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専門調査報告


ねぎの生産・輸入等の動向に係る実態調査

東京農業大学 国際食料情報学部  教授 藤島 廣二



1 はじめに
 昨年(2004年)、国内産地が秋台風や長雨の被害を受けたことによって、10月以降、各種野菜の収穫量の減少や輸入の増大がマスコミによって頻繁に取り上げられた。なかでも特に注目されたのはレタスとキャベツであったが、2001年に暫定セーフガードの対象となった白ねぎも、それらに準じた注目度を集めた。

 本稿ではその白ねぎ(以下では、「白」を強調する必要がない場合は「ねぎ」と略称する。)を取り上げ、既存の種々の統計データの分析と、昨年11月から今年2月にかけて実施した関係者からの聴取調査、などをもとに、これまでのねぎ輸入量の増減状況とその要因、特に2004年の輸入量増大に関する特徴とその要因を究明し、さらに輸入増大に対応した国内産地の課題について整理することにしたい。

 

2 2004年における輸入量の大幅な増加
 まず初めに、ねぎの輸入量の大まかな動向とその特徴を把握するために、図1において生鮮野菜全体の輸入量とともに、白ねぎとねぎ属(白ねぎ、青ねぎ、リーキ、わけぎなどの総称)の、これまでの年間輸入量の推移を示した。この図から明らかなように、1990年代に入って生鮮野菜全体の輸入量が急増する中、ねぎの年間輸入量は1997年まで横這い傾向を続けた。当時の白ねぎの輸入量は1年間で2千トン以下、ねぎ属全体でも1万トン以下にすぎなかった(1995年以前のデータでは「白ねぎ」の区分はなく、その輸入量は「ねぎ属」の中に含まれていたが、当時、ねぎ属全体の輸入量に占める白ねぎのシェアは20%以下にとどまっていたと推測される)。

図1 ねぎの年間輸入量と生鮮野菜の年間総輸入量の推移

出所:農林水産省「植物検疫統計」、財務省「貿易統計」
注:1)データは暦年である。
  2)「ねぎ属」は「白ねぎ」のほか、リーキ、わけぎなどをふくむ。
  3)「生鮮野菜」は「ねぎ属」の数量も含む。


 ところが、1998年以降、生鮮野菜全体の輸入量が頭打ち傾向の兆候を示し始めたころ、白ねぎの輸入量は1997年までの少量での横這い傾向から、明白な増加傾向に転じた(2001年の輸入量は前年よりも減少したが、同年は暫定セーフガードの年で、例外年である)。例えば1997年と2004年の輸入量を比較すると、1.4千トンから70千トンへ、たった7年ほどの間に50倍近い増加であった(ねぎ属のうち白ねぎ以外の物の輸入量は、図2からも読み取れるように、1998年以降も大きな変化はない)。しかも、特に2003年から2004年にかけての増加が大幅で、03年の45千トンに対し04年は70千トン、25千トンの増加幅であった。

 こうしたねぎ(白ねぎ)の輸入量の変化をさらに詳しくみるために、生鮮野菜全体とも比較できるかたちで、月別輸入量の動きを示したのが図2である。この図において特に重視すべきは、次の2点であろう。

 第1の点は、生鮮野菜全体であれ、ねぎだけであれ、月別輸入量のピーク月の数量が多ければ多いほど、すなわち山が高ければ高いほど、当該年の年間輸入量が多くなる傾向が明瞭に読み取れることである。生鮮野菜全体の場合、月間輸入量が多い順に3位までの月を挙げると、2004年11月(146千トン)、2000年3月(128千トン)、2001年2月(123千トン)であるが、その2004年の年間輸入量がこれまでで最も多く(102万トン)、そして2000年が第3位(97万トン)、2001年が第2位(101万トン)であった。ねぎの場合も、暫定セーフガード発動前の1998年から2000年において、各年のピーク月の輸入量が増えるにつれて、年間輸入量が急速に増大した。それゆえ、この第1の点から判断するならば、ねぎの2004年の年間輸入量が70千トンと、前年よりも大幅に増加したのは、同年のピーク月である11月の輸入量がこれまでに例のない11千トン台に達したことが大きく影響しているとみて間違いない。

図2 白ねぎと生鮮野菜の月別輸入量の推移

出所:農林水産省「植物検疫統計」、財務省「貿易統計」
注:「生鮮野菜」は「ねぎ属」の数量も含む。


 第2の点は、月別輸入量の従来からの年間変動パターンが生鮮野菜全体においては近年にいたるも継続しているのに対し、ねぎでは明らかに崩れてしまったことである。生鮮野菜全体のパターンは、ごく簡潔に表現すれば、「5月~9月の輸入量が少なく、10月~翌年4月の輸入量が多い」であるが、これは最近においても認めることができる(もちろん、輸入量はさまざまな要因の影響を受けるため、毎年、全く同じパターンを繰り返すわけではない)。これに対し、ねぎの場合は「4月~8月の輸入量が少なく、11月~翌年2月の輸入量が多い」というパターンであるが、これは2003年以降、明らかに崩れたといえる。しかも、そのパターンの崩壊は「11月~翌年2月の輸入量」の減少によって引き起こされたのではなく、「4月~8月の輸入量」の増加によって引き起こされたのである。したがって、2004年のねぎ年間輸入量の著しい増加については、従来のパターンの崩壊によって輸入少量期における輸入量が増加したことも少なからず影響しているといえる。

 このように、ねぎの年間輸入量は1998年以降、増加傾向で推移し、特に2004年には前年に比べて大幅に増加したが、この2004年の著増は月別輸入量の変化からみると、同年のピーク月である11月の輸入量の驚くほどの増加と、かつて少量輸入期であった「4月~8月」における輸入増大との両方に基づくものであったと判断できる。

図3 白ねぎと生鮮野菜の月別輸入量の推移

出所:東京都中央卸売市場年報

 

3 2004年の輸入量増大の要因
 上述のことから明らかなように、2004年の輸入増大の要因を究明するためには、11月を中心とする輸入量の大幅な増加に関する要因と、「4月~8月」期の輸入量の増加に関する要因とに分けて検討すべきであろう。

(1) 異業種業者によるスポット輸入の増大
 2004年の11月を中心に、その前後3~4ヵ月間にわたってねぎの輸入量が増加した根本的要因は、改めて言うまでもなく、夏から秋にかけ10個の台風が襲来したことに代表される気象災害によって、国内のねぎ収穫量が大幅に減少し、価格が急騰したことである。そのことを東京都中央卸売市場における国産ねぎの月別取扱量と月平均単価の変化としてみたのが図3である。これによれば、2004年の月別取扱量は2003年との比較で9月から大きく減り始め、価格は同じく2003年に比較して既に8月から高騰し始めていた。

 このような変化を受けて輸入業者などが輸入量の増加に努めたことが、2004年11月を中心とする数ヵ月間における輸入量の大幅な増加に結果したといえる。事実、ある大手スーパーマーケット・チェーンでは昨年の8月には担当者を海外に派遣し、秋野菜を確保するための作業に入ったとのことであり、他のスーパーマーケットや輸入業者もほぼ同様であったと思われる。

 ただし、今回実施した聴取調査によると、2004年の輸入急増の場合、継続的に輸入している業者は輸入量を前年の3~4倍に達するほど大幅に増やすことはほとんどなかったとのことである。それゆえ、輸入量が11月のように著しく増大したのは、通常は野菜輸入に従事していない異業種の業者が9~10月の価格の急騰をみて、急遽、輸入を始めたことによるところが大きいといわれている。ちなみに、ここでの異業種業者とは、主な例を挙げると、種苗会社、水産商社、パチンコ業者などであり、時にはさらに留学生などが含まれるとのことである。その数は多い時にはねぎの輸入を行う業者だけに限っても数10社にのぼるそうである。


図4 白ねぎと生鮮野菜の月別輸入量の推移

出所:財務省「貿易統計」、東京都中央卸売市場年報


 そこで、このことを確認するために、図4において2004年のねぎの月別輸入量が前年の同じ月の何倍になっているか、そして東京都中央卸売市場における2004年の輸入ねぎ月別取扱量が同様に対前年同月比で何倍になっているかを示した。というのは、異業種業者のようにスポット輸入を行う業者の場合、事前に販売先を確保することが少ないため、輸入量の大半を卸売市場を通して販売せざるを得ないからである。

 同図をみると、2004年のねぎの月別輸入量は9月から11月にかけて前年の2倍から3.5倍ほどに達したが、これに対し東京都中央卸売市場での輸入ねぎの取扱量は9月が前年の3倍強、10月10倍弱、11月7倍、12月4倍弱であった。このことは当然、輸入量の中で前年以上に増えた分のうち、より多くが卸売市場を通して販売されたことを、換言すればスポット輸入業者の輸入量が急増したことを意味している。

 すなわち、2004年の11月前後におけるねぎ輸入量の増加は、基本的には台風などの気象災害による国産ねぎ収穫量の減少と、その結果としての価格急騰によるものであるが、その増加をあれほどに著しくしたのは、継続的に輸入している業者に加えて、スポット輸入中心の多数の異業種業者がねぎ輸入に加わったからなのである。

(2) 国内需要に対応した周年安定供給力の強化
 一方、「4月~8月」期における輸入量の増加に関する要因を指摘することは容易ではない。多様な要因が重なっていると思われる。しかし、今回の聴取調査から最も重視すべき要因を特定化すると、輸入業者が業務用需用者などの要請に応えて、輸入物の周年安定供給力の強化に力を入れたことが指摘できよう。

 例えば、今回調査した輸入業者F社(1991年設立)の場合、1990年代前半は輸入物を主に卸売市場へ流していたが、その後、業務用需要者や、業務用需要者に納める問屋への販売を中心に行うようになり、それにつれて中国内の仕入先(輸入先)地域を拡大し、また仕入先数を増やすことによって、供給の周年化・安定化を推進した。同社の現在の仕入先(輸入先)は、山東省内の6カ所(このうち1カ所はF社の子会社)と、同じく浙江省内と福建省内の各6カ所で、4年前の合計7カ所に比べ2.5倍に増えた。輸入時期は山東省からが主に5~10月、浙江省からが11~2月、そして福建省からが2~4月である。

 また、現在利用している積出港は青島、上海、廈門の3港に及んでいる。ちなみに、近年のねぎ輸入量は通常、1週間に3~4コンテナ(1コンテナで15t)であるが、中国の輸入先や国内の販売先との契約に基づいて輸入しているため、その数が3倍、4倍と大きく変わることはないとのことである。

 次に、輸入業者M社の場合、主に量販店に納めるために1990年代中頃からねぎ輸入を始めたが(生鮮野菜の輸入は28年ほど前から行っている)、量販店向けが中心ということもあって、現在でもねぎの総取扱量のうち輸入物は3分の1程度にとどめている。とはいえ、ねぎの輸入先はF社と同じで山東省(3カ所)、浙江省、福建省に広がり、時期ごとにいずれかの省から輸入し、1年間を通じて輸入ねぎの安定的な供給に努めている。実際、安定供給を確実にするために、輸入先のある農場ではねぎだけで栽培面積が700~800ha(ねぎ以外も合わせると数千ha)にのぼり、気象災害などがあっても必要量が確保できる体制をつくっているほどである(最近は日本ねぎを中国人が食べるようになったことに加え、スポット輸入の注文もあるので、M社が全生産量を引き取る必要はない)。ちなみに、輸入ねぎだけでなく、国産ねぎについても安定供給を確保するために、取扱量の半分以上を産地との契約取引とし、さらに当該産地に集出荷場をも設けている。

 このように、継続輸入を行っている業者の場合、周年的な安定供給に力を入れており、そのことが輸入少量期であった「4月~8月」期における輸入量の増加となって現れたと判断できよう。従って、「4月~8月」期における輸入量の増加は決して一時的な現象ではなく、いわば構造的な変化といえる。

 

4 輸入増大に対応した国内産地の課題
(1) 低価格に対応しうる経営の確立
 既に述べたように2004年11月前後の輸入量の急増は価格の高騰によるものであった。しかし、異業種業者の参入などによって輸入の急増が短時間のうちに実現されるようになると、逆に輸入増による価格高騰の沈静化がより強く働くようになる。事実、図5に示したように、1998年11月のような著しい価格高騰は、それ以後、一度も起こっていないし、価格が高騰している期間も短期化しているといえる。

 従って、今後、国内産地は価格高騰が起きなくても、十分に利益をあげうるようになることが重要な課題になるが、そのためには低価格が続いても経営を維持できる仕組みが必要であろう。もちろん、既にその仕組みづくりに取り組んでいる産地・JAは少なくないが、今回調査した遠州中央農業協同組合(以下「遠州中央農協」という。)もその一つであった。遠州中央農協では2003年2月に園芸流通センターを設立し、同センターが選別などを担当することによって、そうした仕組みを形成したのである。

図5 ねぎ輸入量の動向と東京都中央卸売市場におけるねぎ単価の動向

出所:財務省「貿易統計」、東京都中央卸売市場年報


表1 白ねぎ農家の低価格対応能力の強化

出所:遠州中央農協資料
注:1)「通常タイプ」、「Aタイプ」、「Fタイプ」については、本文を参考にされたい。
  2)最下段は「利潤」をゼロとして時の単価である。
  3)諸資材費:通常タイプ チェーンポット苗、結束機ほか、Aタイプ フェロモントラップ容器(3,000円×2個)、
Fタイプ 通常タイプとAタイプの合計
  4)資材費:通常タイプ 59円×1,090C/S=64,310円、A・Fタイプ 53円×1,100C/S=58,300円
  5)運賃:通常タイプ 100円×1,090C/S=109,000円、A・Fタイプ 90円×1,100C/S=99,000円
  6)手数料:市場8.5%、農協3%
  7)減価償却費:通常タイプ 皮むき機、トラクターほか、A・Fタイプ トラクターほか
  8)家族労働費は、1人当たり800円/時間で算出した。
  9)選別委託料は50円/㎏ である。


 同センターが請け負う作業は、播種・育苗、定植、掘り取り、調製、選別の5作業である。もしも、これらの作業をすべて委託するとなると、生産者は肥培管理作業だけを担当することになる。もちろん、その場合は空いた時間を活用して規模の拡大を行うか、他の作物の生産を増やすことが可能である。

 では、どの程度の低価格に対応できるかというと、委託する作業の種類によって異なっている。上述の5作業すべてを委託する場合(遠州中央農協ではこれを「Aタイプ」と呼んでいる)、表1の最下段(「『利潤=0』の単価」の欄)に示したように、卸売価格が213円/kgでも経営は可能である(なお、同表の「利潤」は「粗収入」のところの「単価」に基づいて計算していることに注意されたい)。
 また、播種・育苗は自分で行い、それ以外の4作業を委託する場合(同じく「Fタイプ」と呼んでいる)は、229円/kgが経営を維持する上での下限価格である。ちなみに、すべての作業を生産者が行う場合(表1の「通常タイプ」)は、下限価格は286円/kgである。同センターへの作業委託が低価格への対応力をいかに高めるかが明らかであろう。

 ただし、指摘するまでもないことではあるが、遠州中央農協の場合には、個々の経営規模を従来と同じままにして園芸流通センターを利用すると、所得や利潤が減少する可能性が大である。それゆえ、今後、低価格に対応しうる経営を確立するためには、同センターの利用と経営規模の拡大とをセットにしなければならないであろう(高齢者などの作業の軽減が目的の場合は別であるが)。

(2) 国産ねぎの周年安定供給力の強化
 2004年の輸入量が著しく増大した要因のうちの一つは、輸入業者が日本国内の需要側の要請に応じて周年安定供給体制を強化したことであった。

 もちろん、国内の産地・JAの多くも輸入物に対抗するため、種苗会社などの支援を受けてさまざまな作型の開発、あるいは産地間協力によるリレー出荷を推進することによって、周年安定供給体制の構築に努めている。しかし、作型分化による周年供給の場合には、各産地とも供給が特定の時期に大きく片寄っており、まだまだ安定供給にはほど遠い状況といわざるをえない。一方、リレー出荷の場合は、産地間で出荷が重なる時期の調整が難しいだけでなく、規格の統一もほとんど進んでいない。

 国内産地が輸入の増加を食い止めようとするのであれば、価格問題もさることながら、これらの解決がきわめて重要であろう。しかも、作型分化による周年安定供給の推進は多分に技術の進歩如何によるものの、リレー出荷による周年安定供給の推進は産地・JAの意識次第である。

 しかし、仮に産地(JA)間で規格などの詳細について合意したとしても、必ずしもリレー出荷が成功するとは限らない。その最大の原因は、集出荷場(選別場)が別々で、さらに出荷決定権を持つ主体が複数存在することである。集出荷場(選別場)が違えば、文章で規格を統一しても、集出荷場(選別場)間で差が生まれるのは当然であるし、出荷決定権者が複数いれば、意見が異なるのも当然であろう。

 従って、国内の産地・JAがリレー出荷によって周年安定供給を推進しようというのであれば、複数産地・JAの集出荷場(選別場)を販売先地域または販売先相手ごとに集約し、各集出荷場(選別場)ごとに出荷決定権を1主体に付与することが重要であろう。もちろん、集約するかたちで新設する集出荷場(選別場)は、販売先地域または販売先相手にできるだけ近い方が良い。というのは、遠く離れているよりも、近くで接している方が販売先相手の要望に合わせやすいからである。今後は行政や融資機関もこうした集出荷場の建設に積極的に支援すべきであろう。



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