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専門調査報告


産地間の戦略的提携による農産物輸出への取り組みとその課題

日本大学生物資源科学部
教授 下渡 敏治


1.はじめに
 わが国の農産物輸出の数値目標が1兆円に設定されたことによって、その一翼を担う青果物の輸出促進が重要な課題となっている。青果物のうち、りんご、梨、みかん、柿などの果実類については比較的長い輸出の歴史があり、一定の輸出実績を有し、また安定した市場も確保されてきている。一方、青果物の中でも、野菜については輸出が緒に就いたばかりであり、輸出は行われているものの限られた品目と数量しか出荷されていないのが実態である。今回、わが国の農産物輸出において豊富な経験と実績を有する北海道のホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」)が出資し、貿易部門を担う株式会社ホクレン通商(以下「ホクレン通商」)と九州の全国農業協同組合連合会福岡県本部(以下「JA全農ふくれん」)の両者は、農産物の輸出に関する提携で合意に達し、本格的な青果物等の輸出拡大に取り組むこととなった。

 以上を踏まえて、本報告では、連携の主役であるホクレン通商とJA全農ふくれんの農産物輸出の現状と提携に焦点をあてて、両者の輸出提携が今後どのような形で進展してゆくのか、その狙い、連携のあり方と課題について検討することにしたい。

 野菜産地の立場からいっても、今後の青果物輸出の動きは大きな関心事のひとつになっており、今後の野菜を含めた農産物の輸出の拡大を考えるうえで、両者の連携のあり方を検討することは重要である。連携による青果物の輸出はまだ始まったばかりであるが、ホクレン通商とJA全農ふくれんの取り組みは今後のわが国の野菜の輸出事業の展開を図るうえで参考になると思われるので、これまでの両者の農産物輸出への取り組みと併せて、ホクレン通商が5年前から大田市場経由で実施している野菜輸出事業についてもその概略を紹介し、野菜輸出の展望と課題を探ることにしたい。

2.札幌ホクレン青果株式会社経由による農産物輸出への取り組み
 札幌市中央卸売市場内に本社を置く、札幌ホクレン青果株式会社(以下「札幌ホクレン青果」)は、ホクレンが90%(2億6,000万円)、札幌市が8%(2,000万円)を出資する青果物卸売企業であり、道内産を中心に青果物の委託販売を担当している。

 ホクレンが札幌ホクレン青果経由で青果物の輸出を手がけるようになったのは、平成5、6年にホクレンを通じて当時香港に進出していた日系スーパーのヤオハンに対して、試験的に野菜の輸出を行ったのがそのはじまりである。現在、40フィートコンテナで月に2回の割合で北海道産の野菜を、主に香港向けに出荷している。輸出を始めた当初は温度管理が不十分で、しいたけ、キャベツ、レタスなどに荷痛みがでたり発芽するなどの劣化が生じたが、現在は温度計を設置し温度調査を徹底しており、品質劣化の問題は解消されている。

 現在、こまつな、みず菜、ほうれんそう、トマト、きゅうり、メロン、すいか、サニーレタス、リーフレタス、小ねぎ、軟白ねぎ、青ねぎなどが、香港とシンガポールに週一回航空便で輸出されており、発注はホクレン通商を通じて行われている。

 輸出されているかぼちゃ、だいこん、たまねぎ、にんじんなどの野菜類は北海道クリーン農業推進協議会が推進しているYes! Clean 農産物(慣行農法に比べて農薬や化学肥料の使用量を減らした農法によって生産された農産物)がその大部分を占めている。香港、シンガポールなどではこの2,3年、消費者の安全・安心志向が高まっており、これらこだわり農産物に対する需要が大きく伸長していて、現地の取引業者からも全量Yes ! Clean 農産物が欲しいという要求がきているという。現在、北海道産農産物全体に占めるYes ! Clean 農産物の生産割合は4%程度であるが、札幌ホクレン青果が扱う輸出農産物に占める割合は99%にも達しており、そうでないものは6月期の夕張メロンとコンテナ輸送される通常栽培の農産物だけである。今や日本国内だけでなく輸出市場でも安全・安心な農産物に対する需要が当たり前になりつつある。

 輸出の仕組みは、香港などの現地業者からホクレン通商が受けたオファーの内容が札幌ホクレン青果に連絡され、これをもとに同青果は、取引の2週間前に取引価格をホクレン通商に提示する。ただし、サニーレタス、リーフレタス、白ねぎ、小ねぎ、ピーマン、とうがらし(南蛮)などは固定価格で取引されている。価格提示の10日後に現地サイドからホクレン通商を通じて正式な商品の発注が行われ、札幌ホクレン青果はホクレンの旭川支所を通じて調達先のJA旭川青果連に連絡する。ただしトマト、きゅうりについてはJA新砂川から商品を調達している(図1)。JA旭川青果連からの調達額は年間200万円であり、それは同青果連の全取扱高(30億円)からみると微々たるものだが、輸出は生産者の生産意欲を高めることにも繋がっており、同青果連では生産者へのアピールや宣伝活動を強化している。

図1 札幌ホクレン青果経由による北海道農産物の輸出チャネル


 農産物の輸出には価格の変動や商品劣化などのリスクが伴う。したがって、その都度1回ごとの取引で利益を確保するのではなく、年間を通した輸出の合計金額によって採算が取れるシステムを採る必要があり、これに対する生産者や産地の理解が不可欠である。輸出市場にも価格の上限があり、現地消費者は野菜では200円、果物では398円を超えると購入しなくなるという。コンテナ輸送の場合、全体の4割を占めるかぼちゃ以外は少量多品目の野菜が主で、だいこん、にんじん、はくさい、キャベツ、すいか、たまねぎなど多品種に及んでいる。昨年実績で年間平均でそれぞれ30ケースから50ケースが輸出されているが、1ケースはほうれんそうの場合で200×20束(4kg)、しゅんぎくで150×25束、トマトは1箱4kg、シメジ・エリンギは100×30入り、だいこん・かぼちゃ・キャベツは10kgといった具合である。これらホクレン通商全体の農産物輸出の実績を示したのが表1である。

表1 ホクレン通商の農産物輸出実績


 ホクレン通商が野菜の輸出に着手した背景には、北海道における農業事情の変化がある。北海道とくに札幌周辺の空知地方を中心にした地域は、もともとは米の大生産地であったが、米の生産調整や市場流通の進展と生産者価格の大幅な低落によって、もはや米だけでは生活できない状況になってきたことから、野菜、果物、花などへの作目転換が進んでいる。また、ながいもの大生産地である十勝地方などの畑作地帯でも、小麦やビートから野菜などに転換する農家が増えるなど同じような傾向が見られる。また、北海道の冷涼な気候のもとで生産される夏秋野菜は東京市場でも評価が高く、大きな需要が見込まれている。それが北海道での野菜生産を刺激し、生産の拡大、収量の増加をもたらしている。

3.大田市場を経由したホクレン通商の青果物輸出
 ホクレン通商による青果物輸出のかなりの部分が、東京都中央卸売市場大田市場の東京青果株式会社(以下「東京青果」)経由で実施されている。大田市場で品揃えすることによって、需要者のニーズに応え、全国各地から集荷された野菜類を周年的に供給することが可能となるためである。ホクレン通商の依頼を受けて輸出用の青果物の荷揃えを担当しているのが東京青果個性園芸事業部であり、さらに荷造り等の実務を担当する仲卸業者も介在している。ホクレン通商との取引が始まったのは5年ほど前からで、ホクレン東京支店を通じて輸出の依頼があったのがその始まりである。当初は20フィートコンテナを月に2回輸出する程度であったが、ホクレン通商の営業により取引規模が拡大し、3年前からは年間を通じて週1回のペースで輸出が行われている。現在、大田市場からは1回に50アイテムほどの農産物が輸出されているが、その内訳は北海道産が1~2割、都道府県産が8~9割を占めている。ただし、現地市場で北海道フェアなどが開催される場合には、かぼちゃ、だいこん、キャベツ、はくさい、にんじんなど50アイテム以上に上る北海道産の農産物が輸出される。なお、現地市場が正月を迎える春節には、くわい、京いも、さといも、ぎんなんなど、お盆の中秋節には、リンゴ、桃といった果物類の輸出が多くなる。

 大田市場経由による青果物輸出は、毎週火曜日に海上コンテナに積載し、木曜日に出港して香港に向かうが、香港では日本産については検疫がないので、フリーパスで荷揚げが可能であるという。一方、台湾においては検疫が厳しく、お台場にある植物防疫所東京支所で検疫を受けている。劣化しやすい果物類は航空便による輸出が行われており、桃、ぶどう、梨、柿などの果物類がその対象になっている。航空貨物による輸出は、果物類に限定されている。

 価格については取引の2週間前にホクレン通商が香港の取引先に提示し、それに対するカウンターオファーが1週間前に提示される。これは一種の値引き交渉、価格交渉であり、実際に荷物を積み込む当日の取引価格は、提示価格を上回る場合もあれば下回る場合もある。最終発注は木曜日に行われ、翌週の火曜日に発注品目と発注量がコンテナに積み込まれることになる。これらの荷揃え、積み込み作業のすべては、東京青果からの委託を受けた仲卸業者が担当している(図2参照)。

図2 ホクレン通商の大田市場経由による青果物の輸出チャネル


 輸出の8、9割が香港向けで、残りがシンガポール、タイ、マレーシア、韓国・台湾などへの輸出である。輸出される野菜の品目は年間を通じてほぼ一定しており変わることはないが、果物類については、夏は桃、ぶどう、冬はリンゴといったように季節によって品目が異なっている。野菜類の中ではキャベツに対する需要が大きく、かぼちゃも最大800ケースが周年的に輸出されている。香港では日本産のかぼちゃに対する人気が高く、スーパーなどの店内に開設されているJapanese Fresh Cornerで高値で販売されている。

 輸出で一番怖いのが品質劣化に対するクレームであり、生鮮品は変色や腐敗などの品質劣化が生じる場合がある。このため、品質劣化とそれに対するクレームを見込んでの取引価格が設定されている。クレームが生じた場合には、到着時の商品の状態を写真にとってパソコンで送付してもらうようにしている。到着後3日以内のクレームは受け付けるが、それ以外のクレームは受付けないという。品質劣化などによって契約した商品と異なる場合には引き取り価格がゼロになるのが中国(香港)の商慣習であり、輸出にあたってはこのような現地の慣習を頭に叩き込んでおく必要があるという。逆に、ホクレン通商と東京青果が現地業者に対してペナルテイを課す場合もある。品質劣化は果物に多く、輸出した柿が全滅した例もある。このため、柿は船便を避けて、すべて航空便としている。過去に、韓国に輸出した1,000ケースのかぼちゃの8割が劣化しているとの連絡があり、現地に社員を派遣して確認したところ、3割しか劣化していなかったこともある。このように、クレームについては現地に足を運んで確認するなどの迅速な対応が必要となる。

 近年、海外での回転寿司や居酒屋などの日本食ブームと、消費者の健康志向、安全・安心などの追い風に乗じて農産物輸出事業に新規参入する民間業者や農業団体、地方自治体などが増えている。しかしながら、こうした輸出側の増加に対して、日本産品の輸入市場は現在までのところ香港、台湾、シンガポールなど特定の国に集中していることから、いずれ限られたパイをめぐって市場の奪い合い競争が激化すれば、輸出業者間の再編に発展する可能性もあるとみられる。

 ホクレン通商とJA全農ふくれんの輸出提携に関しては、福岡から直接出荷するよりも一端大田市場に荷を運び、大田市場で荷揃えしてから輸出する方が商流、物流の両面ともに効率的だと東京青果のO氏はいう。東京青果経由で輸出した場合、現地業者の販売代金の決済に2ヶ月、ホクレン通商から仲卸への代金支払いに1ヶ月を要するのに対して、東京青果から産地への支払いは出荷後3日以内に行われ、場合によっては、物流は福岡→香港ルートで行われることがあるとしても、商流はJA全農ふくれん→ホクレン通商・東京青果→現地市場のルートの方がリスクが小さく効率的だという。

4.JA全農ふくれんによる農産物輸出への取り組み
 歴史的に北九州を中心とした工業地帯として発展し、近年では商業集積が顕著な福岡県は、全国有数の農産物生産県でもあり、全国で上位5位以内に入る生産品目が22品目にも上っている。主要な農産品としては、「あまおう」で知られるいちご、小麦、洋ラン(鉢物、切り花)、い草、菊、柿、ばら、二条大麦、セルリー、いちじく、ぶどう、大豆のほか、温州みかんの代替品目として導入されたキウイフルーツなどが全国で高いシェアを獲得している(表2参照)。

表2 全国生産に占める福岡県農産物の位置  



 JA全農ふくれんが農産物輸出に着手したのは、今から20年ほど前に生産過剰による需給調整を目的としてカナダに温州みかんを出荷したのが最初である。さらに17~18年前には、香港に進出している日系百貨店にアンテナショップを開設し、農産物とともに加工食品の輸出も手がけるようになった。福岡県は、経済発展によって台頭著しいアジア市場に対して地理的な面で優位な立場にあり、この地の利と日本食ブーム、日系流通業のアジア展開という追い風に乗って海外での県産農産物の拡大を図ろうとしている。このため2002年には、従来のアンテナショップに加えて、JA職員の現地派遣や現地のバイヤーの招聘による商談会の開催など、輸出に積極的に取り組むこととなった。

 さらに2004年になって、「福岡県地域食品輸出振興協議会」を設立するとともに、県庁内に「福岡の食輸出促進センター」を開設し、農産物輸出を後押しすることとした。JA全農ふくれんは、これらの輸出促進組織と協力しながら、農業改良普及センター、農業試験場等とも連携して輸出拡大に取り組んでいる。こうした系統による輸出チャネルを示したのが図3である。そして、JA全農ふくれんによる農産物輸出事業を担っているのが株式会社ふくれん(以下「(株)ふくれん」)である。

図3 JA全農ふくれんによる農産物の輸出チャネル




 JA全農ふくれんでは、県内の8つのJAをモデル産地に指定し、海外からバイヤーを産地に招聘して商談会を開催するなど、商品が生産されている時期に合わせて積極的な輸出促進活動を展開している。市場経由その他を含めた福岡県全体の農産物の輸出実績は一昨年の4億2,500万円に対して昨年度は6億1千万円と大きく増加してきている。このうちJA全農ふくれん経由で輸出された農産物は温州みかん440、梨20、いちご14、柿9、ぶどう1.5、桃1.5であり、輸出金額は9,200万円となっている(表3)。

表3 福岡県における農産物の輸出実績
(平成17年度)



 今回、農産物輸出に関してホクレン通商と連携することになったのは、JA全農ふくれんのコンサルタントを担当している人物からホクレン通商の担当者を紹介されたことがきっかけである。既に、ホクレン通商は福岡で調達した水産物(魚)とつまものを香港向けに航空便で輸出しており、管内に、いちご、柿、みかんなどの果物類や冬物野菜の供給力が豊富なJA全農ふくれんと提携することは、ホクレン通商にとっても大きなメリットが期待できるものであったと推測される。

 つまり、両者が提携することのメリットは、(1)生産の季節性によってひとつの産地だけでは品揃えが困難な農産物について、リレー出荷が可能となるなど補完関係を構築することができること、(2)アジア市場に近い福岡から輸出することによってコストの節減を図ることができること、等である。

 現在、福岡県のいちごの45%が東京市場、35%弱が大阪市場、20%程度が地元福岡・九州市場に出荷されているが、国内市場価格が低迷する中で新たな市場を海外に開拓していこうという機運が高まっている。昨年の輸出実績では、いちご(あまおう)を香港市場に40(香港市場で7割のシェア)、台湾、シンガポールに約1となっており、現在は香港が主体である。

 いちごについては、産地ごとに2,000名(うち八女地域約600名)の生産者を対象に、(1)無作為抽出による残留農薬検査、(2)栽培履歴の記録、(3)生産者名の表示を実施する一方、野菜の一部についても衛生管理マニュアルを作成するなど商品の安全管理を徹底し、差別化を図るための生産者の啓発活動にも力を注いでいる。

 特に、県内有数の農業地帯として最大の売上高を誇るJAふくおか八女では、3年前から「あまおう」の輸出に取り組んでおり、輸出市場を管内農産物の販路のひとつとして定着させたい考えである。八女地域は、古くから八女茶(41億円)の産地として知られており、また電照菊(41億円)、いちごのあまおう(56億円)、みかんといった主要品目のほかにも多品目の農産物が生産されている。

 また、JA全農ふくれんでは、いちご、野菜以外の産品についても、例えばいちじくや柿などの輸出拡大を戦略的にすすめていきたい考えである。

 輸出に関しては、(1)初めから輸出を目的とした生産に取り組むべきか、(2)国内市場向け生産の一部として取り組むべきか、といった基本的整理も必要であり、まずJA間の連携を含めた流通システムの構築といった基本的課題から実施したいとしている。輸出品目のシンボルとも言える「あまおう」は、国内市場でも品不足をきたすほどの人気商品であるが、今後は、その知名度を活かして福岡ブランド、あるいは九州ブランドとして海外展開していくことを考えている。

表4 JA全農ふくれんのあまおうの出荷実績


 現在、香港市場では1~2月にかけてが「あまおう」の需要最盛期であるが、出荷の最盛期は3~4月であることから需要期と出荷期とのギャップをいかにして埋めてゆくかが課題であり、現地業者との間では需要期間を3~4月にまで引き伸ばすことを条件に商談が続けられている。

 また、JA全農ふくれんでは生協等との間で交流を始めており、野菜の播種から収穫までのすべてを生協の会員に実施してもらう取り組みを進めようとしている。このほか、収穫末期の「あまおう」のほ場に香港等の消費者を呼び込むグリーンツーリズムや、いちご狩りによる観光農業にも取り組みたい考えであり、これらの展開が期待される。

5.ホクレン通商とJA全農ふくれんによる農産物輸出の提携
 本年6月、ホクレン通商とJA全農ふくれんの両者は、今後、農産物の海外への輸出業務で提携していくことで合意した。提携に関する具体的内容については、現在、双方の担当部署間で詰めの協議が行われているが、提携の趣旨は、前述したように、単一の産地だけでは不可能な周年的な供給を実現しようとするものである。既に、ホクレン通商は農産物輸出において10年余の実績と経験があり、一方、温暖で冬季にも野菜出荷が可能なJA全農ふくれんは、管内に全国有数の青果物を有しており、両者が提携することによって大きな相乗効果が期待できる。

 ホクレン通商とJA全農ふくれんによる農産物輸出の提携内容を概念的に示したのが図4である。今回のホクレン通商とJA全農ふくれんの提携は、いわばホクレン通商が進める輸出アライアンスの一環であり、ホクレン通商では今後1年以内に複数の産地、企業との間でいくつかの輸出アライアンスを実現させたいとしている。JA全農ふくれんは大田市場に多くの青果物を出荷しており、既に、それらの青果物の一部は大田市場経由で海外に輸出されている。つまり、ホクレン通商が主導する農産物輸出は明確な戦略として取り組まれているのである。

図4 ホクレン通商とJA全農ふくれんによる農産物輸出の連携(概念図)


 青果物輸出は、スポット取引でなく継続的に取引をすることが重要である。そのためには、戦略的なマーケテイングと経験が求められ、取引によっては国内の調達価格を引き下げる努力も必要となる。例えば果物の糖度のように、現地の商品と比べて明確な差別化ができていることが基本であるが、その付加価値に対し、現地の消費者が自国産の何割高までだったら商品を買ってくれるかを見極めることが大切である。ホクレン通商の現在の取引先は青果物を扱う現地商社が2社、ローカルの小売店舗が300店、日系の小売店が20店舗であるが、農産物輸出がビジネスとして成立するにはローカルスーパーでの販売が不可欠である。

 JA全農ふくれんとの提携についても、前述のように大田市場経由による輸出が主になる可能性が高い。つまり、東京港から香港、シンガポール向けには週3便と船便(コンテナ便)の本数が多いため、輸送コストを抑えることが可能である。積み込みから現地市場までの輸送は約1週間(香港)、9日間(シンガポール)となっており、船便の直行便がない福岡に比べて日数的に有利だという。

 主力市場の香港は人口800万人であり、560万人の北海道に比べて市場性が高いともいえる。ただし、輸出は必ずしも人口規模だけに規定されるものではなく、むしろ現地市場の購買力の高さと、コスト等が採算ベースに乗るかどうかであるという。香港人はトンカツを好むことからキャベツの需要が拡大しているが、日本のキャベツは炒めると溶けるので料理用には不向きであり、トンカツの添え物としての業務用としての需要が拡大している。台湾で人気のながいもは香港では好まれない。こうした現地消費者の嗜好を的確に把握することも重要な要件のひとつである。現在、アメリカの独壇場となているカット野菜市場についても将来的に大きな可能性があるという。

 アジア人は季節物や旬の物を好む傾向があり、また香港やシンガポールの消費者の間では日本産の農産物にはトレーサビリテイ(生産履歴訴追)が徹底していることがよく理解されているという。
 ホクレン通商では、農産物輸出を実施するにあたって次の4つの点が重要であるという。まずひとつには、どのような取引相手と取引するかという問題でありこの選択を誤ると大きなリスクを負うことになる。第2には、取引相手とどのような内容の契約を結ぶかである。第3には、いかにして低コストで商品を調達し、現地市場に適正な価格で提供(販売)できるかである。第4には、クレームに対していかに迅速に、適切に対応するかである。

 現在、ホクレン通商では70~80アイテムの農産物を海外に向けて輸出しているが、当然ながら輸出のボリュームが増えれば増えるほど輸出コストが節減できる。日本の農産品には品質面で高い競争力が備わっているが、海外の日系量販店でのフェア中心の輸出は、たとえ一時的に商談に商談が成立したとしても商品の供給に継続性がなければ本当のビジネスには繋がらないという。

 また、余剰農産物の処理を目的とした副次的な輸出は、海外の市場の混乱を誘発する他、継続的取引とならないためその市場が育つとはいえない。海外の顧客満足度を上げるためには安全・安心でおいしく品質の高い日本農産物の品揃えの豊富さ、安定価格・安定した量の供給、季節的継続性など、国内の商取引と変わらない対応が必要となる。

 したがって、品目的に安定的なリレー出荷を目指すには出荷期間が重ならない産地が連携して供給責任を果たす必要があり、単なる地域連携では物流コストの軽減は可能だが、重なる商品の供給過多で海外市場において日本の産地間競争を持ち込む可能性が高いという。ホクレン通商とJAふくれんの連携は、異なる出荷期間を補完しあう取り組みであり、重要な第一歩として位置づけられるものである。

6.青果物輸出の課題と展望
 以上のように、ホクレン通商とJA全農ふくれんの提携は、わが国農産物の輸出拡大を目指した戦略的アライアンスのひとつとして位置づけられる。今回の調査結果から、わが国の農産物輸出は国内の複数の産地が提携することによって多様な商品を品揃えし、季節の変化に関わりなく商品を供給してゆくことで安定した輸出量と収益を確保してゆくことを目指すべきとの方向性を得た。単品によるスポット的な輸出事業はたとえ価格が低く設定されたとしても市場の確保には結びつきにくく、採算面からみても収益の確保が難しい。農産物輸出の存続・拡大の鍵は、現地市場にとって魅力的で多様な商品を品揃えし、それを安定的に切れ目なく供給することにあり、そのことによって現地消費者の信頼を得ることである。

 ホクレン通商とJA全農ふくれんの提携はまだ始まったばかりであり、現時点でその実績を検証することはできないが、両者の利点が結合することによって大きな相乗効果が生まれるものと期待される。いつ、どのような商品を、どこから、どのような形で、どの程度、どこに出荷(輸出)するか、今後詰めるべき課題もたくさん残されてはいるが、この取り組みは、わが国の農産物輸出のあり方に多くの示唆を与えるものであり、今後の展開が注目される。

注)ホクレンとホクレン通商の関係
 ホクレンは、昭和60年頃からたまねぎを中心に輸出を実施してきたが、平成8年に、貿易事業を主体とした新生ホクレン通商(現在株式保有、ホクレン98%、自己保有2%)をスタートさせ、従来ホクレンの貿易推進室で行ってきた貿易業務一切をホクレン通商に委託し、ホクレンでは、海外団体との交流事業・農畜産物の輸出推進を行っている。



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