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専門調査報告


ながいもの生産・輸出の現状と今後の輸出の展望と課題

日本大学 生物資源科学部
教授 下渡 敏治


 ながいもはわが国から輸出されている数少ない野菜類のひとつである。そこで、本稿では、ながいもの輸出産地であるとうほく天間農協(青森県)と帯広大正農協(北海道)を調査対象に、輸出に至るまでの経緯や課題と対応を整理するとともに、海外の需要動向などを踏まえて、今後のながいも輸出の展望と課題を探ることにした。

はじめに
 近年になって、これまであまり注目されることのなかった国産農産物の輸出促進への取り組みが政府や地方自治体を中心に加速してきており、経済成長の著しい東アジアや中国市場を対象に各種農産物の市場開拓の動きが活発化している。周知のように、わが国では年間6兆円以上もの農産物が海外から輸入されており、また、2003年の野菜および野菜加工品の輸入額も日本国内から海外に輸出されている農産物(加工食品を含む)全体の輸出額(3,635億円)にほぼ匹敵するほどの金額(3,080億円)に達している。とりわけ1980年以降における野菜の輸入の伸びは急激であり、同年以前には僅か8万トン程度に過ぎなかった輸入量が、85年には87万トン、90年には155万トン、そして2001年の輸入量は290万トンと大きく増大している。輸入されている野菜類は、たまねぎ、かぼちゃ、にんじん、さといも、ごぼう、ねぎ、ブロッコリー、キャベツ、アスパラガス、ピーマン、レタス、セルリーなどの生鮮野菜とその加工品であり、わが国の外食産業、給食産業、中食などで使用されている原料としての加工食材は、これらの輸入青果物に依存している。

 このように、多品目の野菜類が海外から輸入される中で、わが国から海外に輸出される野菜は調製品などを中心に金額にしておよそ40億円にしかすぎないが、ながいもはわが国から海外に輸出されている数少ない野菜類のひとつであり、海外市場での需要の伸長によって輸出量が堅調に推移している。しかしながら、ながいもの生産や流通に関する研究はほとんど見当たらず、また統計的データ等の入手も困難であることなどから、本報告では、ながいもの輸出産地として知られる青森県と北海道の二つの産地を対象に実施したヒアリング調査で得られた情報をもとに、生産動向、出荷規格と出荷形態、輸出の経緯と歴史、輸出チャンネル、海外市場での需要動向などについて検討し、ながいも輸出の展望と課題を探ることにする。


1.青森県JAとうほく天間農協の事例分析
(1) JAとうほく天間農協の生産・販売動向
 ながいもの原産地は南シナ海から極東に至る地域と云われており、中国では既に紀元前2000年頃には薬用として利用されていて、わが国では縄文時代後期に栽培が始まったとされている。現在、ながいもは北海道から沖縄まで広く栽培されているが、中でも青森県は全国の生産量のおよそ4割を占める大生産県である。昭和56年以降、青森県のながいも生産は増加基調で推移しており、平成2年のピーク時には作付面積が3,040ヘクタールにまで拡大した(図1参照)。しかし、その後は減少に転じ、平成5年には2,300ヘクタールと、昭和56,57年の水準に逆戻りしている。しかし平成6年には栽培面積が再び増加に転じ、平成7年以降は概ね2,700ヘクタール前後で推移している。作付総面積の25%程度は採種(ムカゴ)用として使用されており、採種用の面積を除いた総系統(JA)共販率は80%から85%に達している。そして残りの15%から20%程度は一般の流通業者によって市場に出荷されている。

 ながいもは4月末に植え付けして初霜の降りる11月の中下旬に収穫されるのが一般的であるが、平成16年は暖冬によっていもが腐敗するなど気象条件に大きく左右されやすい作物である。今回の調査対象となったとうほく天間農協管内では、505ヘクタールに作付けされており、組合員戸数3,000戸のうちながいもを生産している農家はおよそ800戸、管内の1戸あたり平均経営面積は3ヘクタール程度であるが、近年、機械化栽培が普及し経営規模の拡大が容易になってきたことから、ながいもだけでも3から5ヘクタールを作付けしている大規模農家も出現しているが、平均的な作付面積は1ヘクタール程度である。

図1 青森県におけるながいもの生産・販売動向




(2) 青森県の出荷規格と出荷形態
 ながいもの生育は気象条件や土壌条件などに大きく左右されやすく、そのために、いもの形状が定まりにくく、同じ形、同じ規格の商品を生産することが極めて困難な作物である。このため、出荷の規格は、丸形状のA品、B品、C品、平形状のA品、B品、規格外のD品に加えて、かまぼこ、楕円、曲がり、こぶ、開き、長さ、厚さ、ねじれ、肌の傷害の有無などによって25種類もの規格に細分化されている。

 したがって、市場出荷にあたっての品質の均一化が大きな課題であり、このため青森県では種芋から作付けする従来の栽培方法に代えて採取したムカゴから育苗した苗を畑に移植して栽培する方法を開発することによって形状や品質の安定化に取り組んでいる。一方、消費市場においても、地域によってながいもの嗜好に違いがあり、関西地域では大きめのサイズが好まれるのに対して、中京市場では細めものが好まれており、さらに関東市場では中型が好まれるなど地域によって消費者のニーズが異なっている。

 国内市場用と海外市場用の出荷の形態は基本的に同じであるが、かつては、出荷用の段ボール箱に秋田杉とカラ松のおが屑を混ぜて梱包していたものが、現在では北海道産と同じく杉の白いおが屑が使用されるようになっている。杉のおが屑は保水力に優れ、夏の暑い時期で2週間、冬の寒い時期なら1ヶ月程度の貯蔵が可能だという。輸出先の台湾市場では大型冷蔵庫によって温度管理が適切に実施されており、商品の劣化や荷崩れは見られないという。

(3) 青森産における輸出の経緯
 青森産ながいもの輸出は、平成13年に首都圏などの中央卸売市場からロスアンゼルス(リトル東京)やシンガポールにに向けて行われたのが始まりであり、本格的なながいもの輸出という点では、先行している北海道に比べてやや歴史が浅い。もともと台湾等への輸出では、青森県が北海道に先行していたのであるが、同県の場合には国内出荷が主で、輸出にふり向けられるながいもの量に限界があったために大量生産大量出荷が可能な北海道に輸出産地が移動していったという経緯がある。現在、青森産は米国市場のみならずかつて輸出していた台湾市場向けの輸出も再開されるようになっており輸出市場は確実に広がっている。近年になって輸出が再開された台湾市場では、肉質のきめが細かい青森産が好まれる傾向にあり、中Lサイズが嗜好される国内市場に比べて大型サイズのながいもが販売しやすい環境にあるという。

 台湾でもながいもの生産は行われているが、いもが大ぶりで色が黒く、日本産に比べて品質的に劣っているという。青森県におけるながいも輸出への取り組みは元来海外での市場拡大を目的としたものではなく、むしろ国内市場の需給調整のための手段として実施されてきたのであり、余剰部分を海外市場に輸出することによる国内市場の価格維持と価格安定に大きな役割を果たしている。また、主な輸出先国が台湾と米国であったため、植物防疫等の貿易上の障害がなかったこともながいもの輸出量を大きく伸長させることにつながっている。同時に輸出にあたっては、収穫後における綿密な洗浄、調整、検査、出荷作業が実施されている点も重要である。

(4) 青森産ながいもの輸出市場と輸出チャネル
 平成16年産の輸出実績では、米国市場向けが13,157ケース(1ケース10kg入り)、台湾市場向けが3,534ケースで、8対2の割合で圧倒的に米国市場向けの輸出が多くなっている。米国向けの輸出は青森と取引のあった台湾の輸出業者によってアジア系移民の多い米国西海岸に輸出されたのがその始まりである。現在、ながいもの米国市場への輸出入は日系商社3社に加えて、台湾系、韓国系などの貿易商社によって実施されており、米国西海岸の市場では、ニジヤ(6店舗)、マルカイ(2店舗)、旧ヤオハン系のミツワ、パシフィック(1店舗)など日系スーパーの店頭で販売されている。

 他方、台湾向けのながいも輸出は現地の貿易業者からの注文に応じて船便(冷蔵コンテナ)で出荷されている。コンテナ船の航行経路を辿ってみると、苫小牧港で帯広産のながいもを積み込んだ貨物船は次の八戸港で青森産のながいもを船積みし、その後、仙台港、神戸港などを経由して台湾(高雄)まで搬送されるルートを始めいくつかの輸送経路と輸出チャネルによって輸出されている。通常、青森産のながいもは東京、大阪などの大都市圏に立地している中央卸売市場経由で台湾市場に輸出され、台湾市場では現地の輸入業者によって青果市場に出荷され、そこから現地のスーパーや小売店に流通する仕組みである。台湾市場には、現在、県内の複数の産地から月平均2回、約800ケースのながいもが輸出されており、最低でも月1回400ケースが出荷されている。平成11年以降、米国を主要な輸出市場とするようになった青森産ながいもも、平成13年以降、再び台湾での市場の開拡に取り組んでいる。

(5) 海外市場での需要動向
 現在、年間40万ケースの需要があると云われている台湾市場では、薬膳料理の食材としての消費需要はもとより、消費者の健康志向やジュースブーム(ミックスジュースの原料としてながいもが利用されている)の拡がりを背景に日本産ながいもに対する需要が伸長し、とりわけA品で形が真っ直ぐで外傷などの欠点のないものが好まれている。台湾市場では外見が商品の価値を決定する最大の要件であり、姿形の優れたものがとくに好まれる傾向にある。現地のスーパーや小売店で販売されている一般消費者向けのながいもはグラム売りが主で、中Lサイズや小型サイズが主流になっている日本市場と大型サイズが主流になっている台湾市場とでは消費者の嗜好にも大きな違いがある。因みに、日本市場では概ねキロ当たりで300円から350円(1ケース10kg入り3,000円)で販売されているが、台湾市場の場合にはその2倍に当たるキロ当たり600円が取引相場になっているという。

 一方、米国市場では西海岸のロスアンゼルスを中心にながいもに対する需要が高まっている。独特の粘り気を嫌う消費者もいる一方、最近では抗ガン(癌)作用や夏バテ防止などへの効能が明らかになったこともあり、需要は拡大基調で推移している。米国西海岸のロスアンゼルス周辺には日系、台湾系、韓国系、中国(大陸)系などを含めて優に100万人を超えるアジア系の新旧移民が居住し、日系人を中心に日本食品・農産物の消費市場が形成されているが、ながいもの消費主体も日系、韓国系、中国系の米国人が主であるという。青森県の生産者団体では現地の寿司バーなどに対して、ながいもを使用した新メニューの開発を依頼するなど需要拡大に期待をかけているが、高い品質が求められている台湾市場に対して、米国市場の場合には要求される水準がそれほど厳しくないため輸出しやすい面があるという。取引価格もキロあたり単価1,700円と日本国内のほぼ2倍の値段で取引されており、1本2,000円の高値がつく場合もあるという。特売の場合でもキロあたり770円から780円が平均的な相場になっているようである。

(6) 全農青森およびJAとうほく天間農協における輸出戦略
 青森県では北米向けと台湾向けにリンゴの輸出も行われており、今後、中国本土にも農産物の輸出市場を拡大したい意向である。同県は、ながいも、リンゴの他にも、ごぼう、にんにくなど出荷量日本一を誇る農産物を生産しており、これらの農産物についても海外での日本食の伸びを背景に、輸出の拡大に取り組みたい考えである。そしてその成否は、消費国側の要求に応じ、継続して安定的な商品の供給ができるかが重要なポイントである。従来、青森県では輸出産地としての取り組みは弱く現地市場から求められる数量や品質の安定確保が十分でなかったことが輸出産地としての青森県の最大の課題になっている。農産物取引は、海外(輸出)も国内も基本的に同じであり、生産体制と出荷体制が一体となったシステムをどう作り上げてゆくかが重要な課題であり、とりわけ生産者と輸出業者が円滑に連携できるシステムづくりが重要だという。

 ながいもに関しては、数年前から台湾の貿易業者が農業団体に殺到するなど需要の拡大が見込まれる一方、台湾市場もすでに飽和状態に近づいており、米国市場にも大きな伸びは期待できないという声もある。今後とも、主要な仕向先は国内市場であり、輸出市場はあくまで国内市場の補完として重要な機能を果たすということに変わりはない。この関係は今後も基本的に大きく変わることはないが、輸出促進を図るには、現在2,500ケースに限定されているながいも洗浄機の処理能力を現在の倍以上に高めることが先決である。現在、八戸の輸出業者が中心となって米国市場(ロスアンゼルス)での販促活動を実施しているが、機械化の普及によって面積拡大は容易になった一方、品質をいかに安定化させるかが大きな課題となっている。

図2 青森県産系統扱いながいもの国別輸出実績


 

2.北海道JA帯広大正農協の事例分析
(1) JA帯広大正農協の生産・販売動向
 表1に見るように、道内では函館から北見に至る広い地域でながいもの栽培が行われており、中でも十勝(帯広)地方が道内生産量の77.5%を占め、北見の生産量を合わせると道内の9割以上がこれらの2つの地域で生産されていることが判る。実質的に、輸出用ながいもの生産を担っているのは帯広管内にある帯広大正農協と川西農協の2農協である。本報告では北海道産輸出のおよそ半分を占める帯広大正農協を調査対象に、生産・販売および輸出の動向について検討することにしたい。

表1 帯広大正農協管内の作付動向
(単位:ha)



 帯広大正農協は帯広市中心部から帯広空港方面へ17キロの位置にあり、農協管内は北海道を代表する畑作地帯として、小麦、豆類、ばれいしょ、てん菜(さとうだいこん)、野菜、飼料作物などの生産のほか、酪農や肉牛の生産なども盛んである。管内の農家戸数は313戸、このうち73戸の農家でながいもが栽培されており、合計栽培面積は220~230ヘクタールに及んでいる。一戸当たりの平均ながいもの作付面積はおよそ3ヘクタールであるが、中には10ヘクタールから20へクタールを作付けしている大規模経営も見られる。管内には、だいこんだけでも50ヘクタールを作付けしている経営もあり、近年では、収益の少ないてん菜の作付けを減らして、ながいもの生産に転換する農家も出現している。

 同農協管内で生産されているながいもの主な出荷先は京阪神市場であり、東京市場への出荷は僅かである。関西市場では3L、2L規格の一本売りか、カット売りが主となっており、それぞれの地域によってスーパー等で販売されているながいもの規格が異なっている。関西市場へは全農大阪センター経由で出荷され、愛知、岐阜、香川(高松)、広島などの最終消費地のスーパー(ライフほかA-Coop、いずみ、マルナカ、平和堂など)等の地元のスーパーに配送されている。ながいもは毎日大型トレーラー30台によって出荷されており、その出荷ルートは苫小牧港から高速船を利用して日本海経由で敦賀港や舞鶴港で陸揚げされて京阪神市場と四国市場に出荷されるルートと、苫小牧港から高速船を利用して直江津港を経由して東京市場に出荷されるものとに大別される。大阪までの所要時間は22時間、四国までは4,5日が必要である。

(2) 北海道産の規格と品質
 北海道産ながいもの出荷規格は32段階に細分化しており、青森県の規格数を上回っている。その内訳は、秀品が8規格、優品が8規格、残りの16がその他規格外品となっている。輸出用ながいもの品質基準は国内用よりも一段と厳しいものが要求されているが、帯広大正農協産に対する台湾市場での評価は高く、品薄状態になることも少なくないという。そうした時に、道内の他産地からスポット的な輸出が行われることになる。現在、台湾市場向けの主力商品は、秀の4Lが主であるが、大正農協では、10%から15%程度の量については秀の5L(1本2kg)を出荷したいと考えている。しかし5Lは収穫量が少なく、十分に品揃えができない状況にある。米国市場向けには台湾向けと同じ優の4L規格(8本入り1本1.2kg)が出荷されているが、大きさは同じでも台湾市場向けに比べて姿形が落ちるという。4L規格の商品は国内向けに出荷されていたのであるが、輸出が本格的に実施されるようになって以降、国内市場出荷は2LとMS規格が主流になっているという。

(3) 北海道産のながいも輸出の経緯
 ながいも輸出の発端は、12,3年前の1990年代の半ばに香港に進出していた日系スーパーのヤオハンの和田社長(当時)の要請によって、香港ヤオハンで北海道フェアを開催したのが端緒である。しかし当時はあくまでも北海道フェアのためのスポット的な輸出であり、周年的な取引というわけではなかった。そこで、ホクレンでは北海道物産の周年的継続的な取引を目指して、東京大田市場の仲卸会社に協力を要請して、北海道産以外の農産物も輸出品に加えることで品揃えを増やして周年的に商品を供給する体制を確立することに成功した。しかし周年供給のためにはヤオハンだけへの出荷だけでは販路が不十分なため、現地市場での販路先を拡大する必要があった。そこで、西友、組合貿易、三井物産等の協力を得て、北海道産を含む日本産農産物を毎月コンテナ1本は輸出できる体制を整えた。現在では、40フィートコンテナ1本で月平均4回香港向けに出荷されると同時に、台湾、シンガポールに対しても週単位で定期的な農産品輸出が実施されるなど、かつてのスポット的輸出から発展をとげている。さらに全農長野と提携することによって、シンガポールと台湾向けに桃、リンゴ、梨をスポットで輸出しているほか、不定期ではあるがマレーシア、タイ、北米にもスポット的な輸出を実施している。日本産の農産物は外国産に比べて食味などの面で品質水準が高く、輸出ポテンシャル面では極めて高いという。

 帯広大正農協では、平成11年以降、本格的なながいもの輸出に対する取り組みが開始され実施されたが、青森県と同様に、帯広大正農協の場合ながいものの輸出は過剰生産に陥って値崩れしやすい国内市場の需給バランスを維持し、価格の安定を図るための重要な手段のひとつと考えられており、輸出は国内価格維持安定に大きな効果を発揮している。

(4) 北海道産の輸出動向と輸出チャネル
 北海道産ながいもは、ホクレン通商および青果市場を通じて年間2,300トンが台湾市場に輸出されている。道内産の内訳は、帯広大正農協が概ね1,200トンから1,300トン、隣町の大西農協がおおむね1,000トンであり、両農協からの輸出量が道内の輸出量のほぼ9割以上を占めている。

 今回訪問した帯広大正農協では17年も前年並みの1,300トン程度の輸出計画を立てており、既に台湾市場向けに毎月コンテナ5,6本が、米国市場向けには毎月コンテナ1本が出荷されており、1回の輸出で船積みされるながいもの量は1,750ケースに及んでいる。

 台湾のながいも取引業者は12社、このうち青果物を専門に扱っている業者は2,3社に過ぎず、他は異業種からの参入によるものである。帯広から出荷されたながいもは苫小牧港に搬送され、ここで検疫を済ませた後、台湾南部の高雄港に輸送される。台湾では、現地の輸入業者によって台南の青果市場に出荷され、現地スーパー等で販売されている。台湾までの所要日数は11日間、帯広大正農協から苫小牧港までの運搬に1日、苫小牧港から韓国の釜山港を経由して台湾の高雄港までの輸送に約10日間を要するという。

 一方、米国市場向けのながいもの輸出と現地市場での販促活動は日系商社が担当しているが、需要が日系移民や一部のアジア系移民に限定されており、台湾ほど大規模な消費市場が形成されるまでには至っていない。米国市場向けには、ロスアンゼルスに月2本(600ケース)の割合で輸出されているが、ロスアンゼルス向けの一部は現地で分荷され、日系人が多く住むハワイやカナダのバンクーバーに転送されており、取引は僅かながらも拡大している。

(5) 帯広大正農協におけるながいもの輸出戦略
 かつてながいもを含めた道内産農産物の海外輸出は、道内農産物の生産過剰(豊作時)を想定した国内市場の需給調整手段のひとつとして実施されてきたが、現在では安定した海外での市場需要を背景に恒常的な輸出が行われるようになっている。農産物輸出は相手(需要者)あっての輸出であるため、単年度では結果が出にくい面もあるが、農協組合員の意識改革を図りながら長期的な視点で取り組む必要があるという。ながいもを含めて野菜類については量販店の商品戦略の変化や市場需要の変化、市況変動などへの適切な対応が求められている。また卸売市場法改正に伴って契約取引の割合が増大するなどの市場環境が従来とは大きく変化している中でホクレンでは3年毎に指針の見直しと新たな指針の策定を実施している。帯広大正農協でもこの指針に基づいた生産と輸出計画を立てている。過去の国内と海外での取引実績を比較した場合、輸出向けの値段が高く国内市場の取引価格を上回るのが通例であった。今年度については海外(台湾)の市況が国内の市況を下回るなど変動が大きく必ずしも楽観できない状況にある。しかし、十勝管内については国際市況が低迷した場合でも単収30万円が確保できれば輸出用ながいも生産は継続することができる。

図3 北海道内におけるながいもの地域別生産動向(平成17年度)

 
図4 北海道内におけるながいもの年次別販売実績

(6) ホクレン通商(ホクレン)の農産物輸出戦略
 ホクレンの貿易部門を担っているホクレン通商では、ながいもに限らず韓国向けにごぼう、東南アジア向けにソーセージ、しょう油、卵焼き、日本酒、ワイン、メロンなどの北海道農産物および加工品の輸出拡大に取り組んでおり、昨年度の輸出実績は前年度に比べて25%から30%程度も伸長している。しかし海外市場に周年的に商品を供給するには北海道産の農産物だけでは品揃えに限界がある。このため、ホクレン通商では農産物だけでなく北海道産の食材、さらには日本食材全体を輸出対象にした全国規模での商品調達のネットワークづくりと提携・協力関係の構築を進めている。過去の農産物輸出では、かつて2,000~3,000トンが輸出されたたまねぎのように、国内で余剰が生じた場合に輸出し、国内の需給関係がタイトになると輸出を取り止めるという悪循環が繰り返されてきた。現在の農産物輸出もややもするとかつてのたまねきの二の舞になりかねない。北海道産ながいもへの一点集中的な輸出に陥っている面があり、生産がながいもだけに特化されることになれば、過剰供給によって市場を混乱させることになりかねない。したがって、ながいもの安定した生産・輸出体制を維持していくためにも広く農産物全体、あるいは加工食材全体に目を向けてゆく必要がある。

 ホクレン通商では加工食品を含めた国産農産物全体の輸出の拡大を図るため、それらの食材を利用する業態(外食店)そのものの海外進出を後押しする事業にも取り組んでいる。海外進出に関心のある外食店などを現地の信頼できる提携先(合弁相手)と結びつけて、これらの業態に日本食材を供給していこうという戦略である。既に単独で香港に進出している愛知県の「魚屋一丁」やジャンクベイの新興住宅団地で回転寿司(ロボット寿司)を展開している外食企業などの成功事例のほかに、首都圏に立地しているパン・菓子製造業者との間でも進出に向けた話し合いが進んでいる。進出に成功したこれらの業態で利用される食材の半分以上は、日本からの輸出であり、水産物や農産物は九州(福岡空港)から空輸され、その日のうちに通関して夕方には現地スーパーの店頭や外食店のメニューで提供されている。今後、これらの「業態輸出」が進展することによって北海道産の小麦、果物、加工食品などの輸出拡大が期待できるという。

 現在、北海道開拓協議会が中心になって中国・上海向けの輸出拡大に取り組んでいるが、香港に比べると成果は薄いという。各都道府県の海外フェアが長続きしないのは補助金頼みのフェアが多く、自立的な輸出促進活動に欠けているためであり、マーケットの育成には、それぞれのメニューに応じてどのような食材(野菜)を使用したらよいかといった点を具体的に現地の消費者に提示する提案型の輸出キャンペーンや試食会の開催が不可欠だという。

3.ながいもおよび農産物輸出拡大の課題と展望
 ホクレンではながいも以外にも東京の大田市場経由で、だいこん、にんじん、トマト、メロンなどの青果物を混載したコンテナを香港に輸出しており、さらに航空便も併用されている。北海道産農産物の輸出先としては経済成長が著しいアジア市場との相性がよく、とりわけ香港、韓国が有望であるという。韓国向けには、昨年、国内の需給調整を兼ねてかぼちゃの小玉(7玉、10玉)を150トン輸出したが、これに対して、韓国から500トンの輸入要請があったという。韓国へのかぼちゃの輸出価格は国内価格とほぼ同じ水準で取引されており、ソウル市内のKマートなどで販売されている。また、台湾からは加工用にんじんの需要があり、多いときにはB級品を250~300トン、少ないときでも20~50トン輸出しており、かぼちゃも、17年は既に500トンの輸入のオファーが来ているという。さらに、ロシアに対しても、ばれいしょ、たまねぎについてスポット的な輸出が実施されており、過去には200トンの輸出実績がある。

 しかし、外食・中食需要の拡大によって輸入食材に対する需要が大きく高まっている中で、北海道産の農産物も国内市場の変化にどのように対応するかが大きな課題となっている。北海道では、現在てん菜や小麦の生産と需要が頭打ちになる中で、ながいも、たまねぎを含めた野菜類の輸出に大きな期待が寄せられている。しかしながら、国内市場向けに生鮮用と加工用の生産枠を決定し、さらにその年の作柄を見ながら加工向けと輸出向けのバランスを取っていく必要があり、需要があるからといって無制限に輸出ができるわけではない。常に国内市場と海外市場の需要動向を睨みながら毎年の作付けを決定し、豊作と不作に対応して、それぞれの市場への商品の割り振りを決定していかなければならない。したがって、今後は道内にとどまらず府県との連携を図りながら国内市場と海外市場の隙間をいかに埋めてゆくかという緻密な作業がこれまで以上に重要になってくる。そのような観点から、ホクレン通商がすすめている全国規模での輸出ネットワークの構築が今後の農産物輸出拡大にとって重要な意味をもつものと思われる。

 北海道のながいもの輸出は、台湾という安定した市場を確保し、それに対応した生産(供給)体制も整備されている。青森県のながいも輸出も生産力の拡大が進展しており、米国市場に加えて台湾にも市場を獲得したことによって新たな輸出が展開されている。青森県については、出荷体制等の面で改善すべき課題も少なくないが、出荷体制に対する改善の見通しも既に立っており、機械化栽培による生産拡大も軌道に乗っている。ながいもの輸出は、わが国の農産物輸出の中でもその規模と輸出体制において希有な成功事例のひとつであることは間違いない。輸出市場の確保という第一ステージを終え、輸出市場の拡大という第二ステージに進んでいる。現在、韓国、香港、シンガポール、マレーシアなどにおいて新たな市場開拓が進んでいるが、グローバル化の中で閉塞感が強まっている日本農業に新たな活路を開く取り組みとしてその動向に注目していきたい。



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