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専門調査報告


環境保全型野菜生産・流通の発展に向けて
―宮城県の産地に学ぶ―

千葉大学園芸学部助教授
櫻井 清一


 環境保全型農業の推進がこれまで以上に叫ばれており、産地では多様な試みが実践されている。
 そこで本稿では、環境保全に資する栽培技術を早くから導入してきた野菜産地であるJAみどりの(特に旧田尻町農協管内)とJAみやぎ仙南の取組みと、収穫された野菜の販売を担ってきたみやぎ生協の取組みを考察し、環境保全型野菜生産・流通を発展させるためのポイントを整理する。また、こうした産地をサポートしている行政の取組みを紹介し、制度的枠組について検討する。

1 宮城県の野菜生産
 宮城県といえば、多くの人は「日本有数のコメどころ」というイメージを抱くであろう。確かに2003年の県内農業産出額に占める米の割合が44%である一方、野菜の産出額は284億円、割合にして15.2%であり、畜産に次ぐ第3位の位置である。ただし、この割合は全国平均(22%)こそ下回るが、他の米の主産県と比較すると、北関東(茨城・栃木)には及ばないものの、北陸各県(含新潟)に比べれば高い。換言すれば、宮城県の農業は決して米一辺倒でなく、野菜作も一定の位置を占めているのである。また、野菜作付面積に占める転作作付割合の高さ(28.2%:2003年)も、稲作と野菜作が一定の関係を持つことを示唆する。

 宮城県における主な野菜作付品目は表1のとおりである。根菜類の落ち込みが目立つが、果菜類や軽量野菜の作付面積は維持されている。きゅうり、さといも、だいこん、トマト、なす、ねぎ、ほうれんそうについては国の指定産地も存在する。面積こそ大きくないが、いちご、しゅんぎく、そらまめも全国レベルの主産地の一つとなっている。

表1 宮城県における主な野菜の作付面積(単位:ha)

資料:宮城県産業経済部
注1)下線のある品目は県の重点振興品目である。
 2)ソラマメ、シュンギクの1995年産面積は1996年の
値である。


 また、流通面に目を向けると、仙台市中央卸売市場における県内産野菜のシェア(金額ベース)はここ10年間、ほぼ30%弱で安定的に推移している。他の政令指定都市の中央卸売市場と比べても、県内産比率は高いグループに属しており、地場野菜が健闘しているといえる。

 このように、宮城県における野菜作の位置づけは決して低くないが、その展開過程において環境保全に資する取組みがどのようになされてきたのか、二つのJAの取組みを検討することにしたい。

2 JAみどりの管内における環境保全型野菜生産 ―田尻町を中心に―
 JAみどりのは、仙台市の北約40km付近にひろがる大崎平野に位置する6町にまたがる広域農協として1996年に合併・発足した。管内では良質の水稲を中心に、施設園芸(小ねぎ・ほうれんそう等)や畜産(肉用牛・豚等)を組み合わせた複合農業が展開している。

 同JA管内における環境保全型農業の取組みは、1970年代にさかのぼることができる。その発端となり、現在も中心的な役割を果たしているのは、「田尻町産直委員会」(以下、産直委員会と略す)である。そこで産直委員会の活動から整理することにする(表2を参照)。


表2 田尻町産直委員会における産直と環境保全型農業の取組み
(野菜作を中心に)

資料:佐々木陽悦『消費者との共生を貫いて』コープ出版、1998 
田尻町産直委員会資料、JAみどりの資料より作成


 田尻町では1970年代より、農薬の空中散布問題などをきっかけとして、環境に配慮した営農のあり方が議論されてきた。また冷害の経験から、より複合的な経営を目指すようになり、野菜作もその対象となった。そして1981年、農政運動等で接点のあったみやぎ生協と6戸の農家が協議し、とうもろこしを出荷した。これを機に生協との産消提携が動き始めた。この取組みは翌82年に農協の事業として位置づけられるが、生産者組織も再編され、83年に現在の産直委員会が組織された。以後、産直委員会では生協と綿密な協議を重ねながら作付計画・価格設定を行うとともに、供給先店舗を増やしていった。取扱品目も拡大し、野菜については多品目を供給する体制を確立するとともに、畜産物、さらに当時は制度的に困難であった米の産直もスタートさせた。また、モノの供給にとどまらず、生消双方の協議や交流を通じて環境保全的な栽培方法の導入と確認を行ってきた。この地道な取組みが地域に環境保全型農業を定着させることに貢献している。

 1990年代に入り、野菜の供給高は1億円を超え、現在では1.5億円前後で推移している。米なども含めた産直事業全体では8億円ほどの実績がある。

 このように、田尻町と生協との産消提携は産直委員会がイニシアティブをとって実践されてきたが、JAも継続的にその活動を支えてきた。旧田尻町農協時代より、受発注・代金決済などの日常業務を専従JA職員が行うとともに、集荷・小分け作業や交流会の実施においても職員がサポートしてきた。この姿勢は合併後も引き継がれている。

 また、1990年代以降に確認できる傾向として、環境保全型農業に資する技術に関する見直しとその普及がなされていることがあげられる。新たな技術開発を受けて、農薬基準の見直し、記帳など日常の栽培管理体制の改善を積極的に行うとともに、開かれた場で成果と課題を公表し、関心を共有する全国の仲間と交流を図っている。こうして環境保全に資する取組み内容がブラッシュアップされるとともに、地域内外に広く紹介されることになった。各種表彰を受けるようになるのもこの頃からである。

 産直委員会の環境保全型農業に関する取組みから学べる点は、以下の四つに整理できる。

 第一に、野菜だけでなく稲作・畜産部門と組み合わせた複合経営として環境保全型農業を振興していることである。輪作や有機物の還元に早くから取り組んでいる。特定部門の突出は環境面から見るとアンバランスな経営に陥りやすいが、田尻町周辺では地域内の物質循環がかなり機能していると考えられる。

 二点目は、集落・地区を単位として取組んでいることである。数地区でグループを形成し、特定の生協店舗への出荷に責任を持つ組織体制が組まれている。これは店舗販売比率が高いというみやぎ生協固有の特徴に影響されている側面もあるが、環境保全型農業を特定農家の取組みにとどめることなく、地域全体の問題として捉えるうえではポジティブに作用しているといえる。

 三点目は、みやぎ生協の職員・組合員との交流・交渉を継続していることである。単に互いの立場や環境に関する表面的な知識を理解するだけでなく、栽培技術の環境負荷や安全性に関する細かなレベルまで情報交換し、検証を行っている。そのため無農薬・有機栽培といった特定の技術が自己目的化することなく、地域の実態に応じた目標が設定され更新されている。その一方、危険性が憂慮される農薬については全国に先駆けて地域全体として不使用を宣言するなど、安全性に対する目は生消ともに非常に厳しいものがある。

 最後に、多様な機関・団体と連携しながら環境保全型技術を検証している点も注目される。環境保全的な栽培に関心の高い農家団体はもとより、生協や行政機関とも多様な関係を持ち、現場での技術の検証を行っている。また、こうした取組みを通じて田尻町の試みが域外に紹介され、結果として環境保全型技術の紹介・普及にも貢献している。エコファーマーの登録を早くから行うなど、制度への関心も高い。

 さて、これら田尻町産直委員会を中心とした取組みが、JAみやぎの管内の他の地域にはどの程度普及しているのか。この点を考えるうえで、産直委員会の環境保全型産品が基本的にみやぎ生協へ出荷・供給されていることに留意する必要がある。会員制をとるため需要量や求められる品質がある程度確定している生協に対し、他地域が産直委員会と同レベルの産品の供給を一気に拡大することは、栽培技術上も難しいし、購入する生協側にも量的限界があるといえる。また、産直委員会が長年継続してきた交流活動は無形の財産であり、これに匹敵する綿密な交流を新産地ですぐに行うことも無理がある。

 しかしながら、生協への供給を前提としない形で、環境保全型農業は管内で徐々に広がりつつある。それはエコファーマーの増加という形で現れている。涌谷町のほうれんそう農家をはじめ、しゅんぎく・小ねぎなどでエコファーマー取得例が増えており、農協部会組織として認証を獲得する動きもある。JA営農担当者も「環境保全に資する取組みをしていることが価格形成に影響を及ぼすことはない。しかし取引先から信頼を獲得するうえで今後この取組みはますます重要になる」との認識を示している。また、農協全体として全農の「安全・安心システム」を導入しており、既に野菜10品目について生産履歴等の公開を行っている。このシステムが環境保全型栽培技術を直接向上させるわけではないが、栽培方法の公開と記帳作業を継続することで、管内農家の環境への関心と営農に対する責任感を高め、間接的には環境負荷を軽減する方向で技術採用が進むことが期待される。

3 JAみやぎ仙南における取組み
 JAみやぎ仙南は、宮城県南部の2市7町をエリアとする広域農協で、1998年に合併・発足した。周囲を蔵王連山と阿武隈山脈に囲まれた盆地および丘陵地帯で、水稲に園芸・畜産を組み合わせた複合的農業が展開している。

 同農協に合併した旧角田市農協では、1970年代よりみやぎ生協等との産直事業を継続してきた。また、仙南地区の農産物の高付加価値化を目指して1973年に仙南農産加工連合会(仙南加工連:現在はJAの子会社)が結成され、市町村の圏域を超えた取組みが早くからなされていた。そのため、広域合併後もJAではみやぎ生協をパートナーとした産消提携を重視している。図1は同生協への供給実績であるが、地域の多様な農産物・加工品が遍く供給されていることがわかる。総供給額は21億7千万円で、農協の総販売額の20%に及ぶ。野菜は生協向け供給額の約1割を占めている。野菜の供給先産地を細かくみると、産直の歴史の長い角田地区が56%と過半を占めているが、丸森地区も20%を占めており、地域的偏在は解消されつつある。



 産直野菜の具体的な販売先は、生協店舗であることが多い。近年、インショップの概念を組み込んで生産者の自主的な価格設定を可能にした「旬菜市場」を設ける店舗が増えたこともあり、産直野菜の供給額は漸増傾向にある。

 一般的な産直野菜の価格形成は、生協担当者との相対交渉でなされる。品目により差があるが、概ね価格は週決めとされ、両者が市況と生産費の双方を考慮しつつ決定される。結果としては市況を若干上回る価格で推移しているという。ただし、環境保全型栽培技術を採用していることにプレミアが支払われることは無いという。今でも環境保全型農業を「高付加価値化」の手段として期待する産地は多いが、みやぎ仙南も生協も、安全な食品を生産・販売するための「前提条件の向上」として環境保全型農業を捉えている。

 生協を重要な販売先としているため、組合員・職員との交流会・学習会も頻繁に開催されている。2004年に実施された産地見学会はJAで受け付けたフォーマルなものだけでも43回、参加者数はのべ1,151名に及ぶ。回数・参加者数いずれでみても、みやぎ生協が同年に行った産地見学会の中では最大の受け入れ先となっている。内容も一般組合員が参加する視察や収穫体験から、自然観察を主目的としたもの、さらには職員を対象とした専門的なものまで多岐にわたる。また、生産者が都市部で開催される学習会に出向いたり、店舗でプロモーション活動を行う機会も多い。農協の指導販売部には直販・産消提携を専門に担当する職員が配置されており、多様な交流機会のコーディネートを行っている。

 JAみやぎ仙南の野菜作における環境保全への取組みは、稲作と連動して進められている。主な成果は以下の2点にまとめられる。1点目は、土づくりを充実させるための堆肥の製造・供給である。角田地区の有機農業センターにて良質の完熟堆肥が生産されている。早くから産直に取り組んでいたため、管内の畜産農家からは安全性の高い飼料で育てられ抗生物質も含まない鶏糞・豚糞が集められる。これに産直米の米ぬか・もみ殻や、地域の食品工場から出される無添加物の残さを混入し、地力増強に資するとともに散布農家にとっても扱いやすい堆肥を生産している。また、散布装置の自主開発や共同散布システムの構築など、堆肥の利用方策の改善にも取り組んでいる。

 二点目は、生産履歴のシステム化である。前節でも指摘したとおり、記帳や履歴をとること自体が環境保全に資するわけではないが、記帳やデータ管理を継続することから農家・農協ともに環境負荷への関心を高め、間接的に環境保全に資する栽培方式の採用や作業体系の改善につながることが期待できる。仙南地域では、生協等に対する情報開示や需給調整にとって記帳は有用であるとの観点から、稲作を中心に1980年代末より記帳運動が進められていたため、農家の抵抗感・負担感は小さいという。具体的には生協と構築してきた稲作の記帳パターンが他の作目にも修正され用いられている。また、記帳の実効性と正確さを高めるため、担当者による圃場チェックも行われている。近年では携帯電話からの入力システムも稼動している。ただし、高齢化に伴い、一部の生産者にとっては精密化した履歴システムへの記帳・データ入力が困難になるという問題点も指摘されている。

 管内ではエコファーマーの登録もみられるが、この制度に対する期待はそれほど大きなものではない。むしろ環境保全型農法で生産された産品の認証への関心が高いという。実際、米を中心に特別栽培農産物の第三者認証を取得する動きが盛んである。

 このように、JAみやぎ仙南では稲作とリンクした環境保全型農業の展開がみられ、野菜作にも浸透しつつある。また、管内のほぼ全域で環境保全に資する取組みが進展していることも注目される。

4 みやぎ生協による産消提携と環境保全型農業
 上記2農協の取組みは、いずれもみやぎ生協と連携して進められている。みやぎ生協は環境保全型技術で栽培された農産物の販路であるとともに、技術の導入や検証も積極的に推進する主体となっている。

 みやぎ生協は53万人の組合員(県全世帯数の61%)を抱える地域生協で、総供給高は970億円、うち生鮮食品供給高は368億円(いずれも2004年度)である。野菜も重要な生鮮食品として認識されている。販売される野菜のうち約50%が生協の産直三原則(産地がわかる・栽培方法がわかる・交流ができる)に適う産直品である。その中でも宮城県の第三者認証システムまたは国の特別栽培農産物ガイドラインに沿った認証を受けた野菜を「グリーンセレクト」と位置づけ、その生産振興と販売拡大を図っている。グリーンセレクトとして認定された品目はのべ数で20、取扱高は3.4億円(2004年度)であり、増加基調にある。

 みやぎ生協の野菜産直の特徴として、三点ほど指摘したい。第一に、県内産野菜を重視していることである。大規模化した生協では、必要な産直品を調達するため、広域的な集荷を行い、結果として地元産地との提携関係が弱くなっている例をよく見かける。しかしみやぎ生協では地元産重視の方針を貫いている。そのことが後述する交流・学習活動にも影響している。

 二点目は、店舗販売比率が高いことである。全商品供給高の4分の3が店舗で販売されている。野菜に関しては、インショップの機能を取り入れた「旬菜市場」コーナーを23店舗で展開している。ここには店舗周辺の提携先産地の野菜が多品目持ち込まれている。計画的出荷が求められるが、価格は生産者の自主的判断に任されている。生産者・消費者双方から好評を得ており、取扱高は3億円(2004年)に達している。

 最後に、地元の提携先産地とともに生消一体となった学習・交流活動を継続していることも注目される。表3は生協産直に関わる協議組織を整理したものである。一般の組合員、その代表者、生協の実務担当者がそれぞれのレベルで多様な協議の場に関与している。栽培技術や農法に関する専門的な組織もあるが、生協にもこうしたノウハウを蓄積している担当者が常駐しており、外部で得た情報も提供しつつ、生産者サイドと具体的な協議を重ねている。また、産直委員会に参加する消費者代表は、交流を通じて理解力を深め、ある程度の専門的知識も身につけることになる。そこで委員会活動での経験を一般組合員にも共有してもらうため、「食の語り部」という制度が設けられている。登録された委員会経験者が、共同購入班の集いなど各所に出向き、経験を伝えている。表3に示した継続的な組織活動の他にも、共同購入班や店舗レベルでのスポット的な交流・学習会が随時開催されている。多様な次元での交流活動が、地元産地を巻き込み高頻度で開催されている。

 みやぎ生協の野菜産直が環境保全型農業の発展に与えたインパクトは以下の三点に整理できる。一点目は、農薬・農法プロジェクトの活動やグリーンセレクト商品の推進などを通じて、環境保全型農業に関する具体的な指針を産地と共に構築したことである。特に農薬プロジェクトでは1987年の初基準設定以来、数度にわたり見直しを行い、現場での経験を検証しながらより環境保全に資する基準へと修正を重ねている。


表3 みやぎ生協における産消提携関連協議組織

資料:みやぎ生協資料


 二点目は、継続的な学習・交流活動が生産者・消費者双方に与えるインパクトである。地元の生産者と消費者が繰り返し交流することは、遠隔地における1回限りの交流に比べ、生産者・消費者双方にとって相手の行動や意識に対する具体的関心を高め、環境保全にかかわる事柄の理解を促進する方向に作用するであろう。例えば、みやぎ生協では有機農産物を全面的に押し出す販売は見られない。これは消費者サイドが産地の状況をよく把握しており、早急かつ一方的な有機栽培の押し付けはかえって産地としての持続性を低める恐れもあることを了解していることの現われと考えられる。

 最後に、新たな取組みである情報公開システムの効果について検討する。2005年より産直野菜の生産情報をより詳しく公開するシステムが稼動している。提携産地の協力を得て収集した生産情報(生産者名、簡単な作目の説明と生産者からのアピール)と生産履歴情報(具体的な栽培方法と生育ステージ毎の農薬投与実績)が、店頭端末/生協HP/携帯電話(生産情報のみ)のいずれかの媒体で確認できる。組合員がどの程度情報を検索し利用するかは、もうしばらく運用したうえで傾向を把握する必要があるだろう。しかし農薬投与も含めた生産履歴がほぼリアルタイムで消費者側から把握できるシステムが構築されたことは、産地に対し、より適切な栽培管理を促し、間接的に環境保全型栽培技術の導入を促進するであろう。

5 行政のサポートと制度的枠組
 行政の環境保全型農業に対するサポート体制と、その背後にある諸制度の枠組は、ここ10年間で大きな変容を遂げた。そこで最後に、宮城県における行政のサポート体制について整理する。

 環境にやさしい農業に関連する宮城県の支援制度は、環境に配慮して生産された農産物に対する認証制度と、環境保全型農業を実践する農業者を認定し支援する制度の二つに分けることができる。前者の例は特別栽培農産物を認証する「みやぎの環境にやさしい農産物表示認証制度」である。後者の例としては、「エコファーマー」の認定と認定者への支援制度が挙げられる。

 農産物表示認証制度は2001年にスタートした。国の特別栽培農産物ガイドラインに則り、農薬および化学肥料について、それぞれ県の慣行栽培基準の5割以上の削減(減)または不使用(不)を達成した農産物に対し、4タイプのうち該当するいずれかの認証が与えられる。野菜の場合、2005年現在の認証件数はのべ167件である。そのうち105件(62%)が農薬・化学肥料とも5割削減した「減・減」農作物で、最も厳しい「不・不」は37件(22%)である。なお、投入物削減だけでなく、堆肥等による土づくりも認証の条件となっている。

 一方、エコファーマーは持続農業法(1996年施行)に基づく制度である。持続性の高い農業生産方式を導入しようとする農業者に導入計画を作成・提出してもらい、一定のレベルをクリアした農業者を知事が認定する。認定を受けたエコファーマーは、新技術導入に必要な機械・施設の導入時、農業改良資金の貸付や税制面で特例措置を受けることができるほか、エコファーマーマークの使用を認められる。宮城県でもエコファーマーの申請に必要な計画の作成支援やセミナー開催等を通じて制度の普及を図っている。申請時には表4に示した技術メニューのうち、A・B・Cそれぞれのグループから一つ以上の技術を導入しなければならない。メニューに示されている具体的な技術は、制度上、国が制定したものを踏襲している。また、申請する農家の技術レベル向上を促すため、申請時に初めて取り組む技術を最低一つは加えなければならないことになっている。なお、投入物削減の具体的レベルを国は明示していないが、宮城県では「県の慣行水準の2割減」を一応の目安としている。

 認定者数は増加傾向にあり、ここ数年は年間300名程度のペースで増えている。2005年には県内の認定者が千人を超えた。ただし、認定者のほぼ半数がJAみやぎのも立地する古川・小牛田エリアに集中しており、地域的な偏りがある。また、認定が都道府県に任されているため、運用の違いにより県間の認定者数の偏りも生じている。宮城県の認定者数の全国に占める割合は微増傾向にあるが、県では安易な認証はせず、土壌分析も慎重に行ったうえで基本に忠実に運用することとしている。


表4 エコファーマー認定時に求められる「持続性の高い農業生産方式」メニュー


資料:宮城県産業経済部資料


 上記の制度に加え、環境保全型農業振興に関する二つの制度が新たに加わろうとしている。一つは農水省が2005年に提示した農業環境規範である。これは環境と調和した作物生産を行うための基本項目七つを設定し、これらの励行を日常的に点検することで、環境にやさしい農業の広範な実践を促す取組みである。数値目標は設定されておらず、技術レベルとしてはエコファーマーよりも容易である。しかし農水省では農業環境規範を各種事業申請時に必要な要件として設定し、環境負荷軽減に向けた取組みの底上げを図ろうとしている。

 もう一つの制度は、2007年度からの導入が予定されている農地・水・環境保全向上対策(仮称)、いわゆる「環境直接支払い」である。具体的な要件は今後詰められる予定であるが、既に公表された概要によれば、支払の対象となる活動として「相当程度のまとまりをもって、化学肥料や化学合成農薬の使用を大幅に低減する等の先進的な取組み」と「地域全体の農業者による環境負荷低減に向けた共同の取組み」のセットが想定されている。前者は特別栽培農産物の技術レベル、後者はエコファーマーのレベルに相当するものと予想される。しかし二つの取組みをどのように組み合わせて要件設定するかは不明である。

 環境保全に資する取組みを支援する制度的枠組が拡大することは望ましいことかもしれない。しかし10年ほどの短い期間に次々と新しい方針・制度が打ち出されてきたため、農業者やそのサポート実務を担う自治体では、ルールをめぐる混乱や誤解が生ずる恐れもある。今後、新制度の実施に向けて、既存の制度との整合性を確保するとともに国においては、運用ルールのわかりやすい説明を行うことが必要である。

6 環境保全型野菜生産・流通の発展に向けて
 本稿では,宮城県における環境保全型野菜生産の取組みを紹介した。取り上げた二産地は,いずれも生協との産消提携を通じて環境と食品安全性の双方に配慮した野菜生産を続けてきた。提携先が生協であるため,両産地の取組みをそのまま普遍化することは難しいかもしれない。しかしながら,量販店との直接取引や食品製造業・外食産業へ向けた契約栽培など,取引相手とのクローズドかつ継続的な交渉を要求される流通経路では,交渉の要件として環境保全への対応がこれまで以上に求められることが予想される。今回紹介した取組みが参考にされる点も多々あると思われる。

 また,両産地の取組みでは,野菜作と水稲作が連動しながら環境保全に資する試みが組み立てられていったことも注目される。

 さらに,行政のサポート体制に着目し,環境保全型野菜生産振興に関連する制度的枠組の現況を紹介した。サポートを拡大する方向で制度は再編されつつあるが,それゆえに政府と地域との間で運用面での混乱の発生しうることのないような対応が図られることが必要である。



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