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専門調査報告


需要サイドと供給サイドの連携事例(2)
JAようていと栃木秋本食品の取組み

農業ジャーナリスト  
青山 浩子


 JAようてい(北海道)は平成10年から、市場出荷に中心をおく一方、特定の需要者との契約栽培に力を入れている。平成15年以来、だいこんで取引を始めた漬け物メーカー、栃木秋本食品(栃木県)も取引先のひとつだ。「品質が安定している」と栃木秋本食品は同管内のだいこんを高く評価している。一方、両者の間には卸売市場が入り、数量調整役として産地と実需者の橋渡し機能を果たしている。遠隔地の産地が契約栽培に取り組む場合にたいへん参考になるケースといえる。


■提案型の生産を本格化
 JAようていは、“蝦夷富士”とも呼ばれる羊蹄山を囲むように位置する9町村を管内とするJAである。かつては9町村にそれぞれのJAがあったが、平成9年3月に合併した。

 管内にある黒松内町は酪農がさかんで、蘭越町は稲作地帯。その他の地域では畑作と多様な農業が営まれているが、代表的な農産物といえば、ばれいしょである。耕地面積26%を占めており、同JAの販売事業高(平成16年度で約215億円)のなかでも30%以上を占めている。


ようてい山ふもとのだいこんほ場


 ばれいしょに次いで販売額の大きい青果物がだいこんである。平成17年度の作付け面積は384ヘクタール。出荷量は約16,000トン(総生産20,222トン)で、150名の農家が生産組合を組織している。同JA販売事業部総合販売課の松山丈晴係長によると「だいこんの生産がさかんになったのは昭和50年頃から。地元に漬け物工場があったこともあるが、生食用としても留寿都村、真狩村を中心に作るようになった」と話す。アスパラから転換した生産者が作付けを始めたり、ばれいしょなどとの輪作で作るようになった生産者が増えてきた頃と重なるという。ちなみに、この地域の一般的な畑作農家はばれいしょ、甜菜、小豆、だいこんを輪作しているという。

 ただ当時の流通といえば、ほぼ全面的に卸売市場への出荷であり、生産量の60~70%は関東への出荷をしていたという。

 こうしたJAが特定のユーザーとの契約栽培に乗り出したのは平成10年頃から。「旧来も市場を通じて、特定の量販店に行っていた品物はあったが、これからは特定のお客さんと組んで、お客さんが求める農産物を提案していく、あるいはお客さんのほうから提案してもらって作るという姿勢が産地にも求められる」(松山係長)という考えに立って、漬け物工場など業務用への納めも含めた対応を本格化し始めた。さらに、総合販売課というセクションを新たに立ちあげ、営業活動にいっそう力を入れるようになったのは平成14年のことだ。


■継続取引できる産地を求めて
 一方、パートナーである栃木秋本食品(株)(本社:宇都宮市、平成18年3月21日より(株)アキモに社名変更)は、昭和8年に創業した漬け物大手メーカーである秋本食品(株)(本社:神奈川県綾瀬市)の100%子会社として、昭和35年に創業。本社が直営する3工場のうちの一つとして、首都圏一円のスーパー・量販店などを相手に販売している。平成17年の売上げは約23億円である。
漬け物のうち約70%は浅漬けで、主な原料はほぼ国産だという。同社品質保証室の鈴木秀和室長は「冬場の白菜、きゅうりなど国産原料が高騰する頃に韓国から輸入するなど、原料全体の10~20%を輸入原料が占める時期もあった。しかし、平成14年4月から漬け物の原産地表示が義務付けられたことがきっかけとなり、セルリー漬けのセルリーを除き、すべてを国産に切り替えた」と話す。浅漬けの原料の約70%は産地を指定して仕入れており、このうちの半分以上は市場を通さずに直接仕入れている。

 同社がJAようていのだいこんを使うようになったのは平成13年から。実は、この2~3年前から、長期的に契約できる産地を探していたという。「栃木県や青森県、また北海道の別の産地から仕入れていましたが、高温障害で赤芯ができたり、逆に低温の影響によってとうが立つなど品質が安定せず、継続的な取引にはなりませんでした」と鈴木室長。

 当時、同社は本社のある神奈川県内の卸売市場を通じて原料を仕入れていた。市場の担当者に「夏のだいこん産地でどこかいいところはないだろうか」と相談をすると、JAようていを紹介されたという。さっそくコンタクトをとり、だいこんをサンプル出荷してもらった。これが取引のきっかけとなった。


■品質の安定と柔軟な対応が決め手
 どういった点が取引の決め手になったのか。鈴木室長によると「まず、これまでつきあった産地のなかでもっとも品質が安定していたこと。2番目に柔軟な対応をしてくれる点。スーパーで特売をする時、大量な原料が必要となるのですが、そうした注文にも応じてくれます。3番目に品質管理です。現地に行ったとき、厳しく検品をおこなっている点が印象に残りました」と話す。


漬け物になるようていのだいこん

 ようてい山のふもとは地下水が豊富で、水分をたっぷり含んだだいこんが生産され、消費者からのクレームにつながりやすい辛みが少ないという。製造部原料課の若林信義さんは「ようていさんのだいこんは、7月の初旬から10月中旬まで使う。出始めの7月のだいこんはヒゲが多かったり、高温障害が出ることもありますが、8~10月の品質はとても安定しています」と話す。

 初年度から取引量は順調に増え、現在、夏場のだいこんについては、100%近くをJAようていから仕入れている。数量にすると、1週間で約1200ケース(1ケース10キロと15キロ入りの2タイプの合計)だ。

 契約栽培の場合、産地を一つに絞ると、天候不順などで想定していた数量に達しないと、不足分を他産地から急遽、手当てしなければならないなどユーザーにとってはリスクがつきものだ。そのため、ユーザーは複数の産地を確保することでリスクヘッジするのが一般的だ。しかし「発注量の増減にも柔軟に対応してくれるので特に問題はない。数量の調整に応じてくれる産地は少ないだけに、非常にありがたい」(鈴木室長)と厚い信頼をおいている。


■市場を経由した契約栽培のメリット

 鈴木室長が「柔軟な対応をしてくれるので助かる」と評価する背景には、同JAが平成10年以来、契約栽培に前向きに取り組むという方針を明確に出したことも大きな要因として挙げられるが、中間に業務用需要の契約栽培に前向きな卸売市場が入っていることも無視できない。

 栃木秋本食品がJAようていと取引を始めた当初、直営3工場(栃木工場、湘南工場、藤沢工場)のすべてが、神奈川県内の卸売市場を通じて仕入れていた。だが、3工場が一挙に大量の原料仕入れたために、価格の高騰を招くこともあったという。そうした事態を避けて、市場を分散しようと、栃木秋本食品は東京シティ青果を通じた仕入れに変更。それ以来、東京シティ青果(株)がJAようていとの間に入って、仲介業務をおこなっている。

 ただし、夏場以外のだいこんについては、栃木県や茨城県の産地などと市場を入れない形で契約を結んでいる。距離が近いこともあり直接デリバリーもしてもらうという。だいこんの品種にしても、加工向けの品種を選んでもらい、規格も同社の要望に合わせてもらっている。

 一方、同社とJAようていの間では、東京シティ青果が調整機能を任せている関係から、品種や規格のリクエストは出していない。「しかし、取扱量の多い市場を通しているからこそ数量の調整もしてもらえると思う。遠隔地の産地との取引の場合、業務需要の契約栽培に前向きな卸売市場を間に入れるメリットのほうが大きい」と鈴木室長はいう。


■JAと生産者一体の計画生産
 JAようていが契約取引をしているだいこんは全体の30%。残りの70%は卸売市場への出荷である。契約取引のうち、80%以上はスーパー、残りが栃木秋本食品を含む漬け物メーカーなどへの納めだという。

 同JAは、契約先が求めるだいこんを確実に納めるために、生産者と一体となって計画生産および出荷の体制を組んでいる。

 だいこん生産組合では毎年始めに、めあわせ会を開き、規格や品質について全員で確認をおこなっている。3月ぐらいになると、生産者ごとに播種日と収穫日を指定し、出荷期間中に平準出荷できるようなスケジュールを組む。播種が始まれば、収穫までの肥培管理を組合のなかで徹底する。

 5~6月になると、JAの担当者が契約しているスーパー、漬け物メーカーなどに出向いて生育状況についての説明をするとともに価格交渉をおこなう。栃木秋本食品との取引に限っていえば、価格はシーズンを通じて一本の価格。JAは生産者が再生産できる価格を目安に、10アールあたり20万円の収入(種代、肥料・農薬代、被覆資材費、機械の償却費、動力費などの生産費を含む)を目標にして交渉をする。

 出荷が始まる頃、JAの担当者は市場に出向き、到着時の品物の確認をする。出荷が本格化すると、ユーザーや市場関係者に現地に来てもらい、出荷状況を確認してもらう。
 同JAのだいこんの選果センターは真狩村と留寿都村にあるが、両センターから出荷される規格に差がないように、JAの担当者が詳細を打ち合わせする。出荷が滞りなく終わった年の暮れには、市場関係者に再び来てもらい、当年度の反省会を開き、次年度のための打ち合わせをするなど密接した関係を築いている。


■今後はブランド化をめざす
 契約栽培がユーザー、産地にそれぞれどういったメリットをもたらしているのか?JAようていの松山係長は「あらかじめ量と価格が読めるので、生産者の所得安定という点ではメリットは大きい」と話す。

 栃木秋本食品の鈴木室長は「夏場の高冷地の野菜は、だいこんに限らず価格が高めだ。とはいえ、商品の価格に転嫁できるわけではないので、正直いうとコスト的には合わないのが実情です。そうしたなかでせめて価格の安定を狙って契約取引を始めた。ようていとの取引では価格はもちろん、品質も安定しており、契約を結んでいる意味は大きい」と話す。

 栃木秋本食品が現在、進めているのは浅漬けのブランド化だ。それは、伸び悩む漬け物市場を拡大しようという戦略に沿ったものだ。

 漬け物の市場規模は1991年に史上初の5000億円を突破したが、2001年に4000億円台に逆戻りするなど、低迷が続いている。さらに、スーパー・量販店は競合店との過酷な競合に勝ち抜くため、納入業者には仕入れ値の引き下げを強く要求している。

 そうしたなか同社は、産地名を明らかにし、「安心安全」を前面に打ち出した商品の展開することで、価格に左右されないブランドを確立しようとしているのだ。



姿のまま漬けた「あとひき一本」と「糖しぼりだいこん」。漬け物好きな消費者にとって人気の商品

ワンタッチオープンできる「個食タイプ」小売価格は178~198円。

 その一環として、平成17年春、産地名を入れた「産地シリーズ」を新発売。18年にはアイテムを4品から8品に増やす計画だという。「産地シリーズ」にはいまのところ、だいこんの漬け物は含まれていないが、「ようていさんのだいこんも、今後は産地名を明らかにし、ブランド化して売っていきたい」(秋本社長)と考えている。


産地シリーズの商品(正式名「産地の特
選地域のいいとこ採用」)。産地名を明ら
かにし、今後はトレーサビリティ、栽培方
法に関する情報も提供する予定


 一方、JAようていもブランド化については前向きに取り組む考えで、産地名をアピールした売り方をユーザーと詰めていくつもりだという。まただいこんも、他の青果物同様、加工・業務需要が過半を占めている現状を考え、将来的には用途別に生産体制を組んでいく可能性もあるという。松山係長は「だいこんの家庭需要は40%を切るか切らないかというところまで落ちていると聞いている。多様化するニーズに対応するためにはこのままでいいかどうか、抜本的に見直す時期がどこかで来ると思っている」と話す。

 ただ現状では、契約栽培と市場出荷の割合については、現在の3:7がおおむね妥当ではないかという考えだ。「だいこんは貯蔵がきかない作物なので、100%契約栽培は不可能。契約分と市場出荷分のバランスをとっていきたい」と松山係長。また、「出荷先を問わず、適正品種の導入による高位平準化、安定出荷を追及していきたい。取引先には味のよさを伝え、消費者にも食べ方のPRしていきたい」と話す。

 産地の生き残り策の一つとして、契約取引に注目が集まっている。しかし、消費地と離れており、かつ貯蔵性の低い作物の場合、卸売市場を介して取引するほうがさまざまな面メリットがあることがJAようていの事例から読み取れる。一方、安定供給を求めつつも、特売の時期など数量の変動を余儀なくされる実需者にとっても、市場を介した契約栽培のほうが好都合であるようだ。中間流通を抜いたダイレクトな契約栽培、あるいは卸売市場を入れた契約栽培のどちらを選択するかは、相手先との距離、作物の貯蔵性を踏まえて産地にとってリスクのより少ないスタイルを決定していく必要があるだろう。

表 JAようていの大根の作付け面積と総生産量


資料:JAようてい



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