねぎ、いちご、メロン、にんじん、トマトなどである。契約取引と市場出荷の割合は、7対3である。大半の品目は、加工・業務用向けで、いちごやメロン、トマトは主に市場に出荷している。
生鮮のキャベツ、レタスは外食チェーンに供給するほか、冷蔵・冷凍施設を持ち、ほうれんそう、こまつなを冷蔵・冷凍して学校給食に供給している。ほうれんそう、こまつなの加工と青果用の比率は8対2である。その他に、だいこん、ごぼうなどをカットして実需者に供給している。
同農協と現在取引がある生産者は110~120名、総耕地面積500ha、1人当たり平均面積3~4ha、大規模な生産者は10haの野菜を生産している。
最近の傾向としては、「この1~2年の間に、意欲のある生産者が加入したり、また市場出荷が主流であった生産者が、契約取引をしたいということで加入したり、なかには異業種から転職して加入してきた人もいる。」とのことで意欲的な生産者の新たな加入や規模が大きい生産者が多くなってきているとのことである。
主な栽培品目の面積は、ほうれんそう20ha、こまつな20ha、キャベツ20ha、レタス8ha、メロン5ha、トマト5haである。それぞれ部会を構成しており、ほうれんそうやこまつなの部会員は、それぞれ40名程度、キャベツの部会員は、23名、レタスは14名である。
◆2 契約取引の開始はレタスで、昭和62年から開始
茨城中央園芸農協が実需者と加工・業務用の契約取引を始めたのは、昭和62年であった。当時は、市場の相場変動が大きく生産者にとって経営が不安定だったこともあり、全農食品を通じて始めた大手外食チェーンとのレタスの契約取引が最初である。現在も、その取引は続いており、サラダやサンドウィッチなどに使われている。
◆3 リンガーハットとの契約取引は、平成元年から
リンガーハットとキャベツの契約取引が始まったのは、平成元年、仲介業者を通じて始まった。当時のメンバーは、今の部会長F氏を始めとする5名で50aの契約面積で始めたが、この時キャベツの市場価格が高騰し、リンガーハットと契約していた別な産地が市場出荷してしまい契約数量を守らなかったため、リンガーハットは必要量のキャベツが確保できなかった。その不足分を、同農協が当初の予定数量の2倍の出荷数量に増やして対応した。それが高く評価され、信頼を得たことが始まりで、平成18年は867トンのキャベツをリンガーハットに供給している。
当時は、市場出荷が主流である中、市場価格の高騰時に契約数量を2倍に増やして対応した理由を同農協の藤田専務に問うと、「部会長のF氏は以前に市場出荷を行った際、安値でかなり痛い目にあったので、乱高下する市場取引よりも収入の安定が見込める契約取引に魅力を感じていた。発足当初は生産者5人で始めた。今は、部会員が23人に増えたが、部会長のF氏を中心とする体制は当時のまま、変わらないんですよ。」と語り、リンガーハットとの取引のきっかけと今日までの継続には、部会長のF氏のリーダーシップがあったことをうかがわせた。
また、リンガーハットと生産者を結ぶコーディネーターの役割は、当初から藤田専務が行っており、営農指導も兼ね週に1度は圃場をまわり、だれよりも生育・出荷状況を把握している。1回に120kmから130kmを車で走るという。
◆4 生産者との契約方法
茨城中央園芸農協では、春と秋にキャベツを出荷しているが、生産者との価格の決定方法は、春と秋で価格が異なるが、固定価格で重量(kg)単位で決めている。価格は春の方が高く、これは10月頃に播種を行うことから、冬の寒さ、春先のトンネルなど資材費もかかり、また管理が大変なためである。
秋は7月に播種を行い収穫までの管理面で春と比べて手間がかからない。契約価格は、リンガーハットとの契約取引が始まった平成元年以降同額である。生産者との契約は、書面では結ばず口頭で行っている。
◆5 天候等による不作時の対処方法
天候等の影響でキャベツが不作の時は、実需者であるリンガーハットへの納入責任があるため、小玉でも規格に合致しているものを出荷するようにしている。しかし、どうしても出荷ができない場合は、納入業者である丸仙青果株式会社(以下「丸仙青果」)に出荷できないことを伝え、丸仙青果が市場からキャベツを調達している。
最近では、「平成16年の10月に訪れた2度の台風、17年の冬の厳冬の際は、納入数量が守れず、納入業者である丸仙青果に市場調達させて、赤字を発生させてしまい迷惑をかけてしまった。いかに契約数量を確保するかが課題。そのためには、不作の時効率が悪くても小玉のものまで生産者に出荷してもらうことをお願いしているが、生産者にどこまで小玉のものを出荷してもらうか苦心している」と、折しも、今年の6月始めも天候不順のため、欠品をだしてしまったとのこと。小玉をだすことは生産者にとって効率が悪いため嫌がられるなかで、いかに契約数量を確保するか、不作時の苦悩を藤田専務は語る。
◆6 納入業者である丸仙青果との契約方法
同農協と丸仙青果の契約価格は、生産者と同じで春と秋、それぞれの固定価格で重量(kg)単位で決めていて、春の方が高い。リンガーハットとの取り組みが始まった平成元年から現在まで、中国産のキャベツが輸入されたときに契約価格が一度下がったことがあったが、それ以外は価格の改定は行っていないとのことである。
不作時でも、同農協と丸仙青果の間では価格の改定は行っていない。同農協が欠品をだすときは、丸仙青果は価格にかかわらず市場からキャベツを調達しなければならない。しかし一方で、豊作などでできすぎた場合でも、丸仙青果は契約数量のみの取引をし、産地廃棄をする場合もあるという。
◆7 生産者の現況
キャベツ部会の生産者は、キャベツの他に、レタス、ほうれんそう、トマト、スイートコーンなど多数の野菜を栽培し、さらには、米や梨や肉牛を飼育するなど多角的に経営を行っている生産者もいる。
キャベツ以外の野菜においても実需者と契約取引を行っている割合が高いことも特徴である。ある生産者からは、「契約取引はコスト計算ができること、収入が見込めることから将来を見越した経営ができ、今では、契約取引以外考えられない」と話す。コスト意識が高く、経営に対して前向きな生産者の姿勢を感じた。
一方、「台風の時期などでも、契約のため収穫しなければならない時があり、雨の時は圃場に入るのは大変だし、さらに、不作でものがない時も納入義務があるので大変。」といった声も聞かれた。
◆8 営農、栽培、出荷体制
栽培ステージは、表1のとおりである。
栽培上の工夫としては、4月~5月に寒玉キャベツを作るに当たり、マルチ、ハウス、トンネルの活用、中早生を入れるなどの工夫を図っている。さらに、土壌診断は、各圃場ごとに、年1回実施し、それに基づいた肥培管理を実施している。たい肥は、部会内にいる肉牛生産者が保有しているたい肥施設で発酵させて作った牛ふん籾殻たい肥を、各生産者が有料で購入して使用している。
現在、同農協で栽培しているキャベツは業務用の4品種で、種苗会社との協力のもとで栽培方法の指導を生産者に対して行っている。また、苗の管理などの打合せや、生育時の病害などの対応、出荷時期の管理の確認等のため種苗会社の担当者は生産者を個別に訪問し指導を行っている。
生産履歴については、農薬の記帳を各生産者が責任を持って行い、春と秋の各シーズンに出荷前に生産者が同農協に提出している。一方、残留農薬検査は生産者と同農協が経費を負担し、外部に委託して各野菜、1シーズン1回検査を行っている。
栽培計画は、種苗会社の協力のもとで、品種等を考慮に入れながら、生産者と同農協との間で検討する。契約数量に基づいた出荷量のコントロールは、播種時期や播種量をずらすことで調整している。また、出荷時には、「生産者に携帯電話を持ってもらい、生産者同士でも連携して出荷調整を図っている。」とのことである。
出荷は、13kgと15kg用コンテナで行っている。規格は、キャベツ一玉当たり1kg以上であることがリンガーハットとの契約で決まっているが、出荷するキャベツは、1個平均2kg以上で、市場出荷よりも大きいことが特徴である。1コンテナには通常、5~6個だが、前述したとおり不作時には、小玉のものが9~10個になる時もある。
コンテナには、出荷日、生産者名を書いたラベルを貼って出荷し、問題が発生した時には、早急に対応することができるようにしている。藤田専務からは、「虫が混入しているなどの問題が発生したら、そのコンテナに書いてある出荷日と生産者を特定して、すぐにその生産者の圃場に行き、問題解決に向けて行動する。」との話があった。
Ⅱ リンガーハットの概要
◆1 会社概要
リンガーハットは、昭和37年7月に「とんかつ浜勝」を長崎市で創業したのが始まりで、昭和45年に浜勝商事株式会社を設立、その後昭和57年に株式会社リンガーハットに商号変更し、今日に至っている。現在、リンガーハットグループは、「長崎ちゃんぽん」、「とんかつの浜勝」、「長崎卓袱浜勝」、建築関係の「リンガーハット開発株式会社」の4つで構成されている。モットーは「専門店として食の安全・安心に努めながら、美味しさから生まれる幸せや楽しさを追求していく」ことである。
本社は福岡県福岡市と東京都港区にあり、従業員は正社員591名注2)、売上高は359億円注3)、工場は佐賀県神埼郡、同県鳥栖市、福岡県太宰府市、静岡県駿東郡の4箇所にある。
キャベツを使っているのは、「長崎ちゃんぽん」と「とんかつ浜勝」で前者は全国で431店舗、後者は101店舗である。最近の外食産業をとりまく状況としては、1997年の29兆円を最高に2004年の実績は24兆5千万注4)で減少傾向が続いており、厳しい状況にあるといえる。
注2)平成19年2月現在
注3)平成19年2月期
注4)資料:外食産業市場規模の推移(譛外食産業総合調査研究センター推計)
◆2 リンガーハットに契約取引の概要
キャベツは、国産のみ使用
リンガーハットは、キャベツの入手方法を西と東に分け、それぞれ3,000トンずつ年間6,000トン、周年で契約を行っている(表2)。
東日本は、兵庫県から東のエリアで、北海道、茨城県、神奈川県、山梨県、長野県、愛知県などの産地から静岡県駿東郡にある富士小山工場に納入させている。納入業者は2社で、1社は、丸仙青果である。丸仙青果が扱う供給量は、年間を通して約2,000トンである。
西のエリアへは、主に熊本県を中心に佐賀県、大分県、宮崎県など九州の産地から3つの納入業者を通じて年間供給され、佐賀工場、鳥栖工場に、約3,000トンが工場に出荷される。
これらキャベツは「長崎ちゃんぽん」、「とんかつ浜勝」で、長崎ちゃんぽんなどの麺類、ぎょうざ、とんかつのつけ合わせに使われている。
リンガーハットでは、キャベツの他に、にんじん、きくらげ、きぬさや、コーン、もやしといった野菜も調達し、工場で加工したうえで店舗に供給している。これらの野菜もキャベツと同様、市場からの調達は行っていないが、キャベツ以外の野菜は海外の産地との契約取引で、輸入商社を通じて調達しているとのことである。また、もやしは中国産の種を仕入れ、工場で栽培している。リンガーハット全体の原材料に占める割合は、金額ベースで(1)豚バラ肉、(2)キャベツ、(3)米の順番で、キャベツは約6%とのことであった。
◆3 キャベツの契約方法
同社におけるキャベツの契約は、東と西に分けて行い、新年度前の12月~2月にかけて、入札で決定している。キャベツの見積価格を複数の納入業者から提示させ、2月末に決定している。その際、納入業者は、産地ごとのリレーを明確に示すことが求められている。
野菜は、天候による不作が発生することから、納入業者を1社にせず、現在西日本は3社、東日本は2社の納入業者と契約を結んでいる。契約は納入業者ごとで、契約価格は、固定価格(kg単位)だが、入札は、価格のみの競争ではないとのことである。契約取引の性格上、一旦取り組みを始めたら原則として継続して栽培をお願いするが、それぞれの産地の過去の実績、出荷の際の信頼などが加味され納入数量のシェアも変動するとのことであった。
キャベツの周年調達を一手に引き受けているのは、購買部の石橋部長である。同氏は、福岡本社勤務だが、同社に出荷される全国すべての産地を必ず月に一度見に行っている。同氏は、「リンガーハットとしては、顔の見える契約取引で100%調達し、なるべく市場調達はしたくない。キャベツの作付量は当社の使用量をもとに計算してお願いしているが、天候によっては順調に供給できなくなることもあり、市場から調達することもある。そのため、天候リスクを考えた産地分散をもっとしなければいけないのと同時に、生産者には品種、栽培方法を工夫して、量と品質をより安定させてもらい、できるだけ市場からの調達を少なくしたい。」また、「実需者として、生産者との間をとりもつ納入業者とも長年にわたり信頼関係を構築してきたおかげで現在の契約取引がなりたっている」と話す。
Ⅲ 丸仙青果の概要
◆1 会社概要
前述のリンガーハットと茨城中央園芸農協をつないでいるのが、丸仙青果である。丸仙青果は、リンガーハットにキャベツを納める納入業者で、年間を通して約2,000 トン、富士小山工場に納入している。その産地の内訳は、表3のとおりで、春と秋が茨城中央園芸、夏は、北海道のJAびほろ、冬が愛知の渥美出荷組合となっている。
丸仙青果は、もともと地方卸売市場を開設していた卸売業者で、仲卸も行っていたが、今は、外食向けの納入業者に専念している。リンガーハットにキャベツを納入するほかに、自社のカット工場にてキャベツ、レタス、ねぎ、にんじん等の野菜及び果物を加工して外食業者向けに納品している。年商は30億で従業員は社員23人を含む合計110人で、365日、工場は24時間稼働している。
◆2 産地からリンガーハット工場までの物流の流れ
リンガーハットでは、朝と昼と夜の1日3回、原料を受け入れている。茨城中央園芸農協からリンガーまでの物流の流れは、図2のとおりである。
丸山青果は朝と夜2回の配送を担当しており、リンガーハットから丸仙青果への出荷指示は、朝の分は前日の夕方、夜の分は納期の3時間前に入る。その注文数量に応じて、丸仙青果は配送している。丸仙青果以外のもう1社の納入業者は1日1回の配送を担当しており、配送数量は毎日定量である。丸仙青果は、各店舗での売れ行きに応じた数量調整に応じているので、毎日納入数量に変動がある。
特に、御殿場にある冷蔵倉庫に1~2日分の在庫を保管しているが、週末にかけては、追加が発生することがあるため、在庫数量によっては、産地に急遽追加の指示をだしたりする。リンガーハットへの対応は冨沢社長を含め2名で対応を行っているが、追加時は、冨沢社長から茨城中央園芸農協の藤田専務に連絡し、通常午前の収穫だが、追加に対応できる生産者に午後の収穫をお願いすることがあるという。
Ⅳ 生産者と実需者の連携の維持
◆ コミュニケーションをいかにとるかいうことと信頼関係が重要
茨城中央園芸農協のキャベツ部会は、出荷開始後は、週1回、藤田専務の調整で全生産者を集めて、主に作付面積や出荷数量について話し合っている。数量をまず生産者が提出したうえで、会合で皆と話し合いながら、藤田氏が中心になって出荷調整を行っている。
その他、実需者であるリンガーハットと種苗会社との会合も定期的に行い栽培方法などの情報交換を行っている。キャベツの出荷中には、毎月1度、リンガーハットの石橋部長と丸仙青果の冨沢氏が圃場を訪れる。
この時、他産地だとJA担当者と当該産地の生産者のみの場合が多いとのことだが、同農協の場合は、部会の全生産者が一緒になって同農協管内の出荷者の圃場を見てまわるという。他の産地をたくさんまわっている石橋氏も、20人近くの生産者が一緒についてくるので、圧倒されるという。
さらに、キャベツ部会の生産者から積極的にリンガーハット工場への訪問を提案し、年1度工場見学を行い、実際の加工現場を見学するなどの交流を図っている。なかにはこれまでに17回も工場訪問している生産者もおり、「リンガーハットの工場は年々製造ラインが改修され、見る度に新しいラインができているので、訪問する度に新たな発見があり勉強になる。」と語る生産者もいた。
生産者は「実需者の顔が分かると緊張感と責任感が生まれ、やる気につながる。」と話し、一方実需者側の石橋部長は、「産地視察を定期的に行うことで生産者の意識が変わってきた。生産者の顔が見える関係を構築することが重要で、より安心安全な野菜の生産につながる。」という。
茨城中央園芸農協と他の産地と取引する違いは何か問うと、同農協のキャベツは、巻きがしっかりしていて外葉が1枚のみというのがほとんどなのだという。他の産地のものだと、巻きがゆるくて、外葉が2枚以上ついていたりすることもあり、工場内で外葉を2枚以上はずせばゴミも多くでるし、巻きがゆるければ重量も余計に減ることで歩留まりが悪く、逆に茨城中央園芸農協のものは、歩留まりがよく無駄がないということにつながる。
また圃場の雑草の生え方が少ないという。雑草が多ければ、農薬をまく回数が多くなり、残留農薬の問題がでてくる。藤田専務が頻繁に圃場を回って、生産者に対して指導を行っていることと、生産者も実需者の顔を浮かべながら緊張感をもって栽培していることの結果だといえる。
これらは、実需者と頻繁に交流をもち、お互いの顔の見える関係を構築したことと、生産技術をたゆまなく切磋琢磨していることの表れとみることができるのではないだろうか。
しかしながら、連携を維持し続ける要はなんなのだろう。丸仙青果の冨沢社長は、「価格は、ずっと据え置きできているが、原油高による生産・物流コストの上昇は抑えようもなく正直値上げしてもらいたい。だが、リンガーハットも経営上の問題から価格を上げることはできない。
我々を取り巻く環境はそうした厳しい状況にあるが、当社は、生産者と切磋琢磨し他社との競争に負けない高品質で安全なキャベツをいかなる時も欠品を生じさせないという強い信念のもと、日々供給している。また実需者であるリンガーハットも同様に高品質で安全な国産キャベツを消費者に提供したいという強い信念がある。そうしたお互いの信念のもと我々は連携を20年近く続けてきており、長年培ってきたのは、信頼関係そのものといえる。だからこそ、この関係を大切にする。」といい、信頼関係こそ大切にしたいという。
Ⅴ 契約取引のメリットと課題
国内産地との契約取引の優位点として、リンガーハットは、「リードタイムが短く、生産者の顔が見えることが、安心安全につながっている。さらに年間を通して契約取引は固定価格なので予算に応じた計画生産を行うことができ、市場価格に左右されないのが大きな優位点である。」という。また、コンテナに出荷者の名前が書いてあるので、異物の混入や残留農薬の問題など工場で何らかのトラブルが発生してもすぐに対応できるのは、今日の外食産業では重要な点であるという。
茨城中央園芸農協からは、「契約取引は生産者の収入が見込めることから経営が安定し、昨今では作付面積を大きくしている生産者の収入は増加しており、後継者も増え、息子が脱サラして生産者を継いでいる例もある。また、実需者との交流がやりがいや意識向上につながっている」という話があり、なんといっても、先を見越した経営ができることは契約取引のメリットであるといえる。
しかしながら、問題はたくさんある。大きな問題点としては、不作時の対応であろう。納入業者の丸仙青果の冨沢社長は「産地には、契約取引1本ではなく、市場出荷も視野に入れてもらって、納入義務数量の130%を作り、数量が出ないときは、市場向けに出しているものを、当ててもらい、100%に近い数量をリンガーハット向けに出荷してくれないか提案しているが、豊作の時は産地廃棄せざるを得ないので産地側がこれを受け入れるのはむずかしく、産地側と今協議中である。」という。
納入数量が足りないときは、納入業者が赤字を覚悟で国産のものを市場から調達するが、赤字が発生することで、そこには、強力なリーダーシップとスピーディな決断が要求される。丸仙青果の場合は担当者が社長なので、決断が早いが、社員となるとスピーディに決断するのは、むずかしい時もあるだろう。
残念ながら、茨城中央園芸農協管内はキャベツの指定産地ではないので、契約指定野菜安定供給事業に加入することはできないが、当機構の契約野菜安定供給制度は、今回の制度改正で卸売業者や商社等も介した契約取引も対象となったので、それらをうまく活用してリスク分散を図ることができるようになることを期待したい。
一方で高値のときに納入義務を守らないのが、契約取引を進めるうえでのネックであるといわれているので、生産者は、一時の高値に目を奪われことなく長期的な経営の安定を視野に入れたうえで、契約数量を守る努力をすることが必要であろうと思われる。
最後に、今回の調査に当たって、茨城中央園芸農協の藤田専務及び生産者の方々、リンガーハットの石橋購買部長、丸仙青果の冨沢社長ほか関係者の皆さんに多大なご協力をいただいたことに、この場を借りて厚くお礼を申し上げる。